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    TVアニメ、実写映画、ゲームなどを幅広く手がける株式会社コロビト代表・大島夏雄氏によるCG雑学コラム。第6回は街並みの制作には欠かせない「電柱」について、その種類や構造を紹介する。

    TEXT&ILLUSTRATION_大島夏雄 / Natsuo Oshima(コロビト
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    <1>電柱は日本に何本ある?

    こんにちは、株式会社コロビトの大島夏雄です。第6回となる今回は「電柱のはなし」と題して、電柱の構造についてお話ししたいと思います。

    電柱に関して書くにあたり、資料となる本を探しましたが、電柱について解説されている本は見つかりませんでした。写真集のようなものは見つかったのですが......。電柱はいたるところにありますし、今回は実際の写真を基に解説していきたいと思います。

    ここで問題です! 電柱は日本に何本ぐらいあるのでしょうか?

    正解は......もちろんわたしは知らなかったのでネットで調べてみました! 何とその数、約3,578万本(※)!! 何だかすごい数ですね。

    ※:平成28年時点(国土交通省資料より)

    電線などを地中に埋めて、電柱をなくしていくことを「無電柱化」といいます。世界の主要都市では大分、無電柱化が進んでいますね。それに対して東京は8%、大阪6%と、まだまだ無電柱化は進んでいません(2017年国土交通省 調べ)。

    東京都では「東京都無電柱化推進条例」のもとに無電柱化を進めています。このような条例があったのですね。知りませんでした。東京都の無電柱化の資料をこちらのサイトから見ることができます。いずれ人口密集地では電柱はなくなるかもしれませんね。

    <2>電柱の種類

    「電柱」には電力会社が管理する「電力柱」と、通信会社が管理する「電信柱」とに分かれています。それぞれ、管理プレートが取り付けられているのでわかりやすいですね。電力会社と通信会社が共用で管理している電柱もあり、これは「共用柱」と呼びます。この場合は両方の管理プレートが取り付けられています。

    <3>電柱の材質

    昔は木製の電柱も結構見かけることがありましたが、今ではほとんどコンクリート製の電柱ばかりですね。このコンクリート柱は中心部分が空洞の中空構造になっています。そのため、へし折れた電柱をモデリングする場合は、このような感じで、電柱は中空構造であると認識してモデリングすると説得力があるモデルを作ることができると思います。それ以外にも鋼管柱という鉄製の電柱もあります。

    電柱の太さは上にいくほど細くなっています。長さや太さは設置する場所によって様々なサイズがあります。長さは地上に出ている部分で8~12mくらいが多いようです。太さは地面付近の直径が32cmほどで先の細くなっている側の直径が19cmくらいです。

    身近な電柱の直径をいくつか測ってみました。写真の巻き尺は円周用の目盛と直径用の目盛がついている優れものです。

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    <4>変圧器・開閉器

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    <4>変圧器・開閉器

    電柱にはいろいろなものがくっついています。その中でも放熱板がついていて一番大きく、目立つのが「変圧器」です。電気は発電所から超高圧変電所まで27.5万~50万Vの電圧で届きます。そのあと、いくつかの変電所を経由して電圧は徐々に下げられていきます。街の電柱を通るころには6,600Vまで下がっています。そこから電柱に取り付けられている「変圧器」で100Vや200Vに電圧を下げてから各家庭に引き込まれます。

    次に大きいのが「開閉器」です。これは電路遮断を行うためのスイッチです。事故が起きたときに自動的に電路が遮断される開閉器もあります。

    また、電柱の下にデコボコしたシートが巻かれているのを見たことがあるかと思います。これはチラシを貼りにくくするためのものです。もし貼られてしまっても剥がしやすいように、表面がデコボコに加工されているのです。コンクリートや鋼管に直接、チラシなどを糊でベッタリ貼られてしまうと剥がすのがとても大変です。そこで、このシートを巻いて糊の接着面を減らし、剥がしやすくしているわけですね。

    <5>電線について

    続いて電線をみてみます。電線は、上下に何層かに分かれて張られています。一番上が「高圧線」(6,600V)でその下が「低圧動力線」(200V)になっています。一番下には「光ケーブル」「電話回線」などの通信用のケーブルが張られています。

    よく見てみると、上の写真のように電柱間に張られたワイヤーにグルグルとケーブル状のものが巻かれ、その中に太めのケーブルを通しているのがわかります。このグルグルを「スパイラルハンガー」といいます。ワイヤーに等間隔にハンガー(ケーブルハンガー)などで1個ずつ固定していくよりも、このスパイラルハンガーを使用した方が楽に電柱間にケーブルを張ることができますし、ケーブル自体に負荷がかからないため、スパイラルハンガーを使用しているところが増えてきているようです。

    電柱の近くに取り付けられている黒い箱は「接続端子函」といい、光ケーブルや電話回線を分岐させるための装置です。

    今回の「電柱のはなし」はこれで終わりです。電柱に限らず、想像上の工場などをモデリングする際も今回取り上げた変圧器や開閉器、接続端子函にあたるモデルを設置すると、よくわからないまま進めるより作りやすくなるのではないでしょうか。今回は解説しませんでしたが、電線も向きを変える箇所や本数を増やす箇所には様々な器具が取り付けられていますので、注意して観察してみて下さい。

    次回は「動物のちがいのはなし」ということで、ジュゴンとマナティのように似ているけど違う動物のおはなしをしようと思います。筆者は小さいころの夢は動物博士でした! 図書館に行きいろいろ調べてノートにまとめてオリジナル図鑑を作ったり、テレビ番組の『わくわく動物ランド』(1983〜92)を楽しみにしておりました。若い人は知らないと思いますが......。

    参考文献

    Webサイト
    電柱装柱資料館
    http://www.tawatawa.com/dentei/
    送電のしくみ - 電気事業について | 電気事業連合会
    https://www.fepc.or.jp/enterprise/souden/
    道路:無電柱化の推進 - 国土交通省
    https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/

    Profile.

    大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)
    株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
    奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
    colobito.com