XFLAGが贈るUnity制作の世界向けショートアニメーション『XPICE』制作インタビュー、XFLAG・Spooky・MARZA3社とSCANDALがコラボ

『モンスターストライク』XFLAG(ミクシィ)による新たなクロスクリエイティブプロジェクトがスタートした。その第1弾が2020年7月15日にXFLAG ANIME公式YouTubeチャンネルで公開された『XPICE』(エクスパイス)だ。"クロスクリエイティブ"と銘打つように、XFLAGとSpooky graphicMARZA ANIMATION PLANETが企画・アートディレクション・アニメーション映像制作でトライアングルを組み、そこに女性4人組アーティストSCANDALが本作用に書き下ろしの楽曲でコラボしたこのショートアニメーション。世界に向けたこの映像プロジェクトの企画から演出までを本作のキーパーソン3名に聞いた。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

XPICE - An Original Animated Short / SCANDAL - SPICE

左から
監督:中井 翼/Tsubasa Nakai(MARZA ANIMATION PLANET
主な作品歴に『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』(2013)セット&プロップスーパーバイザー、『バイオハザード:ヴェンデッタ』(2017)CGディレクターなど。ゲームシネマティックスにおける演出も務めている
プロデューサー兼クリエイティブ・ディレクター:加藤博昭/Hiroaki Kato(ミクシィ/XFLAG
テレビ局関連の制作会社でWebデザインを担当。アプリ・ゲーム開発会社を経て2014年ミクシィ入社。参画当初よりモンストのUI設計やキャラクターアート、演出を手がけ、XFLAG におけるデザイナーの組織づくりに携わる。ミクシィ デザイン本部 本部長
アート・ディレクター:ハヤシヒロミ/Hiromi Hayashi(Spooky graphic
1996年、ゲーム制作会社にて3DCGと出会い、以降数々のゲームムービーやTVアニメ、劇場映画などの制作に参加。2003年よりデザインチーム「Spookygraphic」を結成。同社代表とアートディレクションを務める

<1>ユニバーサルな魅力あふれるキャラクターと世界観を

CGWORLD(以下、CGW):まずは本作の企画の経緯から教えていただけますか?

加藤博昭氏(以下、加藤):XFLAGは『モンスターストライク』をはじめとする、友だちや家族とみんなでワイワイ楽しめるエンターテイメントを発信することを目的としたミクシィのブランド(事業体)になります。ミクシィは「豊かなコミュニケーションを届ける会社」なので、コミュニケーションについての物語をアニメーションでつくりたいという思いが最初にありました。当社にはすでに『モンスターストライク』というIPがありますが、新たに世界へ向けた作品を届けたいという思いから、企画を立ち上げました。今回の『XPICE』を一緒につくり上げてくださったMARZA ANIMATION PLANETさん、Spooky graphicさんとは『モンストアニメ』の制作でもご一緒しており、また3社の力を掛け合わせたら何か良いものができるのではないかと思い、お声がけしたのが、今回のプロジェクトのスタートです。

ハヤシヒロミ氏(以下、ハヤシ):以前、当社アーティストのフジサワトミオが描いたスパイスをモチーフとしたキャラクターのアートワークを加藤さんにお見せしたところ、とても気に入ってくださったんです。これが今、ちょうど世界で重要なテーマとなっている多様性にピッタリだと。それが今回の『XPICE』の原型へとつながっていきました。

加藤:当社とSpookyさんのデザインチームとの間で、どういうテーマでストーリーにしていきたいかというプロットづくりをしていたのが2019年の春頃。そこからキャラクターごとの個性をつけるための性格や設定を深堀りしていきました。

CGW:ビジュアルコンセプトについてはどのように考えましたか?

加藤:キーワードとしてあったのは、「わかりやすさ」と「親しみやすさ」。世界中に届けたい作品ですので、国や文化を問わず親しんでもらえるようなビジュアルにしたい、という考えが最初からありました。

ハヤシ:このビジュアルワークを最初につくったのは4年くらい前です。それから世の中では『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)や『プロメア』(2019)といった作品が発表され、これまでとは異なったルックの作品が評価される時代になりました。自分たちも新しいルックの作品を世に出したいと考えていたのですが、発表できる場がありませんでした。そうしたなか、今回の『XPICE』では自分たちが得意とする表現でチャレンジさせていただき、とても嬉しかったです。

イメージボードの例

CGW:多様な個性をもったスパイスをモチーフとしているキャラクターだからこそ、ユニバーサルな視聴者に届きやすそうですね。

ハヤシ:はい。自分はグローバル市場に向けて作品を提供する、という部分に共感してこのプロジェクトに携わりたいと感じていましたので、グローバルな視点で共感を得られるデザインを心がけてキャラクターづくりを進めていきました。日本の視聴者だけではなく、世界中の方が観ても楽しめる作品になったと思います。

レッドペッパー【上】とワサビ【下】のキャラクター設定例

中井 翼氏(以下、中井):自分が関わったのはデザインとテーマが決まった、昨年の8~9月頃からになります。以前からミュージックビデオは好きでしたし、演出家として挑戦したいジャンルでありましたので、ぜひともと参加し、そこからシナリオを一緒に開発していきました。そのなかで加藤さんが表現したいこととして打ち出したのは、「勇気」と「理解」というキーワード。これを短いバトルエンターテインメントの中で伝えるには、どのように表現していくのが最良かという議論を進めていきました。

加藤:まず、観た人に楽しんでいただいた上で何か受け取ってもらえる作品になればと考えました。今回の『XPICE』ではレッドペッパーとワサビというキャラクターが登場し、相互に理解し合った上で共に戦うというストーリーです。そこで、相互理解を達成するまでをどのように描くか、また、達成するためにはどのような感情と行動があるのかを分解していきました。まず、自分らしさというものを理解することが難しいし、それを知ったところで表に出すということも勇気のいることですよね。逆の立場から見ると、他人のことを理解することも難しいし、理解したいと思っていても、無自覚に偏見の目で見てしまっていたりもする。であれば、それぞれの難しさに立ち向かって、それを克服する様子を描いたら、観る人に勇気を与えたり、他者への理解を後押しするような作品になるのではないかと。

キャラクターデザイン画より

中井:ストーリーの中で一番伝えたかったのはワサビの成長。表情はキャラの命なので、そこに時間を使いましたね。

ハヤシ:表情については、細かなアートワークを提出したところ、MARZAさんにとても生き生きとした表情をつくっていただけたのが嬉しかったです。

加藤:そういった感情の機微を大切にしているのも、MARZAさんにお願いしたいと思ったポイントのひとつなんです。ディズニーやピクサーの作品に通じるような豊かな感情表現もMARZAさんの強みだと思っていますので。

中井:今回のようなルックはシワが出ないので、そのなかで表情を上手く表現するのはチャレンジングでした。ただ、ハヤシさんのチームの方からたくさんのリファレンスをいただいて、それを基に追求していったので、私たちとしても非常に勉強になりました。

<2>多展開を可能にするUnityでのアニメーション制作

CGW:今回、アニメーション制作ツールとしてUnityを導入したとのことですが、その意図を教えてください。

加藤:XFLAGとしてはゲームやアニメなど様々な媒体にコンテンツを展開しているので、そういった多面展開を見据えたコンテンツ制作の技術基盤となるようなものをUnityでつくれないかと考えました。例えばアセットをUnityでつくっておけば、ゲーム化したりネットの生配信のコンテンツといったところにも、応用が利かせやすいわけです。MARZAさんがUnreal EngineやUnityといったゲームエンジンを使って映像制作をすることに非常に長けていることは知っていたので、一緒に取り組んでいくことで、何か吸収できないかという考えがありました。

中井:MARZAとしても時代のニーズに応えてつくり方を変えていかなければという考えのもと、数年前にリアルタイムのチームが立ち上がりました。『THE GIFT』(2016)や『PEAK』(2019)といったオリジナルコンテンツでショットをつくってきたのですが、今回の作品は2Dテイストのルックで、ツール的にもマッチしていたと思います。ゲームエンジンはアセットやシェーダがすごく充実しているので、制作効率を高める上でも役立ちました。

"THE GIFT" (created using "MARZA Movie Pipeline for Unity") 本編

[4K]THE PEAK

ハヤシ:リアルタイムで最終結果が確認できるようになると、完成のイメージも早く共有出来ますし、制作効率も上がりますよね。

中井:UnityもUnreal Engineも進化が目覚ましくて、いずれゲームエンジンが追いつき、追い越していくだろうなと感じています。そういう意味で先行投資をしてナレッジを増やしていくことは映像業界として、とても大切なことだと思います。

加藤:MARZAさんとは今回のプロジェクトの以前に、Unityを使ってハイクオリティなCGがつくれるかという、検証のムービーを一緒につくらせてもらったことがあって、その積み上げもありました(※1)。その際、視聴に耐えるハイクオリティなものになっていたので、これでしっかりコンテンツをつくったら効率の面でもクオリティの面でもすごく良いものになると思いましたし、追求していくべきだという手応えを感じました。ちなみに、このときのキャラクターデザインもSpookyさんでしたね。

※1:【Unite Tokyo 2018】XFLAG スタジオにおける資産の有効活用術 ~いかにして数万アセットを管理したか?~

中井:商業用としては『XPICE』が初ですから、当社としても挑戦でした。

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<3>Cinema 4Dで作成した背景の原型をUnity上で構築する

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<3>Cinema 4Dで作成した背景の原型をUnity上で構築する

CGW:舞台設定についてもお伺いします。"香京(コウキョウ)"はどのようなコンセプトでしょうか?

加藤:キャラクター同士の個性がかけ合わさり、共闘することをテーマにしているので、"香京"という街も様々な個性がひしめき合っている反面、個性が混在するが故に争いも生じている、といったカオスな世界にしたいなと考えました。ちょうど、現実世界の渋谷に近いイメージですね。いろんな文化が混ざり合い、そこから新しいものが生まれている。「個性のひしめき合い」という部分をスパイスというモチーフでデフォルメしスタイリッシュなアートスタイルで表現したのが本作の"香京"です。

"香京"美術設定の例

ハヤシ:ゲームやアニメでは渋谷のスクランブル交差点や109をモチーフにした舞台がよく登場すると思うのですが、今作ではミクシィさんのオフィスがある渋谷スクランブルスクエアといった新たなランドマークを中心にしてみたら、新しいカオスな渋谷をつくれるのではないかと考えました。

CGW:現実の渋谷から"香京"にするにあたってこだわられた部分は?

ハヤシ:もちろん現実の渋谷そのものではありませんが、スクランブルスクエアやヒカリエといったビルからインスパイアされ、デフォルメした部分もあります。サイネージを用いた街のカオスな雰囲気にもこだわりましたね。一番難しかったのは、カオスにしたいけれども、同時にアートディレクターとしては統一感をもたせなければならなかったことです。実写作品でしたら、多様な種類の看板をもってきても成立するのですが、こうしたアニメーション作品ではある程度の統一感が必要ですから。

CGW:あまりにもチグハグだと視聴者が観たときに気持ち悪いと。

ハヤシ:そうなんです。アートディレクションされていない世界観に見えてしまう。それと相反するカオス感のバランスに悩みました。全体的にはビビッドな配色を施し、色彩豊かな世界として統一していますが、ディテールにおいては、関わってくれた4人のデザイナーが、各々自分の中で多様性を出してもらって、カオスな街を表現してもらっています。まだ十分にやりきったとは言えないので、今後チャンスがあれば、さらに広げていってみたいですね。

CGW:背景制作におけるUnityの使い方はいかがですか?

中井:今回、ワークフローとしては先にUnityにもっていかずに、デジタルアーティストチームKhakiの横原大和さんにCinema 4Dで原型をつくっていただいてから、Unityで再現した形でこのマップを組んでいます。というのも、1からUnityでつくるとブレが生じやすくなるし、横原さんのように上手な方がおられるなら、最初にお願いしてUnityで再現する方が、結局は近道だろうと。

CGW:背景の部分で省力化した部分はありましたか?

中井:最初は描き割りでいこうと考えたカットも多くあったのですが、統一感を出す上で基本的にはUnityで3Dとしてつくりました。数ショットだけ描き割りもあります。後半のチェイスシーンは要素が多いせいもあって、メモリが足りなくて、現場が大変だったみたいです。通常案件のシーンなら数秒でキャプチャできるのに対し、数分かかったということです。

Unityによる背景制作

CGW:舞台について加藤さんからリクエストされたことは?

加藤:ワサビが最終的に自分の殻を破って新たな境地に達する成長の物語を描きたかったので、最初と最後でガラッとビジュアルが異なるようにしたいという構想がありました。最後は丘のシーンなのですが、あそこは彼らが普段属している社会の枠からは外れた、自分たちで開拓した場所というイメージにしたかったんです。思いを貫いた結果、フェンスを突き破って、つまり枠を広げて、そこに達するようなイメージでと、オーダーさせてもらいました。

ハヤシ:あと、サイネージに書かれている文字にもこだわりましたよね。

加藤:架空の商品のサイネージについてもハヤシさんと細かく詰めていきましたね。今回のお話ではメインキャラクターは2人だけですが、ほかにも住んでいる人はいて、それぞれスパイスが効いた人たちなんだろうなと想像して、スパイスから連想されるような商品名やキャッチコピーをつくっています。あたかもそこに人々の営みが存在しているかのように、広告としてのリアリティを重視しながら、自然なかたちに整えていきました。

ハヤシ:本当にたくさんの種類をつくりましたよね。

加藤:そういう風にひしめき合っている世界がきっと魅力的なものになるだろうなと思ったので、最終的にご苦労をかけましたが、良いかたちにまとまったと思います。

<4>音楽の力で磨き上げられた演出の数々

CGW:女性4人組アーティストSCANDALさんが本作品をイメージして描き下ろした新曲『SPICE』を制作されました。この音楽と映像との"掛け合わせ"はどのようにして生まれたのでしょうか?

加藤:「勇気と理解」の物語を描く上で、短い尺の中でテーマを表現するには音楽の力は不可欠でした。そこで、楽曲・歌の力も借りてテーマを語るのはどうかという意見が出て、議論した結果ミュージックビデオ形式になりました。

CGW:SCANDALさんにはどのような資料をお渡しされましたか?

加藤:まず最初に「観てくれた人の背中を押すような作品にしたい」という、この作品に込めた思いをお伝えしました。その上で、ラフの段階のキャラクター画像と共にVコン(ビデオコンテ)をお渡ししました。テーマの設計や、主人公がこういう葛藤を抱えていて、それを克服していく物語であるということを説明して、楽曲制作に取りかかっていただきました。それが昨年の10月頃ですね。

中井:セリフがないので音楽が映像の代名詞という状態。ワサビの部屋の中でのエモいシーンとか、後半のチェイスシーンでの疾走感からの最後の盛り上がりまで、本当に見事にマッチしていました。節目節目がシンクロしているので、そこを観てもらいたいですね。そこが気持ち良さにつながっているところだと思います。

ハヤシ:楽曲を聴いたところ、まさにこのプロジェクトにぴったりの歌詞とメロディですごいなと。何回も観ていただくと、この歌詞だからこの画なんだという気づきもたくさん出てくると思います。

加藤:楽曲が感情の波をつくって引っ張っていってくれるので、それに合わせてフレーム単位でこだわって編集していきました。また、歌詞で表現してくれたことによって、きっとこのキャラクターはこういう感情だろうと、より膨らませてくれた気がします。楽曲から受けた印象で映像をチューニングした部分もけっこうあります。例えば劇中の山場、ワサビが覚醒して自分の力に驚くシーンでは、「どこまで行けるかなんて分からないけど 僕に何ができるかなんて分からないけど」という歌詞の部分になります。そこは当初、ワサビが立ち上がるだけだったのを、自分の力を確かめるような仕草にしたりと、楽曲からのインスピレーションでかなり調整を加えていきました。

CGW:セリフがない映像づくりにおいて、従来と異なる点はどんなところでしたか?

中井:ミュージッククリップ的な映像なので、観ていて気持ち良いカットの構成と動きにすることを意識しました。最初にレッドペッパーが出てきてアクションをする場面は、ハヤシさんからもアドバイスをいただいて膨らませていきました。ミュージッククリップらしいカメラの気持ちの良さやスピード展開に的を絞って、アニメーターと考えていきました。

ハヤシ:物語の根幹となるストーリーボードはMARZAさんにつくっていただき、それを元によりカッコ良く見せられるようなレイアウトを提案させていただきました。

レイアウトの例

中井:確かなクオリティアップにつながりましたね。格好良い構図にしていただけて助かりました。

加藤:あとは感情表現ですね。物語の最初と最後でワサビが笑顔でサムズアップするのですが、最初は自信をもてなかったワサビが、最終的には自信をもてるようになったという対比表現です。表情も腕の突き出し方もちがえば、笑顔の意味もまったくちがいます。こういったキャラクターの繊細な感情表現についてはセリフが無い分一層こだわりましたね。

中井:実感として、そういう部分は日本人のスタッフの方が上手かったですね。北米圏の外国人アーティストはガッカリするときは思いきりガッカリするアニメーションを付けてしまいがちでした。リアクションが大きいお国柄だからですかね?(笑)。

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<5>リミテッドアニメーションの長所を3DCGに融合させる工夫

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<5>リミテッドアニメーションの長所を3DCGに融合させる工夫

CGW:監督として、本作におけるチャレンジは何でしたか?

中井:この作品ではリミテッドのアニメーションをしているのですが、自分としてはあまりしたことがなかった表現手法でしたので、そこがチャレンジでした。コストを抑えるために自動で1コマ抜くというようなことは、MARZAとしてはやっていましたが、今回は逆にコストをかけてコマ抜きをすることで格好良くみせるという手法なんです。そうすることで、フルコマにはない映像の面白さが出たと思います。

CGW:3Dでありつつ、日本のアニメらしい感じが出る映像に。

中井:そう。それもラインを出して単純に作画を再現したようなCGアニメではなく作画とCGの良さを両立させた画面。自分自身で見たいような画づくりができたと思うし、昔からアニメが好きな人にも好んで見ていただけるスタイルに仕上げられた自信があります。

ハヤシ:ルックでも動きでも、作画アニメを模倣しているわけではないし、3DCGの良さも出ている。いわゆるピクサーのアニメーションの方法とも異なるかたちで。

中井:日本のアニメをどう3Dに落とし込むかを考えたときに、この新しいスタイルができたという感じですね。

加藤:ピクサーのような作品に同じような表現で対抗するのではなく、日本のアニメーションがもっているリミテッド表現などの要素を組み合わせて、新しい表現にすることで、海外の人たちにも新鮮さをもって届けられるのではという考えです。

中井:演出でもセルアニメ(2Dアニメ)っぽい表現を使ってるんです。パンチのときの過剰な演出とか、集中線を多用するところとか、これは日本人としてやらなくちゃいけない演出でしょうと(笑)。

加藤:リミテッドアニメーションの良さって、適切な情報量のコントロールにもあると思うんです。今回のキャラクターのルックもフラットめで、そこまで情報量が多くない。アニメーションでもコマを抜くことでメリハリがついて、観てほしい画に集中させることができる。今回の手法として3DCGでありながらリミテッドアニメーションだったのは、とても適切だったと思います。

CGW:日本のアニメらしいエフェクトがこの映像に溶け込んでいるのがまた良かったです。

中井:会社の人に見せたときもエフェクトについての話が第一声に出るんですよ(笑)。それくらい魅力があるものだと思います。2DエフェクトアーティストのRapparuさんは以前から注目していた方で、いつかお願いしたいなと思っていました。

ハヤシ:Rapparuさんはレイアウトで示したイメージを大幅に超えてくるのがスゴいですよね。CGアニメと作画エフェクトの融合はとても見ごたえあるものになりました。

中井:これもひとつチャレンジだったんですよ。HoudiniもあるしUnityもあるし、手描きもあるしで上手く馴染ませることができるかなと心配でしたが、最終的に上手くいきました。

CGW:そしてエンディングには新しいキャラクターたちも登場していました。今後の展望について教えてください。

加藤:あれは予告、というより、本編で描ききれなかったXPICEの世界の構想があふれ出てしまったという認識をしていただければと(笑)。もちろん今回の作品を大勢の方が観ていただければ、次の展開へも検討できます。僕らとしては、エンディングに出てくるキャラクターたちを主人公にしたまた別の物語をつくったりして、今後も何かしらの展開をして『XPICE』の世界を広げていきたい考えです。今回この3社+SCANDALさんと一緒にやらせてもらってすごく良いコラボレーションができたと思っています。作品テーマである「理解して共に戦う」を、まさにプロジェクト全体で体現できたと思っていて、それを今後も継続していきたい考えですので、みなさんに応援していただければと思います。ちなみに、劇中でワサビが緊急招集されるときのスマホケースなどのグッズも制作しました。こちらも気に入っていただけると嬉しいです。