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    TVアニメ、実写映画、ゲームなどを幅広く手がける株式会社コロビト代表・大島夏雄氏によるCG雑学コラム。今回は植物をモデリングする上で重要になる、根、茎、葉の構造についておはなしします。

    TEXT&ILLUSTRATION_大島夏雄 / Natsuo Oshima(コロビト
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    植物の品種までしっかり定めてモデリングする

    こんにちは、コロビトの大島夏雄です。第14回となる今回は「植物のはなし」ということで、植物の形状を中心に「植物のはなし」をしていきたいと思います。

    みなさまも聞いたことがあるかと思いますが、心理テストで「木を1本描いて下さい」というテストがあります。「バウムテスト」と言うそうです。これは、描いた木の大きさや木を見ている角度、枝や幹の形、実があるかどうかなどで心理状態がわかるというものです。

    3分ほどで描くそうですので、その木がリンゴなのかイチョウなのか、はたまたカエデなのかと名前を決めて描くわけではなく、記号としての「木」を描くことになることになるかと思います。だから心理テストになりえるのでしょうか。

    でも、仕事で木をモデリングするときは記号としての「木」ではなく、何という木の名前なのかを決める必要がありますよね。例えば桜をモデリングしようと思って、図鑑やインターネットで資料を集めたり、季節が合っていれば実際に写真を撮りに行ったりもします。そのときただ「桜」というだけではなく品種も決めてしまわないと、出来上がったモデルはなんだかちぐはぐな桜になってしまうかもしれません。

    上野公園には40種類もの桜が植えられているらしいので、いろいろな桜の木を撮るよりも、1本に絞ってその1本の桜の写真を沢山取った方が良いかと思います。それでは、木や草をモデリングするときの手助けとなるようなおはなしができればと思います。

    植物を構成する器官

    植物を構成する器官である、根、茎、葉の3種類に関して紹介します。

    ●根

    根の大きな機能は水と栄養分の吸収です。そのためできるだけ表面積を大きくする必要があります。 土の中に伸ばしていこうと考えると細く長く伸ばす必要があります。根は先が伸びますので、その箇所の数を増やす必要もあるので、どんどん分かれてどんどん伸ばすわけです。

    アメリカ・アイオワ州立大学のハワード・J・ディットマー/Howard J. Dittmer博士が1937年にライ麦を1本だけ木箱に植え、根の長さを測る実験を行いました。主根の数が143本、第1次から第3次の側根の合計が3,480,629本だったそうです。その長さは623km、表面積は237㎡もあったそうです。どうやって計測したのかわからないですが、すごいですよね。ちなみにGoogleマップのルートで調べると623kmというのは東京から岡山県備前市まででした。237㎡は畳で数えると143畳、大宴会が開けます。

    でも、これは第1次から第3次の側根だけです。根にはほとんど目には見えないような細い根毛が沢山生えています。このような根毛も合わせるとその長さは11,200kmになるそうです。ちょっと伸ばしすぎだろうと思いますが。

    根には大きく分けて、2つの系統があります。

    1:直根系
    長く太い直根がはっきりしていて、これから側根が伸び、さらに側根から側根が伸びている根系。
    2:ひげ根系
    根元から沢山の根が伸びているように見える根系。先ほどおはなししたライ麦は、ひげ根タイプです。

    ●茎・幹

    草は茎、木は幹と言いますよね。それでは、草と木は何がちがうのでしょうか。木には「形成層」と呼ばれる組織があり、これが成長して太くなり、年輪を作りますが、草には形成層がない。というのがちがいとも言えるようですが、植物学的には木と草のちがいはないそうです。

    《分枝》

    多くの植物は枝分かれします。この枝分かれをすることは「分枝(ブンシ)」といいます。分枝にも根と同じようにいくつかのパターンに分類することができます。

    1:二股分枝
    二股にどんどん分かれて成長する分枝
    2:側方分枝
    主軸が1本の軸を作り、そこから枝が伸びる分枝
    3:仮軸分枝
    主軸が成長を止め、その下から分かれた分枝が主軸の役割を担っていく分枝

    木をモデリングするとき気を付けた方が良いポイントとして、下記の2点があります。

    ①分枝するまで太さは変わらない
    ②幹の断面積と分枝した枝の断面積の和は概ね等しい

    完全にこのポイントに基づいてモデリングする必要はないですが、何となくでも意識しながらモデリングを進めると、良い木のモデルができるのではないでしょうか。

    ●葉

    葉の形にはいろいろあります。丸い葉、扇形の葉、縁にギザギザがついている葉、大きさも様々です。今回は面白そうな葉を2種類ご紹介したいと思います。

    《切り込みのある葉》

    上の図の③のような切れ込みがある葉(分裂葉)を見かけることがあるかと思います。光合成が目的であれば①のような形でも良いかと思うのですが、なぜこのような形をしているのでしょうか。

    分裂葉をもつ植物は幼木ほど切れ込みが深く、成木になると不分裂葉が増える植物が多いそうです。同じ種類の木でも葉の形が変わるのは不思議ですよね。葉に切り込みがあると、葉の周囲の空気が流れやすくなり、光合成に必要な二酸化炭素を取り込みやすくなるらしいです。木が成長すると風が良く抜けるので切り込みはいらないということですね。

    《ギザギザのある葉》

    上の図④のような縁がギザギザしている葉もありますよね。こういった葉も、低い位置についている葉はギザギザしていても2mを超えるとギザギザがなくなってくる植物もあるそうです。下だけギザギザしているのはなぜなのでしょうか。

    これには2つほど理由があるそうです。ひとつはシカなどの動物から食べられないように身を守っているためだそうです。チクチクして食べづらそうですよね。筆者が鹿だと想像しても、ギザギザがある葉は上あごとか歯茎に刺さりそうでなので、できればギザギザがない、やわらかい葉を食べたいと思います。もうひとつは、③の分裂葉と同じ理由でこの小さいギザギザでも気流に変化を起こして空気を流れやすくし、二酸化炭素を取り込みやすくなるそうです。


    「植物のはなし」いかがでしたでしょうか。1本の木をモデリングするときも、葉の形だけではなく、その付き方や向きなども気を付けながらモデリングするようにして下さい。

    何だかモデリングに時間がかかりそうだなあと思われるかもしれません。でも何をモデリングするときでも自分が何を作っているのかわからなければ、見る人にも何もわかりません。あらかじめどんな木をモデリングするのか、その名前を決めてから作業に入る必要があります。そして、その木の分類や特徴を理解していれば完璧ではなくとも良い木をモデリングすることができると思います。完璧に矛盾なくモデリングするのは勉強するだけで多くの時間を使うことになりコスト的に合わないので、どのくらい見えるのかなどを考慮して進めましょう。

    また、知識を身につけると、身の回りにある木を見るときも今までとはちがった見方ができるようになり楽しいと思いますよ。

    次回は「タイヤのはなし」ということで、自動車やオートバイのタイヤをモデリングするときのポイントなどをおはなししようと思います。それでは、次回もよろしくお願いします。ありがとうございました。

    参考文献

    書籍
    「山溪ハンディ図鑑 14 増補改訂 樹木の葉」(林 将之 著、山と溪谷社)
    「樹皮ハンドブック」(林 将之 著、文一総合出版)
    「葉でわかる樹木」馬場多久男 著、信濃毎日新聞社)
    「植物形態学」(原 襄 著、株式会社朝倉書店)
    「植物の形には意味がある」(園池公毅 著、ベレ出版)
    「植物学「超」入門」(田中 修 著、SBクリエイティブ株式会社)

    Profile.

    大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)
    株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
    奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
    colobito.com