>   >  「THE IDOLM@STER MR ST@GE!!」レポート&インタビュー(前編)>>彼女たちは、いかにして現実世界のステージに立ったのか?
「THE IDOLM@STER MR ST@GE!!」レポート&インタビュー(前編)>>彼女たちは、いかにして現実世界のステージに立ったのか?

「THE IDOLM@STER MR ST@GE!!」レポート&インタビュー(前編)>>彼女たちは、いかにして現実世界のステージに立ったのか?

『THE IDOLM@STER』開発メンバーが「MR ST@GE!!」にも参加

現実世界のアイドルがステージに立つとき、本人だけではなく、振付師、メイク、衣装、ボイストレーナーなど、多くの人々の力が合わさり、そのアイドルは輝くことができる。では、ゲームの世界にいるアイドルが現実世界のステージに立つにあたり、どのような役割の人々が尽力しているのだろうか。「765プロ」のアイドルたちに様々な動きを付け、表情を豊かにし、似合う衣装を用意した、BNSの『THE IDOLM@STER』開発チームのメンバーに話を伺った。

CGWORLD(以下、C):今回の「MR ST@GE!!」はどういったきっかけで開催されたのか、教えていただけますか?

飯島弘通氏(以下、飯島):「MR ST@GE!!」を実施する前に、2017年1月開催の「THE IDOLM@STER PRODUCER MEETING 2017 765PRO ALLSTARS -Fun to the new vision!!-」(以下「765プロミ2017」)で「アイドルにリアルタイムで出演してもらえないか」とBNEから相談されたのがそもそもの始まりですね。そのときは5分ほど、天海春香にリアルタイムで出演してもらいました。

▲「THE IDOLM@STER PRODUCER MEETING 2017 765PRO ALLSTARS -Fun to the new vision!!-」EVENT Blu-ray ダイジェスト動画。冒頭約20秒に登場する天海春香はリアルタイムで出演している

石田直秋氏(以下、石田):「765プロミ2017」はちょうどPS4向けの『アイドルマスター プラチナスターズ』(2016年7月発売。以下、『プラチナスターズ』)(※3)の発売後に開催されました。「765プロミ2017」のコンセプトが「Fun to the new vision!!」だったので、その一環として新しいことに挑戦しようという話になり、せっかくだから『プラチナスターズ』のアイドルにリアルタイムで出演してもらおうというながれになったわけです。

※3 『アイドルマスター プラチナスターズ』:本作におけるアニメーションの仕事の詳細は「PS4『アイドルマスター プラチナスターズ』常にトップを目指すアニメーターたちの仕事に迫る)」を参照。

▲【左】飯島弘通氏(アニメーション・ディレクター)/【右】石田直秋氏(モーションキャプチャ・ディレクター)


C:「プロデューサー(ファン)」としては、「765プロミ2017」の天海春香を見て、「これからは声優さんが出演するライブと並行して、アイドルがリアルタイムで出演するライブも展開していくのかなあ」と、ずっと楽しみにしていました。

飯島:そうですね。そういう感想をくださった「プロデューサー」さんが何人もいらっしゃったので、その期待に応えたいという思いもあって「MR ST@GE!!」の実現にいたったのだろうと思っています。

石田:「MR ST@GE!!」のための検証や打ち合わせは2017年の秋頃から始まり、様々な興行スタイルを検討した結果、2018年4月にDMM VR THEATERでお披露目することになりました。

C:「765プロミ2017」での挑戦が「MR ST@GE!!」に引き継がれているのだと思いますが、皆さんが「MR ST@GE!!」に関わるようになった経緯を教えてください。

遠藤暢子氏(以下、遠藤):わりとシンプルに、ゲームの『THE IDOLM@STER』開発メンバーが、そのままスライドして「MR ST@GE!!」に関わるようになりました。

飯島:「MR ST@GE!!」では、「BanaCAST」というインタラクティブなライブコンテンツ提供サービスと、家庭用ゲームの『THE IDOLM@STER』で使用している描画エンジンを併用しています。「BanaCAST」の技術開発と運営はBNSのモーション課(※4)も深く関わっており、ゲームの『THE IDOLM@STER』のモーションキャプチャを長年担当してきた石田らが参加することになりました。アニメーションまわりは、長年『THE IDOLM@STER』の描画エンジンを使ってきたアニメーターの遠藤や私と、描画エンジンの開発や拡張を担当してきたプログラマーの佐々木直哉や土井良文が受けもつことになったというながれでしたね。

※4 モーション課:モーションキャプチャを担当するチーム。詳しくは「バンダイナムコスタジオ アニメーションの流儀 BNSモーションキャプチャ シオスタジオ探訪」を参照。

C:UnityやUnreal Engine 4などの汎用ゲームエンジンではなく、内製の描画エンジンを使っているのですね。

遠藤:『THE IDOLM@STER』の開発チームはタイトル単位で集合・離散するのではなく、『THE IDOLM@STER』の様々なタイトルを担う大きなプロジェクトチームとして動いています。その一環として「MR ST@GE!!」も担うことになったので、使い慣れた描画エンジンを導入するのは自然な決定でした。

C:つまり『プラチナスターズ』に加え、PS4ゲーム『アイドルマスター ステラステージ』(2017年12月発売。以下、『ステラステージ』)や、スマートフォンアプリ『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』(2017年6月サービス開始。以下、『ミリシタ』)などの開発も担当しているわけですね。そういった普段のゲーム開発と「MR ST@GE!!」とでは、皆さんの役割にどんなちがいがありましたか?

遠藤:普段のわれわれはアイドルの身体のアニメーション制作やディレクションを担当していますが、「MR ST@GE!!」では表情......つまりステージに立つアイドルに「こういう表情をしてください」とリアルタイムに指示を出す役割を担いました。「MR ST@GE!!」では、飯島と私に加え、吉武敬一朗(※5)というアニメーターも参加しています。

※5 吉武敬一朗氏:BNS所属のアニメーター。吉武氏と遠藤氏が担当している『ミリシタ』のアニメーションの仕事の詳細は「どこに行けば、キャラクターをつくれますか? No.10>>バンダイナムコスタジオ(前編)(後編)」を参照。

C:お三方とも、普段のゲーム開発ではアイドルの表情は担当していないのですね?

遠藤:そうなんですよ。ゲームではスクリプターが表情を担当していて、われわれアニメーターはモーションキャプチャしたデータを基に身体のアニメーションを付けています。ただし手の指はキャプチャしていないのでゼロから付けます。それなのに飯島から「表情を一緒に担当してください」と言われたので、「うん?」って思いました(笑)。でも3人とも長年『THE IDOLM@STER』の開発に携わってきてアイドルを十分に理解しているので、かわいいアイドルが、よりかわいくなる表情を考えることはそんなに難しくなかったです。とはいえ本番はリアルタイムだったので、実際には考えている余裕などなくて、自然に手が動き、アイドルの表情に反映されていく......みたいな感覚でした。

飯島:表情に加え、「BanaCAST」のモーションアクターさんに「このアイドルは、普段こういう動きをしています」「ちゃんとカメラに映るように、こんなポーズにしてください」といった説明をしたりもしました。

遠藤:わりといろんなものを把握しているメンバーが投入されたという背景もありますね。

石田:飯島、遠藤、吉武、私は1st SEASONから参加していますが、佐々木と土井は2nd SEASONから加わりました。2人とも『ステラステージ』をはじめ『THE IDOLM@STER』の様々なタイトルに関わってきたので、白羽の矢が立ったわけです。

飯島:描画エンジンなどのシステムを熟知しているメンバーだったので話が早くて助かりました。2人には、1st SEASONで気になっていた点を短期間で改善してもらいました。

佐々木直哉氏(以下、佐々木):「2nd SEASONでは、この点をなんとかしたい」「あれも必要だ」といった要望をいくつも聞いていましたが、期間は1ヶ月ちょっとしかなかったので、優先順位をつけて上から順番に解決していきました。

土井良文氏(以下、土井):佐々木の言う通りなんですが、自分たちが「これも必要だよね」と思う機能も実装していきましたね(笑)。さらに2nd SEASONが始まってからも、ノートPCを使って現場で機能更新していました。

▲【左】佐々木直哉氏(プログラマー)/【右】土井良文氏(プログラマー)


佐々木:いざとなったら追加機能ごとカットできるようにするなど、予防策をとってはいましたが、普段のゲーム開発ならありえないことでしたね。動作確認できるのはリハーサルの数時間だけという場合もあり、めちゃくちゃ怖かったです(苦笑)。

C:「最高は塗り替えていくもの」という『THE IDOLM@STER』の伝統を地で行く努力が、1st SEASONと2nd SEASONの間はもちろん、2nd SEASONが始まってからも行われたわけですね。とはいえ普段は社内でゲーム開発をなさっている方々が、アイドルのリアルタイムのパフォーマンスを手がけるとは、すごい舞台度胸ですね。

遠藤:すっごい心臓が痛かったです。

飯島:スタッフとして、お客様のフィードバックをゼロ距離で得られる緊張感と充実感は、普段のゲーム開発では味わえない貴重な体験でした。

C:「MR ST@GE!!」の最後にながれるクレジットを見ると、「BanaCAST」と並んで「Variab-LIVE」という表記がありました。これはどういった役割を果たすシステムなのかも教えてください。

飯島:「BanaCAST」はアイドルにリアルタイムで出演してもらうためのシステムです。それに対して「Variab-LIVE」はアイドルを描画するためのシステムです。家庭用ゲーム の『THE IDOLM@STER』ではBNS独自の「ヴァリアブルトゥーン」という名前のシェーダを用いており、同じように「ヴァリアブルトゥーン」で描画されたアイドルが「MR ST@GE!!」に出演するにあたり、新しくつくった言葉です。「BanaCAST」に「Variab-LIVE」を組み合わせることで、「765プロ」のアイドルがステージに立つことができました。

C:主演アイドルのパートだけでなく、ユニットライブパートでも「Variab-LIVE」を使っているのでしょうか?

飯島:そうです。2つのパートのちがいはリアルタイムかどうかだけなので、両方とも描画には「Variab-LIVE」を使っています。

遠藤:どちらのパートも、家庭用ゲームの高精細なアイドルが、そのまま「MR ST@GE!!」に出演しているというイメージです。

C:家庭用ゲームの『THE IDOLM@STER』と「MR ST@GE!!」とで、何か変わった部分はありますか?

飯島:解像度はちがいますね。家庭用ゲームはフルHDだったので、試しにDMM VR THEATERのステージに等身大のアイドルに立ってもらって検証したところ、解像度の粗さが気になりました。「ゲーム画面を引き延ばしただけ」という印象になってしまうことがわかったので、4Kにして、より綺麗なアイドルの姿を見ていただけるようにしました。

石田:ちなみに「765プロミ2017」の時点ではフルHDのままで、4Kになったのは「MR ST@GE!!」からですね。

遠藤:DMM VR THEATERでは、「プロデューサー」の皆さんにより近い場所からアイドルの姿を見ていただけるので、解像度を上げることにしました。

佐々木:解像度を上げるにあたり、それに耐えられるようPCの処理速度も上げました。もともとモデル自体はリッチにつくってあったので、そのまま使っています。


©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

次ページ:
「MR ST@GE!!」では
手の指までリアルタイムキャプチャ

特集