<3>3DCGへの強いこだわり
実はキャラ設定や世界観があらかたまとまった時点で、パイロット版だけでなく本編の制作も決定したのだか。そこで、パイロットは作品の方向性だけでなく本制作に向けたワークフローの検証に約半年が費やされることになった。そこでポイントになったのが、「絶対に3DCGアニメーションで描く」というセディックの強い意向であった。
工数や予算との兼ね合いから、KOO-KIとしては2Dアニメーションという選択肢も視野に入れていたそうだが、「アニメーションにおける世界の主流は3DCG」というセディックの考えはゆるぎないものだったという(※2)。
※2:ひとつの根拠として、近年のアカデミー賞「長編アニメーション賞(Academy Award for Best Animated Feature)」では、第79回(2006年度)の『ハッピーフィート』から第87回(2014年度)の『ベイマックス』まで、全て3DCGアニメーション作品が受賞していることが挙げられる
© "SUSHI POLICE" Project Partners
「自分たちとしてはストーリー重視で考えていたので、その表現技法については柔軟に考えていました。最終的に3DCGベースで描くことが決まったわけですが、シリーズ作品ということでアセットが蓄積してくほど効率化が期待できるので今は正しい判断だったと思っています。とは言え、フルCGというのは予算的にも無理なので費用対効果を精査しながら2Dと3Dの使い分けを行なっています」(木綿監督)。
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先述のとおりビジュアル面はとんとん拍子に進んだそうだが、逆にシナリオ開発は正に生みの苦しみだったという。キックオフ時は編集プロダクションの「shortcut8」に協力してもらいながらプロットを書き起こし、その後はシナリオライターの安藤康太郎氏、そして楠野一郎氏へと引き継がれながらブラッシュアップがくり返された。
「プロデューサーの厨子健介さんは、元々シナリオライターでいらっしゃるのでとても造詣が深いんです。そして、なによりもオリジナル企画ということで、スシポリスの設立背景、時代設定、キャラクター設定などなど、半年以上あーでもないこーでもないとやりとりを重ねました。途中、険悪なムードになることもありましたが(苦笑)、良い作品をつくるためには意見がぶつかることが大事だと思っています。とにかく、今のところシナリオづくりが最大の山場でしたね。細かいトラブルは挙げたらキリがありませんが(汗)」(木綿監督)。
また、海外展開を念頭においたストーリーテリングについては当初はダジャレや日本の文化特有の表現などのさじ加減がわからず戸惑いもあったそうだが、別案件で海外スタジオのクリエイティブスタッフと交流をかさねた際に根本的に面白いと思うものは万国共通であるという結論に達したとのこと。「世界中でヒットしたハリウッド映画が典型ですが、考えすぎる必要はないのだと実感しました。当然と言えば、当然なんですけどね(笑)」と、木綿監督。
『SUSHI POLICE』のカテゴリ設定図(左側のオレンジでハイライトされた領域)。近年は、コアなアニメファン向けの短編アニメシリーズも増えてきたが、一般的に短尺アニメと言えばシュールな会話劇のFLASHアニメーションを想起する人が多いのではないだろうか。『SUSHI POLICE』では、そうした従来型の短編アニメとは異なる切り口として、CGアニメーションの特性を活かした派手なアクションも描かれるより幅広い層をターゲットとしたエンターテインメントを目指している。なによりも世界で最も有名な日本食である"SUSHI"を、それを過激に取り締まる(名ばかりの)"POLICE"という非常に明快でキャッチーな題材は、2020年の東京五輪に向けた今だからこそ威力を発揮するのだと思う
「限られた予算のなかで最大限のクオリティを追求する。その上で現実的なかたちでリクープも目指すという戦略から、3分×13話という構成にまとまりました。また、全エピソードをつなげれば(再構成すれば)30〜40分の中編コンテンツに仕立てられるので、また別の価値を生み出すことも視野にいれています。とは言え、こうした算段が実際に機能するかはこれから試されるわけですが......」と、木綿監督。
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本短期連載のテーマでもあるオリジナル企画ということで、KOO-KIは製作委員会にも名を連ねている。ちなみに『SUSHI POLICE』製作委員会は、セディックインターナショナル、電通、三共プランニング、TOKYO MX、KOO-KI、東急レクリエーション、そしてアミューズという7社で構成されている。
「プロデュースも含めてコンテンツ制作だと以前から思っているので本作では製作委員会に参加させてもらいました。作品の売り方や展開の仕方などを学ぶこともできていることで作品に対する思い入れも強くなり、とても良い経験ができています」(木綿監督)。
基本的なプロデュースワークは、委員会メンバーで構成されたチームが計画し進めている。決して大きな規模のプロジェクトではないそうだが、その分、委員会のメンバー同士の意思疎通はしっかりととれているとのこと。「各々の得意分野を活かしながら上手く連携できていると思います。自分たちもアニメーション制作実務と並行して、プロモーション面のクリエイティブにも、かなりの時間を費やしています」(木綿監督)。
実際に、KOO-KIが制作したティザーポスターは、昨年5月下旬に開催された「第68回 カンヌ国際映画祭」におけるフィルムマーケット連動企画として米「THE HOLLYWOOD REPORTER(THR)」誌が実施したTHE 2015 CANNES POSTER AWARDS(※3)というコンペを受賞した。
※3:THRが無償配布している特別編集版THRデイリーレポート(1日目)pdfの12ページ目で紹介されている