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    TVアニメ、実写映画、ゲームなどを幅広く手がける株式会社コロビト代表・大島夏雄氏によるCG雑学コラム。第11回は、ファンタジー作品において重要な西洋甲冑について、あの人気海外ドラマとともに紹介します。

    TEXT&ILLUSTRATION_大島夏雄 / Natsuo Oshima(コロビト
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    甲冑の構造と歴史を知ってフィクションに活かす

    こんにちは、コロビトの大島夏雄です。第11回となる今回は「甲冑のはなし」ということで、西洋甲冑の種類や構造についてお話ししたいと思います。

    皆さんは『ゲーム・オブ・スローンズ(以下、GoT)』をご覧になりましたでしょうか? 筆者は最近最終章を見終わりました。とてもゴージャスな映像に加え、内容もとても面白かったです。鎧を含めた衣装もとても格好良いですよね。このドラマでは7つの王国が登場します。甲冑の歴史や構造を勉強しておけば、それぞれの国やキャラクターの家柄などから鎧をデザインすることもできます。このドラマで登場する甲冑はどれもリアルでとても魅力的に思えました。

    西洋甲冑の流れと『GoT』に登場する鎧を合わせて解説していきたいと思います。『GoT』をご覧になっていない方もネットで登場人物名を検索してみてください。

    ●チェーンメイル

    チェーンメイルは、金属のリングをたくさん連結させて作られた防具です。斬撃には強いですが槍や弓には弱かったようです。また、全身を覆うとその重さは20kgもあったそうです。

    チェーンメイルの作り方
    ①徐々に小さい穴に通し、細く伸ばした鉄線を作ります。
    ②棒に隙間なく巻き付けます。
    ③カットして輪にします。
    ④潰して平らにします。先端はリベットで止めるため幅広にして穴を空けます。
    ⑤リングを服の形になるように繋いで、リベットで止めていきます。

    トップ画像のチェーンメイルは針金を使用して作ってみたものです。リベット留めはしていないのですが、結構大変でした。『GoT』ではスタニス・バラシオンがチェーンメイルに板金を留めた甲冑を着けています。

    ●スケイルアーマー

    革や金属の鱗状の小片を布や革の下地に縫い付けた鎧です。動きの制限も少なく、刃の攻撃に対して防御効果も高かったようです。

    『GoT』ではブリンデン・タリーがチェーンメイルの上から革のスケイルアーマーを着ています。あと、ラニスター家の王の盾(King's Guard)の鎧の一部に板金のスケイルが使用されています。

    ●ラメラー

    スケイルアーマーと似ていますが、鱗状ではなく方形札を繋いだ鎧です。日本の鎧もラメラーの一種です。『GoT』では馬上槍試合前後でグレガー・クレゲインが身に着けていた甲冑の草摺部分に使用されています。

    ●コートオブプレイツ(コートオブプレート)

    革や布の内側に複数の板金を鋲で張り付けたものです。プレートアーマーの下に着たりもしていたようです。『GoT』ではジョン・スノウやロブ・スターク、ポドリックがコートオブプレイツ風の鎧を着用しています。板金の配置や鋲の形が特徴的で、実際に発掘されたものよりも格好良いですね。

    ●クロスアーマー

    金属鎧の下に着ていました。キルト加工した布に綿や麻などを詰め、衝撃を和らげたり寒さを防いだりする効果がありました。

    ●プレートアーマー

    全身が板金で覆われた鎧です。西洋甲冑らしいですよね。プレートとプレートは可動できるように革やリベット、またはスライドできるピンなどで固定されていました。プレートアーマーはとても高額な上にデザインもどんどん変わっていきました。そのため甲冑を必要な期間だけレンタルしてくれる業者もあったそうです。

    イングランドの王太子、エドワード王子(1330~1376)は「黒大使(ブラックプリンス)」と呼ばれています。それは彼が身に着けていた鎧が黒色だったからだという説があります。これは鋼鉄を使用した鎧は開発されたばかりで、研磨せずに鍛造したままの状態だったためだそうです。

    プレートアーマーはとても重いため、鉄板の厚みを薄くするために、畝をつける、縁を丸めるなど断面形状を加工して強度を上げるための工夫がされているものもあります。この畝はトタンの波型に似ていますよね。

    『GoT』ではブライエニーやタイウィン、ジェイミーの獅子の甲冑などが、全身ではありませんがプレートアーマーにあたるかと思います。『GoT』の甲冑を見ていくとスターク家はコートオブプレイツ+プレートアーマーが多いです。また、ラニスター家やバラシオン家、タイレル家など気候が良く、財力もある国の甲冑はチェーンメイル+プレートアーマーが多いです。このように自分で甲冑をデザインしてモデリングするときは、国の財力や気候、キャラクターの家柄などを考えながらデザインしてみると良いでしょう。

    「甲冑のはなし」はこれで終わりです。次回は「中世の武器のはなし」ということで色々な武器のしくみや種類についてお話ししたいと思います。ありがとうございました。

    参考文献

    書籍
    「図説 西洋甲冑武器事典」(三浦權利 著、柏書房)
    「図解 防具の歴史」(高平鳴海 著、新紀元社)
    「中世ヨーロッパ騎士事典」(クリストファー・グラヴェット 著、森岡敬一郎 日本語版監修、あすなろ書房)
    「西洋甲冑&武具 作画資料」(渡辺信吾(ウエイド)著、ジェイ・エリック・ノイズ(キャッスル・ティンタジェル)監修、玄光社)
    「西洋甲冑 ポーズ&アクション集」(三浦權利 著、グラフィック社)
    「TECHNIQUES OF MEDIEVAL ARMOUR REPRODUCTION」(ブライアン・R・プライス、Paladin Press)

    Profile.

    大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)
    株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
    奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
    colobito.com