報酬の交渉はあえて「面の皮を厚く」
CGW:報酬の交渉もフリーランスでの活動では大切だと思います。鬼木さんはどういったお考えで交渉されていますか?
鬼木:独立して間もない頃は受注案件の相場がわからなかったので、プロジェクトごとに段階を追って交渉していきました。ある会社での仕事の報酬を基準に、他の会社で同等レベルの案件があれば少し上乗せして交渉してみるといった感じです。OKであれば基準となる価格が徐々に底上げされていきますし、交渉が難しい場合は企業側から「その実力ではこの金額が限界です」と言ってくれますから(笑)。
CGW:大胆に交渉されるんですね!
鬼木:そこはもう、あえて「面の皮を厚く」して交渉に臨みます。何と言っても収入を上げるためにフリーランスになっていますから。生活がギリギリでは余裕がなくなってしまい、機材やツールなど制作環境の整備や、自主制作に打ち込むことが難しくなります。生活を豊かにすることは、より快適に仕事を進めるためにも重要なことです。実力があるのであれば、思いきって報酬も高めに提示してみてはいかがでしょうか。
CGW:現段階の実力の見極めと、それに見合った価格で折り合いがつくよう積極的に交渉する。フリーランスには必要な心構えですね。
鬼木:はい。「貪欲に稼ぐ」というモチベーションは必要で、貪欲でなければフリーランスには向いていないのでは、と思っています。また、リスクヘッジとして受注案件以外にも収入が得られる手段があると良いですね。
CGW:生活を支える柱を増やすわけですね。鬼木さんは、柱のひとつとして教育事業に取り組まれていますよね。
鬼木:教育事業に着手したきっかけもTwitterだったのですが、普段の私の考えをTwitterで発信していたら、あるときからDMで質問が来るようになったんですよ。はじめのうちは直接DMで返事をしていたのですが、あまりにたくさん質問が来るのでブログをつくり、そこで回答することにしたんです。
ブログでは「アフィリエイト(成功報酬型広告)」というしくみを使って収入を得ることが可能なんですが、私の場合はCG制作やフリーランス向けに特化したブログなので、コンテンツにふさわしい商品が見当たらなかったんです。そこで、「自分の商品でアフィリエイトみたいなことをすれば良いのでは?」と思い、CGに関するチュートリアルのような教材を新たにつくってコンテンツに組み込むことにしました。
CGW:流入を得るために、独自のエコシステムを構築されたんですね!
鬼木:はい。読者のみなさんに教材を購入していただいたり、講座に申し込んでいただいたりすると、それだけで直接的な利益になりますし、アフィリエイトの収入も得られる。そうするとTwitterやブログの情報発信にも二重の意味が出てくるので、効率がすごく良いんですよ。
ブログを書いている間、特にブログ開設当初は時給0に近い作業になるので大変なこともありますが、時給脳はひとまず取っ払うことをオススメします。直売できるコンテンツは「ストック型コンテンツ」として不労所得に繋がりますし、ずっと先の利益を考えて動くと良いのではないでしょうか。
CGW:ご自身のブログでご自身の商品を宣伝して売る。還元率100%の発明じゃないですか(笑)。しかし、教材をつくるとなると、「そこまでの知識や経験がないので無理だ」と思ってしまいます。
鬼木:そのハードルが越えられず、控えめになっている方は多いかもしれませんね。でも、よく考えてみてください。人によって知りたいレベルってちがいますよね? 例えば、「Blenderを3ヶ月触った」という知識と経験しかもっていないとしても、「これからBlenderを学んでみたい」と思っているまったくの初心者の方の役には立てるはずです。
「教材」と言うと上級レベルでなくてはならないと考えがちですが、上級レベルの知識だけではなく、初級レベルの知識を求めている方も多くいらっしゃいます。「あのとき、こういうことを教えてくれる人がいたら良かったのに」と想像してみれば、そのままの知識で教材がつくれるのではないでしょうか。上級者には難しい「同じ目線で教える」ことができるし、どんな人だって教材はつくれるわけです。自分を卑下しないで、どんどん情報発信すると良いと思います。きっと誰かの役には立っていますから。
CGW:そう考えると、CGクリエイターに限らずどんな立場の人でも伝えられる情報はありそうですね。鬼木さんが常に戦略を練っていて、そこから様々な発想が出てくるのだと良くわかります。
鬼木:フリーランスって、言ってみれば「"自分"という事業の社長」なのかなと思っています。なので、ひとつ「柱」となるような仕事があったとしたら、その周囲でも何かできるのではと考えていきます。そのメインとなるものが、私の場合は3DCGデザインですね。他のことと合わせて、事業全体の売上を上げていけたら良いなという発想です。もともとビジネス的な戦略を考えるのはとても好きですし、考えたことがぴったりとハマっていくと嬉しいんですよね。ひとつひとつが、すべて戦略なんです。
【後編】
『独立して自由を手に入れろ!フリーランス3DCGデザイナー、鬼木拓実氏が実践する「独立を成功させる心構え」とは
<副業篇>』
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