4K/8Kのテレビ放送開始に、キズナアイをはじめとしたVTuberの大ブレイク、プロシージャルモデリングなど、様々なトピックが飛び交った2018年のCG業界。そこで「CGWORLD AWARDS(以下、AWARDS)」のノミネート受賞発表にあわせ、1年間をふり返る座談会を実施。今年はCGWORLD編集長の沼倉有人に加えて、本誌副編集長の藤井紀明と、CGWORLD.jp副編集長の小村仁美も参戦。様々な角度からのディスカッションとなった。

※本記事は、2018年12月18日(火)に実施した座談会を基に作成しています。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>4K/8KにVTuber、アダルトコンテンツ~リアルタイムCGが元気だった2018年

小野憲史(以下、小野):今年最大のトピックといえば、NHKで12月に4K/8KのTV放送が始まったことでしょうか。

  • 小野憲史/Kenji Ono
    IGDA 日本名誉理事・事務局長。DiGRA JAPAN 正会員。関西大学を卒業後、1994年に株式会社マイクロデザイン(現・マイクロマガジン社)に入社。『ゲーム批評』編集部に配属され、同誌の創刊から参加。1999年に編集長となり、2000年に退社。以後フリーランスのビデオゲームジャーナリストとして幅広く取材・執筆活動に携わる。IGDA日本には初期から運営協力し、2011年に代表就任。2012年の法人化と共に理事長となり、2016年より現職。ほかにゲームライターコミュニティ代表など、様々なコミュニティ活動にかかわっている。著書・編著に「ゲームクリエイターが知るべき97のこと2」などがある。

沼倉有人(以下、沼倉):12月に東京で開催されたSIGGRAPH Asia 2018でも、4K/8K関連の展示が目立ちました。CGの制作現場でも、来年は本格的な対応が求められそうです。

  • 沼倉有人/Arihito Numakura
    CGWORLD編集長

藤井紀明(以下、藤井):これに限らず、『チコちゃんに叱られる!』『人類誕生』など、今年はNHKの存在感が印象的でした。

  • 藤井紀明/Noriaki Fujii
    CGWORLD副編集長

小村仁美(以下、小村):一方でリアルタイムCGではVTuberがブレイクしました。CGWORLD Vol.237(2018年5月号)でも特集した『電脳少女シロ』や『東雲めぐ』をはじめ、百花繚乱状態になりましたね。

  • 小村仁美/Hitomi Komura
    CGWORLD.jp副編集長

小野:VTuberの先駆けであるキズナアイは、TV番組に出演したり、「秋葉原バーチャル観光大使」に就任したりと、大忙しといった感じでした。

沼倉面白法人カヤックが年末にVTuber紅白歌合戦「Count0」を行いますし、2019年にはNHKで『NHKバーチャルのど自慢』が放映されます。来年もこのブームは続くんでしょうか?

藤井:その可能性もありますが、すでに飽和状態になっていて、淘汰も始まっていますね。そのため、2019年は差別化が重要になっていきそうです。一例としてソーシャルVRプラットフォームの「VRChat」では、これまで1体あたり2万ポリゴン未満という制限がありましたが、近く7万ポリゴンに緩和される見込みです。これにより、より高精細なアバターが登場することが予測されます。

沼倉:テレビで4K/8Kという高精細なコンテンツが視聴できるようになった一方で、インターネットで動画を観る環境も広がっています。スマートフォンで動画コンテンツを視聴する習慣も、すっかり定着してきました。CGWORLD vol. 245(2019年1月号)でもアニメ『モンスターストライク(以下、モンスト)』新シリーズのメイキング取材を行いましたが、スマートフォンで動画を観てもらうために10分前後で尺を収め、演出やストーリー展開もメリハリをつけるなど、表現様式自体が変わりつつある印象を受けました。

第0話「モンストの危機」【アニメ モンスターストライク公式】

小野:アニメ版『モンスト』でいえば、学校の昼休みにお弁当を食べながら、スマホを囲んでみんなで視聴して、観終わったら対戦でゲームを遊んでもらう、というながれが当初から意識されていますよね。その上でシーズンが終わったら新キャラクターをガチャに登場させて、課金につなげるという。

沼倉:ゲームの方はどうでしたか?

藤井:ハイエンド系のゲームでは『モンスターハンター:ワールド』が世界中で大ヒットするなど、明るい話題もありましたが、スマートフォン向けゲームでは二極化が進みましたね。市場全体の規模感は大きくても、中には売上を落としている企業もあります。

小野:CGWORLDでは取り上げられませんでしたが、『荒野行動』『PUBG MOBILE』『フォートナイト』など、海外産のゲームが日本国内で大ヒットしたのが印象的でした。いずれもグラフィックが日本で主流のタッチとかけ離れていて、それまでヒットしにくいと思われていたタイトルです。そのため2019年は海外産のスマートフォンゲームが、より一層日本に上陸することが予想されます。技術力の差も手伝って、なかなか国産ゲームでは追いつけないのが実情ですね。

沼倉:なるほどなあ。

小野:一方、ハイエンド系のゲームでいえば、これもCGWORLDでは取り上げられていませんが、PS4の『Detroit: Become Human』が印象的でした。主人公の1人で、20代の白人女性をモチーフとしたアンドロイド「カーラ」の肌の質感が非常にリアルに描かれていたんです。通常、日本やアジアのゲームでは、つるんとしてマネキンのような質感の肌にしがちですが、シミやソバカスといったネガティブな要素も盛り込みつつ、全体として透明感のある瑞々しい質感を、リアルタイムレンダリングで表現していた点が印象的でした。

『Detroit: Become Human』 ジャパン・ローンチトレーラー

沼倉:映画『いぬやしき』やNHKスペシャル『人類誕生』などフォトリアル系の表現もありますが、日本ではノンフォトリアル系の表現が主流ですよね。アジアでも同様で、文化的なちがいがあるのかもしれません。

小野:日本ではフォトリアルでがんばっても欧米に勝てないですし、そもそもビジネスとして現実的ではないですよね。フォトリアルと銘打っても、実際はノンフォトリアルとの中間にある、セミリアル的な表現が好まれる傾向にあります。

藤井:創刊20周年の記念号であるCGWORLD vol. 240 (2018年8月号)で特集した、美少女ゲームメーカーのILLUSIONさんのゲームはまさにそういった感じですね。セル調のクリエイターから嫌われにくい、ユニークなルックを追求されています。CGWORLD 2018 クリエイティブカンファレンスでも技術講演をしていただき、好評でした。

VRカノジョ 第二弾PV動画

小野:あの講演を取材して、裸体の表現は衣装でごまかせないことが良くわかりました。また、ゲームではハードウェアの限界の中でコンテンツをつくる必要がありますが、家庭用ゲームに比べてPCゲームでは、その制約がゆるくなります。そのためUnityベースでありながら非常にリッチなつくり方をされていることがわかり、その点でも唯一無二の内容になっている印象を受けました。

沼倉:CGWORLDでは女性向けコンテンツの取材も行なっていますが、男性向けとのちがいなどは感じましたか?

小村:女性向けコンテンツでは、ちょっとした仕草や指先の動きなどで、キャラクターの感情を細やかに表現するところに重きを置いている印象がありますね。スマートフォンゲーム『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』のメイキング講演でも、そうした印象を受けました。他に女性向けアイドル育成アプリゲーム『Readyyy!』のMVメイキング記事も、人気を集めた記事のひとつです。

『Readyyy!』SP!CA(スピカ)MV(フルVer.)~Special Nu World~

小野:世間には心におじさんを住まわせている女性もいますし、外見とは裏腹に乙女な男性もいます。ジェンダーはグラデーションの幅が大きいので、様々な表現が予想もしない市場を掘り起こす可能性がありますね。一方でCGの開発負荷が劇的に下がっているので、ビジネス面ではレッドオーシャンですが、コンテンツの多様性は増す一方です。VTuberはまさにそんな時代を象徴しているのかもしれません。

小村:SIGGRAPH Asia 2018の展示エリアでも、リアルタイムモーションキャプチャの展示が盛り上がっていましたね。特にフェイシャル、ボディ、指先を統合的にキャプチャできるソリューションが注目を集めていました。

藤井:CGクリエイターになる敷居が下がっていて、個人活動が広がっています。「働き方改革」の広がりや、企業の副業解禁といったながれの中で、ますますコンテンツの総量が増えそうです。こうした中でBlenderの次期アップデートも、コミュニティの間で大きな話題を集めました。無料ツールなので、誰でもコンテンツがつくれますし、アセットストアで販売することもできます。

小村:今年はフリーペーパー「CGWORLD Entry」で学生作品の投稿コーナーも始めましたが、高校生や理工系の大学で、CGを独学で勉強している学生からBlenderを使った作品の投稿が増えています。しかも、皆さんけっこう上手いんですよ。ネットの動画チュートリアルなどで勉強されているようですね。

沼倉:皆さんの話を聞いていると、2018年はVTuberを筆頭に、リアルタイムCGでコンテンツの多様性が一気に広がった年だったといえそうですね。技術自体は昔からありましたが、それがコモディティ化して、手軽に使えるようになったことが、非常に大きな意味をもったのかもしれません。

藤井:まさに3DCGコンテンツの民主化ですね。今後、CGクリエイターの副業につながっていくかもしれません。

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<2>TVアニメに光る作品が多かったプリレンダーコンテンツ

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<2>TVアニメに光る作品が多かったプリレンダーコンテンツ

小野:これまで、はからずもリアルタイムCGの話題が続きましたが、プリレンダームービーはどうでしたか?

沼倉:まず劇場作品で言えば、『いぬやしき』と『DESTINY 鎌倉ものがたり』などが印象的でしたね。特に『鎌倉~』では妖怪キャラクターのフォトリアルな表現が良くできていました。これまでも世界観やメカではCGが実写映像で使われていましたが、キャラクターの表現でも成立することが示されました。

「DESTINY 鎌倉ものがたり」予告2

小野:ただ、2018年の映画興行収入ランキングを見ていくと、そこまでCG推しの作品はありませんでしたね。国内では『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』『名探偵コナン ゼロの執行人』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』『ボヘミアン・ラプソディ』『映画ドラえもん のび太の宝島』がベスト5です。フルCG映画では『リメンバー・ミー』が7位、『インクレディブル・ファミリー』が8位となっています。他に『銀魂2 掟は破るためにこそある』が13位となりました。

沼倉:確かに、2014年の『STAND BY ME ドラえもん』や、2016年の『君の名は。』『シン・ゴジラ』といったメガヒットはありませんでした。

藤井:一方で2015年に発表され、話題を集めた「Saya」がSXSW 2018の博報堂ブースに出展したりと、様々な展開を進めています。今後はキャラクターAIと結びついて、フォトリアルなインテリジェンスアバターというかたちで発展していくことも考えられます。

Saya project

沼倉:面白い動きですよね。CGWORLDは今後もエンターテインメントを中心に最新トピックを取り上げていきますが、次号ではインダストリー系のVR・AR特集も予定しています。建築や自動車業界では数年前からCGのビジュアライゼーションが行われていますし、エンタメと非エンタメのクロスオーバーはますます進みそうです。

小野:ゲーム業界でもゲーム会社がVTuberのモデリングとリギングを受注したり、運転シミュレーターの背景アセットだけを受注したりといった例がみられますね。一方で、TVアニメについてはどうでしたか?

沼倉:CGWORLDでは従来の手描きアニメ表現をベースとした3DCGを「アニメCG」と呼んでいますが、この数年で一気に一般的になってきましたね。先ほども上がった『モンスト』アニメは好例で、2015年に配信が始まった際は手描きアニメでしたが、2017年にモンスターがCGになり、次いでキャラクターがCGになって、今は全てアニメCGになりました。反響も非常に良く、中でも『ルシファー 反逆の堕天使』編は過去最高の人気だそうです。しかもキャラクターデザインはセル調ですが、陰影がリアルで、エフェクトも物理的なんですよ。

ルシファー -反逆の堕天使- 総集編【アニメ モンスターストライク】

小野:手描きアニメと3DCGという、本来はちがうものを組み合わせてしまう、そのやり方が日本っぽいですね。

小村:現在放映されている『HUGっと!プリキュア』でも、アニメCGならではの演出が際立っていますね。しかも、アニメCGでもデジタル作画がかなり使われているそうです。今やアニメCGは当たり前の表現になっていますし、逆に3DCGでも2DのCGが多用されています。両者の境界がますますぼやけています。

小野:アニメ業界に限れば、働き方改革の影響は大きいのではないでしょうか。「働き方改革はデジタル改革」だとする声も良く聞かれます。そのため、ツールが紙と鉛筆からデジタルに移行する過程で、様々なクリエイティブが生まれている印象です。一方で日本人もすっかりPixarやディズニーのCG作品に慣らされてきました。2014年に『STAND BY ME ドラえもん』がヒットしたときは、"何でもありなんだ"と思わされたものです。

沼倉:うちの子どもたちも『ミニオンズ』が大好きですよ。今の子どもたちは、最初からCGアニメーションに慣れ親しんでいるから、面白ければ何でも素直に受け容れますよね。

小野:他に冒頭でも名前が出た『チコちゃんに叱られる!』が注目を集めました。CGWORLD.jpでも記事公開以来、人気記事ランキングで不動の1位を続けていますね。

沼倉:もっとも、『チコちゃん』は着ぐるみで収録して、後から頭部をマスクしてCGに差し替えるという、かなり力業で実現しているんですよね。コンポジターがちくちくとマスクをしていき、素材を差し替えてプリレンダームービーにするという......。とはいえ、圧倒的なインパクトがある。アイデアの勝利です。

小野:他に『人類誕生』もありましたし、今年はTVコンテンツが元気だったように感じました。

藤井:『人類誕生』でいえば、制作を担当したLuminous ProductionsがYouTubeの視聴回数についてリリースを出していたのが印象的でした。ニコニコ動画、YouTuber、VTuber、ゲームの実況動画といった、インターネット発のコンテンツの勢いを裏付けている感じです。

沼倉:制作現場的には受託制作が中心なので、クライアントからの希望にいかに対応していくか、柔軟性がますます問われそうですね。

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<3>満を持して登場した注目ツール群は業界を変えるか?

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<3>満を持して登場した注目ツール群は業界を変えるか?

小野:最後に基礎技術やツールについてふり返れればと思うのですが。今年は何といってもリアルタイム・レイトレーシングが注目を集めました。

藤井:NVIDIAがGeForce RTX プラットフォームを発売しましたね。ただ、レンダラの対応が今ひとつなのがネックです。2019年は次世代V-RayArnoldもRTXコアにネイティブ対応したものが出てきます。そうなると本格的に普及するのではないでしょうか。日本でノンフォトが主流である背景には、フォトリアルに比べてレンダリングコストが安くて済む点もあります。これがリアルタイム・レイトレーシングの普及でレンダリングコストが下がれば、挑戦するところも増えてきます。

GeForce RTX - Graphics Reinvented

沼倉:面白いですね。ARコンテンツで周囲に違和感なく溶け込むCGキャラクターなどの用途も考えられそうです。

小村:ツールではPSOFT Pencil+4で従来の3ds Max版に加えて、待望と言って良いと思うのですが、Maya版が出たのが大きかったと思います。アニメCGだと、これまでPencil+がキラーソフトとなって、3ds Maxが多く使われていました。しかし、Maya版の登場で3ds MaxからMayaに乗り換える動きが出ていますし、Mayaをメインで使っていたCGスタジオでPencil+の導入を始める例も出ています。

PSOFT Pencil+ 4 for Maya

藤井:AWARDSのノミネートでは国産ツールという縛りがあったので入れられませんでしたが、世間一般的にはHoudiniの認知度の高まりも印象的でした。

小野:特にゲーム業界では次世代機の足音が聞こえてきたこともあり、Houdiniによるプロシージャル・モデリングが注目されましたね。もっとも、ビジュアルだけでなく、サウンド面でもプロシージャル・オーディオについての関心が高まっています。さらに、今後はこれにAIが加わって、プロシージャルAIの時代が来ることが確実視されています。

沼倉:その通りだと思います。実際、Houdiniといえばエフェクトツールという印象だったのが、今年は一気にプロシージャル・モデリングのながれになりましたからね。CGWORLD 2018年8月号 vol.240でも特集しましたが、時間不足もあり、掘り下げが甘いものになりました。またタイミングを見て取り上げたいですね。

小野:プロシージャル的なコンテンツ制作は『モンスターハンター:ワールド』でも活用されていますし、『Far Cry 5』のようにフィールドの植生群を全てプロシージャルで制作した例もあります。ハイエンド系のゲームでは、すでに人力でアセットを設定する限界を迎えているため、2019年はますます活用が進みそうです。

藤井:一方でCGWORLDでは、キービジュアルやコンセプトアートといった2DCGを、積極的に取り上げていく予定です。先ほどもあったように、両者の境界は今後ますますあいまいになっていきますし、3DCGのアセットを2DのCGで活かすような試みは、CGWORLDでしか紹介できないのではないかと思っています。

沼倉:だからといって、CGWORLDが一気に2Dに方針転換するわけではありませんけどね。とはいえ、今までと同じことをやっていても成長性がないので、本丸を守りつつ新分野に攻め込んでいきます。Webや有料セミナー事業などに力を入れているのも、そのひとつですね。これまでは自分が担当していましたが、即時性を上げるために、今年から小村がCGWORLD.jpの副編集長に就任しました。

小野:CGWORLD.jpでは本誌で取り上げない話題も幅広く扱っていますね。IVRC 2018など、インタラクティブコンテンツのイベント取材記事も掲載されるようになりました。また、動画などの素材が使われている点も印象的です。

小村:本誌はハウツー中心で、Webはイベントレポートやインタビュー記事など、差別化を図っています。また、本誌の記事に動画素材を追加してWebに転載するなど、両者の連動性も意識しています。

沼倉:雑誌媒体があってのCGWORLDなので、今後も紙の出版は続けていきますが、それだけでは限界があります。様々なメディアを活用して、多角的に広げていければと思っています。もはやCGを使って作品をつくるのは当たり前ですから、我々もそうしたながれの中で、上手く時流を捉えた情報発信を続けていきたいですね。

藤井:メディアにとっては個人ブログなども意識していく必要があります。すでにテクニカル系の解説を行うVTuberもいますし、そこで目立っている人に解説記事をお願いする、といった例も増えています。

沼倉:他に皆さんの方で、2019年に向けて注目されている技術や表現はありますか?

小野:自分はSIGGRAPH Asia 2018のエルザジャパン/アスクブースでデモされていた、「ボリュメトリックVR」が面白いと感じました。プリレンダームービーながらインタラクティブな活用ができる点が特徴で、両眼で5Kという高解像度のVR HMD「StarVR One」向けのコンテンツ制作で使われていましたね。実際、それだけ高解像度のコンテンツをリアルタイムレンダリングで表示し、秒間で90フレーム以上を保つのは、結構大変なんです。これがプリレンダーで可能になるというのは、Mayaや3ds Maxで作業を完結させたいスタジオにとっては、福音かもしれません。

藤井:私はデジタルヒューマン系の取材を進めていることもあり、2019年は3Dスキャン系の技術がもう少し発展していくような気がしています。

小村:先ほどもいいましたが、PSOFT Pencil+4 for Mayaが出たことで、一気にPencil+のユーザーが増えると思いますので、そこから新しい何かが出てくればと思います。

沼倉:技術からは離れますが、2019年は『ULTRAMAN』『攻殻機動隊 SAC_2045』など、フルCG作品の公開が次々に控えています。『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』も詳細は不明ですが、フルCGになるのではないでしょうか。これまでフルCG作品はキワモノ的なところがありましたが、すっかりメインストリームになった感じがありますね。もっともCGが当たり前になると、新鮮さが失われてしまうので、CGWORLD的には痛し痒しですが。

小野:その話でいうと、先ほどの『Detroit: Become Human』は、いわゆる「不気味の谷」を越える上で面白い手法を採っているんです。本作では主人公がアンドロイドなので、機械くさいモーションが、要所で意図して組み込まれているんです。そのため、記号的な動きが気にならないんですよ。むしろアンドロイドくさい動きの中から、人間らしさが感じられてくるという。

小村:逆転の発想なんですね。

小野:これはCGの記号性の問題をゲームデザインで回避させている例ですが、同じようにCGアーティスト出身の監督が増えていくことで、映像コンテンツでも新たな発想が生まれてきそうです。どういった方々がいらっしゃるのでしょうか?

沼倉:有名なところでは白組の山崎 貴氏や八木竜一氏はVFXアーティスト出身の映画監督ですね。他にCGWORLDでは創刊20周年記念シリーズ企画として、東映アニメーションの宮本浩史氏、クラフタースタジオの櫻木優平氏、MORIEの森江康太氏で鼎談記事を掲載しましたが、皆さんCG出身の監督として活躍されています。こんなふうに、2019年も新たな才能が飛び出してくることを期待したいですね。