こだわりと言い切りが生んだ地続き感
他に『スペチャンVR』の開発では、ビジュアル面についても、堀田氏のこだわりが随所に出ている。もともとアーティスト出身で、本作でもディレクターとアートディレクターを兼務した堀田氏。特徴的なのがシェーダを活用した照り返しの活用だ。
もともと過去作の画づくりは、ドリキャスのスペックもあり、シンプルな表現に留まっている。これがポップでカラフルな世界観と合わさって、過去のゲームにない新鮮な感覚を生みだしていた。
しかし、これをそのまま現世代機で表現すると、のっぺりした印象を与えかねない。といって、フォトリアルな画づくりと共に、髪の毛がさらさらな"うらら"を登場させるのもちがう......。「『スペチャン』の一ファンとしても、そんな"うらら"は見たくないって思いました」(岡村氏)。
そこでビジュアルがシンプルな分、質感を今風にすることした。床や壁の照り返しは恒例だ。うららのバックパックやスカートがVRゴーグルの位置に合わせて光るのも、画面にリズム感を生み出す一因になっている。
壁や天井に掲示されている大型モニタも、単に動画を再生するだけでなく、わざわざノイズを加えて、荒れた画になっている。
宇宙海賊放送局の宇宙船。船体がLEDビジョンのように、細かい粒子で覆われている
極めつけは「リポート03」に登場する宇宙海賊放送局の宇宙船だ。外見をカメレオンのように変えることで、宇宙空間に溶け込んだり、レポーターの表情をアップで映し出せたりする設定だが、わざわざピクセル的な表現で全体を覆っているのだ。
「船体の外見が変化するようになったのは、本作が過去作から3年後の世界だから。でも、あれはLEDビジョンが進化したもの、という設定なんです。映像が粗く見えるのも、LED球の集合体だから。ふつうは綺麗に表示するところなんですけどね。そんなふうに過去作からの地続き感を大切にしました」。
格好良くするのは簡単だが、それでは『スペチャン』らしさが失われてしまう。このさじ加減が難しかった......堀田氏は語る。ラスボスが搭乗する宇宙船も、ハンドスピナーがそのまま巨大化した印象だ。「それで良いって言い切りました。そんなふうに、けっこう『言い切り』でつくってましたね」。
色づかいについても同様だ。VRゲーム開発では、一般的に色数を減らすと良いとされる。その方がVR酔いが防げるという経験則からだ。
しかし、ポップでカラフルな色づかいは『スペチャン』らしさを演出する上で欠かせない要素として、押し切った。もっとも、「目の前にうららを常に表示させる」、「宇宙船が左右に移動しない」など、VR酔いに配慮された内容だっただけに、大きな問題になることはなかった。
このほかキャラクターの3Dモデルやモーションには、セガから過去作のデータが提供されている。これを基にデータを追加したり修正したりして、再利用されたのだ。当時の制作ツールはSOFTIMAGE|3Dで、Maya向けにデータを変換する必要があったが、様々な協力で実現できた。
MVNを使用して収録された新規モーション
新規モーション収録も同様だ。過去作でうららとモロ星人のモーションを担当したアクター2名が、再び参加してくれたのだ。特殊なモーションが多いゲームだけに、同じアクターが担当したことで、収録の効率化に大きく貢献した。
「2人ともノリノリでやってくれました。モロ星人の担当アクターからは、自分以外のアクターが担当したら許さない、と言われたほどです」(岡村氏)。
収録はモーションキャプチャスタジオだけでなく、グランディングのセミナールームでも行われた。慣性式モーションキャプチャ「MVN」を活用し、モーションキャプチャスタジオ、MOZOOのスタッフが出張収録にあたった。
こうした細かいこだわりのひとつひとつが積み重なり、過去作との地続き感に結実していった。
リポート02 軌道エレベータの制作
軌道エレベータのラフイメージ【左】とゲーム画面のイメージボード【右】
軌道エレベータ内部のワイヤーフレーム【左】とUnityの完成データ【右】
軌道エレベータ内に配置されたオブジェクトのワイヤーフレーム【左】とUnityの完成データ【右】
軌道エレベータ内(Unityの完成データ)
加速装置のワイヤーフレーム【左】とUnityの完成データ【右】
宇宙の表現と軌道エレベータの破壊プロセス
3段階目の破壊表現