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オンラインへの移行はCEDECの認知度を高めるチャンス ~CEDEC 2020運営委員会に聞くコロナ禍のカンファレンス

オンラインへの移行はCEDECの認知度を高めるチャンス ~CEDEC 2020運営委員会に聞くコロナ禍のカンファレンス

「TA」、「働き方改革」関連のセッションが増加

CGW:実際、「CEDECの歩き方」が出て良かったですね。というのも、この記事を読んで初めて、CEDECに無料セッションの枠があることを知りましたから。YouTube Liveで配信される1トラック、20セッションが無料で見られるようになっています。

齊藤:そうなんですよ。CEDECのショウケースということで基調講演や大型タイトルのセッション、学生の皆さんにも注目度が高いペラコンなど、様々な分野のセッションをバランス良く盛り込んだつもりです。

CGW:基調講演が例年の2本から今年は1本となりましたが、これはどういう理由からですか?

齊藤:確かに例年だと、業界内・業界外の2名の方で基調講演が行われていました。そこで今年も調整を続けていて、業界外では東京大学の廣瀬通孝先生にお願いすることになりました。ちょうど東京大学を定年退職でご退官されるタイミングだったことと、コロナ禍ということでテレワークの社会的関心が高まったことで、廣瀬先生のご専門であるVRをテーマにお話いただけることになりました。その後、オンラインカンファレンスになったことで、改めてご確認を差し上げたのですが、その際もご快諾いただけました。

ただ、業界内の方では調整が上手くいきませんでした。基調講演ということで名のあるクリエイターの方に何名かお声がけさせていただきましたが、状況がどんどん変化していく中で上手く折り合いがつかず......。最終的に時間切れということで、今年の基調講演は1セッションのみになりました。

CEDEC 2018基調講演(宮本 茂氏/任天堂)

CEDEC 2009基調講演(富野 由悠季氏/アニメーション監督)

CGW:PlayStation 5とXbox Series Xが年末に発売を控える中で、ハードメーカーによる関連セッションがないことも、今年のCEDECが地味に感じられる点かもしれません。もっとも、これはCEDECだけに限った話ではなくて、GDC Summerでも同様でした。

齊藤:そこはタイミングの問題だと思っています。次世代ゲーム機のセッションについては、ハードメーカーのプロモーション戦略に係わってくることですよね。それにサードパーティの側としても、ゲーム機が発売されて、実際に自分たちがつくったゲームが出てからでなければ、話すことがありませんからね。

CGW:確かにそうですよね。ただ、ハードメーカーのセッションは、良くも悪くも目立ちますよね。それもあって、任天堂関連のセッションの充実ぶりが目立つのかもしれません。

齊藤:はい、CEDEC 2017で行われた『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』関連セッションを皮切りに、例年数々のセッションが行われています。毎年、ものすごい反響があるセッションばかりで、開発者の皆さんに様々な知見が共有されています。今年も『あつまれ どうぶつの森』『リングフィットアドベンチャー』関連の講演が行われる予定です。旬のタイトルで公募いただいていて、大変ありがたいですね。他にハル研究所からも『星のカービィ』関連のセッションが行われます。

CGW:まさに今年のCEDECの目玉のひとつになりそうですね。他に特に推したいセッションはありますか?

粉川:まず全体傾向からいうと、各分野別のバラツキは昨年とさほど変わりません。プラットフォームや扱うトピックについては多少変化がありますが、それはそのまま市場の変化を反映しているのかなと思います。その上で今年のトレンドですが、昨年から運営委員会の方で「キーワード」を付けるようにしました。今年の「キーワード」は「ML(Machine Learning)」、「QA」、「xR」「サーバー」、「働き方改革」、「TA」の6種類で、このうち「働き方改革」、「TA」は今年新たに加わったものになります。

CGW:「セッション一覧」から「フィルタ」機能を使うと、「キーワード」で絞り込み検索ができますね。その結果、「働き方改革」の「タグ」がついたセッションは4本、「TA」だと12本がヒットしました。いずれも、CGWORLD.jpの読者に対して、注目度が高いセッションが並んでいます。この2分野については、運営委員会でも注目してほしいということでしょうか?

粉川:それもありますし、どちらも複数の公募が来て、複数採択されました。それらをまとめるために、新しく2種類の「キーワード」を追加した経緯があります。他に自分の仕事との関連性でいえば、「QA」タグのついたセッションは、いずれもオススメしたいですね。

公式サイトのフィルタ機能でセッション一覧から絞り込みができる

CGW:ありがとうございます。藤村さんはいかがですか?

藤村:特定のセッションというより、スポンサーセッションについて触れさせてもらえればと思います。以前のCEDECのスポンサーセッションは、わりと営業色が強く、公募や招待セッションを見れないから参加するという傾向があったと思うんです。

CGW:参加者の参加優先度が低いセッションが多かったですよね。

藤村:ただ、ここ数年でスポンサーセッションの内容も変化してきています。当然営業の部分もありますが、より深い技術の話や、ゲームの開発ポストモータム的なものであったり。なので、以前のイメージが強い方も多いと思いますが、ちょっとセッション情報の中身を確認してもらえれば良いなと。

CGW:スポンサーセッションにも要注目ということですね。齊藤さんはいかがでしょうか?

齊藤:昨年セッションWGのリーダーをやっていたときから思っていたんですが、AIの導入が開発のスタイルを変えていくながれを感じています。今年のCEDECでも『モンスターストライク』のキャラクターをAIで制作した事例の紹介(「CreativeAI事例〜AIでモンスト風キャラジェネレイターを作ってみた話」)などが予定されています。

CGW:ビジュアルアーツ分野でありながら、「TA」、「ML」タグも付いていますね。

齊藤:今後も重要な部分を人間がつくって、それ以外の部分はAIがつくっていくというながれが増えていくと思います。今は、まさにその端境期にあるんだろうなと。「ML」タグがついたセッションは、まさにそうした開発スタイルの変化の最先端に位置するものばかりだと思いますので、注目してもらえればと思います。「AI」ではなくて、あえて「ML」というタグになっているのも、Machine Learning(機械学習)がまさに旬なトピックになっていると感じるためです。この傾向は数年間続くと思いますので、注目していくと面白いのではないでしょうか。

CGW:次世代ゲーム機の登場に伴って、AIによるアセット制作の自動化がキーワードのひとつになっていますよね。AI関連のセッションは過去10年くらいかけて徐々に増加してきましたが、そうした蓄積が今まさに大きなながれを創り出しているように感じられます。

齊藤:その通りですね。

技術系セッション以外に、アーティスト向けのセッションも充実

CGW:そして最後に、河本さんにビジュアルアーツ分野の注目セッションについて、お伺いできればと思います。

河本:ビジュアルアーツ分野で主担当を務めるセガの麓 一博さんとも話をしていたのですが、ここ数年で3DCGのセルルック表現に関するセッションが増えているんですね。一昨年はPBR(フィジカルベースドレンダリング)が旬なトピックでしたが、昨年はPBR関連のセッションが減って、セルルック表現のセッションが増えました。そして今年は、ますますその傾向が強まっていると思います。

特に今年は、モバイル関連のセルルック表現に関するセッションが増えました。シェーダに関しては4~5年前からありましたが、特に近年ではアニメーションやポストエフェクトに関してもリッチな表現が可能になってきたことが背景にあると思われます。

CGW:スマートフォンの端末スペックが上がってきたことも関係しそうですね。

河本:そうですね。その一方で純粋なグラフィック表現に関するセッションが、近年減っているところもあります。そこで、招待セッションではそのあたりを強めにしました。「デザイン発想に役立つ、西洋甲冑講座」はそのひとつで、15〜16世紀のプレートアーマーをはじめとした西洋の甲冑の構造について、専門家の方にご講演いただきます。

CGW:それはマニアックで、面白そうですね。

河本:もともとCEDECが3DCGの技術系カンファレンスから始まったこともあって、ビジュアルアーツ分野でもTA的なセッションが主流を占めてきました。実際に公募でいただく内容も、テクニカルなものが中心です。そのため今年の招待セッションではバランスを取って......というわけではありませんが、アーティストであったり、アート制作に刺激を与えるようなものを重視しています。「長編ストップモーション映像制作を支える技術」も同様ですね。

CGW:純粋なアーティストでも楽しめるセッションが用意されているわけですね。

河本:そうですね。あまり技術に明るくない方でも興味がそそられるセッションがあると思います。

CGW:チュートリアルが復活したのも興味深いですね。なかなか公募も来ないし、だからこそ採択されないという状況が続いていましたが、今年は6本もセッションが採択されています。

粉川:今年は公募募集時から、各分野ごとにチュートリアルセッションとして求めている内容を明記していました。そのため、例年以上に応募いただくことができました。特にビジュアルアーツ分野では、明記されていた内容を公募でほぼカバーすることができました。

CGW「プロシージャルゲームコンテンツ制作ブートキャンプ 2020 Part 1 モバイルゲーム はじめに」「Part 2 モバイルゲーム 実践」「Technical Artist Bootcamp 2020 :『ToolDev for TA』」ですね。いずれもホットなトピックですし、本分野を目指す学生にとって見逃せないセッションになりそうです。

河本:チュートリアルセッションは、我々のように毎年CEDECに参加しているような人間からすると、ともすれば忘れがちになる部分です。そのためこうしたセッションを通して、新人の方やゲーム業界志望の学生の方に、新しく技術や情報に触れていただく機会を提供したいと思っています。

CGW:一方でタイムシフト配信については、視聴期間の制限を緩和してほしい、あるいは制限を撤廃してほしいという声があるかと思います。実際にGDCの講演セッションの動画が見られるGDC Vaultでは、かなりのセッションが無料で、しかもいつでも見られるようになっていますね。

齊藤:タイムシフト配信の位置づけのちがいなんです。もともとタイムシフト配信は、地方在住などで会場まで足を運びにくい方に向けてセッションを見ていただくための施策として始まりました。つまりタイムシフト配信は、CEDEC参加の補助的な手段という位置づけです。一方で講演者からすると、アーカイブされていつでも動画が見られるものと、会場の中だけで話せる内容とでは、心構えが変わってくるところがあります。基本的に会場まで来て、来ていただいた皆さんにだけお話ししますね、という。その温度感や密度感を変えたくないんです。

ただ、それだけでは物理的に来られない人もいるし、会場混雑の緩和にもつながらない。だったら時限公開しましょう、というところから始まっています。そのため今回も全部オンラインになりますが、時限公開である点は変えていません。講演動画ではなく、ライブ講演を原則としている点も、そのためです。その場で話して、その場で盛り上がって、という熱量の大事さについては、変えたくないなあと思っています。

とはいえ、動画ならではの利便性もありますよね。特に昨年はCEDECの翌週に東京ゲームショウが開催されるというタイミングもあり、タイムシフト配信の期間を1週間ほど延長しました。しかし、延長したことで視聴回数が増えたかというと、そうした傾向も見られなかったんですよ。であれば、CEDEC自体の盛り上がり感というか、お祭り感を薄めないためにも、視聴期間を延ばしたり撤廃したりする判断はどうかなと考えています。

時限公開を撤廃してほしいという声があることも認識していますが、時限公開だから動画の配信を許可いただけている側面もあります。総合的に判断して、時限公開になっています。

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今年はパスがなくても「ペラコン」に参加できる!

Profileプロフィール

左から、河本健太郎氏(株式会社バンダイナムコスタジオ、CEDEC運営委員会・副委員長)、粉川貴至氏(株式会社セガ、CEDEC運営委員会・副委員長)、齊藤康幸氏(株式会社ヘキサドライブ、CEDEC運営委員会・委員長)、藤村幹雄氏(株式会社ディー・エヌ・エー、CEDEC運営委員会・副委員長)

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