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    TVアニメ、実写映画、ゲームなどを幅広く手がける株式会社コロビト代表・大島夏雄氏によるCG雑学コラム。第10回は、クルマやバイクなどのモデリングには欠かせない「エンジン」についてお話します。

    TEXT&ILLUSTRATION_大島夏雄 / Natsuo Oshima(コロビト
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    <1>エンジンの種類と成り立ち

    こんにちは、コロビトの大島夏雄です。第10回となる今回は「エンジンのはなし」ということで、エンジンの種類や簡単なしくみについてお話ししたいと思います。

    バイクや発電機などエンジンが外から見えているモデルを作るとき、実際にある製品をそのままモデリングするのではなく、デザインから考えなければならないときもあるかと思います。そのとき、エンジンのしくみを知らずにネットで集めた画像などを基に何となくモデリングすると、チンプンカンプンなモデルになってしまうかもしれません。

    身の周りには様々なエンジンがあります。今「エンジン」と聞いて思い浮かべるのは、自動車やオートバイ、飛行機などの乗り物のエンジンが多いでしょう。「エンジン」を辞書で調べると「力学的エネルギーを継続的に発生させる装置。内燃機関と外燃機関がある。自動車のガソリン機関など。発動機。原動機」とあります。ということは水蒸気でタービンを回して発電する火力発電所も、工事現場などで使用されているガソリンで発電する発電機もエンジンということですね。

    エンジンというアイデアが最初に形になったのは、どういった目的からだったのでしょうか? 古いもので思い浮かぶのは、蒸気機関車や紡績機などでしょうか。実際は、ホイヘンスというオランダの物理学者が、ヴェルサイユ宮殿の植木や噴水の水などをセーヌ川から引き上げるために考案したのだそうです。

    シリンダの底部Cに火薬を置きこれに点火すると、ピストンDがシリンダ内をBからAに上がります。その後大気圧によってピストンDがBまで下がるとき、その力で荷重gをもち上げることができます。これをくり返して荷重g=水を上に汲み上げようと考えたそうです。ただ、これは実現することはありませんでした。代わりに14輪の水車を使用してセーヌ川から丘に水を上げ、そこから水道橋を通りヴェルサイユ宮殿まで水を引き込みました。

    「最初に考えた人」で良く登場する人物といえばレオナルド・ダ・ヴィンチですが、彼も1509年に火薬を使用したエンジンのアイデアをスケッチに残していました。ただ、ダ・ヴィンチは左利きで、文字を鏡に映したように左右反転して書く上、言語もイタリア語とラテン語が混じり、ダ・ヴィンチオリジナルの単語も使われていたため、このスケッチがエンジンを描いたものだと判明したのは1972年のことだったそうです。

    <2>レシプロエンジン

    エンジンはその構造や燃料によっていくつかの種類に分類されますが、その中でピストンの往復運動を回転運動に変えて動力を得るエンジンのことを「レシプロエンジン」といいます。レシプロエンジンは大きく「2ストローク(サイクル)エンジン」「4ストローク(サイクル)エンジン」の2種類に分類されます。名称が長いので「ツースト」「フォースト」と言ったりします。まず、「4ストローク(サイクル)エンジン」のしくみから見てみましょう。

    ●「4ストローク(サイクル)エンジン」のしくみ

    「吸入」「圧縮」「爆発」「排気」の4工程をくり返します。クランクシャフトは4工程で2回転します。

    ●「2ストローク(サイクル)エンジン」のしくみ

    1.吸気口から空気と燃料を取り込み、圧縮
    2.点火し爆発、膨張しながら掃気

    という2つの工程をくり返します。2工程でクランクシャフトは1回転します。4ストと比べるとバルブが必要ないため、小型でシンプルな構造になっています。1970年頃までは軽自動車やオートバイでこの2ストが多く使われていたのですが、排ガス規制の問題で現在はほとんど見なくなりました。草刈り機や小型の発電機などでは2スト・4ストの両方が製造・販売されているので、購入の際はどちらにするか検討してみてください。他に2ストで有名なのは競艇のエンジンでしょうか。

    <3>冷却方法によるエンジンのちがい

    オートバイのエンジンの冷却システムには、「水冷式」と「空冷式」の2種類があります。皆さんが使用しているPCと同じですね。空冷のエンジンは風を受けることでエンジンを冷やします。そのため、エンジンの周りには冷却フィンがズラッと付いています。これもPCのCPUの上に付いているヒートシンクと同じですね。

    一方の水冷式エンジンは水を循環させてエンジンを冷やします。そのためエンジンの外側はシンプルでツルッとしています。この循環水を冷やすために、ラジエーターが必要です。エンジンとラジエーターは2本のチューブでエンジンと繋がっています。

    中には、水冷式にもかかわらず、冷却フィンがあるモデルもあります。これは、冷却フィンがある方がエンジンらしくて格好良いから、という理由のようです。

    <4>オートバイをデザインするとき必要な要素とは?

    オートバイを自分である程度デザインする必要がある場合、どういったことを決める必要があるのでしょうか。筆者がモデリングをする場合は、下記のことを決定しながらモデリングを進めていきます。

    ①オートバイのタイプ
    オートバイにはネイキッド、アメリカン、ツアラーなど様々なタイプがあり、タイプによってシートポジションからタイヤ、カウルの有無など、見た目がまったく異なります。スーパースポーツタイプではカウルのデザインが重要になります。どのようなシーンで使用するバイクなのか、乗っているキャラクターの性格などをディレクターに確認して決定します。

    ②2ストか4ストか
    2ストと4ストでは形状だけでなく音がちがいます。演出意図などを確認できれば決定しやすいです。よほどの理由がなければ4ストで良いと私は思います。

    ③空冷エンジンか水冷エンジンか
    時代背景やデザインなどを含めて決めます。空冷の方がパーツ数が少なくスッキリとした印象になります。水冷はパーツが多く塊感が出ます。

    ④何気筒なのか
    エンジンのシリンダの数を「気筒」と言います。シリンダが1本ですと単気筒、2本ですと2気筒、といった具合です。シリンダが何本入っているのか外側からだとわからないのでどうでもいいかと思うかもしれませんが結構重要なポイントだと思います。気筒数によってエンジンのサイズも変わりますが配置によって見た目も随分と変わります。

    V型エンジン格好良いですよね。サイズや配置以外に気筒数によって変わってくるのが、エンジンからマフラーに伸びているパイプ(エキゾーストパイプ)の数です。単気筒の場合2本のものもあるのですが、それ以外はシリンダの数と同じだけあるので見た目にも重要です。

    以上のように、CGデザイナーも機能からデザインを考えていけば、写真だけを基にモデリングを進めていくよりも効率的に説得力のあるモデルを作ることができます。

    「エンジンのはなし」はこれで終わりです。次回は「甲冑のはなし」ということで甲冑のしくみや種類についておはなししたいと思います。ありがとうございました。

    参考文献

    書籍
    「エンジンのロマン」(鈴木 孝 著、三樹書房)
    「図説 エンジンのメカニズム 基本編 」(橋口盛典 著、三樹書房)
    「名作・迷作エンジン図鑑」(鈴木 孝 著、グランプリ出版)

    Profile.

    大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)
    株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
    奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
    colobito.com