今後さらなる活躍が期待される20人のクリエイターたちに雑談を交えながら「ものづくりにおける信条」をフランクに語っていただくシリーズ企画。新進気鋭の監督であり、現役のデジタルアーティスト。全員が1985年生まれという宮本浩史さん、櫻木優平さん、森江康太さんに語り合っていただきました。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 245(2019年1月号)からの転載となります。

Interview_沼倉有人(CGWORLD)
TEXT&EDIT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)、山田桃子 / Momoko Yamad
ロケーション協力_東映アニメーション

<1>監督業を続けてきて、気づいたこと、わかってきたことは?

CGWORLD(以下、CGW):さて、みなさんは同い年ということで、日頃からよく会ったりしているのですか?

宮本浩史(以下、宮本):3人で会うのは1年振りですね。前回は確か荻窪で飲んだ記憶があります。

  • 宮本浩史/アニメーション監督、デジタルアーティス
    東映アニメーション

    @gatyapen
    1985年生まれ、兵庫県出身。スクウェア・エニックス、Production I.Gを経て2010年東映アニメーション入社。 Pythonも絵コンテも書けるアニメ監督を目指し奮闘中。リアルからセル調までジャンルを超えた作品づくりに挑戦している

森江康太(以下、森江):それぞれ2人ずつで会う機会はあったのですが、3人となるとなかなかスケジュール的に難しい部分もあって......。ひさしぶりに会いましたね。

  • 森江康太/映像ディレクター、CGアニメーター
    MORIE

    @kohta0130
    1985年生まれ、島根県出身。ディレクター、CGアニメーターとして、アニメーションから実写作品まで幅広いジャンルを手がけている。月刊CGWORLDにて「アニメーションスタイル」を連載中。2016年、MORIE Inc.を設立。

CGW:3人は同年代かつ、今はまだ珍しいデジタル出身の監督となっているわけですが、お互いをどういう風に思っているのでしょうか。

櫻木優平(以下、櫻木):がんばってる人たちだなー、と思って見ています(笑)。自分は会社にがんばらされている感もあるのですが、2人ともグイグイいくタイプだなと思っています。

  • 櫻木優平/アニメーション監督、デジタルアーティスト
    クラフタースタジオ

    @yuheisakuragi
    1985年生まれ、熊本県出身。実写映像・グラフィックデザインを学んだ後、フリーランスとして活動をはじめる。クラフターが推進する最新技術を投入したアニメーション手法「スマートCGアニメーション」にこだわり、繊細かつ緻密なアニメーション表現を得意とする

宮本:少なくとも商売敵とは思っていないですよ! やりたい方向性がみんなちがいますから。

森江:宮本さんとはクライアントとの関係もあるのですが、だからと言ってビジネス的にだけ見ているわけではないんです。3DCGのいちクリエイターからディレクターまでを担当して、こうして人の目に触れる作品を商業ベースでつくり続けられる人というのは、まだ少ないと思っています。個人的には、同世代で切磋琢磨できる人がいるというのは運、めぐり合わせだと思っています。そういう意味では、この2人が身近にいるというのは僕にとってラッキーですね。

CGW:30代前半にして監督業というキャリアに憧れをもつ方も多いと思います。みなさんは現在、業界に入った頃から考えて、なりたい自分になれているのでしょうか。

宮本:こうしたかった、こうなりたかった、という到達ポイントに対してはある程度実現できていると思っています。ですが、これが"本当にやりたかったこと"なのか? というところを考えると、自分の心理として意外とズレを感じていますね。もちろん今の仕事も楽しいのですが、本当は自分で手を動かしてものづくりをしていきたい。それこそコアメンバー5、6人で、時間をかけて映画をつくるみたいなことを本当はやりたい人間なんだろうな、と自分を客観視しています。

森江:わかります。実作業をやってるときが一番楽しいんですよね。たまに社内に誰もいなくて、アニメーションを自分で付けなくてはいけないという状況になったりすると、実はかなり楽しんで作業できたりします。

櫻木:手を動かしてものをつくること自体はなにも考えなくていいので、淡々とやれている感じがしますね。心が落ち着くというか、無心で作業できる快感というか。なんだろう、延々テトリスをやっている感じがして、僕も好きですね。

宮本:ただ、今は何百人ものスタッフがいて、自分が作業する部分が少ない状態が続いています。そうした中でも主人公キャラのモデリングだけは死守していますが、本当はアニメーションも自分で付けたいと思っているんです。そのあたりのバランスが少し悩みどころですね。

CGW:デジタルアーティストから監督へと転向してしばらく経ったかと思いますが、現在は現場で手を動かす作業と監督業、割合はどの程度なのでしょうか。

森江:時間でいうと6割くらい監督、3割は手を動かしています。残りはプロデュースや打ち合わせ、仕事のすり合わせなどの経営に関わることですね。手を動かす時間は減ってきていますが、意識的にやろうとは思っています。ただ、この間宮本さんと一緒にやったプリキュアは当社のアニメーターがすごく気合いを入れてやってくれたので、それに関しては僕はいっさい手を出しませんでした。

宮本:僕の場合は、主人公のモデリングだけは絶対に人に渡しません。今回のプリキュアでは作画パートもあったので、絵コンテとレイアウトチェックなどもやっていました。CGパートではモデリング、リギングもやったりします。自分でやらなくても他の方にやっていただけるのですが、ただ単にやりたいだけという。

櫻木:自分はどちらかというと手を動かしたりツールを触りたくないので、各スタッフにまかせるようにしています。そして、「あれ? 結局これ自分で触らないとダメでは?」というものだけ戻ってくる感じです。極力働きたくないんですけど、必ず業務はこぼれるものなので、そこを拾っているような仕事の仕方をしています。

CGW:3DCG制作から業界に入った人間として、これまでのセル画の文脈とはちがう立場かと思いますが、今感じていることは?

宮本:これからはCGを使わざるを得ないだろうと思っています。僕らがやりたい表現がある一方で、テクノロジーも日々変わっていきます。良い仕事をするためには、常に変わっていくものを取り入れつつどう自己解釈するかが重要です。もちろん2D作画には長年積み上げられてきた歴史がありますが、進化と蓄積の合理性はCGに軍配が上がると思います。

櫻木:僕たちみたいにCGでつくり始めた人たちは、それ自体が付加価値になってしまっているから、CGでつくるだろうという期待感、最新のテクノロジーを使って新しい表現を見せてくれますよね? 的な周りからの期待は強く感じますね。3DCGは常にツールが進化しているので、ついていくしかないという側面もある。4Kや8K、それこそVRなど環境が勝手に切り替わっていくので、僕たちはデジタルを期待されている以上それに追従するしかない。

宮本:コンピュータが速くなってるんだから画が良くなって当たり前、コンピュータがCGをつくってるんでしょみたいな話、たまに聞きますけど、DCCツールも本質的なところではマルチコアには対応してないし、細かいことをやろうとすると結局工数をかけた手作業が求められますね。そこをわかってもらうためにも、技術的な背景は必要だと思っています。

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<2>当面の目標は、やはりオリジナル企画でヒット!

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<2>当面の目標は、やはりオリジナル企画でヒット!

CGW:監督業としての目指しているゴールはあるのでしょうか。

森江:ゴールが何かはわかりませんが、直近だと自分で脚本を書いたオリジナル企画があるので、それを今のメンバーで完成させたいと思っています。あとは経営者として、組織の文化づくりをしたいと思っています。今から10年経って、世帯持ちも増えてくると、また社風は変わると思いますが、みんなが生活していける土壌をつくりたいですね。

櫻木:僕のゴールはどこなんでしょうかね。今は割りふられた仕事をこなすのがやっとで、自分でコントロールすることはできていないので......。ただ、生活をもう少ししっかりさせようとは思っています。世帯持ちという意味では、当社はほぼ既婚者なので、家庭をもてるスタジオでなければいけないというのは強く意識しています。

宮本:......2人に聞きたいのですが、監督をやめてプロデューサーになろうと思ったこと、ありませんか?

櫻木:たまにあります。試写会でボコボコにされる僕たちとちがって、楽しそうにしているイメージがありますよね(笑)

宮本:今はつくりたいものが明確で、そのモチベーションがあるから続けられているけど、賞味期限が切れたベテランが現場にしがみつくのは格好悪いと思うんです。まだまだ監督をがんばりますが、個人的には40越えたら何らかの決断をしたいと思っています。

森江:たしかに、自分が50歳くらいになったら何をしているかな、とは思うときがありますね。

櫻木:でも、プロデューサーは作品が失敗したら直接叩かれるし、そこまでして世に何か出したいのか? というのは考えてしまいます。少なくとも「自分の表現」というかたちでやるものじゃない。関わる人が多いから失敗の責任はとれないし、僕は本当に作家性を出すなら最終的には個人規模になるのかなと思っています。

宮本:自分だけでやるなら失敗しようが成功しようが自分の責任ですが、関わる人が多い作品で作家性をどう出していくかは考えていくべきことですね。ハリウッドの映画監督は自分のプロダクションをつくりますよね。あれに近いかたちで、個人事務所はもちたいな、と思うことがあります。

櫻木:大きな規模だとリスクが多くなってきて、みんな慎重になりますよね。自分はこっちが好きだけど、世の中的にはこっちだな、という判断をしなくてはいけなくて。今はもうそこを好き嫌いでは選ばなくなっています。「自分の全てをこの作品に賭ける」というつくり方はせず、まずは売れるものをつくるという思考になりますね。

森江:でも、ヒット作があると発言力も変わりますよね。だから、目標としては"売れる"というのがひとつ明確にある。CG業界出身ではなく、単純にディレクターとして世間で認められなくてはと。

宮本:さっき櫻木さんの言ったような「自分の全てを賭ける」という作品が、今回のプリキュアだったんです。これまでは組織の言いなりになっていたところも、たとえ軋轢を生むことになっても戦って勝ちとろうと思って。こういった思い入れのある作品の次に自分がやりたいものとしては、純粋にオリジナル作品をやってみたいとは考えています。それをやってみた上で、監督として続けていくのか、プロデューサーをやるのか、第3の道に進むのかを考えていくべきだろうと思うので。

宮本監督の新作!

  • 『映画HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュアオールスターズメモリーズ』 大ヒット上映中!
    原作:東堂いづみ/監督:宮本浩史/アニメーション制作:東映アニメーション/配給:東映
    www.precure-movie.com
    ©2018 映画HUGっと!プリキュア製作委員会

CGW:自身のクリエイティビティと作品規模を考えた組織運用のバランスを考える立場になってきているということですね。3人の中では森江さんのみご自身の会社を設立されたわけですが、規模の拡大は考えていますか?

森江:今が10名なのですが、大きくするつもりはそれほどありません。政治だとか、制作に関わらないことに労力を割くのが嫌でしたし、会社を大きくした結果、仕事を選べないといったことも避けたいので。規模拡大ではなく、一緒に仕事ができる仲間のような同業者を増やしていきたいと思っています。

宮本:今は専門性の高い特化型の小規模スタジオがすごく増えているから、協業がいろいろやりやすい環境にありますよね。この際、ディレクター専門集団みたいなものもつくれたら、そこだけで仕事がまわせそうな気もします。ちなみに森江さん、経営は"やりたかったこと"なんですか?

森江:経営は面白いですよ! 経営は組織をつくるということなんです。経営者は、いわば生産工場である現場の人間がいないとメシを食えない。社長がいるからこそ仕事がまわるという側面もあるにはあるんですが、現場が正常に稼働しないと3DCGという商品がつくれないわけなので。経営者のビジョンと、現場のビジョン、両方の目線をもてたことは、自分の組織づくりにおける大きなメリットになっています。

CGW:最後に、みなさんの近い将来の目標を聞かせてください。

櫻木:ひき続きコンスタントに作品を出し続けたいと思っています。スタジオ的にも、ずっとつくり続けられるような環境づくりをしていきたいですね。クラフタースタジオはできたばかりですし、仕事が途切れないように、というのは意識しています。

櫻木監督の新作!

  • 長編アニメーション映画『あした世界が終わるとしても』2019年1月25日(金)全国ロードショー
    原作:クラフター/監督・脚本:櫻木優平/アニメーション制作:クラフタースタジオ/配給:松竹メディア事業部
    ashitasekaiga.jp
    ©あした世界が終わるとしても

森江:近い将来で言うと、CGWORLDで執筆させてもらっているアニメーション連載をベースにした書籍を出そうと奮闘中です(汗)。経営者としてやるべきことが加わった以上、自分のCGアニメーターという実作業は手放さざるを得ない時期かなと思っています。十数年やってきたノウハウを形として残すことで、後の世代にバトンタッチしていきたいです。商業ベースで仕事もできていて、会社も継続できているわけですが、刺激的なことを求めている自分と、経営者としてそれを自制する自分のバランスのとり方を、この歳になってよく考えます。今のメンバーで、今年できなかった技術や演出内容を来年以降トライしていければと思っています。

森江監督の新作!

  • 『日本橋高島屋S.C. オープン予告MOVIE』
    ミニチュアアーティスト:田中達也/ディレクター:森江康太/カメラマン:らくだ/照明:角戸亮祐/モーションコントロール:段 和男/CG制作:MORIE/オンラインエディター:坂巻亜樹夫
    www.takashimaya.co.jp/nihombashi
    ©Takashimaya Co., Ltd.

宮本:僕は今人生が迷子状態なのですが、今すぐの話だとHoudiniを勉強しようと思っています。モデリング、リギング、アニメーションまではできるようになってきたので、あとはエフェクトができたら映画をひとりでつくれるじゃないのかと。自分が監督業を続けたとしても、仮にプロデューサーになったとしても、死ぬまでに必ず「ひとりで映画をつくりたい」という気持ちがずっとあるんです。そこに向けて動き続けたいですね。



info.

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.244(2018年12月号)
    第1特集:このアニメ、新感覚!
    第2特集:デジタルアートで世界を描く
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2018年12月10日