VR発祥でファンと育てていくIP "モクリプロジェクト"
舟越:モクリプロジェクトはもともと、僕が代表をしているVR法人HIKKYで起ち上げた企画です。『メイドインアビス』の作者として知られるマンガ家のつくしあきひと先生が「モクリ(mokuri)」のキャラクターデザインを行い、アートディレクターのさわえ みかが設定を作って発表したところ、Twitterを含めネット上で非常に好評を得ました。そこで昨年の夏、このキャラクターをさらに愛してもらおうと、改変自由な「レッサーモクリ」というVRアバターをサイト上で無料配布しました。そうしたらそれぞれ創意工夫を凝らした独自のレッサーモクリをあっという間に200体以上も作っていただき、VR空間上でファンミーティングが開催されるほどのヒットになりました。
VR法人HIKKYが起ち上げた「モクリプロジェクト」のキャラクター、モクリ
つくしあきひと氏によるモクリ、ノイノイのデザイン画
さわえみか(以下、さわえ):「レッサーモクリを使ってあなたたちの世界観とストーリーを作って楽しんでください」という感じです。2017年末~2018年初頭のVRブーム当時は自由に改変して使えるアバターがすごく少なくて。そこで、皆が改変して遊べるようなアバターがあればと思い、友人のつくし先生に相談してデザインしていただいたというかたちです。つくしさんもVRは前から気になっていたみたいで快諾して下さり、これがきっかけでVRにもハマってくれました。
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さわえみか/Mika Sawae
VR法人HIKKY
アートディレクター/イラストレーター
企画原案・制作
プロヘアメイクとしてTV、雑誌、ショーなどに携わった後、イラストレーターに転向。現在はアートディレクターとして大手スマホゲーム会社のタイトル開発、グッズデザイン制作、漫画制作、番組企画などを兼務する。2018年4月16日にリリースされたSEGAの『共闘ことばRPG コトダマン』ではアートディレクターを務めた
「レッサーモクリ」のVRアバターをサイト上で無料配布中
バーチャルマーケットに集まったコアメンバーたち
カラフルで個性豊かな改変モクリたち
舟越:例えば「東方Project」などのような「ユーザーにIPを自由に使ってもらう」というスタイルがとても素敵だと思っていて。東方はそのスタイルが非常に上手くいって、キャラクターだけでなくもはや音楽単体でも海外で人気の存在になっています。モクリプロジェクトもそういうかたちになればと。そこで基本設定やストーリーがあった方が良いし、VRから始まってすでにCGモデルが作られているので、次に展開するならやっぱりCGアニメだろうという発想にいたったんです。
CGW:そこに、Root studioで自社IPを創成したいという目的が合致したというわけですね。
舟越:まさにそういうことです。一般的にはどこからかIPを探してきたり、またはイチから創り出すことになるわけですが、僕らには『モクリ』がありました。
福原:僕らの気概としては、Root studioは使いやすい下請けスタジオにするのではなく、自社のIPを開発することを主眼としています。『モクリ』とRoot studio、それぞれのニーズが一致したという感じです。
舟越:福原君は型にはまったプロデューサーではなく、今の時代に適した動きができる人です。そういうタイプの人でないと今回のプロジェクトは任せられないんですよ。「二次創作を生み出して」と言っても「権利問題があるからダメ」と言われてしまうと話になりませんよね。それをいくらぶつけても順応して全部飲み込んでくれるので、非常に頼り甲斐がありますね。もちろん大変だとは思いますが(笑)。
福原:僕も二次創作に広がるきっかけになるコンテンツに触れたことがあります。自由というのは実はとても不自由で、あまりにも自由度が高いと、何をすれば良いのかわからなくなってしまうものです。だからひとつのベンチマークというか、ひとつのルールブックを作るために、さわえみかちゃんを中心にマンガでも世界観の端々が見られるようにすれば、皆もイメージがしやすくなって、創作しやすくなると思っていて、そういった企画も一緒に動かしています。
CGW:ビジネスの見通しについては現状どこまで話せるのでしょうか?
舟越:ビジネスの話になると、出版から何でも全てを自分たちで決めて、しかも走らせなければいけません。すでにゲーム会社をはじめ、いろいろな企業がアプローチをしていてくれています。ただ、ゲームにするためには途方もないお金が必要ですから、そこでも従来とは大きく異なる方法で作っていくかたちになると思います。
舟越:先ほどの「東方Project」の例のように、ファンの力で作品が広がっていくコミケ的な文化を僕はとても偉大だなと思っています。そういったものがなかったら結局は広まらなかったコンテンツもたくさんあるでしょう。そうした部分でもサポーターと「一緒にやろうよ」と言えるように運用していきたいですね。その信用は「二次創作を大事にする」ということが前提で、それを信じてくれているから託してもらえているんだと責任を感じています。
野澤:このコンテンツはVRの中でも動かしたいので、実際に会いに行けるキャラクターにする必要があります。いわゆるプリレンダーのハイエンドなCGでは映像として楽しむことしかできません。インタラクティブに動かせるのは、実はかなり重要なポイントなんですよ。
さわえ:また、VRチャット上ではユーザーが作った200体以上のモクリがすでに動いていて、その制限の中で作られたモフモフ具合がユーザーにとっての"正解"なんです。映像化の際にはそのイメージを壊さないようにする必要があります。
舟越:可愛くて、かつ制作コストも抑えられるのならば、まさに技術とアートの融合になりますよね。このプロジェクトはVR発祥というかなり稀なケースです。VRって、あらゆる表現の手法があるのが面白いところなんです。本編の世界で何かすごい事件が起きた街などのVRも、僕らは作れるわけです。バーチャルマーケットですでに実現していますが、もし実際に遊びに行けるとなると、ファンはめちゃくちゃ盛り上がると思うんですよ。「こんな街だったのか」とか「裏側にこんなものがあるぞ」とか。そこにバーチャルマーケットを組み合わせて盛り上がりを作っていったり、レッサーモクリたちが集まって別のイベントをしたりと、無限の遊び方を提供できると思います。
福原:聖地巡礼の「聖地」がVR上にあるというわけです。
野澤:「バーチャルマーケット4」も来年の春に開催予定なので、そこで実際に会いに行ける場所を作ることが目標ですね。
CGW:ターゲットとしては海外も視野に入れているのでしょうか?
舟越:モクリというキャラクター自体がTwitterなどを通じて海外に広まり、カワイイと言ってもらえています。それに、そもそもつくし先生の作風には海外でかなり多くのファンがいますので、モクリプロジェクトは当然、海外もねらっていきます。
逆に言うと、海外で作っているわけですから、両方に一発でアプローチできるような方法も考えています。福原君がすでに中国でコンテンツ展開をしているので、そういったルートも使えますからね。アメリカでは野澤君と設立前に、ディズニーなど超有名スタジオを見学させてもらったんです。アメリカで活躍してくれている方たちからとても良い刺激をもらうことができました。「これをあなたたちに預けるので発信してね」というやり方だけでなく、「自分たちで発信して好きになってね」というやり方にすれば、向こうの人たちに届くのではないかと思っています。
「好き」という気持ちに国境は関係ないですよね。VRも言語の問題はありますが同じなんですよ。バーチャルマーケットには海外の方がたくさん来てくれました。ただ、言語の問題があって、買い物はできなかったんです。とすると、今後はバーチャルマーケットの海外展開を考えざるを得ない。コミケというイベントは素晴らしいですが、会場をそのまま海外にもっていくことはできません。でもバーチャルマーケットなら可能ですし、おそらく『モクリ』もできるでしょう。VRは国の垣根を越えるツールとして非常に良いですし、そこから発祥しているコンテンツだからこそ親和性もあると思っています。
さわえ:売り方はグローバルを意識するのかもしれませんが、作品を作るときは「海外向けにしよう!」という感じにはせずに、まずは『モクリプロジェクト』という世界観を大事にして、これを広げていって、どこの国の人にも納得してもらえるようなしっかりとした設定とアウトプットをやっていきたいと思っています。