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Story 13:屋根のはなし

Story 13:屋根のはなし

TVアニメ、実写映画、ゲームなどを幅広く手がける株式会社コロビト代表・大島夏雄氏によるCG雑学コラム。今回は住宅や寺社などのモデリングで重要な屋根について、瓦の歴史や種類と合わせて紹介します。

TEXT&ILLUSTRATION_大島夏雄 / Natsuo Oshima(コロビト
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

日本で約1,400年の歴史をもつ瓦葺の屋根

こんにちは、コロビトの大島夏雄です。2020年もよろしくお願い致します。第13回となる今回は「屋根のはなし」ということで、瓦を中心に屋根の構造について紹介します。

筆者は奈良県出身です。小さい頃はよくお寺の瓦や組木を眺めていました。当時は大工さんになろうと思っていましたが、今はCGクリエイターです。先日実家に帰ったときに父が「昔は瓦葺(かわらぶき)の家しか建てられへんかったけど、最近はおしゃれな家が増えてきたなぁ」と言っていました。昔は奈良県の条例で、実家があるエリアは瓦葺と決められていたそうです。

●瓦の歴史

それでは、まずは簡単に日本での瓦の歴史をお話ししたいと思います。

日本で瓦生産が始まったのは、西暦588年に朝鮮半島の百済から4名の瓦博士が僧や寺工たちと一緒に派遣されて来てからだそうです。そして、最初に建造された瓦葺の建物は奈良県の法興寺で、596年に完成しました。この法興寺の瓦は、今でも元興寺(がんごうじ)の屋根に使用されていますので、実際に見ることができます。

このときの瓦は本瓦葺のひとつである「行基葺(ぎょうぎぶき)」という葺き方でした。これは平瓦と上側が細くなっている丸瓦を交互に組み合わせて葺くものでした。その後、丸瓦に段差をつけて組み合わせる本瓦葺が主流になりました。江戸時代に西村半兵衛が、平瓦と丸瓦を合体させたローソク桟瓦(江戸葺瓦・簡略瓦)を発明しました。さらに改良された桟瓦葺は明治時代に全国で使用されるようになりました。

●寺院と神社の屋根のちがい

先ほど日本で最初に建造された瓦葺の建物は法興寺とお話しましたように、寺院や神社と屋根の歴史とは密接な関係があります。では、建築において寺院と神社はどういったところが違うのでしょうか? ぱっと見てわかる違いは、鳥居があるのが神社で、鐘やお墓があるのが寺院というところですが、実は屋根の形状や材質にもそれぞれ特徴があるのです。

【形状】
神社の屋根は、最長部の棟から山形の2枚の面で構成された形状のものが多いです。これを「切妻造」といいます(上図左)。寺院の屋根は、上部は切妻造でその下に前後左右に勾配をもつ屋根がくっついている形状のものが多いです。これを「入母屋造」(上図右)といいます。

【材質】
寺院の屋根は、瓦葺のものが多いです。神社の屋根は茅葺、檜皮葺、杮(こけら)葺、などの自然な素材で葺かれたものが多いですが、なかには銅板を使用した屋根もあります。銅板の屋根は最初はピカピカの赤橙色です。その後、年月が経つと暗い褐色に変色します。この褐色は数十年続き、そして最後に緑青色になります。

●東大寺の瓦

東大寺大仏殿といえば、長らく「世界最大の木造建築」と言われていましたが、現在では資材の発達により、世界には東大寺大仏殿よりも大きな木造建築がいくつかあるそうです。そのため、東大寺大仏殿については今は「世界最大の木造軸組建築」と言うそうです。これは木の柱や梁で支えられた建造物の中では世界最大、と言う意味らしいです。

東大寺大仏殿は758年に完成し、戦国時代に焼失。その後江戸時代に再建されましたが、瓦の重さに耐えられず、屋根が歪んでしまいました。そこで、明治から大正にかけて行われた修理の際、イギリス製の鉄骨トラスを組み込んで支えるようにしたそうです。では屋根を歪めてしまった、大仏殿の瓦はどのような瓦なのでしょうか。

一般的な平瓦の幅は26cmほどですが、大仏殿の平瓦の幅は45cmもあります。大きい屋根には大きい瓦を、ということでしょうか。枚数としては、様々な形状の瓦を合わせて13万枚も使われています。すごいですね。

●瓦の種類

瓦葺の屋根をモデリングするときは、思っていた以上に瓦の種類を多く作る必要があるなあと、筆者はいつも思います。

この画像のように比較的シンプルな屋根でも、10種類の瓦をモデリングする必要があります。お城やお寺などの複雑な屋根になると、この倍以上の種類の瓦を組み合わせることになりますので最初にしっかり計画を立てて進めるようにしてください。

●屋根勾配

日本では屋根の勾配について「3寸勾配」や「4寸勾配」などという言い方をします。これは「横10寸に対して縦3寸の勾配」、「横10寸に対して縦4寸の勾配」という意味です。角度で言うと「3寸勾配」が約16.7度、「4寸勾配」が約21.8度になります。一般的な屋根は3~5寸勾配です。

家をモデリングするとき、屋根は30度や45度で進めた方が作業がしやすいと思いますが、45度だと「10寸勾配」となります。10寸勾配の屋根は実際に見かけることもありますが、屋根としてはかなり急勾配な部類に入ります。

いかがでしたでしょうか。お城やお寺をモデリングするときは図面や写真など様々な資料を集めてから作業に入ると思います。しかし、背景の一部である住宅をモデリングするときは図面なども見ずにモデリングを進めることが多いのではないでしょうか。そこで屋根や瓦のことが何となくでもわかっていると、瓦葺ではなかったとしても、屋根の形状や勾配などが自然な家をスムーズにモデリングできるかと思います。

次回は「植物学のはなし」ということで、植物に関して、ちょこっとお話しできればと思っております。それでは、次回もよろしくお願いします。ありがとうございました。

参考文献

書籍
「瓦が語る日本史」
(山崎信二 著、吉川弘文館)
「屋根のデザイン百科」
(武者英二・吉田尚英 編著、彰国社)
「絵で見る工匠事典 12 平屋建入母屋二段化粧屋根資料編:平面・立面・小屋伏図集」
(建築資料研究社 編)
「本瓦葺の技術」
(太田博太郎 監修、井上新太郎 著、彰国社)
「物語 ものの建築史 和瓦のはなし」
(山田幸一 監修、藤原 勉、渡辺 宏 共著、鹿島出版会)

Profile.

大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)
株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
colobito.com


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