>   >  『SUSHI POLICE』にみる、"クリエイターがオリジナル作品をつくる"ということ。Vol.1:企画&プロデュース
『SUSHI POLICE』にみる、"クリエイターがオリジナル作品をつくる"ということ。Vol.1:企画&プロデュース

『SUSHI POLICE』にみる、"クリエイターがオリジナル作品をつくる"ということ。Vol.1:企画&プロデュース

<4>福岡を中心としたオールジャパンで挑む

最後に、本作のワークフローとスタッフ編成について紹介しよう。
まずは完成シナリオを下に木綿監督が絵コンテを描き起こしていくのだが、絵コンテは演出をスタッフに理解してもらうことが役割であり、カット割りやアニメーションなどの具体的な指示は書き込まれておらず、アニメ業界で言うところの絵コンテというよりはCM業界における演出コンテにちかい仕様となっている。

「ひとえに自分がCMやPV演出を中心にキャリアをかさねてきたことが大きいですね。ですので、絵コンテではなく、ラフコンテと表現しています。僕が描いたラフコンテを下に、TriF studioさんにコンテ用イラストを清書していただき、仮音を乗せてビデオコンテを作成します。そのビデオコンテを下に、TriFさんにレイアウト作業と2D/3Dアセットを制作していただき、アニメーション制作はTriFさんに加えて8社のCGプロダクションさん(後述)にご協力いただいています」(木綿監督)。

なお、CGアニメーション制作効率化の手立てとしてモーションキャプチャの利用も検討したそうだが、収録後の手作業による調整が必須であること、シナリオを詰めていく中で生っぽい動きよりもカートゥーン調の動きの方が作風にマッチしているとの判断から、最終的に全て手付け(キーフレーム)アニメーションで制作しているとのこと。

短編シリーズ『SUSHI POLICE』第1回:企画&プロデュース

© "SUSHI POLICE" Project Partners

さらに、放送規格の29.97fpsではなく24fpsで作成(これはアニメ業界の慣習にならったとも言えそうだ)、ショットはハーフHD(720p)で仕上げたものを最終的にフルHD(1080p)へアップコンバートするというワークフローを構築することで、協力プロダクションのアニメーション制作負荷を少しでも軽減させることを心がけているそうだ。
3DCGソフトは、パイロットフィルム制作をリードしていたビト氏と、TriFのどちらも3ds Maxをメインツールにしていたことから自然と3ds Maxベースになったという。そのほかアセット制作ではモデリングの工数を減らすねらいも込めて背景は2Dマットペイントをベースにしているとのこと。

協力会社さんにはアニメーション作業に集中してもらうべく、ライティングについてもコンポジット工程で対応するようにしています。3DCGベースでライティングを行えばさらにリッチなルックが得られるはずですが台所事情がゆるさないので(苦笑)、After Effects用フリープラグイン「Normality」AE上でノーマルパスを直接扱うことである程度のリライティング作業を可能にするもの)を活用しています。結果的に本作独特の画づくりが実現できたと自負しています」(木綿監督)。

短編シリーズ『SUSHI POLICE』第1回:企画&プロデュース

© "SUSHI POLICE" Project Partners

上述のとおり、予算や期間、参加できるスタッフ数などを考えると、早い段階からKOO-KIのスタッフだけで品質を担保するのが難しいことがわかっていたため、演出とコンポジット(最終的なルック)はKOO-KIが一手に引き受け、アセットやアニメーションは、TriFをはじめとしたKOO-KIがこれまでにコラボレーションしたことがある優秀で熱意あるCGプロダクションさんに協力をあおいだという。

「当初は4班体制ぐらいで対応できないかと考えていたのですが、シナリオのFIXが遅れてしまったこともあり(苦笑)、9社さんにご協力いただいています(※2016年1月上旬時点)。東京などの大手プロダクションにも相談してみたのですが、結果的にほぼオール福岡という布陣になりました。CVも大半が福岡で活躍されている役者さんなんですよ。福岡発のコンテンツ実績としては、『めんたいぴりり』があるのですが、今回はアニメでそれを実践していきたいと思っています」とは、プロデューサーとして木綿監督をささえる河原幸治氏(KOO-KI)。

『SUSHI POLICE』参加プロダクション一覧

  • プロダクション名
  • 担当
  • KOO-KI
  • 企画演出、コンポジット、制作進行
  • TriF studio
  • キャラクターデザイン、ストーリーボード、背景美術、モデリング、キャラクターアニメーション
  • U2
  • アフレコ収録、編集

「つくり手の熱意に大きく依存している業界の現状には危機感を抱いていますが、とは言え熱意がないと何事もはじまらないというのも事実ですよね。今回はオリジナル企画ということで、協力会社の皆さんにはなにかとご迷惑をおかけしてしまっているので(苦笑)、ぜひ第2、第3の展開へとつなげて恩返しをしたいです」(木綿監督)

ポスターやトレイラーなど、プロモーション関連の制作では広告案件で培ったノウハウが大いに役立っており、『SUSHI POLICE』の魅力を上手く伝えられているようで反応も良く手応えを感じているという。
SUSHI × POLICEという、企画のインパクトに加え、事前のPR展開が功を奏したことから海外でのセールスも順調のようです。本編が未完成にも関わらずヨーロッパやアジア諸国での放送が決まるというのは極めて異例のようでして(※4)、絶賛制作中の身としては心地良いプレッシャーを感じています。今後も驚くような企画を準備中なのでぜひご期待ください!」と、河原氏。

※4:海外展開について 中国・台湾・香港・マカオで展開している中国・大手動画共有サイト「bilibili」(ビリビリ動画)での日本と同時タイミングでのネット配信が決定、また、タイとフィリピンでのテレビ放映が大筋決定している他、ヨーロッパにおけるセールスは北野武監督作品や三池崇史監督作品などを手がけてきたフランスの大手セールスカンパニーのセルロイドドリームス社と契約締結、アメリカ・メキシコなどからもオファー・問い合わせが届いております。(引用元:2015年12月25日付セディックインターナショナルのプレスリリース

短編シリーズ『SUSHI POLICE』第1回:企画&プロデュース

昨年後半から現在まで、さらにその先の展開案。2016年1月から宅配寿司サービス「銀のさら」とのコラボレーションキャンペーンがスタートしたが、寿司という題材は食品産業とのコラボが好相性なのは言うまでもない。ユニークなものでは、2007/2/14号において実際の「寿司ポリス事件」を特集したNewsweek日本版2015/10/20号では「食文化とどう向き合うべきか あの"スシポリス"がアニメ化」と題して、本作が取り上げられた

「今までは製作委員会の役割について正直わからなかったのですが、コンテンツが完成する前からセールス交渉を行い、その展開案を計画・手配するといった制作実務以外の仕事が存在することを実感しています。まだ上手く言葉にできないのですが、コンテンツだけが世界観をつくるのではないのだと。魅力的なコンテンツであることが大前提ですが、売り方やPR方法も含めて作品の世界観が構築されていくんですよね」(木綿監督)。

ただし、出資者は収益に応じて利益を得られる一方で、自身もクリエイターである木綿監督としては、あらかじめ定められた予算以外の収入が見込めないという、厳しい状況下にある協力パートナーも恩恵が得られるような新たな制作方式を考える必要があるのではないかとも感じているそうだ。
ご存知のとおり、ハリウッド映画を中心としたVFX産業も同様の問題を抱えている(しかもより大きなスケールで)。それだけ根深いテーマであるが、自分たちも作品に出資をして、コンテンツをプロデュースする側と直接関わりをもつことで解決の糸口を探ろうというKOO-KIの姿勢は理に適っているのではないだろうか。

短編シリーズ『SUSHI POLICE』第1回:企画&プロデュース

© "SUSHI POLICE" Project Partners

「とにかくシリーズ化の筋道がつけられたら制作費の増額が期待できるので、まずは目下の制作に全力投球していきます。『SUSHI POLICE』は表現としても制作スタイルとしても確立されたアニメーション制作メソッドから逸脱した作品に仕上がると思います。確信犯と言えば聞こえはいいのですが、アニメ制作の経験がないためやむを得ず(笑)。アニメにかぎらず何か面白いものを求めている人にはぜひ観てほしいですね」と、木綿監督は読者へのメッセージをよせてくれた。

TEXT_村上 浩(夢幻PICTURES) / Hiroshi Murakami(MUGENPICTURES
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)



  • 短編シリーズ『SUSHI POLICE』第1回:企画&プロデュース
  • 『SUSHI POLICE』
    TOKYO MXにて毎週水曜日25:00から放送中!
    『SUSHI POLICE』第1話無料視聴キャンペーン実施中
    各種配信サービスでも視聴可能(詳しくは公式サイトへ)

    ホンダ:山下 晶/スズキ:イフマサカ/カワサキ:岡本ヒロミツ/サラ:菊地由美

    監督:木綿達史/脚本:楠野一郎、安藤康太郎
    制作:セディックインターナショナル、KOO-KI
    製作:"SUSHI POLICE" Project Partners
    © "SUSHI POLICE" Project Partners

    sushi-police.com

Profileプロフィール

空気/KOO-KI

空気/KOO-KI

『SUSHI POLICE』中核スタッフ

(後列左から)告畑 綾コンポジター、河原幸治プロデューサー、木綿達史監督、中石賢悟プロダクションマネージャー兼コンポジター
(前列左から)山内香里デザイナー、阿部晋之介コンポジター、川越洋輝プロダクションアシスタント、小堤 愛プロダクションアシスタント

スペシャルインタビュー