ゲーム業界に入り、3年目にしてフリーランスへの道を歩み始めた3DCGデザイナーの鬼木拓実氏。自ら積極的に自主制作と情報発信を続けることで、成功への活路を見出してきた。インタビュー前編<独立篇>に続き、後編となる本稿では「フリーランスと副業」について、さらに掘り下げて話を聞いた。


構成_安田俊亮 / Syunsuke Yasuda
INTERVIEW&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE

【前編】
『業界3年目で独立。フリーランス3DCGデザイナー、鬼木拓実氏が実践する「独立を成功させる心構え」とは<独立篇>』


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我が強い人はフリーランスに向いている

CGWORLD(以下、CGW):前編では、フリーランスに向いている人の傾向として「お金に貪欲であることが必要」とのお話がありましたが、その他にもフリーランスに向いているのはどのようなタイプなのでしょうか?

鬼木拓実氏(以下、鬼木):これは適性の話かもしれませんが、幅広く仕事をしたいと思っている人はフリーランスに向いていると思います。というのも、仕事に対するこだわりによって、会社員の方が環境や条件がより良い場合があるからです。会社員とフリーランスにはどちらも良い部分があって、会社員の場合は企業に属することで、開発チームの中心メンバーとして深いレイヤーで仕事ができます。例えば、ゲームづくりの根幹に関わりたいという人は、会社員が向いているかもしれません。

  • 鬼木拓実/Takumi Oniki

    フリーランス / 3DCGデザイナー

    Twitter:@oniking0719
    鬼木の3DCGフリーランスサバイバルブログ:www.onikitakumi.com

CGW:なるほど。どういった立場でどのように仕事に携わりたいかに依るわけですね。

鬼木:そうですね。フリーランスはどうしても「外部スタッフ」として開発に関わることになるので、中心ではなく「周囲部分」の制作を任されることが多いです。その代わり、たくさんの方々と関わることができたり、様々な種類の仕事を経験できたりといったメリットもあります。どちらが楽しくやりがいを感じるかで、向き・不向きがある程度判断できるのではないでしょうか。

CGW:「幅広い仕事」や「収入の安定」という点では、会社に所属しながら副業として個人で仕事を受けることもできますよね。ただ、昨年9月にCGWORLDで実施した副業に関するアンケートでは、21%の企業が副業を禁止しているとの結果が出ました。鬼木さんは、会社員の副業についてどのようにお考えですか?

鬼木:あくまでも個人的な考えですが、会社員でも副業はどんどんやって良いと思うんですよね。法律で禁止されているわけでもないですし。私がかつて所属していた会社も副業禁止の社内規定がありましたが、私はコッソリ副業をしていました(笑)。

「CGWORLDリサーチ:Vol.11 兼業・副業・個人活動」より

CGW:そうだったんですね(笑)。会社員の頃から大胆にご自身の道を歩まれていたんですね。

鬼木:もしかすると、社内規定を守らずに副業するような人はフリーランスに向いているのかもしれません。知り合いのフリーランスを見ていると、制限を嫌う我が強いタイプが多いですね(笑)。というのも、自分自身の考えとやり方で「より良い人生」にしていくために独立するわけですから。当然、全ての責任を独りで負うことになるわけですが、それこそがまさにフリーランスの生活です。

CGW:フリーランスは0から100まで自分で考え、独りで行動しないといけませんからね。社内規定に関係なく副業を始めるなど、「攻めの姿勢」が必要ですね。

鬼木:そうですね。そうやって「自分の責任」で人生を歩き始めると、「自分に何ができるか」という視野がだんだんと広がっていくんです。自分ができることから考えて、自分でビジネスをつくり出すことにもつながっていきます。あと補足ですが、会社に副業がバレないように税金のしくみを色々と調べることになると思うので、お金の知識も身について一石二鳥です。

CGW:前編では、鬼木さんが取り組まれている教育事業の話題が出ました。現在の鬼木さんにとっては、「ONIONI屋」でのマンツーマントレーニングやPDF教材の販売が「教育事業=副業」になっているわけですね。

▲鬼木氏が展開する教育事業「ONIONI屋」

鬼木:はい。発想はまったく同じで、メインの仕事であるCGクリエイターを軸に、「自分ができること」を考えていきました。また、以前から人に教えることが好きだったし、ビジネスのしくみを考えるのも好きでした。「好き」と「やりたいこと」を組み合わせて、自分ができそうなことを膨らませていきました。

特に、自分で考えたことが上手くハマってお金になった瞬間はとても嬉しいんです。こういった達成感や喜びがあるから、もっと色々と実験してみたくなるし、少しずつ活動の幅を広げていったことで、好きなことができていると実感しています。そうそう、ゲーム系CGデザイナーでフリーランスになったばかりであれば、「常駐型」の方が生活が安定して働きやすいかもしれません。

CGW:どういうことでしょうか?

鬼木:ゲーム系のお仕事はプロジェクト単位の案件が多く、企業への常駐が求められる場合、一日の拘束時間が「何時から何時まで」と決まっているんです。いわゆる「人月計算」なので、平日5日をフルタイムで働くというイメージですね。企業に常駐する「出向型フリーランス」の場合、業務形態はフリーランスですが働き方は会社員に近いんですよね。

1〜2ヶ月で終わってしまう単発の案件が続くと、先の見通しが立たないのでフリーランスになったばかりだと精神的にも余裕がなくなってしまいます。その点では、常駐案件は拘束時間が発生するというデメリットはあるものの、先の見通しが立ちやすく社内の方との人脈も広がりやすいですね。

CGW:確かに。ゲーム開発の規模は様々なので、フリーランスにも多様な働き方があるのは強みかもしれませんね。特に、ベースとなる仕事の拘束時間が決まっているのであれば、ONとOFFのメリハリをきっちりと付けられそうです。

鬼木:日中は仕事に集中して、終わった後や土日は副業に充てる。受注案件の報酬は毎月固定給として支払われるので、思っていた以上に不安定ではありませんし、現在のコロナ禍によるご時世的には、ほぼリモートで業務が完結できるのもありがたいですね。単発の仕事ばかりであれば、ここまで精神的な余裕はなかったかもしれません。業界的に報酬も高めで安定していますし、将来のことを考えやすいという点で、とても恵まれた環境だと思います。

ゲーム系CGのスキルをもっていてフリーランスになるなら、まずは「常駐型」からスタートするのがオススメです。フリーランスという働き方に慣れてきたら、次第に在宅で完結する仕事も請けてみると良いかもしれませんね。



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「副業を応援するため」に年収や売上を公開

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「副業を応援するため」に年収や売上を公開

CGW:鬼木さんは、TwitterだけではなくYouTubenoteと多面的に情報発信されていますよね。これらはどのようなねらいで行なっているのですか?

鬼木:まずTwitterですが、これはマーケティングでいう「フロントエンド」と「バックエンド」の考え方を採り入れています。フロントエンドは「新規顧客獲得のための気軽に認知してもらいやすい商品」のことで(飲食店のクーポン券など)、私の場合はTwitterにあたります。Twitterは無料で使えるメディアですから、自主制作した作品や自分の考えを広く伝えやすいんです。

バックエンドは「購入までのハードルが高いけれど、利益を最大化することを目的とした商品」ということで、私の場合は教材の販売です。Twitterやブログを読んでいくと、最終的に教材につながるように流れを意識していて、この「Twitterから教材まで」の流れがマネタイズの軸になっています。YouTubeやnoteはその派生といったところでしょうか。

▲鬼木氏のYouTubeチャンネル

CGW:なるほど。YouTubeはブログと同じく、CGデザイナーに関する話題に特化していてオリジナリティがあるなと思っていました。

鬼木:ありがとうございます。YouTubeを始めたのは、Twitterでの発信だけだと感情が伝わりづらかったからです。というのも、あるとき実際お会いした人に、「Twitterの印象ではもっと怖い人だと思っていた」と言われたことがかなりありまして(笑)。文面だけだと、情報は伝わっても人柄や気持ちが伝わりづらいみたいなんですよね。

それで、YouTubeを使って「動く自分の姿」を見せることで、怖い印象が多少は和らぐのかなと(笑)。「Twitterとのギャップを埋めてくれたら良いな」という理由でYouTubeをはじめたので、広告料で稼ぐというより「宣伝媒体」として割り切っています。YouTubeから教材や講座の申し込みにつながればなお良いですね。

CGW:YouTubeでは、ご自身の売上をモザイクなしで表示されていますし、noteは有料記事ですが副業を含めた年収を赤裸々に公開されていますよね。あのぶっちゃけぶりには驚きました(笑)。

鬼木:はい。もう全てオープンにしています(笑)。私は普段から「副業すると良いよ」と言っていますが、「そうは言っても、実際どれだけ稼げるの?」、「そこまで労力をかける価値ある?」と思うのが自然です。であれば、私自身の正直なところを公開してしまえと。

▲鬼木氏は教材の売上金額なども包み隠さず公開。フリーランスのCGクリエイターが安定した収入を得るためのノウハウを伝授している

CGW:フリーランスのサバイバル方法が、そのまま誰かの役に立つコンテンツになるというわけですね。失敗も含めて見どころになるので、抜群の効率を感じます。初めて教材を販売した結果がどうなっていくか。そのあたりは本当にリアルでした。

鬼木:2019年に制作した自主制作モデルのメイキングの解説PDFが初めて制作した教材でした。価格は1,000円、ZBrush初級者を意識した内容なのですが、その後チラホラと売れていったんですよね。これがきっかけで、「もう少し教材づくりをがんばってみようかな」と。それから他の教材も追加して、売上の経緯や合計がどうなったかをありのままにお伝えしています。かなりリアルな数字なので(笑)、参考にしていただける方がいるかもしれないと考えました。

CGW:鬼木さんの事例を参考に、「教材ってこんな感じで良いんだ」、 「私だったらこんなものがつくれるな」と勇気付けられる方もたくさんいらっしゃるはずです。

鬼木:そう思っていただけると嬉しいですね。教材をつくるのは大変ですが、一度つくってしまえばその後ずっと収入を生み続けてくれますし、生活も楽になります。一度売れはじめたら不労所得になりますし、私自身、がんばってくれた過去の自分に助けられている感覚があります(笑)。「生活のために」であればやらなくても良いかもしれませんが、「お金が欲しかったらやるしかない」のではないでしょうか。

CGW:鬼木さんのお話を聞いていると、モチベーションが上がってだんだん前向きな気持ちになってきました(笑)。

鬼木:ありがとうございます(笑)。何でもそうですが、行動できる人は強いですよね。Webマーケティングの話で言うと、「人脈がない」という人ほどTwitterなどの発信に力を入れて取り組んだ方が良いと思います。自分から発信したり、リツイートで他人のツイートの言及をしたり。そうすることで、自分を知ってもらう機会がどんどん増えていきます。そうなると、自然と人脈はできるのかなと。

CGW:「人脈がないから」、「コネがないから」とあきらめるのではなく、もっと俯瞰してみるとできることはたくさんありそうですね。

鬼木:はい。そういう意味で、Twitterは挑戦しやすくて高い効果が望めるツールです。教材や商品をリンクで貼って、「Twitterをがんばれば自然と売れる」という状態にしておくとより良いですね。ヒットすればそれだけ利益として跳ね返ってきますから。「みなさんの副業を応援する」という意味でも、私のYouTubeやnoteが「このくらいやればこのくらい稼げるんだ」とイメージできる指針になれたら嬉しいです。

CGW:フリーランスになるにあたり、身に付けておいた方が良いスキルや知識はありますか?

鬼木:CG業界に限ったことではありませんが、税金関係の知識はあった方が良いですね。特に確定申告では、控除や節税に関する知識があるのとないのとではちがいますから。

CGW:確定申告が面倒でフリーランスになるのをためらっている、という話を聞いたことがあります。

鬼木:確定申告がネックでフリーランスになるのを躊躇する、というのはもったいないですね。確定申告を難しく捉えている方が多いのかもしれませんが、いったん理解してしまえばそんなに難しくはありません。私は本を読んで知識を得ましたし、ネット上では情報も充実しています。調べていけば「なるほど」と納得することはたくさんあると思いますよ。自分でやるのがどうしても難しければ、税理士を雇っても良いと思います。

▲鬼木氏が税金の知識を得るために読んだという書籍。『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(著:大河内 薫、 イラスト:若林杏樹、サンクチュアリ出版)と『令和改訂版 フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。』(著:きたみりゅうじ、サンクチュアリ出版)

CGW:最後に、鬼木さんが今後挑戦してみたいことについてお聞かせください。

鬼木:今後は、教材をもっと増やしていきたいなと考えてます。あと、オンラインスクールも開催してみたいですね。現在は受注の仕事が収入の8割から9割ほどを占めているのですが、教育事業を拡大してこの割合を逆転するくらいまでになると良いですね。5年以内での実現を目指して挑戦していけたらと思います。

CGW:ますますの活躍を期待しています。鬼木さん、貴重なお話をありがとうございました!


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