株式会社Live2Dが主催するLive2Dユーザーのためのイベント「alive 2017」が、昨年の12月4日(月)に秋葉原UDXギャラリーにて開催された。本稿では基調講演、アワード授賞式および当日行われた12セッションのうち3セッションの様子をレポートする。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 234(2017年2月号)からの転載となります
TEXT_UNIKO
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura、山田桃子 / Momoko Yamada
information
Live2D Creative Conference「alive 2017」
日時:2017年12月4日(月)
場所:秋葉原UDXギャラリー
alive2017.live2d.com
国内外から参加者が集うLive2Dの祭典
Live2Dとは、2Dイラストの魅力を損なうことなく動かすことができる日本発のソフトであり、世界中に熱心なユーザーが存在している。2014年からスタートした本イベントは今年で4回目を数え、来場者数は400名にのぼった。今回から参加費が有料となり、Live2Dを使用した大人気スマートフォンアプリの開発陣によるセッションが複数行われるなど、Live2Dの存在を広めることに注力してきた前回までと比べ、既存ユーザーに向けてよりコアな情報を提供するイベントにリニューアルされたことが窺える。
イベントはLive2Dの産みの親であり同社代表の中城哲也氏による基調講演「動き出すLive2Dの未来」で幕を開けた。はじめに中城氏はLive2Dの現状を説明。Live2Dの主力ツールであるCubismの用途に関してはゲームが45%、アニメ・映像作品が40%とほぼ半々の割合となっており、また日本のスマートフォンアプリパブリッシャートップ52社(App Annie調べ)の88%、世界のトップ52社では37%がすでにLive2Dを導入済みで、中城氏は「ヨーロッパとアジアどちらにおいても2Dを動かすニーズがあることがわかった。欧米に向けても本格的に広めていきたい」と話した。また、Cubism 3.0のリリースが半年近く遅延したことに関して「私が機能を盛り込みすぎたため遅れてしまった。今入れておいたほうが今後の発展を早く進めることができると判断し、全て入れた」と理由を述べ、新機能と合わせ今後の展望を説明。3DCGでいう「スキニング」を実装し「『初音ミク』のような髪の毛を5分で揺れまくりに」がまもなく可能となるようだ(※本機能は「スキニング機能(β)」としてイベント後の2017年12月22日(金)のアップデートにて実装済み)。
続いて、Live2D社内にある技術支援・作品制作を担当するクリエイティブ部門「Live2D Creative Studio」の活動について、今後は映像作品の制作に積極的に挑戦し、将来的にはLive2Dで制作した映画でアカデミー賞受賞を目指していると語り、同部署が制作した初のオリジナル短編アニメーション『The Lamp Man』を紹介した。さらに、イラストレーターとLive2Dクリエイターをつなげる新たなサービス「二次マ」が2018年春よりスタートすると発表。「イラストは描けるがLive2Dは扱えない」「Live2Dは自在に扱えるが、イラストには自信がない」という両者をマッチングさせ第三者への販売につなげつつ両者にしっかりと収益が還元されるしくみを実現しようというサービスだ。中城氏は「絵を描いたら動かさないともったいない」という世界を目指していると話し、「創業して10年以上が経ちましたが、創業時に思い描いた夢みたいな目標も、時間はかかったがひとつひとつ実現してきました。100年先まで残る技術を目指して進化していくので期待してください」という言葉をもって基調講演は幕を閉じた。
展示スペースでは今回参加した企業各社がLive2Dを使った作品や技術を披露、中にはLive2Dで制作されたMRやVRコンテンツの体験ブースもあった。Live2Dユーザーにとって、Live2Dの活用方法やテクニックの情報を制作陣と共有できる貴重な場となったようだ。
Topic 1 Live2D Creative Awards
伝統芸能からAI、VRまで個性豊かな5作品が受賞
基調講演に続いて2017年の優秀なLive2D作品を選出するLive2D Creative Awards 2017の表彰式が開催された。応募総数は105作品、プロ・アマ問わず世界10ヶ国から応募があり、そのうち最終選考に残った10作品が ノミネートされた。イラストのクオリティの高さに重きをおいた「CLIP STUDIO PAINT賞」を受賞したのは、『Mask』を制作したAida de Ridder氏。この日のためにオランダから来日したというAida氏の作品はインドネシアの伝統芸能にインスパイアされたものだ。続いて今回より新設された「学生賞」は学園祭の受付AIとして制作されたヒラオカ氏の『看板娘CACちゃん』、準グランプリにあたる「クリエイティブ賞」には、makotok1氏のVRコンテンツ『VRドラゴンと戦ってみよう!』、2ex氏の『Let's Enjoy Softball』が受賞。そして見事グランプリに輝いたのは、一束氏の『Balloon』という結果となった。審査員を務めたCraft Eggの近藤裕一郎氏は「Live2Dを高いレベルで動かせているだけでなく、イラストを超えたキャラクター性を発揮していた」とコメント。今回の受賞作品を並べてみると、キャラクター性が際立つ表現力豊かなものが選ばれていることがわかるだろう。
『Balloon』/一束
世界中のLive2Dユーザーが注目したLive2D Creative Awards 2017の受賞者たち。世界10ヶ国の応募の中からグランプリに輝いたのは一束氏(写真前列中央)の『Balloon』であった。各々が自分なりの課題を設けて挑んだ作品はどれも表現豊かで見応えがあり、これからさらに増えていくであろうLive2Dを使った映像作品の出現に注目していきたい
Topic 2
「Euclidのロードマップ~これまでと、これから~」by Live2D
Live2Dによる全方位表現を実現する新ツールEuclidの歩み
セッションはメインホールとサブホールの2箇所に分かれ、メインホールではLive2Dユーザーによる制作事例、サブホールではLive2D社による技術セッションがそれぞれ行われた。サブホールで行われた「Euclidのロードマップ~これまでと、これから~」では、Live2D開発チームからリードデザイナー/Euclidデザインリーダーの稲田修一氏が登壇し、Live2Dの進化形として2015年に発表され2017年4月に正式リリースされたLive2DEuclidがどのような開発計画の下歩みを進めてきたかが紹介された。Euclidが目指すものは「描きたいように描き、動かしたいように動かす」ことであると稲田氏は話し、「Live2Dによる全方位表現を実現し、作画の魅力がストレートに伝わるキャラクターを3次元空間で表現する」ことに熱意が注がれてきたことが語られた。
続いて2017年11月にリリースされたばかりのEuclid1.2では「長い髪」がテーマであったと明かされ、ツインテールのサンプルモデル「ゆうちゃん」が紹介された。物理点の奥行きや垂れ下がりを設定できるようにしたことで髪の揺れの品質が劇的に向上し、衝突判定でボディ部分を突き抜けることもなくなった。ちなみにこの「ゆうちゃん」モデルはオフィシャルサイトからダウンロードして試せるようなので、興味があったら挑戦してみてはどうだろう。稲田氏は、今後は制作工数を50%削減し「全身Live2D」を実現することが目標であると述べ、2018年初頭リリース予定のEuclid 1.3においてはXYの形状作成を助ける機能としてアートメッシュに3D情報を付与させ、制作効率の向上を目指すとのことだ。また、Euclidを活用してVRやMRの分野を開拓していきたいと話し、実際に展示ブースには体験コーナーも設けられていた。
Euclid 1.0のリリースまでに発表されたEuclidモデルと、使用原画の例。alive 2015で発表された「メリル」は横方向の動きしか表現できなかった。全方位をつくりきることを目標に制作された「YUI」は片側のモデルを複製・反転させて作成された。左右対称にする作業を減らすためにミラーリング機能を追加して制作された「風花」は表現力を上げつつ少ない工数で制作することが目標だった。「ゆうくん」はわかりやすく説明するため原画1枚相当で作成された非常にシンプルなモデルだ
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Topic 3 「オリジナル短篇アニメ『The Lamp Man』について」by Live2D Creative Studio
Topic 3
「オリジナル短篇アニメ『The Lamp Man』について」
by Live2D Creative Studio
『The Lamp Man』
www.live2dcs.jp
社内制作スタジオ初のオリジナル短篇メイキング
Live 2D社内で技術支援・作品制作を担当するクリエイティブ部門「Live2D Creative Studio」。同スタジオ初のオリジナルIP作品として制作された短篇アニメ『The Lamp Man』の上映とメイキングに関するセッションが、サブホールで行われた。『The Lamp Man』は、Live2Dの一番の魅力である手描きイラストのもち味をそのままにキャラクターを動かすことができるという特色を活かして「絵本のようなビジュアルとストーリー」をテーマに制作された作品だ。
監督を担当した雲井聖司氏は過去に手描きアニメーターとしての実務経験があり、従来の手描きアニメーション制作とLive2Dを使用したアニメーション制作のワークフローを比較して説明。Live2Dで制作するアニメは絵の素材を早い段階で用意する必要があるため、最終的な画面の雰囲気を早くからスタッフ間で共有できる利点がある。また、リテイク時の手戻りが少なく効率的に対応できる点もLive2Dならではの強みと言える。手描きではコンポジット段階から動きを修正しようとした場合原画から修正する必要があり、動画・仕上げの工程全てを再度行う必要がある。しかしLive2Dの場合は1工程戻ってアニメーションを付け直したり、元のイラストを差し替えたりするだけで修正が完了するため、無駄な工数を省いてより動きにこだわったアニメーション制作が可能となる。
続いて同作のポイントとして、アートディレクターを担当した川上遼太氏よりモデルに関する解説が行われた。メインキャラクターは様々なカットで使い回せるよう汎用性の高い基本モデルを制作し流用された。まずは各パーツがX軸方向に360度回転できるモデルを設計し、Y軸方向への起き上がりに対しては、基本モデルを流用して差分モデルを作成・追加して組み合わせた。これらモデル同士を繋ぎ合わせて切り替えることで様々なパターンの拡張を可能にし、より広い可動域を実現させている。また、Cubism 3.0の新機能「パーツ移植機能」が実装されたことでパラメータごとパーツの移植が可能になり、作業効率が飛躍的に上がった。その他、Cubism 3.1のβ機能として予定されている「スキニング」が試験的に使用されており、キャラクターによりいっそう愛らしさを与えていた。この機能は、1つのアートメッシュに複数の回転デフォーマを設定できる仕様で、10段以上の多段振り子の設定を一瞬で行えるというもので、本作では主にランプシェードのひもの揺れに使用されており、非常に滑らかで豊かなキャラクター性を与えることに成功している。これらの新機能とテクニックを駆使した『The Lamp Man』は、「Live2Dっぽさ」を良い意味で感じさせない新たなステージへの挑戦でもあったようだ。
「ランプマン」のキャラクターデザイン
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Live2D Creative Studioによる短編アニメ『The Lamp Man』
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モデル制作前のデザイン画。主人公の「ランプマン」は、ランプシェードの中に顔のシルエットが浮かんでいるのが特徴だ
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ランプシェードの表面と同じ形状の影の色をしたパーツを作成し、ランプシェードが重なる部分(頭と体と腕のパーツ)にクリッピング
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【左画像】をランプシェードの表面と同じデフォーマに入れると、ランプシェードを動かしてもランプマン本体と重なった部分だけ影になる。ランプシェードが立体的に大きく動くように設定すれば完成
手描きアニメーションとの制作フローの比較
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作画アニメではコンポジットの段階までキャラクターと背景色の付いた素材が揃わないが、Live2Dで制作する場合ではイラスト段階で素材が揃うため、かなり早い段階で完成イメージをスタッフと共有できる
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可動域の問題を気にせず描かれた画コンテ
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画コンテを基にしたレイアウト。映像の構図やキャラクターの位置、カメラワークを決定
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レイアウトを基に原画となるイラストを制作。パーツ分けはこの段階で行われる。主人公のランプマンは基本モデルを用意しているのでここでは描かない
Live2Dの機能を余すところなく駆使
ランプマンが棚から落ちて起き上がる一連のシーンでは、モデルを切り替えることで表現を拡張。電気が消えている状態のモデルAから、床に落ちて電気が点灯した瞬間にモデルBに、そのままフレームアウトしてカメラがパンしている間に起き上がりモーション専用のモデルCに切り替えている。完全に立ち上がったところで基本モデルに戻す
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Topic 4 「~アイドルの個性を引き出すLive2Dの表現方法~」by KLab株式会社
Topic 4
「~アイドルの個性を引き出すLive2Dの表現方法~」
by KLab株式会社
『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』
対応OS:iOS 9 以降、Android 4.4 以降/ジャンル:リズムアクションゲーム/価格:基本プレイ無料(アプリ内課金あり)/www.utapri-shining-live.com
©早乙女学園 ©KLabGames
大人気アプリにおけるアイドルの個性をLive2Dで表現
メインホールでは、『デスティニーチャイルド』や『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』等のスマートフォンアプリをはじめ、映像制作やアバターサービス、個人の制作者など8つのユーザー事例セッションが実施された。その中からKLab株式会社によるスマートフォン向けリズムアクションゲーム『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』のメイキングセッションを紹介しよう。大人気タイトルの制作陣による講演というだけあって、会場は立ち見が出るほどの人気であった。
同セッションでは、男性アイドル作品として圧倒的な人気を誇る『うたの☆プリンスさまっ♪』のスマートフォンアプリ化にあたって11人のアイドルの個性をいかにLive2Dで表現したか、その制作事例が紹介された。本作では、「ストーリーパート」、「ホーム画面」、「衣装替え」の3箇所にLive2Dが活用されており、キャラクターが最大で3体同時に表示されるストーリーパートでは、お互いに相槌を打ったり目線を合わせたりとキャラクター同士の繊細なインタラクションを表現し、ホーム画面ではタップする場所でキャラクターの反応が様々に変わるよう顔だけで当たり判定が4つ以上設定されている。
登壇した同社CGクリエイター/Live2Dデザイナーの原 脩司朗氏は、本作でLive2Dを使用するにあたり、アイドルたちを「実際に生きているアイドルとしてゲーム上で表現する」ことをテーマとして制作を進めたと語った。このテーマを実現する上でポイントとなったのは、「自然な動きの追求」と「いかにアイドルの個性を引き出すか」の2点。ひとつめの「自然な動きの追求」では、アイドルが目の前にいる臨場感を損なわないよう、腕を下ろした状態から挙げる動作を正面から見た場合の「手前方向への腕の動き」の滑らかさには特にこだわったようで「これまでのLive2D作品にはない同作ならではの自然な動きだと思います」と原氏は自信をみせた。Live2D作品で一般的に使用されている「パーツの切り替え」や「モーションフェードによる自動補完」は検討の結果採用せず、奥行きのある動きを表現するため手付けによるモーションで表現したとのことだ。
また2つめの「いかにアイドルの個性を引き出すか」については、アイドルをもっと好きになってもらうために①共通の表情モーションを使わない、②ひとつの感情に対して複数の表情パターンを用意する、③眉の表現にも工夫する、の3点にとりわけ注力したと、同じくCGクリエイター/Live2Dデザイナーの青柳里奈氏は話す。青柳氏は「各アイドルごとに20種類以上の表情を用意し、他のアイドルと共通のモーションはいっさいありません。反面、アイドルごとに表情やモーション、さらに体格を共通化できる部分がほぼなかったことで制作コストが増えてしまった。コストを重視するのか表現を重視するのか、仕様を早い段階で確定しておく必要がありました」と率直に反省点を述べたが、テーマとして掲げていた「Live2Dを使って実際に生きているアイドルのようにゲーム上で表現する」ことは達成できたと報告してセッションは終了した。
自然な動きの追求
※上画像をクリックするとアニメーションを確認できる
腕を上げる動作を正面から見た場合の動きを自然に見せるため、前腕部を縮めつつ腕を前方に動かすパラメータを用意。奥行き表現として、一定の数値で袖口のテクスチャを切り替えて手前方向への自然なパース感を表現
上腕部に奥行きをもたせる動きの例。上腕を縮めることで奥行きをもたせ、より立体的に見えるよう上腕の動きに連動してケープの裏側が見える工夫がされている
前腕部の回転パラメータのプラス値とマイナス値の可動域を合わせ拡張することで360度全ての角度の動きを表現
腕のモーション付けのながれ
アイドルの個性を引き出す
アイドルごとに20種類以上用意されたモーションで個性を表現。可動範囲を大きくとることで別のアイドルとかぶらない多彩なバリエーションを用意できた
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ポーズに魅力をもたせるためコントラポスト(中心軸から左右非対称のポーズをとらせることでモデルに躍動感を出す技術)を意識したポーズがとれるようにパラメータを実装。個性的なポーズの演出をサポートしている
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セリフに合わせてモーションに最適な表情を組み合わせている。非常に微妙なちがいだが心理的な効果は抜群だ