今年はパスがなくても「ペラコン」に参加できる!
CGW:続いて今年度の参加パスなんですが、それまで複数の参加パスがあったものが、CEDEC 2020パスの1種類にまとめられましたよね。一方で価格が43,200円(税込)から33,000円(税込)に引き下げられました。この理由について教えてください。
齊藤:価格については、前述の通りオンラインになり、インタラクティブセッション・ラウンドテーブル・ワークショップができなくなったことから、同じ価格にはできないだろう、という判断がありました。一方でライブ講演を原則として、質疑応答なども実施するというところから、タイムシフトパスと同じ価格にもできない、という考えがありました。そのため、中間を取ったというところです。
CGW:昨年までは、学生のみが購入できるエキスポパスがありましたね。今年はそういった、学生向けのディスカウントがなくなったのが残念です。
齊藤:そうですね。今回は全てオンラインになるということで、シンプルにまとめさせていただきました。また、学生の注目度が高いセッションとして、ペラコン(ペラ企画コンテスト)があるかと思います。こちらについては、セッション自体を無料枠の方に移して、文字通り誰でもご参加いただけるようにしました。
プロとアマチュアが同じテーマで企画を競う「ペラコン」
CGW:CEDEC 2020パスを購入しなくても、ペラコンに参加できるようになったわけですね。
齊藤:はい。ただ、パスの学生ディスカウントが欲しいという声があれば、今後検討したいなと思っています。実際、今年はえいやで決めざるを得ないところがありました。もっとも、来年度どのようなかたちでCEDECが実施されるのか、まだ何も決まっていないのですが......。
CGW:学生にとってみれば、33,000円(税込)という価格だけに目がいってしまって、「無料セッションがある」、「ペラコンに無料で参加できる」ということ自体、あまり知られていないかもしれません。これは教員にとっても同じことが言えます。学生の参加は指導に熱心な教員がいるか否かで決まったりするところがありますので、上手く情報が伝わると良いですよね。
河本:そこはぜひ、この記事でアピールしたいところですね。
CGW:オンラインになることで、参加者数の増減についてはどのように見越していますか?
齊藤:正直いって、そこはわからないですね。先ほどもタイムシフト配信の話がありましたが、現地に足を運びにくい方々に対して、認知度を高める良い機会になるかなと思っています。場所に関係なく、感染状況を気にすることなく、セッションを視聴できますので。まさに今年でなければできない部分だと思います。
CGW:まさにそうですよね。個人的にはタイムシフト配信で十分かなというところがあります。パシフィコ横浜まで行くのがしんどくて(笑)。ただ、スカラーシップなどをやっている手前、学生の引率を考えると、やはり行かざるを得ないというか。もっとも、それもあってセッションが十分に見られなくて、タイムシフト配信の恩恵を受けています。
齊藤:タイムシフト配信がなくなることはないと思います。ただ、オンラインのみにシフトしていくのかというと、やはりメリット・デメリットがあります。そのため両者の良いとこ取りをしていくことになるのかなあ、と思っています。ただ、いずれも新型コロナ問題を踏まえつつ、状況を見ながら判断していくことになりますね。
CGW:確かにそうですね。
齊藤:今年はコロナ禍で、働き方改革をはじめ、それまで当たり前だったことが、どんどん変わっていっていますよね。我々も同様に、これをきっかけに、より良いCEDECにしていきたいと思っています。
CEDECの認知度を高めつつ、若手をCEDECに呼び込みたい
CGW:他に細かいところですが、今年はCEDEC AWARDSで著述賞の選出基準が見直されることになりましたね。これはどういった理由ですか?
齊藤:公式ホームページにも書かれていますが、もともと著述賞は「現役開発者が書籍を書くことを賞賛し、奨励する」という意味合いがありました。それが回を重ねるごとにだんだんと意味合いが薄まってきて、業界に貢献されている著述家全般に広がってきたところがありました。
CGW:CEDEC 2016でCGWORLDが著述賞をいただいて、一番驚いたのが編集部だったという。
齊藤:そんなこともありましたね。ただ、CEDECはやはり「開発者の開発者による開発者のためのカンファレンス」なので、著述賞についても前面に押し出していこうと。そこで、選択基準を明確化することにしました。ちょうどコロナ禍でテレワークが広がって在宅で仕事をする機会が増え、通勤時間がなくなったタイミングでもあるので、その時間を本を書くことにも充ててほしいなと。そこで来年に向けて、賞そのものを見直そうと。
CGW:顕彰の俎上に上がった本はありましたか?
齊藤:何冊かありましたし、いずれも素晴らしい内容でした。ただ「現場の開発者が書いた本」から離れた本も上がってきて、基準について意見が分かれた、という感じでしょうか。そこで、いったん仕切り直した方が良いよねと。
CEDEC 2009著述賞/平山 尚氏(「ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術」)
CGW:一方でCEDEC AWARDSのエンジニアリング部門の優秀賞で、技術書典運営チームが顕彰されていますね。これがなんというか、皮肉な話で。みんな本は書かないけれど、同人誌は書くんだと。
河本:そういった部分も議論になりました。著述賞の対象に同人誌を含めるのか。電子書籍はどうするのか......。いずれも来年に向けた課題ですね。「著述賞って何だろう」ということに、真剣に向き合わないといけない時期に来ているなと。それで今年は見送らせていただきました。
CGW:それでは齊藤さんから改めて、CEDEC 2020に対する意気込みや、新委員長に就任されての抱負などについて、ひとことお願いします。
齊藤:今まで話したことと被りますが、今年はオンライン開催になりましたので、CEDECの認知度ををもっと広げていきたいなあと思っています。その上で、CEDECについて日本のゲーム開発者があまねく知っている状態になり、そこから参加してもらって、講演してもらって......そんなながれを推し進めていきたいですね。実際、講演する側に回ると、世界が変わるんですよ。それは講演した人でなければわからなくて。講演することで、同じ課題をもっている人から反響があったり、つながったり、コミュニティができたりしますので。
実際、コミュニティってすごく重要だと思うんですね。いまどきゲーム開発者が、技術を1人で磨いてという時代ではありませんから。そんなとき、近しい属性の人と関係性をもっていくことは、SNS時代の中ですごく重要です。そうした場を提供することが、CEDECの大きな役割のひとつだと思っています。そうした役割を僕が委員長をやっている間に、もう少し強めていきたいですね。
CGW:CEDECの認知度はどれくらいだと思いますか?
齊藤:日本のゲーム開発者でCEDECに参加した経験がある人は、多分1割以下だと思います。ゲーム開発者の定義にもよりますが、インディも含めて5万人以上、10万人未満といったところではないかと。それから考えると、まだ1割にも届いていないんじゃないかなあ。そう考えると、まだまだ伸びしろがあるんじゃないかと。
CGW:ひとくちに日本のゲーム開発者といっても、いろいろな人たちがいますよね。業界歴20年以上のベテランで、CEDECを年に1回の同窓会と捉えている人たちから、まだ業界1年生で、CEDECで憧れのクリエイターに会えてうれしいといった人たちまで、千差万別です。その中でも、特にこういった方々に参加してほしい、といったイメージはありますか?
齊藤:入社して2~3年経って、ある程度社内のことや、自分の仕事がわかってきて、もうひと皮剥けたい......そういった若手と呼ばれる層に、もっと参加してもらって、刺激を受けてほしいと思います。まだ入社したばかりだと、せっかくCEDECに参加しても、右も左もわからないで終わっちゃう可能性があります。でも2~3年経てばそれなりに視野も広がってきます。
そんなときに、業界としてどんな課題があって、何に興味をもって仕事に取り組んでいるのか、といった最先端の事例がCEDECで共有されると思うので。そういう人たちが活発に、自分の知見を上げていくために来てもらって。その上で知見を会社にもち帰ってもらって。そういう動きができるのが若手の役割だとも思うので。
CGW:なるほど。
齊藤:CEDECはトップカンファレンスなので、けっこう難しい話が多かったりもしますし、ベテランじゃなきゃ参加できないのかなと思う人も、一時期は多かったと思います。でも、そんなことはないので。ある程度自分の仕事が確立されてきた若手の人たちが、積極的に参加してきてほしいなあと思います。