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    TVアニメ、実写映画、ゲームなどを幅広く手がける株式会社コロビト代表・大島夏雄氏によるCG雑学コラム。前回紹介した「西洋甲冑」に続き、第12回は「武器」について紹介します。

    TEXT&ILLUSTRATION_大島夏雄 / Natsuo Oshima(コロビト
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    剣の握り方と甲冑の形状の変化の関係

    こんにちは、コロビトの大島夏雄です。第12回となる今回は「武器のはなし」です。前回は西洋甲冑についてお話しましたが、今回は武器です。武器というと剣、槍、斧、弓、銃、ハンマー、など色々ありますが、今回はその中から特徴的な「剣」と、矢や石を投射する「投射兵器」についてお話しします。

    ●ツヴァイヘンダー

    前回もお話しした通り、海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』では様々な種類の鎧を使用して、それぞれの国の風土を表現しています。その中のひとつ、西洋甲冑の最終形態でもあるプレートアーマーが登場したのは西暦1500年頃のことです。プレートアーマーは金属プレートを隙間なく組み合わせて身を守るため、剣で切って倒すことは難しくなりました。

    プレートアーマーを着用した敵を倒す場合、ナイフで関節部分や兜のスリットをねらうか、重い武器で叩いて鎧を歪ませるのが有効です。そのため、甲冑ごと叩く「ツヴァイヘンダー」と呼ばれる大きな剣が誕生しました。

    上図のAの部分は刃が付けられておらず、革が巻かれていたものもありました。ツヴァイヘンダーの中には長さ1.8m、重さ3.7kgになるものもあり、とても重かったので革が巻かれているAの部分を肩に担いだり、手で持って振るったりしていたそうです。

    中には図の下側の剣のように炎のような波型をした刀身(フランベルジュ)をもつツヴァイヘンダーもありました。フランベルジュはその独特な形状のため肉を切り裂き、傷も直りにくく殺傷能力が高かったそうです。痛そうですよね。

    ●片手剣の握り方

    最初は、剣の柄をハンマーや槍と同じように握っていました。そのため手甲の形状も親指だけ独立して動き他の指はまとめて覆われていれば良かったのです。オーブンミトンのような形状ですよね。その後、鍔の上に指をかけるようになりました。これは切るより突きが重要になったためです。そのため、手甲も5本指すべて個別に動かせるよう、五指手甲になりました。 握り方にもいろいろあったようです。

    また、鍔の上に指を添えるのでそれを守るために鍔もただの横棒だったのが、輪状の物が付き、その後、複雑な籠のような形状になりました。

    このような籠状の鍔が付けられた細身の片手剣は「レイピア」と呼ばれます。レイピアを武器として使用しているキャラクターのアニメーションをつけるときは、ハンマーのような握り方ではなく指を置く位置に注意してみるといいかもしれません。

    銃火器登場以前の投射兵器あれこれ

    ●クロスボウ

    銃火器が主役になる以前の投射兵器は、クロスボウが一般的でした。長弓はイングランド特有の武器で、長さは2m近くもありました。イングランドは長弓を有効に使い勝利した戦争がいくつもありました。

    長弓兵は養成に何年もかかりましたが、その反面、クロスボウは操作が簡単で短期間の修練で扱うことができました。イングランドは優秀な長弓兵を育てるために、弓をスポーツのような扱いにして、賞品つきの弓コンテストを定期的に開催していました。また、他のスポーツを禁止したり、毎日の練習を法律で定めたりしていたそうです。ちなみに今でも「14歳以上の男子は週に2時間、長弓を練習する」という法律が残っているそうです。

    クロスボウは弓のように片手では引けない強力な弦が張られていました。この弦を金具に固定させるために、様々な装填装置が作られました。

    ①足かけ法
    先端に取り付けてある金具に足をかけて両手で弦を引いたり、腰に鉤の付いたベルトを巻き、その鉤に引っかけて弦を引く。

    ②梃子式
    梃子の原理で弦を引く。

    ③滑車(ウィンドラス)式
    14世紀後半に見られた方法で、両手でハンドルを回し、鉤が付いた滑車を巻き上げて弦を引く。

    ④歯車(クラニキン)式
    歯車をハンドルで回転させ、歯が付けられた鉤爪を引く。

    ●大型投射兵器

    次は火薬使用以前の大型の投射兵器を紹介したいと思います。

    バリスタはクロスボウを大きくしたもので、槍のような大型の矢を発射しました。バリスタには2種類あります。ひとつはクロスボウと同じで弓の張力で飛ばすタイプのものと、縄をねじってそれが戻る力を利用して発射するタイプです。

    投石機は、石を飛ばして城壁を破壊したりするための投射兵器です。石以外にも死体や火をつけたものを飛ばしたりもしました。

    こちらも大きく分けて2種類あります。ひとつはねじった縄の戻る力を利用して投射する「オナガー」と重力を利用して投射する「トレビュシェット」です。トレビュシェットはとても強力で140kgの石を300mも飛ばすことができたそうです。

    「武器のはなし」はこれで終わりです。戦争の群衆シーンをCGで制作するときに、剣や槍を持った重装備の騎士ばかりではなく、色々な武器を持った部隊がどのような隊列で配置されるかなど考えながら制作してみて下さい。

    次回は「屋根のはなし」ということで日本家屋の屋根の構造や瓦についてお話ししたいと思います。ありがとうございました。

    参考文献

    書籍
    「戦闘技術の歴史1 古代編」
    (サイモン・アングリム/フィリス・G・ジェスティス/ロブ・S・ライス/スコット・M・ラッシュ/ジョン・セラーティ 著、松原俊文 監修、天野淑子 訳、創元社)
    「戦闘技術の歴史2 中世編」
    (マシュー・ベネット/ジム・ブラッドベリー/ケリー・デヴリース/イアン・ディッキー/フィリス・G・ジェスティス 著、淺野 明 監修、野下祥子 訳、創元社)
    「戦闘技術の歴史3 近世編」
    (クリステル・ヨルゲンセン/マイケル・F・パヴコヴィック/ロブ・S・ライス/フレデリック・C・シュネイ/クリス・L・スコット 著、淺野 明 監修、竹内 喜/徳永優子 訳、創元社)
    「中世ヨーロッパ武器・防具・戦術百科」
    (マーティン・J・ドハティ 著、日暮雅通 訳、原書房)
    「図説 西洋甲冑武器事典」(三浦權利 著、柏書房)
    「中世ヨーロッパ騎士事典」
    (クリストファー・グラヴェット 著、森岡敬一郎 日本語版監修、あすなろ書房)
    「西洋甲冑&武具 作画資料」
    (渡辺信吾(ウエイド)著、ジェイ・エリック・ノイズ(キャッスル・ティンタジェル)監修、玄光社)

    Profile.

    大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)
    株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
    奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
    colobito.com