働き方の多様性がクリエイティブな人材を呼び寄せる
CGW:クリエイティブな業務に加えて、CG業界でもゲーム業界でも多くの企業が悩んでいる点として新人研修があります。御社ではどのように取り組まれましたか?
広報:今回の制度は全社員に一律適用されるわけですが、2021年度の新入社員についても同様です。ただ、入社初日からいきなりオフィスベースとホームベースのどちらかを選べと言われても難しいと思うので、ある程度状況を見て、といったかたちになると思います。
野末:うちの部署でも、対面でのコミュニケーションがゼロになる......、といったことはないと思います。どういったやり方が良いかをこれから模索していくことになるでしょう。
ただ、僕が効率的に考えすぎているのかもしれませんが、新入社員をコーチングしていく上で実際にどれだけのことを対面でしてきたのか、改めて検証する必要があると考えています。対面とはいえずっと話をしているわけじゃないですし。そう考えると、オンラインでの新人研修のやり方もいろいろと考えられると思うんです。
CGW:なるほど。
野末:現在、セクションごとに毎朝30分ずつ雑談会を行なっているのですが、それを続けることでスタッフの体調や精神面の様子を推し量るようにしています。逆に言えばそういった工夫を続けていくしかないですよね。
CGW:自分は20年以上フリーランスで働いているので、すっかり在宅勤務に慣れてしまいました。出版業界全体でも、メディアがWeb媒体に移行する過程で「編集部」というリアルな場所が解体されて、ネットに移行しています。これによって新人ライターを育成することが難しい、という事態に直面しています。在宅勤務の善し悪しは、ベテランと新人でもちがいがありそうですね。
野末:わかります。
CGW:同じように、オンライン授業の進め方についても全国の大学で議論が続けられていますね。通学時間が減る、メールやチャットで気軽に質問できる、動画教材を見ながら自分のペースで学習が進められるといった声がある一方で、学生に逃げ場がない、友だちがつくれない、授業についていけない、その結果として精神的に落ち込みがちな学生が増えている......といった話も耳にします。自分も大学や専門学校で授業を進めながら、学生の二極化が進んでいる印象を受けています。
野末:隙をつくってあげるのが重要という話は響きましたね。オンラインなんだけどホッとできる時間をつくってもらえると、それだけでもだいぶ楽になりますよね。
CGW:実際、入社して3~5年はとても重要な時期だと思うんですよ。人によってはそこで大きなちがいが出てくるといったこともあるでしょう。もっとも、これから社会に出る学生は今のうちからオンラインでの働き方に慣れておく必要があるのかもしれません。
野末:ただ、ひとりひとりに向き合う時間は、在宅勤務になって実は増えているんですよ。それにZoomでの会議中でもたまに雑談したりするじゃないですか。そんなとき、普段では話さないような「胸襟を開いた会話」が増えてきたんです。自宅という環境でリラックスしているからでしょうか? 実際に在宅勤務になって、人間関係のいざこざが減りました。
CGW:それは面白いですね。
野末:精神的にも安定した人が増えたかもしれません。リラックスしている分、柔軟なアイデアが出やすかったり普段より上下関係を気にせず話ができている気がします。もちろん、全員がそういったポジティブな感じではないと思いますし、在宅勤務で人恋しくなっているのかもしれませんが。そこは注意して見ていく必要がありますね。
CGW:勤怠についても問題になりがちです。在宅勤務になって、意図せず働き過ぎてしまうという問題も聞きます。
野末:僕もそうなんですよね。やはりついメールをチェックしてしまうし緊急性が高いものだと返事をしてしまいます。そこは自分でも気を付けていかないと、と痛感しているところです。週末は業務メール禁止、平日でも〇〇時以降は禁止といった具合にルール化する必要がありそうです。ただ、障害対応など緊急性が高いものもあるので、一律に適用するのは難しいかもしれませんが。
CGW:ご自身の働き方として変わった点はありますか? 散歩するようになったとか。
野末:去年の秋口まではまさにそれを心がけていました。ただ冬になって寒くなるとどうしても億劫になって家に籠もりがちに......。在宅勤務による運動不足は課題ですね。ただ、それ以上に体に悪いことが減っているので良いとは思うんですよね。
CGW:満員電車に乗って通勤するだけでかなりストレスですからね。昨年の夏から秋にかけて、コロナの第2波が収まってきた頃、一部の企業で在宅勤務から対面勤務に切り替える動きがありました。それに対して従業員から、在宅勤務で働ける会社に転職したいという声が挙がったと聞いています。これはゲーム業界ではなく全体的な話なのですが、ひるがえってゲーム会社として在宅勤務を恒久制度化することで、人材の獲得についてプラスに働く面はありますか?
広報:まだリリースを出してから日が浅いので、そういった理由で弊社に転職を希望される方が増えたのか、広報としても注目しています。ただ、働き方の多様性や柔軟性が大事だとアピールするねらいはあります。弊社には東京と大阪に開発スタジオがありますが、より多様な働き方ができるというアナウンス効果をねらったのは事実です。
CGW:例えばAI分野などでは、人材が他業界との取り合いになっているのが現状です。それにも関わらず、ゲームやエンターテインメント業界の人気はそれほど高くありませんので、そこで働き方の多様性がもたらす意義は大きいかもしれませんね。特に外国人を雇用する場合は、しばらく来日すら難しい状況が続きます。
広報:IT業界など、業界全体でリモートワークが当然といった分野もある中、今回のアナウンスを通して、ゲーム業界の中でも働き方の多様性について先進的な取り組みをしている企業であるとアピールできたことは、こうした人材の獲得という意味でも大きな意義があったと考えています。
CGW:AIが顕著なんですが、学生と話をしていてもゲーム業界より自動車業界や金融業界に進みたいという声が圧倒的に多いんですよね。安定しているし年収も高いからといった感じで。そうした中で、ゲーム業界が今後どのように人材を獲得していくのかが、企業の中長期的な成長戦略に影響を与えそうです。こうした働き方改革がプラスにつながるといいですね。
野末:そうですね。そういう意味では、本当にうちは良い会社なんですけどね。
CGW:ただ、そういった良い面があまり伝わっていないんじゃないですか? やはり『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』の会社というイメージが強いですし、人によっては尖ったクリエイターが多く在籍しているというイメージかもしれません。
広報:これまで弊社は、個々のタイトルごとの広報では積極的に展開していましたが、人材サポートの側面や企業姿勢については情報発信が不足していたかもしれませんね。今回のアナウンスを皮切りに、「働く人にとってどういう会社なのか」についてきちんとお伝えしていきたいと思っています。
CGW:ゲーム業界で在宅勤務を恒久化したいという会社に対してアドバイスはありますか?
野末:いきなり恒久化は難しいとしても、まずはやってみることだと思うんです。実際に、ゲーム会社であれば在宅勤務はすでに経験されていると思います。その上でメリットとデメリットをテーブルに載せて、印象論ではなくエビデンスベースで議論するのが良いのではないでしょうか。正直、今の時点でカッチリとした制度を出せる企業は、ゲーム業界に限らずどこにもないと思うんですよ。その上で「これは良い」と社員に感じてもらえることができたら、パフォーマンスが一気に上がると思います。
CGW:改めて話を伺っていて、3,000人近くの社員を抱えた東証一部上場企業で、よくプレスリリースが出せたと思いました。なかなか一朝一夕にはできないと思います。
野末:コロナ禍という状況自体が未知のものですから、みんな手探りだと思うんですよ。その中で、素早い判断をしていただけたのは良かったですね。自分が働いている会社を褒めるのって少し気持ち悪いところもありますが、このスピード感はすごいなと思います。しっかりと社員の安全を考えて会社を経営していくという姿勢が感じられました。
CGW:ちなみに先ほどオンライン忘年会が盛り上がったという話がありました。とても画期的なオンライン飲み会のソリューションが登場したら、使ってみたいですか?
野末:実はそういうアプリを自分で開発して、リリースしたいと思っているんですよ(笑)。そういったニーズは高いと思うのですが、まだまだ決定版が出ていませんよね。
CGW:そういったアプリが出れば、ぜひ使ってみたいですね。ゲームともども期待しています。