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テーマパークのアトラクション体験『スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー』が開拓した新たなファン層とは?(後篇)

テーマパークのアトラクション体験『スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー』が開拓した新たなファン層とは?(後篇)

開発陣も気づかなかった女性ファンへのIP浸透

こうして開発も最終段階に差しかかった2019年秋。『スペチャンVR』は東京ゲームショウ2019でプレイアブル出展された。これまでにも闘会議2018や、米ロサンゼルスで開催されたVRLA2018、そしてTGS2018とブース出展を重ねる中で、確かな手応えを感じてきた。

もっとも、その過程で予想外の出来事が起きていた。ブースの待機列に多数の女性プレイヤーが詰めかけたのだ。中でも東京ゲームショウ2019では、約4割が女性プレイヤーだった。しかも年齢別に見ると、10~20代と30~40代の割合がほぼ同じだった。

この結果を見て、岡村氏は「あなたたち、いったいどこで『スペチャン』を知ったの?」と疑問をもったという。

東京ゲームショウ2019で設置された試遊ブースの模様

前述の通り、過去作はドリキャスに新しいファンを取り込むための戦略タイトルだった。しかし、セガファンに支えられたハードということもあり、過去作で女性プレイヤーが占める割合は数パーセントだった。これが数年間で大きく変化したことになる。

もっとも『スペチャンVR』自体、女性層の開拓を戦略的にねらったタイトルでない。気になった岡村氏は、試遊したプレイヤーを対象に、より深い調査を行なった。その結果、いくつかの仮説が浮かび上がってきたという。

まず、過去作を遊んだ男性プレイヤーが結婚して家庭をもち、子どもが産まれ育っていく中で、女児層にゲームが浸透していったことだ。「お父さんが所有していたドリキャスで子どもの頃に『スペチャン』を遊び、ハマった」という回答が多く聞かれた。知らず知らずのうちに、『スペチャン』第二世代が育っていたのだ。

"うらら"やモロ星人といったキャラクターが、他のゲームに「客演」する機会が多かったこともあった。『初音ミク -Project DIVA-』(2009)に"うらら"の衣装が登場したり、『ぷよぷよ』シリーズでモロ星人が登場したり、などだ。バンダイナムコゲームス・カプコン・セガのクロスオーバー作品『PROJECT X ZONE』シリーズにも、"うらら"やモロ星人などが登場している。

動画共有サイトで実況プレイを見てファンになったという声もあった。ゲームは遊んだことがなくても、世界観やキャラクターが好きになり、気になっていた。そんな中、東京ゲームショウに出展されると知り、試遊に来たというのだ。

こんなふうに『スペチャン』がいつの間にか、女性ユーザーに支持されるIPに育っていたことに、岡村氏は驚かされたという。

もっとも、そこには過去作の開発スタッフの特殊性も挙げられるだろう。前述の通り、過去作を手がけたUGAにはゲーム業界内外から、多彩な経歴をもつメンバーが集められた。今風にいうならダイバーシティの推進だ。

その中でも際だった点に、女性比率の高さがある。『スペチャン』チームは岡村氏を筆頭に、その半数が女性クリエイターで構成されていたのだ。

ゲーム業界の開発職で女性が占める割合は、世界的にも2割に留まっている。フィンランドやスウェーデンなど、女性の社会進出が進む国々でも同様だ。にもかかわらず、女性が半数を占めるスタジオで、ことさらに女性向けを意識しないゲームがつくられていたという点は、興味深い。しかも2000年前後の日本でだ。

"うらら"の生みの親であり、『パート1』でアートディレクター、『パート2』ではディレクターを務めた宮部由美子氏や、モロ星人の生みの親である茂呂真由美氏は好例だ。

岡村氏は「社内でスイーツをもち寄り、誕生会を行うような社風だった」、「男性デザイナーがつくったCGモデルに対して、女性陣からセクシーすぎると注文がつき、みんなで議論することもあった」とふり返った。そして、「これらが積み重なって、"うらら"のキャラクター性が生まれていったのではないか」と分析する。

  • 新キャラクターでプレイヤーが操作する新人レポーター、ルーとキーのデザイン画

完成モデル

メッシュ構造

宮部氏は本作でも新規キャラクターのキャラクターデザイナーとして開発に関わっている。堀田氏は本作の開発初期、新しい"うらら"や、新キャラクターのルー・キーなどをモデリングする上で、宮部氏と打ち合わせを重ねた。その際、女性キャラクターのプロポーションや表現に対する、女性デザイナーならではの視点やこだわりがあったことを知った。

これを受けて堀田氏は、「デザイン画に忠実に、あまり盛りすぎないように注意した」と語った。また、ちょっとした衣装のちがいでセクシーさが出てしまうため、その点についても考慮したという。

UGAには劣るものの、グランディングでも女性が占める割合は3割と、業界標準を上回っている。『スペチャンVR』チームでも、女性キャラクターのモデリングは女性デザイナーが担当した。同社では女性プログラマーも活躍中だ。

一方でスマートフォンのゲームユーザーは、約半数が女性だ。であるならば、ゲームを開発する側の男女比も半々であることが望ましいだろう。知らず知らずのうちに、ゲーム業界は女性ユーザーを取りこぼしているのだろうか?

「確かに、女性が好むような女性キャラクターは、つくれていない気がしますね。男性目線になっているというか......」(堀田氏)。

「絵柄などから、無意識のうちにゲームに入って来られなくて、マンガやアニメ止まりになっている女の人は、まだまだたくさんいるかもしれません」(岡村氏)。

いわゆる「萌え」とは正反対に位置するビジュアル表現のゲームが、20年をかけて女性ユーザーに浸透し、新たなファン層の開拓につながったという事例は、筆者の知る限り例がない。

このように『スペチャンVR』は、VR体感ミュージカルゲームという点でも、女性ファン開拓という点でも、ユニークな存在になった。その背景に開発現場におけるダイバーシティが関係していたことは、もっと知られても良い事実ではないだろうか。

Profileプロフィール

グランディング株式会社

グランディング株式会社

左から岡村峰子氏(グランディング株式会社 代表取締役/プロデューサー)、堀田 昇氏(グランディング株式会社 取締役/アートディレクター)

スペシャルインタビュー