>   >  業界的にもメディア的にも境界が崩れてきた1年だった~CGWORLD的、2018年のふり返り
業界的にもメディア的にも境界が崩れてきた1年だった~CGWORLD的、2018年のふり返り

業界的にもメディア的にも境界が崩れてきた1年だった~CGWORLD的、2018年のふり返り

<3>満を持して登場した注目ツール群は業界を変えるか?

小野:最後に基礎技術やツールについてふり返れればと思うのですが。今年は何といってもリアルタイム・レイトレーシングが注目を集めました。

藤井:NVIDIAがGeForce RTX プラットフォームを発売しましたね。ただ、レンダラの対応が今ひとつなのがネックです。2019年は次世代V-RayArnoldもRTXコアにネイティブ対応したものが出てきます。そうなると本格的に普及するのではないでしょうか。日本でノンフォトが主流である背景には、フォトリアルに比べてレンダリングコストが安くて済む点もあります。これがリアルタイム・レイトレーシングの普及でレンダリングコストが下がれば、挑戦するところも増えてきます。

GeForce RTX - Graphics Reinvented

沼倉:面白いですね。ARコンテンツで周囲に違和感なく溶け込むCGキャラクターなどの用途も考えられそうです。

小村:ツールではPSOFT Pencil+4で従来の3ds Max版に加えて、待望と言って良いと思うのですが、Maya版が出たのが大きかったと思います。アニメCGだと、これまでPencil+がキラーソフトとなって、3ds Maxが多く使われていました。しかし、Maya版の登場で3ds MaxからMayaに乗り換える動きが出ていますし、Mayaをメインで使っていたCGスタジオでPencil+の導入を始める例も出ています。

PSOFT Pencil+ 4 for Maya

藤井:AWARDSのノミネートでは国産ツールという縛りがあったので入れられませんでしたが、世間一般的にはHoudiniの認知度の高まりも印象的でした。

小野:特にゲーム業界では次世代機の足音が聞こえてきたこともあり、Houdiniによるプロシージャル・モデリングが注目されましたね。もっとも、ビジュアルだけでなく、サウンド面でもプロシージャル・オーディオについての関心が高まっています。さらに、今後はこれにAIが加わって、プロシージャルAIの時代が来ることが確実視されています。

沼倉:その通りだと思います。実際、Houdiniといえばエフェクトツールという印象だったのが、今年は一気にプロシージャル・モデリングのながれになりましたからね。CGWORLD 2018年8月号 vol.240でも特集しましたが、時間不足もあり、掘り下げが甘いものになりました。またタイミングを見て取り上げたいですね。

小野:プロシージャル的なコンテンツ制作は『モンスターハンター:ワールド』でも活用されていますし、『Far Cry 5』のようにフィールドの植生群を全てプロシージャルで制作した例もあります。ハイエンド系のゲームでは、すでに人力でアセットを設定する限界を迎えているため、2019年はますます活用が進みそうです。

藤井:一方でCGWORLDでは、キービジュアルやコンセプトアートといった2DCGを、積極的に取り上げていく予定です。先ほどもあったように、両者の境界は今後ますますあいまいになっていきますし、3DCGのアセットを2DのCGで活かすような試みは、CGWORLDでしか紹介できないのではないかと思っています。

沼倉:だからといって、CGWORLDが一気に2Dに方針転換するわけではありませんけどね。とはいえ、今までと同じことをやっていても成長性がないので、本丸を守りつつ新分野に攻め込んでいきます。Webや有料セミナー事業などに力を入れているのも、そのひとつですね。これまでは自分が担当していましたが、即時性を上げるために、今年から小村がCGWORLD.jpの副編集長に就任しました。

小野:CGWORLD.jpでは本誌で取り上げない話題も幅広く扱っていますね。IVRC 2018など、インタラクティブコンテンツのイベント取材記事も掲載されるようになりました。また、動画などの素材が使われている点も印象的です。

小村:本誌はハウツー中心で、Webはイベントレポートやインタビュー記事など、差別化を図っています。また、本誌の記事に動画素材を追加してWebに転載するなど、両者の連動性も意識しています。

沼倉:雑誌媒体があってのCGWORLDなので、今後も紙の出版は続けていきますが、それだけでは限界があります。様々なメディアを活用して、多角的に広げていければと思っています。もはやCGを使って作品をつくるのは当たり前ですから、我々もそうしたながれの中で、上手く時流を捉えた情報発信を続けていきたいですね。

藤井:メディアにとっては個人ブログなども意識していく必要があります。すでにテクニカル系の解説を行うVTuberもいますし、そこで目立っている人に解説記事をお願いする、といった例も増えています。

沼倉:他に皆さんの方で、2019年に向けて注目されている技術や表現はありますか?

小野:自分はSIGGRAPH Asia 2018のエルザジャパン/アスクブースでデモされていた、「ボリュメトリックVR」が面白いと感じました。プリレンダームービーながらインタラクティブな活用ができる点が特徴で、両眼で5Kという高解像度のVR HMD「StarVR One」向けのコンテンツ制作で使われていましたね。実際、それだけ高解像度のコンテンツをリアルタイムレンダリングで表示し、秒間で90フレーム以上を保つのは、結構大変なんです。これがプリレンダーで可能になるというのは、Mayaや3ds Maxで作業を完結させたいスタジオにとっては、福音かもしれません。

藤井:私はデジタルヒューマン系の取材を進めていることもあり、2019年は3Dスキャン系の技術がもう少し発展していくような気がしています。

小村:先ほどもいいましたが、PSOFT Pencil+4 for Mayaが出たことで、一気にPencil+のユーザーが増えると思いますので、そこから新しい何かが出てくればと思います。

沼倉:技術からは離れますが、2019年は『ULTRAMAN』『攻殻機動隊 SAC_2045』など、フルCG作品の公開が次々に控えています。『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』も詳細は不明ですが、フルCGになるのではないでしょうか。これまでフルCG作品はキワモノ的なところがありましたが、すっかりメインストリームになった感じがありますね。もっともCGが当たり前になると、新鮮さが失われてしまうので、CGWORLD的には痛し痒しですが。

小野:その話でいうと、先ほどの『Detroit: Become Human』は、いわゆる「不気味の谷」を越える上で面白い手法を採っているんです。本作では主人公がアンドロイドなので、機械くさいモーションが、要所で意図して組み込まれているんです。そのため、記号的な動きが気にならないんですよ。むしろアンドロイドくさい動きの中から、人間らしさが感じられてくるという。

小村:逆転の発想なんですね。

小野:これはCGの記号性の問題をゲームデザインで回避させている例ですが、同じようにCGアーティスト出身の監督が増えていくことで、映像コンテンツでも新たな発想が生まれてきそうです。どういった方々がいらっしゃるのでしょうか?

沼倉:有名なところでは白組の山崎 貴氏や八木竜一氏はVFXアーティスト出身の映画監督ですね。他にCGWORLDでは創刊20周年記念シリーズ企画として、東映アニメーションの宮本浩史氏、クラフタースタジオの櫻木優平氏、MORIEの森江康太氏で鼎談記事を掲載しましたが、皆さんCG出身の監督として活躍されています。こんなふうに、2019年も新たな才能が飛び出してくることを期待したいですね。

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