<3>飛行機雲はなぜできる?
これらの雲とは成り立ちが異なるのが飛行機雲です。飛行機雲は、高度1万m付近を飛行している航空機の後ろに発生する雲のことです。必ずできるというわけではなく、飛行高度や大気状態が深く関係しているようです。飛行機雲ができる理由は、2種類あります。1つめは、ジェットエンジンから排気される300~600度の排気ガスが周りの空気(-40℃など、とても寒いです)によって急速に冷やされてできるものです。排気ガスに含まれている水分が急速に冷やされたことで氷晶となり、飛行機雲になるわけです。この場合、航空機のジェットエンジンの数によって飛行機雲の本数も変わってきます。双発機だと2本、4発機だと4本の飛行機雲ができます。
ジェットエンジンの数によって、発生する飛行機雲の本数も変わります
2つめは、翼が周囲の空気をかく乱することで気圧と気温が下がり、水分が氷晶となった飛行機雲です。この場合は翼端や翼全体から飛行機雲がつくられたりします。
<4>おわりに
雲の発生のメカニズムを知っていると、「小型機が雲に突入するアニメーションを制作するとき、雲に接触した一瞬、翼が震えてから機体が下に流され、その後上空に上がる」、「積乱雲の中は、上昇流と下降流が入り乱れているので、それが伝わるアニメーションをつける」、「描く雲の形で高度や季節、時間帯を伝える」など表現の幅を広げることができるのではないかと思います。
普段から様々なことを知ること、知ろうとすることは、私たちにはとても大切なことだと思います。試験ではないので数字や公式、名称を正しく覚えておく必要はないとしても、いろいろな知識の断片をもっておかないと、いざ何かを作るとき、何もひっかからない「つまらないもの」になってしまいます。そして、知っている人からすると、それは「不自然なもの」という印象を与えてしまうことになります。
今はインターネットで多様な情報を調べることができます。しかし、知識がない人、興味がない人は雲に飛行機を突入する映像を作るとき、その都度インターネットで「雲の発生原理」について検索したりはしないでしょう。でも、どこかで雲や雷の発生に関して「どうしてかな?」と思い調べた人は、アニメーションを付けるとき、何も疑問に思わない人とは全然ちがう、情報量が多く、説得力のある素敵な映像をつくれるのではないかと思います。
今回は「雲のはなし」ということで、書かせていただきました。知らなければ知らなくても構わないことですが、どんな分野のことでも「知る」ことは刺激的で面白いことだと思います。トップにある写真は私の実家(奈良県)の近くで撮影した写真です。何気なく見ていた雲でも名前を知り、特徴を知ると、今までとはちがった見方に変わってくるかと思います。そういった話を毎月一回こちらに書かせていただければと思っております(全部で何回書かせていただけるのでしょうか......)。
学生時代は「数学なんて将来役に立たない」と言ったり思ったりした人もいるかも知れませんが、CGクリエイターには数学は必要です! ということで次回は簡単な数学(算数)を用いた「構造力学のはなし」に関して書きたいと思っています。それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
参考文献
書籍
「図説 空と雲の不思議 きれいな空・すごい雲を科学する」(池田圭一・著、秀和システム)
「雲を愛する技術」(荒木健太郎・著、光文社)
「大自然の贈りもの 雲の大研究」(岩槻秀明・著、PHP研究所)
Webサイト
JAL - 航空豆知識:Q 飛行機雲は、なぜできるのか?
www.jal.co.jp/entertainment/knowledge/agora54.html
Profile.
大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
colobito.com