GUNCY'S代表の野澤徹也氏、『けものフレンズ』、『ケムリクサ』などの大ヒット作品のプロデュースで知られる福原慶匡氏、VR法人HIKKYの代表として世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」の運営を手がける舟越 靖氏という、エンタメ業界に新しい風を吹かせてきた錚々たる面々が今年8月、3DCGの企画制作を行う「Root studio」を中国・大連で新たに設立した。

同社は日中共同企画で大規模コンテンツを展開していく予定であり、その第1弾として企画されているのが、VR法人HIKKYのアートディレクター・さわえ みか氏が原案を作り、VRのコミケとも呼ばれ、来場者数が累計100万人を超える「バーチャルマーケット」でも多くの人に愛された"モクリプロジェクト"だ。キャラクターのIPをファンに開放しつつ一緒に作り上げ、CGアニメ制作も企画中だという。今回、この4氏に「Root studio」設立の経緯から中国での展開予定、そしてファンとともに作品を作り上げるクラウドファンディングの目的まで語ってもらった。

TEXT&PHOTO_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

法人設立で実感した中国のビジネススピードとは

CGW:まずは、Root studio設立の経緯から教えていただけますか?

野澤徹也氏(以下、野澤):最初に、僕らの出会いからお話しいたしますね。2014年頃、僕がまだ前職の大手CGプロダクションで執行役員をやらせてもらっていたときに、たまたま舟越さんと仲良くなって、将来一緒にビジネスを始めたいという話になったんです。僕はずっとCGを作ることを専門にしていたのですが、舟越さんは本業のプロモーションやイラスト制作を中心にいろいろな業界のコネクションがあって、ビジネスも様々な展開をしています。そこで一緒にやることが互いにシナジーを生むと考え、CGを使ってデジタルコンテンツを創造したいあらゆる企業向けにコンサルティングをするGUNCY'Sを舟越さんのフナコシステムのグループ会社として設立するに至りました。


  • 野澤徹也/Tetsuya Nozawa
    GUNCY'S 代表取締役
    CGプロデューサー/テクニカルディレクター

    大規模CGプロダクションでの実務経験を活かし3DCGを基軸にしたテクニカル/クリエイティブ分野の効率化・システム化 をゼロベースで構築し、様々な業界にイノベーションを与えるソリューション開発に主体的に取り組む。Happy Element Asia Pacificの『ReVdol!(リブドル)』では CG 経験者ゼロの状態から、たった2年で高品質なコンテンツを生み出せるスタジオ設立を果たした。現在はデジタルコンテンツ全般の現代版"軍師"集団、株式会社GUNCY'Sの代表取締役を務める
    www.guncys.com

野澤:舟越さんたちとお仕事をしていて面白いのは、様々なジャンルのクリエイターの仲間がとにかくたくさんいるところです。CGだけでなくイラストやメイクなど、いろいろなクリエイターが揃っています。僕は3DCGを作ることしかしてこなかったので、世界がとても広がった気がしています。ただ、コンサルティングをするなかで常に感じていたのは、GUNCY'Sは自分のスタジオをもっているわけではないということ。我々のコンサルティングをきっかけにCG制作業務が必要になったときには、その都度外の会社のパートナーを見つけてきて、その連合軍で行うことになります。そうすると、ノウハウを重ねてもそれを継承させるスタジオがない。これがジレンマとしてあり、そろそろ自分たちでマネジメントできるスタジオをもちたいなと思っていたところ、舟越さんがこのお話をもってきてくれたんです。

舟越 靖氏(以下、舟越):実際に自分たちでコンテンツを作るとして、野澤君は技術屋さんですし、僕もクリエイターではありません。クリエイターがたくさんいても統括する人間がいなかったんです。そんなときに「福原君だったら野澤君と合うかもしれない」、と思って、2人を引き合わせたんです。そうしたらすぐに意気投合して、一緒に何かをしようという話が進んでいきました。


  • 舟越 靖/Yasushi Funakoshi
    VR法人HIKKY 代表取締役
    エグゼクティブプロデューサー

    クリエイティブ分野の幅広い交流を活かし、多くのクリエイターを組織化。5日で50万人以上が来場したVR上のコミュニティ「バーチャルマーケット」を手がけるVR法人HIKKYをはじめ、複数の起業に携わったシリアルアントレプレナーである
    www.funaco.co.jp

福原慶匡氏(以下、福原):僕も2013年ぐらいからCGアニメのプロデュースを行なってきました。『けものフレンズ』や『ケムリクサ』で知られるヤオヨロズの起ち上げにも参加しましたが、これはたつき監督というクリエイターの理想を叶えるためのスタジオです。これはこれで維持しつつ、他にもプロデューサーシップでものを作れる制作ラインをもちたいと考えていた折に、野澤さんとお会いしました。それが今年の5月か6月ぐらい。それでお互いどんなことに興味をもっているのかという棚卸しをして、その中で僕が「スタジオを作りたい」という話をしたら、野澤さんが「中国に良い人がいるから実現できそうだ」というながれになりました。


  • 福原慶匡/Yoshitada Fukuhara
    統括プロデューサー

    学生時代にシンガーソングライター川嶋あいのマネジメントをきっかけにレコード会社つばさレコーズ(現つばさプラス)の代表を手がけると共にアニメスタジオヤオヨロズを立ち上げ、 2017年を代表するアニメ『けものフレンズ』やオリジナルアニメ『ケムリクサ』のプロデューサーを務めた。他にも慶應義塾大学大学院博士課程において研究者としてアニメ制作の新しい形を研究している

CGW:野澤さんの中国のお知り合いというのはどんな方だったんですか?

野澤:僕は前職の頃から10年以上にわたって中国の会社と一緒に仕事をする機会が非常に多く、そこで感じたのは中国の方々のモチベーションの高さと、研究への熱意。もちろん技術も高い。それを見て、僕はいつか中国にスタジオを立てたいと考えていました。そして中国に何回か足を運ぶうちに、大連に住んでいる緑川健一さんというビジネスコーディネーターと出会えました。


  • 緑川健一/Kenichi Midorikawa
    プロデューサー

    2007年に中国へ渡りゲーム開発会社を設立し、ゲーム開発会社CEO、映像制作会社共同設立者、VR制作会社共同設立者兼プロデューサーなどを経て現在にいたる。その間に、事業企画から資金繰り、事務所起ち上げ、人員調達から育成管理、開発の企画及び進捗管理、パートナー企業との折衝やBDなど、その他企業運営全般を経験

野澤: 緑川さんは、もともと中国でゲームの開発会社を経営したり、映像やVRコンテンツのプロデュースなどをやっている方です。それで「これからは中国をベースにスタジオを作りたい」と伝えたら、彼も面白そうだと思ってくれて一緒にビジネスモデルを考えることになりました。その後で福原さんとお会いしてイメージが固まったのが、今回のRoot studioです。何を作るのか具体的に決まっていない状態で、とにかく母体を作ろうということになりました。

舟越:中国で作るメリットは技術面だけではなく、コンテンツを中国市場で展開する上でも有利な点があるんです。日本でヒットしたものを向こうにもっていく際には様々な障壁があります。企画は日本でも中国国内で作られた作品であればそれらの壁を回避できますし、中国の方にも好意的に捉えてもらいやすい。僕はクリエイターが命を燃やして一生懸命作った作品なのだから、ビジネス的にも成功させなければ意味がないと思っています。それも含めて中国にスタジオを作ったというわけです。

CGW:それにしても初夏に話題が出て、8月にスタジオを設立するというスピード感はすごいですね。

野澤:実はもっと早く、6月か7月には設立したかったのですが、手続きにいろいろ手間取ってしまって。

福原:日本では早いと思われるかもしれませんが、中国からするとこれでも遅い方なんですよ。僕らは中国のビジネスマンからするとても慎重派だと見なされています。「これだけの期間があったならあれもこれもできたでしょ」と怒られてしまうぐらい(笑)。そのくらい中国は全員が全力でものすごいスピードで戦っているんです。チャレンジとスピード感の分、淘汰される数も多いです。でもまたチャレンジすれば良いと捉えている。失敗することを恐れないお国柄なんですよね。

舟越:チャレンジはプラスにしか捉えないよね。

福原:そうなんですよ。僕らはまずインカムの目安を立てないと設備投資はできないと考えるのですが、中国ではその事業計画自体、意味がないと思われています。良い人がいたら採る、良い場所があったら契約する、足りないお金は頑張って取ってくると(笑)。

野澤:日本だと人材を小さな会社で分け合っていますよね。それぞれ専門性の高い会社が細かく分かれている状況なので、予算がない中でお互いに利益を取りながらものづくりをするだけでは、どんどん厳しくなる一方です。それよりは人口が10倍いる中国で大きなものを作っていった方が良い。

ただ、そこでまた受託の仕事をしていたのでは、もともとの目標からはズレてしまいます。たとえ茨の道であってもまずオリジナルIPから始めようということになり、今までHIKKYが大事に温めてきたプロジェクトがある、ということで挙がったのが"モクリプロジェクト"なんです。

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VR発祥でファンと育てていくIP "モクリプロジェクト"

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VR発祥でファンと育てていくIP "モクリプロジェクト"

舟越:モクリプロジェクトはもともと、僕が代表をしているVR法人HIKKYで起ち上げた企画です。『メイドインアビス』の作者として知られるマンガ家のつくしあきひと先生が「モクリ(mokuri)」のキャラクターデザインを行い、アートディレクターのさわえ みかが設定を作って発表したところ、Twitterを含めネット上で非常に好評を得ました。そこで昨年の夏、このキャラクターをさらに愛してもらおうと、改変自由な「レッサーモクリ」というVRアバターをサイト上で無料配布しました。そうしたらそれぞれ創意工夫を凝らした独自のレッサーモクリをあっという間に200体以上も作っていただき、VR空間上でファンミーティングが開催されるほどのヒットになりました。


VR法人HIKKYが起ち上げた「モクリプロジェクト」のキャラクター、モクリ

つくしあきひと氏によるモクリ、ノイノイのデザイン画

さわえみか(以下、さわえ):「レッサーモクリを使ってあなたたちの世界観とストーリーを作って楽しんでください」という感じです。2017年末~2018年初頭のVRブーム当時は自由に改変して使えるアバターがすごく少なくて。そこで、皆が改変して遊べるようなアバターがあればと思い、友人のつくし先生に相談してデザインしていただいたというかたちです。つくしさんもVRは前から気になっていたみたいで快諾して下さり、これがきっかけでVRにもハマってくれました。


  • さわえみか/Mika Sawae
    VR法人HIKKY
    アートディレクター/イラストレーター
    企画原案・制作

    プロヘアメイクとしてTV、雑誌、ショーなどに携わった後、イラストレーターに転向。現在はアートディレクターとして大手スマホゲーム会社のタイトル開発、グッズデザイン制作、漫画制作、番組企画などを兼務する。2018年4月16日にリリースされたSEGAの『共闘ことばRPG コトダマン』ではアートディレクターを務めた


「レッサーモクリ」のVRアバターをサイト上で無料配布中


バーチャルマーケットに集まったコアメンバーたち

カラフルで個性豊かな改変モクリたち

舟越:例えば「東方Project」などのような「ユーザーにIPを自由に使ってもらう」というスタイルがとても素敵だと思っていて。東方はそのスタイルが非常に上手くいって、キャラクターだけでなくもはや音楽単体でも海外で人気の存在になっています。モクリプロジェクトもそういうかたちになればと。そこで基本設定やストーリーがあった方が良いし、VRから始まってすでにCGモデルが作られているので、次に展開するならやっぱりCGアニメだろうという発想にいたったんです。

CGW:そこに、Root studioで自社IPを創成したいという目的が合致したというわけですね。

舟越:まさにそういうことです。一般的にはどこからかIPを探してきたり、またはイチから創り出すことになるわけですが、僕らには『モクリ』がありました。

福原:僕らの気概としては、Root studioは使いやすい下請けスタジオにするのではなく、自社のIPを開発することを主眼としています。『モクリ』とRoot studio、それぞれのニーズが一致したという感じです。

舟越:福原君は型にはまったプロデューサーではなく、今の時代に適した動きができる人です。そういうタイプの人でないと今回のプロジェクトは任せられないんですよ。「二次創作を生み出して」と言っても「権利問題があるからダメ」と言われてしまうと話になりませんよね。それをいくらぶつけても順応して全部飲み込んでくれるので、非常に頼り甲斐がありますね。もちろん大変だとは思いますが(笑)。

福原:僕も二次創作に広がるきっかけになるコンテンツに触れたことがあります。自由というのは実はとても不自由で、あまりにも自由度が高いと、何をすれば良いのかわからなくなってしまうものです。だからひとつのベンチマークというか、ひとつのルールブックを作るために、さわえみかちゃんを中心にマンガでも世界観の端々が見られるようにすれば、皆もイメージがしやすくなって、創作しやすくなると思っていて、そういった企画も一緒に動かしています。

CGW:ビジネスの見通しについては現状どこまで話せるのでしょうか?

舟越:ビジネスの話になると、出版から何でも全てを自分たちで決めて、しかも走らせなければいけません。すでにゲーム会社をはじめ、いろいろな企業がアプローチをしていてくれています。ただ、ゲームにするためには途方もないお金が必要ですから、そこでも従来とは大きく異なる方法で作っていくかたちになると思います。

舟越:先ほどの「東方Project」の例のように、ファンの力で作品が広がっていくコミケ的な文化を僕はとても偉大だなと思っています。そういったものがなかったら結局は広まらなかったコンテンツもたくさんあるでしょう。そうした部分でもサポーターと「一緒にやろうよ」と言えるように運用していきたいですね。その信用は「二次創作を大事にする」ということが前提で、それを信じてくれているから託してもらえているんだと責任を感じています。

野澤:このコンテンツはVRの中でも動かしたいので、実際に会いに行けるキャラクターにする必要があります。いわゆるプリレンダーのハイエンドなCGでは映像として楽しむことしかできません。インタラクティブに動かせるのは、実はかなり重要なポイントなんですよ。

さわえ:また、VRチャット上ではユーザーが作った200体以上のモクリがすでに動いていて、その制限の中で作られたモフモフ具合がユーザーにとっての"正解"なんです。映像化の際にはそのイメージを壊さないようにする必要があります。

舟越:可愛くて、かつ制作コストも抑えられるのならば、まさに技術とアートの融合になりますよね。このプロジェクトはVR発祥というかなり稀なケースです。VRって、あらゆる表現の手法があるのが面白いところなんです。本編の世界で何かすごい事件が起きた街などのVRも、僕らは作れるわけです。バーチャルマーケットですでに実現していますが、もし実際に遊びに行けるとなると、ファンはめちゃくちゃ盛り上がると思うんですよ。「こんな街だったのか」とか「裏側にこんなものがあるぞ」とか。そこにバーチャルマーケットを組み合わせて盛り上がりを作っていったり、レッサーモクリたちが集まって別のイベントをしたりと、無限の遊び方を提供できると思います。

福原:聖地巡礼の「聖地」がVR上にあるというわけです。

野澤:「バーチャルマーケット4」も来年の春に開催予定なので、そこで実際に会いに行ける場所を作ることが目標ですね。

CGW:ターゲットとしては海外も視野に入れているのでしょうか?

舟越:モクリというキャラクター自体がTwitterなどを通じて海外に広まり、カワイイと言ってもらえています。それに、そもそもつくし先生の作風には海外でかなり多くのファンがいますので、モクリプロジェクトは当然、海外もねらっていきます。

逆に言うと、海外で作っているわけですから、両方に一発でアプローチできるような方法も考えています。福原君がすでに中国でコンテンツ展開をしているので、そういったルートも使えますからね。アメリカでは野澤君と設立前に、ディズニーなど超有名スタジオを見学させてもらったんです。アメリカで活躍してくれている方たちからとても良い刺激をもらうことができました。「これをあなたたちに預けるので発信してね」というやり方だけでなく、「自分たちで発信して好きになってね」というやり方にすれば、向こうの人たちに届くのではないかと思っています。

「好き」という気持ちに国境は関係ないですよね。VRも言語の問題はありますが同じなんですよ。バーチャルマーケットには海外の方がたくさん来てくれました。ただ、言語の問題があって、買い物はできなかったんです。とすると、今後はバーチャルマーケットの海外展開を考えざるを得ない。コミケというイベントは素晴らしいですが、会場をそのまま海外にもっていくことはできません。でもバーチャルマーケットなら可能ですし、おそらく『モクリ』もできるでしょう。VRは国の垣根を越えるツールとして非常に良いですし、そこから発祥しているコンテンツだからこそ親和性もあると思っています。

さわえ:売り方はグローバルを意識するのかもしれませんが、作品を作るときは「海外向けにしよう!」という感じにはせずに、まずは『モクリプロジェクト』という世界観を大事にして、これを広げていって、どこの国の人にも納得してもらえるようなしっかりとした設定とアウトプットをやっていきたいと思っています。

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クラウドファンディングの目的は「一番最初の人たちとは気持ちで繋がりたい」

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クラウドファンディングの目的は
「一番最初の人たちとは気持ちで繋がりたい」

CGW:ところで、Root studioのコーポレートロゴをデザインされたのはさわえさんですか?


さわえ:はい。今回のバーチャルマーケットでも実感したのですが、既存のコーポレートロゴのほとんどは3D空間で使用することを前提にデザインされていないんですよね。ですので、Root studioは3D空間に置いて回したり多角的に見たりしてもおかしくないようなデザインにしました。

野澤:RとTの間のOOがアニメーションして「ROOT」になるようにするというコンセプトです。IT用語に「最も根っこの部分」という意味の「ROOTフォルダ」という言葉があります。そこから、中国に根を下ろして、そこから根をどんどん広げていって大きなスタジオになることを目指す最初のスタートという意味合いも込めています。文字の箇所のOOは無限大の記号で、横から見ると8にも見える。中国では8や赤が縁起が良いとされているので、そこも意識しています。

CGW:拠点が置かれる大連はどのような街なのでしょうか?

野澤:もともと日本のアニメや遊戯機の映像を作っているスタジオが多く、日本のCGスタジオもいくつかあります。大きなところでは日本にもあるBetopさんとか。それに関連するプロダクションが100社くらいかな。結構大きいですね。

野澤: 僕も大連のプロダクションには何度も仕事をお願いしています。知り合いもたくさんいるので、何かがあればとりあえず大連に行ってプロダクションを回っていました。結局はスタジオを作っても、人をゼロから揃えるのは難しいんです。最初はいろいろな会社と連合軍を組まなければいけないので、そういった意味でも大連で作った方が早い。あと大連は中国の中ではそこまで大きな街ではないので、人件費もまだ上海などの大都市に比べて高騰はしていません。

舟越:ひと言で言えばとても良い街でしたね。スタジオを作るために会社さんを回ってみたんです。飛び込みで入っても、普通は「アポを取ってください」と言われますよね。でも、どこもウェルカムで、自分たちにはどんな能力があるのかをプレゼンしてくれました。とても前向きだという印象を受けました。

福原:日本でたとえるとアニメの制作会社が多い中央線沿線のような感じでしたね。

野澤:今はテンセントなどの中国産アニメを作ることが、かなり大きな比重を占めていますね。中国は国産アニメに力を入れているので、スタッフの7割以上が中国の人でないと国産アニメとして認められないんです。そういうこともあって、大連で人をたくさん揃える方が良いんです。

CGW:すでに人は集めているのでしょうか?

野澤:これからはじめます。まずはスタジオを借りるところからですね(笑)。

舟越:ビジネスの話に付け加えて、自分たちでIPを生み出すことについてお話しします。これだけのプロジェクトですから協力者もたくさん生まれると思っています。でもそれで従来のような製作委員会方式で作ってしまうと、許可申請を下ろすだけでも時間がかかるし、ライセンシーもどこにアクセスすれば良いのかすらわからない状態になりがちです。自社でIPを生み出すのは、それを明確にしたかったからなんです。

今回はいろいろなユーザーたちの力が加わってかたちになっていくプロジェクトです。それが途中から「ゲーム化はダメだ」と言われたら、そもそもプロジェクトを立ち上げた意味がなくなって困ってしまう。だからこの作品の投資はこれまでとは異なる方法で集めて、僕たちに決定権がある状態で作っていくようにしました。

福原:今回はあくまでも「商品としての作品」というように、シームレスに見ていこうという感じに捉えています。誤解されがちなのですが、これは"作品"というものを軽んじているわけでは決してありません。例えば『スパイダーマン』シリーズはもう60年近く、原作者のスタン・リーさんが亡くなっても続いています。それは皆で支えているからであって、その方が結果的には作品を大事にすることに繋がるのではないかと思っています。

舟越:今回の制作はストーリーなど細かい部分まで僕ら経営メンバーが見て、それこそケンカをするぐらい意見をぶつけ合っているんですよ。それは普通はしないことですよね。シームレスというのはそういうことで、作家に任せて進めて上手くいったから途中からビジネスにするというやり方ではないんです。最初から経営メンバーがクリエイティブにも入っているので、作品についてよくわかっていますし、作家もいちいち心配しなくてもこちらに託してくれるようなやり方です。

CGW:今回の「モクリプロジェクト」は、クラウドファンディングで資金を集めるそうですが、その理由は?


「モクリプロジェクト クラウドファンディング」メインビジュアル。クラウドファンディングは11月7日(木)開始予定。現在事前登録を受付中

舟越:既存のやり方をしないということは、それだけ大変であって、皆の力がないとできません。「一緒に作っていくぞ」と明言するのにクラウドファンディングはとても良い場所です。クラウドファンディングの会社さんたちもとても前向きで、「ものすごく良い取り組みだ」とバックアップしてくれています。

福原:クラウドファンディングというスキーム自体が良いのかなと思っています。コンテンツの成分を分解すると、「お金をもらう」「時間をもらう」「気持ちをもらう」の3つの要素に分解できます。その「気持ち」の部分が、コンテンツがヒットする上では最も大事なことなんです。

福原: クラウドファンディングを通じて、僕たちが何かリターンを提供するというよりは、僕たちの大きなものになるかもしれないというプロジェクトや、その思い自体に対してのファーストサポーターを求めているんです。だから「支援してくれたらCDをあげます」といった物とお金の交換ではなく、気持ちとの交換にしたいなと思いました。

ファーストサポーターの後には、「『モクリ』って何ですか?」というところから会話が始まる普通の企業の人たちと話をしなければいけない。そのときに、味方がすでにこれだけいると示すことができるクラウドファンディングはとても武器になるんです。形の見えないエンタメだからこそ見える形があると安心感があり仲間が増えやすいです。だから一番最初の人たちとは気持ちで繋がりたいなと。

野澤:クラウドファンディングはあくまできっかけであって、もちろんそれ以外の方法でも進めています。制作に向けて大きな企業がバックアップしたいという話も出ています。

舟越:いっぱい集まってきていますね。正直、クラウドファンディングだけでは資金は全然足りないのですが、それでもやるのは仲間を集めるという理由が大きいからなんですよ。欲しいのは本当に気持ちなんです。

CGW:Root studio、「モクリプロジェクト」の最初のファンクラブというような感じでしょうか?

舟越:まさにそうですね。「困難な道を行くという僕たちの意志を良しと思ったらフォローしてね」という感じですね(笑)。

Information


「モクリプロジェクト クラウドファンディング」
開始日時:2019年11月7日(木)11:00〜(事前登録受付中)
URL: https://www.makuake.com/project/mokuri/

Root studio
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モクリプロジェクト公式サイト
http://mokuri.world/
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