年明け早々、緊急事態宣言が発せられた日本列島。2021年もコロナ禍との共存を迫られそうな勢いだ。こうした中、いちはやく在宅勤務の恒久制度化を打ち出した企業のひとつにスクウェア・エニックスがある。在宅勤務はCG制作には向くが、ゲーム開発には難しい面があるというイメージをどのように乗り越えているのか。現場の雰囲気や運営の工夫などについて、映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』で監督を務めた野末武志氏と同社の広報担当者に聞いた。


INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



在宅勤務への移行をプレスリリースで表明

CGWORLD(以下、CGW):自己紹介をお願いします。

野末武志氏(以下、野末):スクウェア・エニックスの野末武志です。弊社ヴィジュアル・ワークス(以下、VW)部とイメージ・アーツ(以下、IA)部の双方で事業部長を務めています。また、2020年3月に新設されたスクウェア・エニックス・ AI&アーツ・アルケミーでも、CAO(Chief Art Officer)を担当しています。

  • 野末武志/Takeshi Nozue
    スクウェア・エニックス

CGW:VW部は国内でも老舗のCGスタジオとして有名ですが、IA部はどういった部署になりますか?

野末:2020年4月に新設された部署です。『FINAL FANTASY XV』(2016)の開発にあたり、社内横断的に集められたチームを背景としており、開発終了に伴う組織変更で設立されました。

CGW:VW部とIA部で業務の切り分けなどはありますか?

野末:VW部がプリレンダームービーの技術と、その成果物で全社的に貢献していく部署であることに対して、IA部はハイエンドリアルタイムグラフィックス表現を推進していくイメージですね。元々、自分たちがもっていたプリレンダームービーの技術と『FFXV』の開発を通して得たリアルタイムレンダリングによる技術を組み合わせて、次世代の映像表現を追求していくといった感じです。研究開発とコンテンツ開発の両輪で全社的な貢献を行なっています。

CGW:PlayStation 5世代になって、最も重要なポジションになりそうですね。

野末:そうありたいと思ってがんばっています。ただ、現行ゲーム機よりもう少し先の未来になります。

CGW:さて、その上でインタビューの本題となりますが、昨年11月に「12月1日より在宅勤務を恒久的に制度化/『ホームベース』を基本とするハイブリッド体制で、柔軟かつ多様な働き方と業務管理を両立」というプレスリリースを出されましたね。大まかに内容をまとめると、次のようになります。

役員および全職種の社員に対して「ホームベース(平均週3日以上在宅で勤務)」または「オフィスベース(平均週3日以上出勤)」のいずれかを指定。
原則として全対象者を「ホームベース」とした上で業務上の必要性を鑑み、特に「オフィスベース」での勤務を必要とする業務、および個別の社員を部門長が指定。
ベースは業務の繁忙に合わせて、最短1ヶ月単位で検討するが、導入初月の12月は「ホームベース」の社員が約8割となる。
感染症対策だけに留まらない恒久的な制度として就業体系の中心に位置付け、柔軟かつ多様な就労環境を実現すると共に生産性の向上とワークライフバランスの最適化を目指す。

CGW:大手を中心にゲーム業界では大半が在宅勤務に移行していますが、その一方でこれを暫定的な処置として捉える向きも多いと思います。コロナ禍が収まれば、また出社を前提とした元の開発体制に戻すのだと......。そうした中で、いち早くプレスリリースを打って在宅勤務の恒久制度化をアピールされた点に驚かされました。どういったねらいがあったのでしょうか?

野末:あとで広報からフォローがあると思いますので、まず自分目線で話しますが、そもそもコロナ禍はそんなに簡単に収まるものではないですよね。その上で、コロナ禍をはじめとして様々なリスクにきちんと対応できる企業体質にしなければいけない。そういった問題意識から、恒久制度化することになりました。

旧スクウェア時代から弊社で働いて20年以上になりますが、その間に本当にいろんなことがありました。東日本大震災などもその1つですね。そうした中で、時として自分たちではどうしようもないことが発生するということ、またその上でそうしたリスクに対してきちんと向き合える体制をつくることの重要性を感じていました。だからこそ今回の発表を聞いて、いろいろなリスクヘッジをきちんと考えてくれる会社なんだと安心しました。

CGW:現場の問題意識もあったと思いますが、法人としての経営判断の方が大きかったということなんですね。

野末:そうですね。スピード感もすごかったですし。

▲社員の大半がホームベースでの勤務になった結果、ガランとした開発室

広報:野末が申したように、在宅勤務の恒久制度化は突発的な事態に対して柔軟に対応できる企業体制を整えることが目的でした。また、ここ数年来で勤務体制の柔軟性について、もっと具体的に考える必要があるという意識が全社的にありました。その上で、今回のコロナ禍が大きなきっかけになりました。

野末:自分の部門でも、お子さんの体調があまり良くなくてしばらく在宅勤務で働いてもらった社員がいました。その際は人事部と相談して、テスト的に行なったんですが、これからは在宅勤務が普通になるため、まったく引け目を感じることなく働けるようになります。

CGW:改めて整理すると、2020年4月7日の緊急事態宣言の前後から、ゲーム業界に限らず都内の事業所で雪崩が起きたようにテレワークや在宅勤務が進みました。ただ、企業によって移行のタイミングは異なっていたように思います。御社はどうでしたか?

野末:部門と職種、それから繁忙期のタイミングによって異なりますが、緊急事態宣言の前から全社的に在宅勤務が推奨されていました。その上で、僕らはものすごく早く在宅勤務に移行しました。2月くらいから在宅勤務にシフトしていたんじゃないかな。もっとも、中にはマスターアップの直前などで、タイミング的に在宅勤務への移行が難しかった部署もあったと思います。

広報:時差通勤やオンライン会議まで含めた各種措置でいうと、2月から始めていますね。弊社にはゲーム部門もあれば出版部門もあります。ゲーム開発もあれば漫画の作家さんとの打ち合わせや、声優さんの音声収録などもあり、在宅勤務に向いた業務から難しい業務まで様々です。そのため、部門ごとにグラデーションはありましたが、緊急事態宣言の前後から全社的に在宅勤務に移行しました。

その上で6月に在宅勤務に関する全社的なアンケートを実施したのですが、その結果、約8割の社員で程度の差こそあれ在宅勤務に対してポジティブな回答が見られました。こうした結果をふまえて社内制度化が進み、12月1日の実施となった次第です。そのため11月30日と12月1日で何か業務にちがいがあったかというと、何もないんです。多くの社員がそれまでと同じように在宅勤務を続けています。

CGW:御社には様々なグループ会社がありますが、今回の対象となるのはどの会社になりますか?

広報:まず持株会社のスクウェア・エニックス・ホールディングス。それからスクウェア・エニックス。そしてLuminous Productionsの3社です。社員数にして3,000名弱となります。また、在宅勤務・テレワーク・ワーケーションといった具合に様々な用語が乱立していますが、弊社で認められているのは在宅勤務のみとなります。つまり業務は自宅のみで行い、カフェやコワーキングスペースなどでは業務をしないという意味です。



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在宅勤務ベースでもアジャイル的な開発に対応できる

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在宅勤務ベースでもアジャイル的な開発に対応できる

CGW:恒久制度化のねらいにワークライフバランスの向上と効率化の推進が挙げられていますが、実際に作業をされていかがでしょうか? 

野末:確かに在宅勤務で効率が落ちるという意見も社内の一部では出ていますが、個人的には効率が上がったように思います。あくまでも肌感覚ですが、それまでと1.5倍くらいは効率化できているんじゃないでしょうか。

CGW:それは興味深いですね。具体的にはどういったところでしょうか?

野末:自分の仕事はディレクションや管理業務が中心になるのですが、それこそ会議の移動や通勤時間といった時間が不要になるので、全てがスピーディに進められますし、いろんな報告や判断などもメールやオンライン会議システムで可能です。おそらく部下からも、これまで全然社内で掴まらなかったのが、ぐっと改善したと思われているのではないでしょうか。こんなふうに、部門全体としてかなりのスピード感が出ているように思います。

CGW:御社ではオンライン会議システムにどのようなツールを使われていますか?

広報:主にZoomとMicrosoft Teamsが使用されていますが、部署によってちがいますね。

CGW:在宅勤務への移行が始まって1年弱になりますが、皆さん慣れましたか?

野末:そうですね。最初は慣れる・慣れないというよりも、コロナ対策でこの状況を何とかしなければという空気がありましたが、今までにないくらい全社が一丸となった感じでしたね。ゲーム会社といっても、ITやコンピュータの知識には社員間で差がありますので、それぞれの自宅で環境を整えるのが大変でした。それこそ、部署の全メンバーが加入したメーリングリストで情報を出し合ったり教え合ったりして。うちではこういったプロバイダに加入していますとか。同じプロバイダで、同じ地域でも回線速度がちがう場合は、このあたりの設定を見直したら良いだとか。もう泥臭いやり方で。

CGW:なるほど。

野末:あとは会社の方、特に情報システム部の方々は「みんな寝てないんじゃないか?」と思えるほどバックアップしてくれて、僕らが心配しているのと同じくらいのスピード感で解決策を出してくれたりしました。そういう姿勢を見て「良い会社だな」と本当に泣きそうになりましたよ。感謝のメールを送ったこともありました。

CGW:在宅勤務に移行することで手当などは出ているのでしょうか?

広報:機材周りでは、会社の開発環境を自宅に移す際に搬出入のサポートなどを行いました。また、全社一律で在宅勤務への移行準備金と在宅勤務手当が出ています。電気代や通信代といった諸経費をそこに充てていただくかたちです。

CGW:ゲーム業界に限らず、在宅勤務で環境をどのように整えるかが、隠れた課題になっています。在宅以外で仕事ができないのであれば、転居も考えざるを得ない、といった声も聞かれます。

広報:そういった課題についても、個々の案件ごとに対応していますね。

▲在宅勤務制度 ホームベース適用者:VW部 キャラクターモデリング 勝野椋太氏「在宅勤務に切り替わった当初、チャットやZoomでコミュニケーションが上手く伝わらないことが一番の問題でした。対策として、出社していたときと比べ、報告・連絡・相談に加え復唱をすることを意識しています。上司や同僚へのコミュニケーションをより意識しているため出社していたときより意思疎通が上手くいくようになりました。現在では在宅勤務の弊害を感じずに業務を行うことができています」

CGW:過去のCGWORLD.jpの取材では、CG業界では在宅勤務は歓迎だがゲーム業界ではちょっと難しいという声が聞かれました。野末さんはまさに、VW部とIA部の両方でクリエイティブを見られているわけですが、ちがいは感じられますか?

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野末:うーん、どうでしょう。背景にあるのがウォーターフォールとアジャイル的な開発のちがいですが、確かにゲームを開発していく上では両方の対応が求められます。その中でもアジャイル的な開発は、より密なコミュニケーションが求められる傾向があるので、そうした点を懸念する声も実際にありました。1ヶ月単位でホームベースとオフィスベースで働き方が変えられるという制度も、そうした背景があって導入されたものだと思います。

ただ、個人的にはアジャイルなやり方でも、在宅勤務で充分回せると思っているんですよ。僕が理想論を語っているだけなのかもしれませんが......。

CGW:ウォーターフォール型で制作が進められるCGムービーにおいても、上流工程では対面で業務をしたいという声もあるようです。例えば、プロデューサーやディレクターがアートディレクターと意見交換をしながらコンセプトアートを描いてもらうなどです。

野末:そこはすごく楽になりましたね。Zoomで画面共有をしてPhotoshopで画面に直接書き込みながら指示を出せるようになったので。アジャイルをどのように捉えるかにもよるのですが、これが僕がアジャイルでもつくれると言っている理由です。企画会議なども余裕でやっていますよ。

まあ、常に他人が隣にいる安心感みたいなものを重視したいのであれば難しいですが、単に作業を早く済ませたい、イテレーションを早めたいという意味であれば、オンラインでパパッとやってしまった方が効率的だと思います。Photoshopのこのパラメータをこう設定する、このプラグインをこう使うといったことが、口で説明するより簡単ですから。

そのため、自分の部署では自宅でもモニタを2つ使って作業をしてもらっています。人によっては液晶タブレットを使っているスタッフもいますね。板タブ派も結構いますが、個人で使いやすい環境を整えてもらっています。

CGW:野末さんは原則として在宅勤務なんですね。1週間のうち、特定の曜日に出勤して会議を集中的にしたり面談をしたり、といった感じなのかと思っていました。

野末:いえ、どうしても必要なこと以外は、原則として自宅作業です。個人的な体験で言えば、映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』を制作する際、世界中のCGスタジオと協業して分散開発を行なった際の知見が活きています。

例えば、アニメーションをインドの会社にお願いした際に英語のチェックバックを日本語に直して共有したり、モーションキャプチャの撮影を海外で行う際にキャプチャしている様子をリアルタイムで日本に送ってもらってチェックしたり。時差を活かしながら24時間体制で制作を進めていました。

CGW:改めて驚きました。この10数年でゲームやCG映像の制作スタイルもずいぶん変わりましたね。

野末:今後もどんどん変わっていくと思います。それに、変化という意味では個人開発者やインディゲーム開発者の方が先行しています。インディでは、世界中の開発者がオンラインで集まってゲームを分散開発するのが普通じゃないですか。僕も同じように、国をまたいだ開発に可能性を感じるしできると思っています。ただ、彼らは分散開発につきものの障壁を気持ちで乗り越えている部分が大きいと思います。そうした障壁をシステムや体制で乗り越えるのが企業のやり方です。あともう少しネット回線やツールの問題が改善されれば、アジャイル的な開発にも完全対応できるのではないでしょうか。

CGW:いろいろとお話を伺っていて意外でした。できないと思い込んでいる人の方が多いのでしょうか?

野末:そうだと思いますけどね。新しいものが出てきたときってみんな嫌がるじゃないですか。慣れちゃえばメリットも結構あるよね、という話になると思うので。もちろんデメリットもあると思いますが。

CGW:デメリットはどんなときに感じますか?

野末:飲み会ができないとか(笑)。ちょっと脱線しますが、昨年末に忘年会をどうしようかという話になって。さすがにずっと会えないのは寂しいので、Zoomで大部屋をつくってブレイクアウトルームで小部屋に分けて、部署の忘年会をやりました。「オンライン飲みでも意外とストレス発散できるな」というのが参加者の意見でした。実際に会うかどうかとは関係なく、リラックスした環境で言葉を交わすのが重要だなという感想です。

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働き方の多様性がクリエイティブな人材を呼び寄せる

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働き方の多様性がクリエイティブな人材を呼び寄せる

CGW:クリエイティブな業務に加えて、CG業界でもゲーム業界でも多くの企業が悩んでいる点として新人研修があります。御社ではどのように取り組まれましたか?

広報:今回の制度は全社員に一律適用されるわけですが、2021年度の新入社員についても同様です。ただ、入社初日からいきなりオフィスベースとホームベースのどちらかを選べと言われても難しいと思うので、ある程度状況を見て、といったかたちになると思います。

野末:うちの部署でも、対面でのコミュニケーションがゼロになる......、といったことはないと思います。どういったやり方が良いかをこれから模索していくことになるでしょう。

ただ、僕が効率的に考えすぎているのかもしれませんが、新入社員をコーチングしていく上で実際にどれだけのことを対面でしてきたのか、改めて検証する必要があると考えています。対面とはいえずっと話をしているわけじゃないですし。そう考えると、オンラインでの新人研修のやり方もいろいろと考えられると思うんです。

CGW:なるほど。

野末:現在、セクションごとに毎朝30分ずつ雑談会を行なっているのですが、それを続けることでスタッフの体調や精神面の様子を推し量るようにしています。逆に言えばそういった工夫を続けていくしかないですよね。

CGW:自分は20年以上フリーランスで働いているので、すっかり在宅勤務に慣れてしまいました。出版業界全体でも、メディアがWeb媒体に移行する過程で「編集部」というリアルな場所が解体されて、ネットに移行しています。これによって新人ライターを育成することが難しい、という事態に直面しています。在宅勤務の善し悪しは、ベテランと新人でもちがいがありそうですね。

野末:わかります。

CGW:同じように、オンライン授業の進め方についても全国の大学で議論が続けられていますね。通学時間が減る、メールやチャットで気軽に質問できる、動画教材を見ながら自分のペースで学習が進められるといった声がある一方で、学生に逃げ場がない、友だちがつくれない、授業についていけない、その結果として精神的に落ち込みがちな学生が増えている......といった話も耳にします。自分も大学や専門学校で授業を進めながら、学生の二極化が進んでいる印象を受けています。

野末:隙をつくってあげるのが重要という話は響きましたね。オンラインなんだけどホッとできる時間をつくってもらえると、それだけでもだいぶ楽になりますよね。

▲自宅で開発を進める2Dアート担当者(リリースより)

CGW:実際、入社して3~5年はとても重要な時期だと思うんですよ。人によってはそこで大きなちがいが出てくるといったこともあるでしょう。もっとも、これから社会に出る学生は今のうちからオンラインでの働き方に慣れておく必要があるのかもしれません。

野末:ただ、ひとりひとりに向き合う時間は、在宅勤務になって実は増えているんですよ。それにZoomでの会議中でもたまに雑談したりするじゃないですか。そんなとき、普段では話さないような「胸襟を開いた会話」が増えてきたんです。自宅という環境でリラックスしているからでしょうか? 実際に在宅勤務になって、人間関係のいざこざが減りました。

CGW:それは面白いですね。

野末:精神的にも安定した人が増えたかもしれません。リラックスしている分、柔軟なアイデアが出やすかったり普段より上下関係を気にせず話ができている気がします。もちろん、全員がそういったポジティブな感じではないと思いますし、在宅勤務で人恋しくなっているのかもしれませんが。そこは注意して見ていく必要がありますね。

CGW:勤怠についても問題になりがちです。在宅勤務になって、意図せず働き過ぎてしまうという問題も聞きます。

野末:僕もそうなんですよね。やはりついメールをチェックしてしまうし緊急性が高いものだと返事をしてしまいます。そこは自分でも気を付けていかないと、と痛感しているところです。週末は業務メール禁止、平日でも〇〇時以降は禁止といった具合にルール化する必要がありそうです。ただ、障害対応など緊急性が高いものもあるので、一律に適用するのは難しいかもしれませんが。

CGW:ご自身の働き方として変わった点はありますか? 散歩するようになったとか。

野末:去年の秋口まではまさにそれを心がけていました。ただ冬になって寒くなるとどうしても億劫になって家に籠もりがちに......。在宅勤務による運動不足は課題ですね。ただ、それ以上に体に悪いことが減っているので良いとは思うんですよね。

CGW:満員電車に乗って通勤するだけでかなりストレスですからね。昨年の夏から秋にかけて、コロナの第2波が収まってきた頃、一部の企業で在宅勤務から対面勤務に切り替える動きがありました。それに対して従業員から、在宅勤務で働ける会社に転職したいという声が挙がったと聞いています。これはゲーム業界ではなく全体的な話なのですが、ひるがえってゲーム会社として在宅勤務を恒久制度化することで、人材の獲得についてプラスに働く面はありますか?

広報:まだリリースを出してから日が浅いので、そういった理由で弊社に転職を希望される方が増えたのか、広報としても注目しています。ただ、働き方の多様性や柔軟性が大事だとアピールするねらいはあります。弊社には東京と大阪に開発スタジオがありますが、より多様な働き方ができるというアナウンス効果をねらったのは事実です。

CGW:例えばAI分野などでは、人材が他業界との取り合いになっているのが現状です。それにも関わらず、ゲームやエンターテインメント業界の人気はそれほど高くありませんので、そこで働き方の多様性がもたらす意義は大きいかもしれませんね。特に外国人を雇用する場合は、しばらく来日すら難しい状況が続きます。

広報:IT業界など、業界全体でリモートワークが当然といった分野もある中、今回のアナウンスを通して、ゲーム業界の中でも働き方の多様性について先進的な取り組みをしている企業であるとアピールできたことは、こうした人材の獲得という意味でも大きな意義があったと考えています。

▲自宅で開発を進めるサウンド担当者(リリースより)

CGW:AIが顕著なんですが、学生と話をしていてもゲーム業界より自動車業界や金融業界に進みたいという声が圧倒的に多いんですよね。安定しているし年収も高いからといった感じで。そうした中で、ゲーム業界が今後どのように人材を獲得していくのかが、企業の中長期的な成長戦略に影響を与えそうです。こうした働き方改革がプラスにつながるといいですね。

野末:そうですね。そういう意味では、本当にうちは良い会社なんですけどね。

CGW:ただ、そういった良い面があまり伝わっていないんじゃないですか? やはり『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』の会社というイメージが強いですし、人によっては尖ったクリエイターが多く在籍しているというイメージかもしれません。

広報:これまで弊社は、個々のタイトルごとの広報では積極的に展開していましたが、人材サポートの側面や企業姿勢については情報発信が不足していたかもしれませんね。今回のアナウンスを皮切りに、「働く人にとってどういう会社なのか」についてきちんとお伝えしていきたいと思っています。

CGW:ゲーム業界で在宅勤務を恒久化したいという会社に対してアドバイスはありますか?

野末:いきなり恒久化は難しいとしても、まずはやってみることだと思うんです。実際に、ゲーム会社であれば在宅勤務はすでに経験されていると思います。その上でメリットとデメリットをテーブルに載せて、印象論ではなくエビデンスベースで議論するのが良いのではないでしょうか。正直、今の時点でカッチリとした制度を出せる企業は、ゲーム業界に限らずどこにもないと思うんですよ。その上で「これは良い」と社員に感じてもらえることができたら、パフォーマンスが一気に上がると思います。

CGW:改めて話を伺っていて、3,000人近くの社員を抱えた東証一部上場企業で、よくプレスリリースが出せたと思いました。なかなか一朝一夕にはできないと思います。

野末:コロナ禍という状況自体が未知のものですから、みんな手探りだと思うんですよ。その中で、素早い判断をしていただけたのは良かったですね。自分が働いている会社を褒めるのって少し気持ち悪いところもありますが、このスピード感はすごいなと思います。しっかりと社員の安全を考えて会社を経営していくという姿勢が感じられました。

CGW:ちなみに先ほどオンライン忘年会が盛り上がったという話がありました。とても画期的なオンライン飲み会のソリューションが登場したら、使ってみたいですか?

野末:実はそういうアプリを自分で開発して、リリースしたいと思っているんですよ(笑)。そういったニーズは高いと思うのですが、まだまだ決定版が出ていませんよね。

CGW:そういったアプリが出れば、ぜひ使ってみたいですね。ゲームともども期待しています。