>   >  XFLAGが贈るUnity制作の世界向けショートアニメーション『XPICE』制作インタビュー、XFLAG・Spooky・MARZA3社とSCANDALがコラボ
XFLAGが贈るUnity制作の世界向けショートアニメーション『XPICE』制作インタビュー、XFLAG・Spooky・MARZA3社とSCANDALがコラボ

XFLAGが贈るUnity制作の世界向けショートアニメーション『XPICE』制作インタビュー、XFLAG・Spooky・MARZA3社とSCANDALがコラボ

<3>Cinema 4Dで作成した背景の原型をUnity上で構築する

CGW:舞台設定についてもお伺いします。"香京(コウキョウ)"はどのようなコンセプトでしょうか?

加藤:キャラクター同士の個性がかけ合わさり、共闘することをテーマにしているので、"香京"という街も様々な個性がひしめき合っている反面、個性が混在するが故に争いも生じている、といったカオスな世界にしたいなと考えました。ちょうど、現実世界の渋谷に近いイメージですね。いろんな文化が混ざり合い、そこから新しいものが生まれている。「個性のひしめき合い」という部分をスパイスというモチーフでデフォルメしスタイリッシュなアートスタイルで表現したのが本作の"香京"です。

"香京"美術設定の例

ハヤシ:ゲームやアニメでは渋谷のスクランブル交差点や109をモチーフにした舞台がよく登場すると思うのですが、今作ではミクシィさんのオフィスがある渋谷スクランブルスクエアといった新たなランドマークを中心にしてみたら、新しいカオスな渋谷をつくれるのではないかと考えました。

CGW:現実の渋谷から"香京"にするにあたってこだわられた部分は?

ハヤシ:もちろん現実の渋谷そのものではありませんが、スクランブルスクエアやヒカリエといったビルからインスパイアされ、デフォルメした部分もあります。サイネージを用いた街のカオスな雰囲気にもこだわりましたね。一番難しかったのは、カオスにしたいけれども、同時にアートディレクターとしては統一感をもたせなければならなかったことです。実写作品でしたら、多様な種類の看板をもってきても成立するのですが、こうしたアニメーション作品ではある程度の統一感が必要ですから。

CGW:あまりにもチグハグだと視聴者が観たときに気持ち悪いと。

ハヤシ:そうなんです。アートディレクションされていない世界観に見えてしまう。それと相反するカオス感のバランスに悩みました。全体的にはビビッドな配色を施し、色彩豊かな世界として統一していますが、ディテールにおいては、関わってくれた4人のデザイナーが、各々自分の中で多様性を出してもらって、カオスな街を表現してもらっています。まだ十分にやりきったとは言えないので、今後チャンスがあれば、さらに広げていってみたいですね。

CGW:背景制作におけるUnityの使い方はいかがですか?

中井:今回、ワークフローとしては先にUnityにもっていかずに、デジタルアーティストチームKhakiの横原大和さんにCinema 4Dで原型をつくっていただいてから、Unityで再現した形でこのマップを組んでいます。というのも、1からUnityでつくるとブレが生じやすくなるし、横原さんのように上手な方がおられるなら、最初にお願いしてUnityで再現する方が、結局は近道だろうと。

CGW:背景の部分で省力化した部分はありましたか?

中井:最初は描き割りでいこうと考えたカットも多くあったのですが、統一感を出す上で基本的にはUnityで3Dとしてつくりました。数ショットだけ描き割りもあります。後半のチェイスシーンは要素が多いせいもあって、メモリが足りなくて、現場が大変だったみたいです。通常案件のシーンなら数秒でキャプチャできるのに対し、数分かかったということです。

Unityによる背景制作

CGW:舞台について加藤さんからリクエストされたことは?

加藤:ワサビが最終的に自分の殻を破って新たな境地に達する成長の物語を描きたかったので、最初と最後でガラッとビジュアルが異なるようにしたいという構想がありました。最後は丘のシーンなのですが、あそこは彼らが普段属している社会の枠からは外れた、自分たちで開拓した場所というイメージにしたかったんです。思いを貫いた結果、フェンスを突き破って、つまり枠を広げて、そこに達するようなイメージでと、オーダーさせてもらいました。

ハヤシ:あと、サイネージに書かれている文字にもこだわりましたよね。

加藤:架空の商品のサイネージについてもハヤシさんと細かく詰めていきましたね。今回のお話ではメインキャラクターは2人だけですが、ほかにも住んでいる人はいて、それぞれスパイスが効いた人たちなんだろうなと想像して、スパイスから連想されるような商品名やキャッチコピーをつくっています。あたかもそこに人々の営みが存在しているかのように、広告としてのリアリティを重視しながら、自然なかたちに整えていきました。

ハヤシ:本当にたくさんの種類をつくりましたよね。

加藤:そういう風にひしめき合っている世界がきっと魅力的なものになるだろうなと思ったので、最終的にご苦労をかけましたが、良いかたちにまとまったと思います。

<4>音楽の力で磨き上げられた演出の数々

CGW:女性4人組アーティストSCANDALさんが本作品をイメージして描き下ろした新曲『SPICE』を制作されました。この音楽と映像との"掛け合わせ"はどのようにして生まれたのでしょうか?

加藤:「勇気と理解」の物語を描く上で、短い尺の中でテーマを表現するには音楽の力は不可欠でした。そこで、楽曲・歌の力も借りてテーマを語るのはどうかという意見が出て、議論した結果ミュージックビデオ形式になりました。

CGW:SCANDALさんにはどのような資料をお渡しされましたか?

加藤:まず最初に「観てくれた人の背中を押すような作品にしたい」という、この作品に込めた思いをお伝えしました。その上で、ラフの段階のキャラクター画像と共にVコン(ビデオコンテ)をお渡ししました。テーマの設計や、主人公がこういう葛藤を抱えていて、それを克服していく物語であるということを説明して、楽曲制作に取りかかっていただきました。それが昨年の10月頃ですね。

中井:セリフがないので音楽が映像の代名詞という状態。ワサビの部屋の中でのエモいシーンとか、後半のチェイスシーンでの疾走感からの最後の盛り上がりまで、本当に見事にマッチしていました。節目節目がシンクロしているので、そこを観てもらいたいですね。そこが気持ち良さにつながっているところだと思います。

ハヤシ:楽曲を聴いたところ、まさにこのプロジェクトにぴったりの歌詞とメロディですごいなと。何回も観ていただくと、この歌詞だからこの画なんだという気づきもたくさん出てくると思います。

加藤:楽曲が感情の波をつくって引っ張っていってくれるので、それに合わせてフレーム単位でこだわって編集していきました。また、歌詞で表現してくれたことによって、きっとこのキャラクターはこういう感情だろうと、より膨らませてくれた気がします。楽曲から受けた印象で映像をチューニングした部分もけっこうあります。例えば劇中の山場、ワサビが覚醒して自分の力に驚くシーンでは、「どこまで行けるかなんて分からないけど 僕に何ができるかなんて分からないけど」という歌詞の部分になります。そこは当初、ワサビが立ち上がるだけだったのを、自分の力を確かめるような仕草にしたりと、楽曲からのインスピレーションでかなり調整を加えていきました。

CGW:セリフがない映像づくりにおいて、従来と異なる点はどんなところでしたか?

中井:ミュージッククリップ的な映像なので、観ていて気持ち良いカットの構成と動きにすることを意識しました。最初にレッドペッパーが出てきてアクションをする場面は、ハヤシさんからもアドバイスをいただいて膨らませていきました。ミュージッククリップらしいカメラの気持ちの良さやスピード展開に的を絞って、アニメーターと考えていきました。

ハヤシ:物語の根幹となるストーリーボードはMARZAさんにつくっていただき、それを元によりカッコ良く見せられるようなレイアウトを提案させていただきました。

レイアウトの例

中井:確かなクオリティアップにつながりましたね。格好良い構図にしていただけて助かりました。

加藤:あとは感情表現ですね。物語の最初と最後でワサビが笑顔でサムズアップするのですが、最初は自信をもてなかったワサビが、最終的には自信をもてるようになったという対比表現です。表情も腕の突き出し方もちがえば、笑顔の意味もまったくちがいます。こういったキャラクターの繊細な感情表現についてはセリフが無い分一層こだわりましたね。

中井:実感として、そういう部分は日本人のスタッフの方が上手かったですね。北米圏の外国人アーティストはガッカリするときは思いきりガッカリするアニメーションを付けてしまいがちでした。リアクションが大きいお国柄だからですかね?(笑)。

次ページ:
<5>リミテッドアニメーションの長所を3DCGに融合させる工夫

Profileプロフィール

左から、監督:中井 翼(MARZA ANIMATION PLANET)、プロデューサー兼クリエイティブ・ディレクター:加藤博昭(XFLAG)、アート・ディレクター:ハヤシヒロミ(Spooky graphic

スペシャルインタビュー