コロナ禍に伴いイベントのオンライン開催が続いている。開催延期や規模縮小を余儀なくされたケースも少なくない。2020年9月2日(水)~4日(金)に開催が予定されているゲーム開発者会議「CEDEC(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス)2020」もまた、オンライン開催に移行したカンファレンスのひとつだ。今年のCEDECはどのように開催されるのか、見どころは何か、運営委員会に話を聞いた。

TEXT_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

新委員長の下で開催される初のオンラインカンファレンス

CGWORLD(以下、CGW):お暑い中、お集まりいただきありがとうございました。奇しくも今年から運営委員長が代替わりされましたよね。CEDECがこれまで続いてきた中で、変わってきたものもあれば、変わらないで続いてきたものもある。そうした新陳代謝やこれからの抱負みたいなものも含めて、お伺いできればと思います。まず、新委員長から自己紹介をどうぞ。

  • 齊藤康幸/Yasuyuki Saito
    株式会社ヘキサドライブ
    CEDEC運営委員会・委員長
    hexadrive.jp

齊藤康幸氏(以下、齊藤):CEDEC 2020からCEDECの運営委員長をあずかりました、齊藤と申します。大阪に本社がある、ゲーム開発会社ヘキサドライブの取締役をしています。もともとプログラマー出身で、プロジェクトマネージャも歴任させていただきました。今は東京支社長として、東京支社の統括をしています。

CGW:昨年までは副委員長をされていましたね。

齊藤:はい、副委員長兼セッションWG(ワーキンググループ)のリーダーをしていました。CEDECの委員長は数年単位で代替わりしてきまして、後任として白羽の矢を立てていただきました。前任の委員長を務められたセガの中村樹之さんが、僕と同じくセッションWGのリーダーから委員長になられたこともあり、CEDEC全体を統括する中で適任だろうと。これは個人的な考えですが、CEDECの大型化に伴い、セッション全体を取り仕切ることができる人が、全体を見るのが良かろうと......そんな理由もあったのかなと思っています。

CGW:続いて副委員長の皆さんも自己紹介をお願いします。3人いらっしゃるんですよね。

粉川貴至氏(以下、粉川):副委員長のセガの粉川です。あわせてセッションWGのリーダーもさせていただいています。

  • 粉川貴至/Takashi Kokawa
    株式会社セガ
    CEDEC運営委員会・副委員長
    www.sega.co.jp

CGW:おお、ということは次の委員長ですか?

粉川:いや、どうなんでしょうか。まったくの未定です(笑)。ちなみに、昨年まではセッションWGのグループアシスタントとして、リーダーだった齊藤さんをサポートしていました。その関係がそのまま、委員長と副委員長になった。そして、セッションWGを引っ張ることになった......そんなイメージです。

CGW:会社でのお仕事は何ですか?

粉川:ビルドエンジニアです。ちょっと前まで知る人ぞ知る職種でしたが、最近ようやく日の光が当たってきて、説明しやすくなりました。そのため、CEDECでも長くプロダクション分野の運営に関わることが多かったですね。

河本健太郎氏(以下、河本):バンダイナムコスタジオの河本です。CEDECではインタラクティブWGのグループリーダー兼、セッションWGのサブリーダーとして、主に招待セッションのとりまとめをしています。

  • 河本健太郎/Kentaro Kawamoto
    株式会社バンダイナムコスタジオ
    CEDEC運営委員会・副委員長
    www.bandainamcostudios.com

CGW:河本さんはアーティスト出身ですよね。

河本:はい。もともと背景アーティスト出身で、『テイルズ オブ』シリーズの開発などに携わりました。今は社内でTAの部署を見ています。弊社ではテックと呼ばれるエンジニア系TAの部署とアーティスト系TAの部署があり、それぞれが個別に起ち上がった経緯がありまして、今年からその両者をみるようなポジションになりました。

藤村幹雄氏(以下、藤村):ディー・エヌ・エーの藤村です。副委員長兼、広報WG&イベントWGのグループリーダーとスポンサーシップWGを担当しています。昨年まではセッションWGで粉川さんとアシスタントを担当していましたが、今年から体制が変わる中で、セッションから外れて、広報&イベント&スポンサー分野を担当することになりました。

  • 藤村幹雄/Mikio Fujimura
    株式会社ディー・エヌ・エー
    CEDEC運営委員会・副委員長
    dena.com/jp

CGW:社内では何をされているんですか?

藤村:何になるんでしょうね(笑)。開発職ではないので、社内の開発者のサポートだったり、イベントを開催したり、管理部門に近いところで開発者の支援をしています。

CGW:はじめにCEDECの立ち位置を改めて確認させてください。GDCなどのように企業が主催するものではなく、SIGGRAPHのように学会が主催するものでもなく、業界団体のCESA(コンピュータエンターテインメント協会)が主催するもので、現場のゲーム開発者の皆さんが運営されているカンファレンスなんですよね。

齊藤:そうですね。ゲーム開発の第一線で活躍されている皆さんが集まって運営委員会を構成して、開発者にとって一番価値のあるカンファレンスになるように、議論しながら運営を進めています。

CEDEC 2019基調講演(中島秀之氏/公立大学法人札幌市立大学)

CGW:その上で、準備についてふり返っていただきたいのですが、今年から本当は会場が新しくなるはずだったんですよね。

齊藤:そうなんですよ。昨年まで会場だったパシフィコ横浜の国際会議場は、年々参加者数が増加していることもあり、キャパシティが限界に近づいていました。セッション間の待機列で通路がふさがったり、そもそもセッション会場に入りきらなかったりという問題があり、何とか解決したかったんですが、物理的にどうしようもない、というところに来ていました。

それが今年から「パシフィコ横浜ノース(以下、ノース)」という新しい会議棟ができたことで、そこに会場を移して、物理的な狭さを解消しようと考えていました。

CGW:今までと同じように、大中小のセミナールームがあり、講演などが行われるというイメージでしょうか?

齊藤:そうですね。それに加えて1階が巨大な展示会場になっていて、そこがメインホールの代わりになったり、広いスペースでイベントができたり、というかたちになっています。

CGW:一方でCEDEC 2017からタイムシフト配信も始まりました。

齊藤:会場混雑緩和の一環として、また全国の皆様にオンラインで講演を視聴いただけるように、配信体制を整えました。その一方で、会場まで足を運んでいただく参加者の数は減らないどころか、もっと増えていきました。講演を聴くだけでなく、講演者の方に直接質問したり、参加者同士で交流していただいたり、インタラクティブセッションや企業の展示ブースを見たり、様々なメリットがありますからね。そのため、より広い会場に移るしかない、と決断しました。

スポンサーセッションの内容はYouTubeのCEDECチャンネルで現在も視聴できる)

CGW:昨年度の参加者はどれくらいでしたか?

齊藤:タイムシフトで視聴される方を含めて、3日間で約9,700人です。そのうち実際に会場に足を運ばれる方が約6,000人ですね。もっとも、タイムシフトパスの購入者は、あまり多くありません。というのも、3日間有効なレギュラーパスに、タイムシフト配信の視聴権が含まれているからです。

一方で会場では一度に見られるセッション数が限られますよね。他にスポンサーブースを回ったり、インタラクティブセッションを見たり、といった方もいらっしゃいます。そのため、レギュラーパスで会場を回って、その上でご自宅などでタイムシフト配信を使い、セッションも見るという方が多いようです。

セッション規模は例年並みを維持し、無料セッションも実施

CGW:その一方で、今年はコロナ禍でCEDEC自体がオンラインに完全移行することになりました。この決定はいつごろ行われましたか?

齊藤:国の緊急事態宣言が4月の頭に出ましたが、その前からそうした雰囲気はありました。とはいえ、なかなか踏ん切りがつかなかったのも事実です。それまでノースで開催する予定で、いろいろな準備を進めていましたからね。一方で状況はどんどん悪くなっていって。CEDECの規模を考えると、そろそろ決断しないと難しいだろうと。そうした議論が4月に行われて、ゴールデンウィークで決定して、対外的に正式発表したのが連休明けとなります。

CGW:毎月行われている運営委員会がオンラインに移行したのは、いつごろでしたか?

齊藤:3月が移行期で、4月は完全オンラインになりました。

CGW:オンラインに移行する上で、スポンサー周りの調整が大変だったのではないですか?

藤村:ノースのレイアウトを基に会場配置などを考えて、プログラムもほぼほぼ決まっていました。それがオンラインになるということで、いったん白紙になりました。その上でオンラインでできる協賛プログラムの設定を進めていきました。そのため、ぎりぎりまで各社様にご連絡できなかった......といったことはありました。募集は7月末で締め切りまして、現在は最終調整をしています。オンラインになったことで、当然変動はありましたが、まずまずの状況になったと思います。

CGW:今年はGDCをはじめ、多くのカンファレンスがオンラインに移行しました。何か参考にされたものはありますか?

齊藤:特に参考にしたものはありません。ただ、学校の授業がオンラインになったり、他のオンラインカンファレンスに参加されていた委員の皆様のご意見を聞いたりして、CEDECの運営でも取り込んでいきました。

GDC Summerセッションページ

CGW:セッションはライブで行われるのですか? それとも、事前に録画しておいた講演動画を順次配信していく方式ですか?

粉川:講演者の皆様には、原則としてパシフィコ横浜のライブ会場を行うエリアに来ていただきます。そこからセッションを行う予定です。講演者の皆様のご自宅などから配信するかたちにすると、通信環境や設備でトラブルが発生する可能性がありますからね。ただ、それが難しいという講演者の方には、事前にご用意いただいた録画ビデオを配信するかたちでも構いません、とお伝えしています。また、複数講演者がいるセッションで、一部の講演者だけリモートで講演する、といったものもあります。

CGW:事前に録画されたビデオを配信されるのかと思っていました。GDC Summerはそのスタイルでしたよね。

粉川:そうですね。ただ、その方式だとライブ感に乏しいだとか、動画を制作する負荷が高いといった意見がありました。そのため、大半のセッションはライブになっています。

CGW:ひとくちにオンラインカンファレンスといっても、様々な視聴形態がありますが、CEDECの場合はどうなりますか? 動画ビューアがブラウザに埋め込まれていて、ワンクリックで再生できるといったものになるのでしょうか?

粉川:はい、その予定です。公式サイトのセッションタイムテーブルから直接リンクで飛べるようなかたちを想定しています。いま急ピッチで準備しています。

藤村:公式サイトにある「CEDECの歩き方」というページに、準備ができ次第キャプチャなどを掲載して、視聴方法のご案内を差し上げる予定です。

CEDECの歩き方(公式サイトより)

CGW:オンラインだからできることと、できないことがあります。メリットとデメリットをどのように考えられていますか?

齊藤:世界中どこにいても、またどんな状況でも参加できるのは大きなメリットですよね。そのため参加者の裾野が広がることを期待しています。タイムシフト配信もここ数年続けていますが、まだまだCEDECを知らない人の方が多いんですよね。東京近郊の方であれば積極的に参加しようと思っていただける方もいらっしゃいますが、地方になると認知度が下がります。一方で今年は全セッションがオンラインになるので、全国に認知度を広げるチャンスだと思っています。

デメリットとしては、物理的に直接集まることができないので、コミュニティとしての機能が下がってしまうことですね。セッションに参加された方が、終了後にセッション内容で盛り上がって......といったことが難しくなります。昨年まではCEDEC最終日の夜に、様々な分野の方々の有志懇親会が開催されていましたが、そうしたことも困難です。そういった盛り上がりを損なわないようにしたいと思いつつ、この状況下なので、なかなか難しいのが事実です。

CGW:インタラクティブセッションやブース展示などがなくなってしまうのも残念ですね。

齊藤:そうですね。他にラウンドテーブルやワークショップも、オンライン開催だと難しいと言うことで、今年は見送りました。

粉川:いずれも公募をいただいていましたが、オンライン開催に伴い、申し訳ありませんが......とご説明して、お断りさせていただいた経緯があります。

ラウンドテーブル(左上)、ワークショップ(右上)、インタラクティブセッション(左下、右下)/CEDEC 2019より

CGW:今年の公募数はいかがでしたか?

粉川:具体的な数は公表していませんが、昨年と比べてやや少ない程度です。個人的な感覚としては、もっと少ないだろうと思っていました。実際「コロナで大変なのに、CEDECに応募が来るのかな」と思っていたくらいですから。それから思えば、例年並みの公募が来たというのは、嬉しい誤算でした。同時に例年並みの準備が必要だなと腹をくくりました。

CGW:最終的なセッション数はどうなりましたか?

粉川:前述の通り、インタラクティブセッション、ラウンドテーブル、ワークショップはなくなりましたが、もともとセッション数が多い分野ではないので、全体的なセッション数は例年並みですね。

CGW:招待セッションの数も同じですか?

粉川:基本的には同じかたちで臨みました。ただ、コロナ禍で話が上手く進まなかったものもあり、こちらは少し減っています。

CGW:毎年、公募内容の審査を行うために合宿形式で審査をされているかと思いますが、これはどうやって行われたのですか?

齊藤:オンラインでやりましたね。セッション数が例年とほぼ同じ中で、全てオンラインで審査するのは、けっこう大変でした。

河本:公募そのものもそうですし、公募が通ったあとも、辞退者がもっと出ると思っていたんですよ。ところが、ありがたいことに、ほとんど辞退者がなくて。

齊藤:ただ、これから何が起きるかわかりませんよね。9月に入ったタイミングで、県をまたいだ移動は自粛してほしい、となったときにどうなるか......。いずれにせよ、今の段階ではオンラインといえども、例年並みの規模感で準備を進めています。

CGW:そうなんですね。いろいろと驚きました。でもこの盛り上がっていない感じは何なんでしょう。

粉川:そこはオンラインカンファレンス全体の課題ではないでしょうか? 他の技術系カンファレンスなどでも、気がつかないまま開催が終わっていた......といったものがありました。リアルなカンファレンスだと、参加準備をしたり、海外のものだと渡航準備をしたりと、受講者側の行動にも影響を与えますよね。オンラインカンファレンスだと、そういったことがないぶん、ちがってくるのかなと。

CGW:確かに、リアルイベントならではの「お祭り感」は減ってしまいますよね。

齊藤:なので、この記事が少しでもプラスに働けばいいなと思っています。

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「TA」、「働き方改革」関連のセッションが増加

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「TA」、「働き方改革」関連のセッションが増加

CGW:実際、「CEDECの歩き方」が出て良かったですね。というのも、この記事を読んで初めて、CEDECに無料セッションの枠があることを知りましたから。YouTube Liveで配信される1トラック、20セッションが無料で見られるようになっています。

齊藤:そうなんですよ。CEDECのショウケースということで基調講演や大型タイトルのセッション、学生の皆さんにも注目度が高いペラコンなど、様々な分野のセッションをバランス良く盛り込んだつもりです。

CGW:基調講演が例年の2本から今年は1本となりましたが、これはどういう理由からですか?

齊藤:確かに例年だと、業界内・業界外の2名の方で基調講演が行われていました。そこで今年も調整を続けていて、業界外では東京大学の廣瀬通孝先生にお願いすることになりました。ちょうど東京大学を定年退職でご退官されるタイミングだったことと、コロナ禍ということでテレワークの社会的関心が高まったことで、廣瀬先生のご専門であるVRをテーマにお話いただけることになりました。その後、オンラインカンファレンスになったことで、改めてご確認を差し上げたのですが、その際もご快諾いただけました。

ただ、業界内の方では調整が上手くいきませんでした。基調講演ということで名のあるクリエイターの方に何名かお声がけさせていただきましたが、状況がどんどん変化していく中で上手く折り合いがつかず......。最終的に時間切れということで、今年の基調講演は1セッションのみになりました。

CEDEC 2018基調講演(宮本 茂氏/任天堂)

CEDEC 2009基調講演(富野 由悠季氏/アニメーション監督)

CGW:PlayStation 5とXbox Series Xが年末に発売を控える中で、ハードメーカーによる関連セッションがないことも、今年のCEDECが地味に感じられる点かもしれません。もっとも、これはCEDECだけに限った話ではなくて、GDC Summerでも同様でした。

齊藤:そこはタイミングの問題だと思っています。次世代ゲーム機のセッションについては、ハードメーカーのプロモーション戦略に係わってくることですよね。それにサードパーティの側としても、ゲーム機が発売されて、実際に自分たちがつくったゲームが出てからでなければ、話すことがありませんからね。

CGW:確かにそうですよね。ただ、ハードメーカーのセッションは、良くも悪くも目立ちますよね。それもあって、任天堂関連のセッションの充実ぶりが目立つのかもしれません。

齊藤:はい、CEDEC 2017で行われた『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』関連セッションを皮切りに、例年数々のセッションが行われています。毎年、ものすごい反響があるセッションばかりで、開発者の皆さんに様々な知見が共有されています。今年も『あつまれ どうぶつの森』『リングフィットアドベンチャー』関連の講演が行われる予定です。旬のタイトルで公募いただいていて、大変ありがたいですね。他にハル研究所からも『星のカービィ』関連のセッションが行われます。

CGW:まさに今年のCEDECの目玉のひとつになりそうですね。他に特に推したいセッションはありますか?

粉川:まず全体傾向からいうと、各分野別のバラツキは昨年とさほど変わりません。プラットフォームや扱うトピックについては多少変化がありますが、それはそのまま市場の変化を反映しているのかなと思います。その上で今年のトレンドですが、昨年から運営委員会の方で「キーワード」を付けるようにしました。今年の「キーワード」は「ML(Machine Learning)」、「QA」、「xR」「サーバー」、「働き方改革」、「TA」の6種類で、このうち「働き方改革」、「TA」は今年新たに加わったものになります。

CGW:「セッション一覧」から「フィルタ」機能を使うと、「キーワード」で絞り込み検索ができますね。その結果、「働き方改革」の「タグ」がついたセッションは4本、「TA」だと12本がヒットしました。いずれも、CGWORLD.jpの読者に対して、注目度が高いセッションが並んでいます。この2分野については、運営委員会でも注目してほしいということでしょうか?

粉川:それもありますし、どちらも複数の公募が来て、複数採択されました。それらをまとめるために、新しく2種類の「キーワード」を追加した経緯があります。他に自分の仕事との関連性でいえば、「QA」タグのついたセッションは、いずれもオススメしたいですね。

公式サイトのフィルタ機能でセッション一覧から絞り込みができる

CGW:ありがとうございます。藤村さんはいかがですか?

藤村:特定のセッションというより、スポンサーセッションについて触れさせてもらえればと思います。以前のCEDECのスポンサーセッションは、わりと営業色が強く、公募や招待セッションを見れないから参加するという傾向があったと思うんです。

CGW:参加者の参加優先度が低いセッションが多かったですよね。

藤村:ただ、ここ数年でスポンサーセッションの内容も変化してきています。当然営業の部分もありますが、より深い技術の話や、ゲームの開発ポストモータム的なものであったり。なので、以前のイメージが強い方も多いと思いますが、ちょっとセッション情報の中身を確認してもらえれば良いなと。

CGW:スポンサーセッションにも要注目ということですね。齊藤さんはいかがでしょうか?

齊藤:昨年セッションWGのリーダーをやっていたときから思っていたんですが、AIの導入が開発のスタイルを変えていくながれを感じています。今年のCEDECでも『モンスターストライク』のキャラクターをAIで制作した事例の紹介(「CreativeAI事例〜AIでモンスト風キャラジェネレイターを作ってみた話」)などが予定されています。

CGW:ビジュアルアーツ分野でありながら、「TA」、「ML」タグも付いていますね。

齊藤:今後も重要な部分を人間がつくって、それ以外の部分はAIがつくっていくというながれが増えていくと思います。今は、まさにその端境期にあるんだろうなと。「ML」タグがついたセッションは、まさにそうした開発スタイルの変化の最先端に位置するものばかりだと思いますので、注目してもらえればと思います。「AI」ではなくて、あえて「ML」というタグになっているのも、Machine Learning(機械学習)がまさに旬なトピックになっていると感じるためです。この傾向は数年間続くと思いますので、注目していくと面白いのではないでしょうか。

CGW:次世代ゲーム機の登場に伴って、AIによるアセット制作の自動化がキーワードのひとつになっていますよね。AI関連のセッションは過去10年くらいかけて徐々に増加してきましたが、そうした蓄積が今まさに大きなながれを創り出しているように感じられます。

齊藤:その通りですね。

技術系セッション以外に、アーティスト向けのセッションも充実

CGW:そして最後に、河本さんにビジュアルアーツ分野の注目セッションについて、お伺いできればと思います。

河本:ビジュアルアーツ分野で主担当を務めるセガの麓 一博さんとも話をしていたのですが、ここ数年で3DCGのセルルック表現に関するセッションが増えているんですね。一昨年はPBR(フィジカルベースドレンダリング)が旬なトピックでしたが、昨年はPBR関連のセッションが減って、セルルック表現のセッションが増えました。そして今年は、ますますその傾向が強まっていると思います。

特に今年は、モバイル関連のセルルック表現に関するセッションが増えました。シェーダに関しては4~5年前からありましたが、特に近年ではアニメーションやポストエフェクトに関してもリッチな表現が可能になってきたことが背景にあると思われます。

CGW:スマートフォンの端末スペックが上がってきたことも関係しそうですね。

河本:そうですね。その一方で純粋なグラフィック表現に関するセッションが、近年減っているところもあります。そこで、招待セッションではそのあたりを強めにしました。「デザイン発想に役立つ、西洋甲冑講座」はそのひとつで、15〜16世紀のプレートアーマーをはじめとした西洋の甲冑の構造について、専門家の方にご講演いただきます。

CGW:それはマニアックで、面白そうですね。

河本:もともとCEDECが3DCGの技術系カンファレンスから始まったこともあって、ビジュアルアーツ分野でもTA的なセッションが主流を占めてきました。実際に公募でいただく内容も、テクニカルなものが中心です。そのため今年の招待セッションではバランスを取って......というわけではありませんが、アーティストであったり、アート制作に刺激を与えるようなものを重視しています。「長編ストップモーション映像制作を支える技術」も同様ですね。

CGW:純粋なアーティストでも楽しめるセッションが用意されているわけですね。

河本:そうですね。あまり技術に明るくない方でも興味がそそられるセッションがあると思います。

CGW:チュートリアルが復活したのも興味深いですね。なかなか公募も来ないし、だからこそ採択されないという状況が続いていましたが、今年は6本もセッションが採択されています。

粉川:今年は公募募集時から、各分野ごとにチュートリアルセッションとして求めている内容を明記していました。そのため、例年以上に応募いただくことができました。特にビジュアルアーツ分野では、明記されていた内容を公募でほぼカバーすることができました。

CGW「プロシージャルゲームコンテンツ制作ブートキャンプ 2020 Part 1 モバイルゲーム はじめに」「Part 2 モバイルゲーム 実践」「Technical Artist Bootcamp 2020 :『ToolDev for TA』」ですね。いずれもホットなトピックですし、本分野を目指す学生にとって見逃せないセッションになりそうです。

河本:チュートリアルセッションは、我々のように毎年CEDECに参加しているような人間からすると、ともすれば忘れがちになる部分です。そのためこうしたセッションを通して、新人の方やゲーム業界志望の学生の方に、新しく技術や情報に触れていただく機会を提供したいと思っています。

CGW:一方でタイムシフト配信については、視聴期間の制限を緩和してほしい、あるいは制限を撤廃してほしいという声があるかと思います。実際にGDCの講演セッションの動画が見られるGDC Vaultでは、かなりのセッションが無料で、しかもいつでも見られるようになっていますね。

齊藤:タイムシフト配信の位置づけのちがいなんです。もともとタイムシフト配信は、地方在住などで会場まで足を運びにくい方に向けてセッションを見ていただくための施策として始まりました。つまりタイムシフト配信は、CEDEC参加の補助的な手段という位置づけです。一方で講演者からすると、アーカイブされていつでも動画が見られるものと、会場の中だけで話せる内容とでは、心構えが変わってくるところがあります。基本的に会場まで来て、来ていただいた皆さんにだけお話ししますね、という。その温度感や密度感を変えたくないんです。

ただ、それだけでは物理的に来られない人もいるし、会場混雑の緩和にもつながらない。だったら時限公開しましょう、というところから始まっています。そのため今回も全部オンラインになりますが、時限公開である点は変えていません。講演動画ではなく、ライブ講演を原則としている点も、そのためです。その場で話して、その場で盛り上がって、という熱量の大事さについては、変えたくないなあと思っています。

とはいえ、動画ならではの利便性もありますよね。特に昨年はCEDECの翌週に東京ゲームショウが開催されるというタイミングもあり、タイムシフト配信の期間を1週間ほど延長しました。しかし、延長したことで視聴回数が増えたかというと、そうした傾向も見られなかったんですよ。であれば、CEDEC自体の盛り上がり感というか、お祭り感を薄めないためにも、視聴期間を延ばしたり撤廃したりする判断はどうかなと考えています。

時限公開を撤廃してほしいという声があることも認識していますが、時限公開だから動画の配信を許可いただけている側面もあります。総合的に判断して、時限公開になっています。

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今年はパスがなくても「ペラコン」に参加できる!

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今年はパスがなくても「ペラコン」に参加できる!

CGW:続いて今年度の参加パスなんですが、それまで複数の参加パスがあったものが、CEDEC 2020パスの1種類にまとめられましたよね。一方で価格が43,200円(税込)から33,000円(税込)に引き下げられました。この理由について教えてください。

齊藤:価格については、前述の通りオンラインになり、インタラクティブセッション・ラウンドテーブル・ワークショップができなくなったことから、同じ価格にはできないだろう、という判断がありました。一方でライブ講演を原則として、質疑応答なども実施するというところから、タイムシフトパスと同じ価格にもできない、という考えがありました。そのため、中間を取ったというところです。

CGW:昨年までは、学生のみが購入できるエキスポパスがありましたね。今年はそういった、学生向けのディスカウントがなくなったのが残念です。

齊藤:そうですね。今回は全てオンラインになるということで、シンプルにまとめさせていただきました。また、学生の注目度が高いセッションとして、ペラコン(ペラ企画コンテスト)があるかと思います。こちらについては、セッション自体を無料枠の方に移して、文字通り誰でもご参加いただけるようにしました。

プロとアマチュアが同じテーマで企画を競う「ペラコン」

CGW:CEDEC 2020パスを購入しなくても、ペラコンに参加できるようになったわけですね。

齊藤:はい。ただ、パスの学生ディスカウントが欲しいという声があれば、今後検討したいなと思っています。実際、今年はえいやで決めざるを得ないところがありました。もっとも、来年度どのようなかたちでCEDECが実施されるのか、まだ何も決まっていないのですが......。

CGW:学生にとってみれば、33,000円(税込)という価格だけに目がいってしまって、「無料セッションがある」、「ペラコンに無料で参加できる」ということ自体、あまり知られていないかもしれません。これは教員にとっても同じことが言えます。学生の参加は指導に熱心な教員がいるか否かで決まったりするところがありますので、上手く情報が伝わると良いですよね。

河本:そこはぜひ、この記事でアピールしたいところですね。

CGW:オンラインになることで、参加者数の増減についてはどのように見越していますか?

齊藤:正直いって、そこはわからないですね。先ほどもタイムシフト配信の話がありましたが、現地に足を運びにくい方々に対して、認知度を高める良い機会になるかなと思っています。場所に関係なく、感染状況を気にすることなく、セッションを視聴できますので。まさに今年でなければできない部分だと思います。

CGW:まさにそうですよね。個人的にはタイムシフト配信で十分かなというところがあります。パシフィコ横浜まで行くのがしんどくて(笑)。ただ、スカラーシップなどをやっている手前、学生の引率を考えると、やはり行かざるを得ないというか。もっとも、それもあってセッションが十分に見られなくて、タイムシフト配信の恩恵を受けています。

齊藤:タイムシフト配信がなくなることはないと思います。ただ、オンラインのみにシフトしていくのかというと、やはりメリット・デメリットがあります。そのため両者の良いとこ取りをしていくことになるのかなあ、と思っています。ただ、いずれも新型コロナ問題を踏まえつつ、状況を見ながら判断していくことになりますね。

CGW:確かにそうですね。

齊藤:今年はコロナ禍で、働き方改革をはじめ、それまで当たり前だったことが、どんどん変わっていっていますよね。我々も同様に、これをきっかけに、より良いCEDECにしていきたいと思っています。

CEDECの認知度を高めつつ、若手をCEDECに呼び込みたい

CGW:他に細かいところですが、今年はCEDEC AWARDSで著述賞の選出基準が見直されることになりましたね。これはどういった理由ですか?

齊藤:公式ホームページにも書かれていますが、もともと著述賞は「現役開発者が書籍を書くことを賞賛し、奨励する」という意味合いがありました。それが回を重ねるごとにだんだんと意味合いが薄まってきて、業界に貢献されている著述家全般に広がってきたところがありました。

CGW:CEDEC 2016でCGWORLDが著述賞をいただいて、一番驚いたのが編集部だったという。

齊藤:そんなこともありましたね。ただ、CEDECはやはり「開発者の開発者による開発者のためのカンファレンス」なので、著述賞についても前面に押し出していこうと。そこで、選択基準を明確化することにしました。ちょうどコロナ禍でテレワークが広がって在宅で仕事をする機会が増え、通勤時間がなくなったタイミングでもあるので、その時間を本を書くことにも充ててほしいなと。そこで来年に向けて、賞そのものを見直そうと。

CGW:顕彰の俎上に上がった本はありましたか?

齊藤:何冊かありましたし、いずれも素晴らしい内容でした。ただ「現場の開発者が書いた本」から離れた本も上がってきて、基準について意見が分かれた、という感じでしょうか。そこで、いったん仕切り直した方が良いよねと。

CEDEC 2009著述賞/平山 尚氏(「ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術」)

CGW:一方でCEDEC AWARDSのエンジニアリング部門の優秀賞で、技術書典運営チームが顕彰されていますね。これがなんというか、皮肉な話で。みんな本は書かないけれど、同人誌は書くんだと。

河本:そういった部分も議論になりました。著述賞の対象に同人誌を含めるのか。電子書籍はどうするのか......。いずれも来年に向けた課題ですね。「著述賞って何だろう」ということに、真剣に向き合わないといけない時期に来ているなと。それで今年は見送らせていただきました。

CGW:それでは齊藤さんから改めて、CEDEC 2020に対する意気込みや、新委員長に就任されての抱負などについて、ひとことお願いします。

齊藤:今まで話したことと被りますが、今年はオンライン開催になりましたので、CEDECの認知度ををもっと広げていきたいなあと思っています。その上で、CEDECについて日本のゲーム開発者があまねく知っている状態になり、そこから参加してもらって、講演してもらって......そんなながれを推し進めていきたいですね。実際、講演する側に回ると、世界が変わるんですよ。それは講演した人でなければわからなくて。講演することで、同じ課題をもっている人から反響があったり、つながったり、コミュニティができたりしますので。

実際、コミュニティってすごく重要だと思うんですね。いまどきゲーム開発者が、技術を1人で磨いてという時代ではありませんから。そんなとき、近しい属性の人と関係性をもっていくことは、SNS時代の中ですごく重要です。そうした場を提供することが、CEDECの大きな役割のひとつだと思っています。そうした役割を僕が委員長をやっている間に、もう少し強めていきたいですね。

CGW:CEDECの認知度はどれくらいだと思いますか?

齊藤:日本のゲーム開発者でCEDECに参加した経験がある人は、多分1割以下だと思います。ゲーム開発者の定義にもよりますが、インディも含めて5万人以上、10万人未満といったところではないかと。それから考えると、まだ1割にも届いていないんじゃないかなあ。そう考えると、まだまだ伸びしろがあるんじゃないかと。

CGW:ひとくちに日本のゲーム開発者といっても、いろいろな人たちがいますよね。業界歴20年以上のベテランで、CEDECを年に1回の同窓会と捉えている人たちから、まだ業界1年生で、CEDECで憧れのクリエイターに会えてうれしいといった人たちまで、千差万別です。その中でも、特にこういった方々に参加してほしい、といったイメージはありますか?

齊藤:入社して2~3年経って、ある程度社内のことや、自分の仕事がわかってきて、もうひと皮剥けたい......そういった若手と呼ばれる層に、もっと参加してもらって、刺激を受けてほしいと思います。まだ入社したばかりだと、せっかくCEDECに参加しても、右も左もわからないで終わっちゃう可能性があります。でも2~3年経てばそれなりに視野も広がってきます。

そんなときに、業界としてどんな課題があって、何に興味をもって仕事に取り組んでいるのか、といった最先端の事例がCEDECで共有されると思うので。そういう人たちが活発に、自分の知見を上げていくために来てもらって。その上で知見を会社にもち帰ってもらって。そういう動きができるのが若手の役割だとも思うので。

CGW:なるほど。

齊藤:CEDECはトップカンファレンスなので、けっこう難しい話が多かったりもしますし、ベテランじゃなきゃ参加できないのかなと思う人も、一時期は多かったと思います。でも、そんなことはないので。ある程度自分の仕事が確立されてきた若手の人たちが、積極的に参加してきてほしいなあと思います。