記事の目次

    CGWORLD創刊20周年記念、3連続新連載の最後を飾るのは、TVアニメ、実写映画、ゲームなどを幅広く手がける株式会社コロビト代表・大島夏雄氏によるCG雑学コラム。一見CGには関係なさそうでも知っていればいつか必ず制作に役立つ、身の回りの様々な知識を紹介していく。

    TEXT&ILLUSTRATION_大島夏雄 / Natsuo Oshima(コロビト
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    <1>連載スタートにあたって

    CG制作のTIPSやテクニックの紹介記事はたくさんあり、読者の皆さまもいろいろ参考にしながら日々勉強されているかと思います。学生の間や就職してしばらくは、CGの勉強をしながらつくり続ければどんどん上手くなり、手も早くなって成長を実感できるでしょう。でも、そこからさらにもうワンステップ! となると、単純につくり続けていても頭打ち。なかなか先に進めなくなってしまう人もいるのではないでしょうか。

    CGクリエイターは日々、様々なものをつくります。実際に存在するものや人、想像上の建造物や乗りもの、過去にあった町や服装など。そこで必要になってくるのが、様々な物体の構造、人体や動物の解剖学、色彩学、構成力、自然現象、地層学、etc......といった、一見CGとは関係なさそうな、幅広い分野の知識です。学者や建築家のように専門的な知識を深く習得するのは不可能ですが、その「さわり」を知っているか知らないかで、つくられるものは大きく変わってきます。この連載では、皆さんと一緒にいろいろなことの「さわり」を勉強できればいいなと思っています。

    <2>雲の形は10種類しかない

    というわけで、初回は「雲」についてお話しようと思います。雲は何でできているのでしょうか? 水蒸気かなと思われるかもしれませんが、雲は水蒸気からできているわけではありません。水蒸気は目に見えませんから。雲は、小さな水滴(雲粒)や氷の粒(氷晶)の集まりです。この雲粒や氷晶が可視光線を散乱することで、白く見えるのです。

    また、雲にはいろいろな形があります。「ねーねー、あの雲、羊みたいだね」「あれはケーキみたい!」など、そのような心暖まる話を私はしたことないように思いますが、雲の形は、それぞれ理由があってその形になっているようです。

    雲の形は大きく分けて10種類(十種雲形)に分類され、それぞれ発生する高度によって上層雲、中層雲、下層雲の3つのグループに分けられます。それでは、ひとつずつ紹介していきます!

    雲の形は10種類

    ●上層雲(高度7,000~10,000m)

    ①巻雲(けんうん)

    絵の具を刷毛で伸ばしたような形状ですね。巻雲は対流圏で最も高いところに発生する雲です。気温は-40℃以下であるため氷晶で形成されています。氷晶は光を多く反射するため薄くても白くはっきり見えます。

    ②巻積雲(けんせきうん)

    白色で影のない雲が平面に並んでみえる雲です。「うろこ雲」や「いわし雲」と呼ばれることもあります。

    ③巻層雲(けんそううん)

    空を薄く覆うベール状の雲で、はっきりとしたかたまりにならないものです。巻層雲が空を覆っていると、太陽の周囲に虹色の輪や帯が見えるときがあります。

    ●中層雲(高度2,000〜7,000m)

    ④高層雲(こうそううん)

    灰色のはっきりとしない雲で、空全体を覆うことが多いです。「おぼろ雲」とも呼ばれます。

    ⑤高積雲(こうせきうん)

    白くて小さな、輪郭がはっきりした雲が集まって群れをなしている雲。「ひつじ雲」「まだら雲」とも呼ばれます。

    ⑥乱層雲(らんそううん)

    雨や雪を降らせる雲で、灰色や黒色をしています。

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    ●下層雲(地面付近〜高度2,000m)

    [[SplitPage]] ●下層雲(地面付近〜高度2,000m)

    ⑦層積雲(そうせきうん)

    厚みがある白色や灰色の雲のかたまり。曇り空の代表的な雲が層積雲です。雨を降らせることは少ないです。

    ⑧層雲(そううん)

    白色や灰色の霧状の雲で、10種の中では一番低高度にできる雲です。その高度は1,000m以下です。

    ⑨積雲(せきうん)

    地面が温められると、上昇気流が発生します。水蒸気が水に変わる高度は気象条件によって大体決まっているため、積雲の底は平らになります。また、水滴の密度が高いため光を通しにくく、下側が灰色に見えます。

    POINT!

    積雲は地表が暖められてできるので夕方には薄れ消えてしまいます。つまり、夜空には積雲は存在しません。日中に撮影した素材を加工し、夜の空に流用するときは注意が必要ですね。

    ⑩積乱雲(せきらんうん)

    高度が上がると気温は下がっていきますので上昇力は衰えず、どんどん上に成長します。しかし、雲頂があるポイントに到達すると、積乱雲はそれより上に成長できなくなります。すると今度は横に広がり、上部が平らになる場合があります。このポイントを「対流圏界面」というのですが、言葉だけ聞いてもピンと来ませんよね。高度が上がるとどんどん気温が下がっていきます。標高が100m上がると気温は0.6度も下がるそうです。しかし、ある高度を越えると、今度は高度が上がるごとに気温も上がっていきます。その境界線を「対流圏界面」といいます。

    このことを知っていると、積乱雲の上面が平らになっているのを見たとき
    「あそこが対流圏界面なんだね」
    「そうだね。するとあそこが高度12kmぐらいかな」
    といった会話ができるようになったりします。

    ほとんどの雲がこの十種雲形のどれかに当てはまります。空にはどれか1種類だけが見えているわけではなく、何種類かの雲が組み合わさっていることが多いです。また、上層雲と下層雲では高度がまったくちがうので動くスピードも方角も変わってきます。日本の上層に吹いている季節風は時速360km(秒速100m)にもなります。高度1万mを飛行するジェット機は、追い風のときと向かい風のときでは速度が時速にして300kmも変わってしまうそうです!

    POINT!

    CGで作成した雲を動かすときは、雲は形状によって高度がちがうこと、高度がちがうと風速・風向がちがうことなどを意識して、上層雲と下層雲の動く方向や速度を変えてみると説得力が出てくるかもしれませんね。

    次ページ:
    <3>飛行機雲はなぜできる?

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    <3>飛行機雲はなぜできる?

    これらの雲とは成り立ちが異なるのが飛行機雲です。飛行機雲は、高度1万m付近を飛行している航空機の後ろに発生する雲のことです。必ずできるというわけではなく、飛行高度や大気状態が深く関係しているようです。飛行機雲ができる理由は、2種類あります。1つめは、ジェットエンジンから排気される300~600度の排気ガスが周りの空気(-40℃など、とても寒いです)によって急速に冷やされてできるものです。排気ガスに含まれている水分が急速に冷やされたことで氷晶となり、飛行機雲になるわけです。この場合、航空機のジェットエンジンの数によって飛行機雲の本数も変わってきます。双発機だと2本、4発機だと4本の飛行機雲ができます。

    ジェットエンジンの数によって、発生する飛行機雲の本数も変わります

    2つめは、翼が周囲の空気をかく乱することで気圧と気温が下がり、水分が氷晶となった飛行機雲です。この場合は翼端や翼全体から飛行機雲がつくられたりします。

    <4>おわりに

    雲の発生のメカニズムを知っていると、「小型機が雲に突入するアニメーションを制作するとき、雲に接触した一瞬、翼が震えてから機体が下に流され、その後上空に上がる」、「積乱雲の中は、上昇流と下降流が入り乱れているので、それが伝わるアニメーションをつける」、「描く雲の形で高度や季節、時間帯を伝える」など表現の幅を広げることができるのではないかと思います。

    普段から様々なことを知ること、知ろうとすることは、私たちにはとても大切なことだと思います。試験ではないので数字や公式、名称を正しく覚えておく必要はないとしても、いろいろな知識の断片をもっておかないと、いざ何かを作るとき、何もひっかからない「つまらないもの」になってしまいます。そして、知っている人からすると、それは「不自然なもの」という印象を与えてしまうことになります。

    今はインターネットで多様な情報を調べることができます。しかし、知識がない人、興味がない人は雲に飛行機を突入する映像を作るとき、その都度インターネットで「雲の発生原理」について検索したりはしないでしょう。でも、どこかで雲や雷の発生に関して「どうしてかな?」と思い調べた人は、アニメーションを付けるとき、何も疑問に思わない人とは全然ちがう、情報量が多く、説得力のある素敵な映像をつくれるのではないかと思います。

    今回は「雲のはなし」ということで、書かせていただきました。知らなければ知らなくても構わないことですが、どんな分野のことでも「知る」ことは刺激的で面白いことだと思います。トップにある写真は私の実家(奈良県)の近くで撮影した写真です。何気なく見ていた雲でも名前を知り、特徴を知ると、今までとはちがった見方に変わってくるかと思います。そういった話を毎月一回こちらに書かせていただければと思っております(全部で何回書かせていただけるのでしょうか......)。

    学生時代は「数学なんて将来役に立たない」と言ったり思ったりした人もいるかも知れませんが、CGクリエイターには数学は必要です! ということで次回は簡単な数学(算数)を用いた「構造力学のはなし」に関して書きたいと思っています。それでは、今後ともよろしくお願いいたします。

    参考文献

    書籍
    「図説 空と雲の不思議 きれいな空・すごい雲を科学する」(池田圭一・著、秀和システム)
    「雲を愛する技術」(荒木健太郎・著、光文社)
    「大自然の贈りもの 雲の大研究」(岩槻秀明・著、PHP研究所)

    Webサイト
    JAL - 航空豆知識:Q 飛行機雲は、なぜできるのか? www.jal.co.jp/entertainment/knowledge/agora54.html

    Profile.

    大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)
    株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
    奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
    colobito.com