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    TVアニメ、実写映画、ゲームなどを幅広く手がける株式会社コロビト代表・大島夏雄氏によるCG雑学コラム。第5回は服のシワをモデリングする際の、ちょっとしたコツを紹介する。

    TEXT&ILLUSTRATION_大島夏雄 / Natsuo Oshima(コロビト
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

    <1>「ミウラ折り」とは?

    こんにちは、株式会社コロビトの大島夏雄です。3月になりずいぶん暖かく過ごしやすくなりましたね。第5回となる今回は「シワはひし形のはなし」。どういうことかと言うと、服のシワは、よく見ると全てひし形で構成されているのです。

    服のシワを作る際、皆さんはどのようにモデリングしていますか? ZBrushでスカルプトしたりポリゴンでモデリングすることもあるでしょう。リアルなキャラクターをモデリングする場合、MayaのnClothやMarvelous Designerでシミュレーションするのも良いですよね。キャラクターをモデリングしたり、人物を描いたりするとき、「どこに」「どのような」シワを入れれば良いのか、結構迷うことがあるかと思います。シミュレーションさせる場合もどの状態(どの設定)を選ぶかは制作者次第です。そのとき、シワの原理を何となくでもわかっていると「自然なシワ」を作ることができます。

    ネットで「服のシワ」などのワードで検索すると、イラストを描くときに「服のシワ」を描くコツををまとめたサイトが多数ヒットします。これらのサイトを見ると、「ひし形」や「ミウラ折り」という単語がちらほら出てきます。

    皆さんは、「ミウラ折り」という言葉を聞いたことがありますか? 名称は聞いたことない人も、「ミウラ折り」を使用したものを手にしたことはあると思います。

    こちらの動画で紹介されている、紙の対角をつまんで引っ張ると簡単に展開することができる折り方を「ミウラ折り」といいます。これは三浦公亮東大名誉教授が考案された折り方で、地図やパンフレットだけではなく、1995年に打ち上げられた日本の科学衛星「宇宙実験・観測フリーフライヤ」の太陽光パネルにも、この「ミウラ折り」が採用されたそうです。すごいですね。

    筆者も「ワンダーシリーズ ミウラ折りエイド」を使用して「ミウラ折り」に挑戦してみました。「ミウラ折りエイド」は「ミウラ折り」をするための定規です。210mm×297mm のA4用紙を使って折っていき、畳んだ状態では86mm×68mmにまで小さくなりました。意外と難しかったです......。

    「ミウラ折り」はわかりましたが、この「ミウラ折り」と服のシワにどういった関係があるのでしょうか? その前にもうひとつ、「吉村パターン」というものをご紹介したいと思います。紙のような薄い素材で円筒を作り、上下から力を加えて押しつぶします。

    すると、ダイヤモンド形の連続したシワが生じます。三浦公亮教授が破壊のパターンとしてこの「吉村パターン」を研究しているときに、この構造が、横からの力に非常に強く、構造物として安定していると気づき論文を発表されました。その後、缶飲料のメーカーが缶のデザインとして採用しています。コンビニにも、ダイヤモンド模様の凹凸がある缶が並んでいますよね。

    では、なぜ力をかけるとひし形に変形するのでしょうか。それはこの形に変形するのがいちばん楽だからです。何かが曲がるときや折れるとき、その物体にとって最も力が要らない変形をするのです。例えば、長さ1mの鉄筋の端を持って曲げてみると、ほぼ鉄筋の中心位置で曲がります。これもできるだけ握っている2箇所の支点から離れた場所、すなわち0.5mの位置から曲がるのがいちばん楽な変形となります。それが上の円筒の場合は「ひし形」だったということですね。「ミウラ折り」もこのひし形をヒントに生まれました。

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    <2>衣服のシワはどのようにできる?

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    <2>衣服のシワはどのようにできる?

    それでは、本題の衣服のシワのはなしをしたいと思います。

    図のように服やズボンを簡略化してみると、円筒の組み合わせでできていることがわかります。ということは袖や裾のシワにも、ひし形のパターンがみられるということです。

    Marvelous Designerを使用して実験してみましょう。まずは「吉村パターン」ということで、円筒を用意してシミュレーションをかけてみました。

    いかがでしょうか? 紙をつぶしたときと同じようなひし形の変形がみられます。次は長袖のTシャツと長ズボンを作ってみました。

    このモデルにシミュレーションをかけてみます。

    袖や裾の部分に「ひし形」のシワができていますね。これは、生地が伸び縮みするよりもシワになった方が楽だからということですね。

    ついでに布の厚みを変更してみました。布が厚いとシワが太くなり、断面をみた場合、曲線の直径が大きくなります。

    今回はこれで「シワはひし形のはなし」は終わりにしたいと思います。人物の絵やキャラクターをモデリングする場合、シワの良し悪しで差が出てしまうことが多いです。皆さんがモデリングする際は、写真などの資料や自分の着ている服を参考にシワを入れてみて下さい。そのときに、頭の片隅に「ひし形」を意識して制作すると、作りやすく、より良いものができるかもしれません。試してみて下さい!

    次回は「電柱のはなし」ということで、電信柱についておはなししようと思います。最近では電線を地中に埋めて電信柱をなくす工事を進めているところもありますよね。確かに電信柱は邪魔なものですが、筆者は結構好きで、よく見てしまいます。電信柱には様々なものがくっついています。それらの目的や名称を調べてみようと思います。

    参考文献

    Webサイト
    株式会社miura-ori lab
    https://miuraori.biz/
    紙について話そう。 No.26:(三浦公亮・山口信博)|紙をめぐる話|竹尾 TAKEO
    http://www.takeo.co.jp/reading/dialogue/26.html
    ミウラ折りエイド A4| 【イメージミッション木鏡社】 http://www.imagemission.com/products/detail.php?product_id=1827

    Profile.

    大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)
    株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
    奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
    colobito.com