「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第10回では、6月に1周年を迎えたバンダイナムコエンターテインメントより配信中のアイドルライブ&プロデュースゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』(以下、『ミリシタ』)を事例に、開発を担当したバンダイナムコスタジオにおけるキャラクターのアニメーション制作の仕事を紹介する。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』PV第2弾。2017年6月にサービスを開始したiOS、Android対応のアイドルライブ&プロデュースゲーム。ソーシャルゲームとして誕生し、声優によるリアルライブイベントやCDなど、幅広い展開をしている『アイドルマスター ミリオンライブ!』が題材となっている。本作では765プロライブ劇場(シアター)を舞台に、765ミリオンオールスターズの総勢52人のアイドルをプロデュースできる
配信元:株式会社バンダイナムコエンターテインメント
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
アイドルは総勢52人。さらに事務員が2人
CGWORLD(以下、C):かなり基本的な質問ではありますが、「バンダイナムコ」の名を冠する会社が複数ある中で「バンダイナムコスタジオ」はどのような位置付けなのか......という点から教えていただけますか?
吉武 敬一朗氏(以下、吉武):バンダイナムコスタジオは、ネットワークコンテンツ、家庭用ゲーム、業務用ゲームなどの企画・開発・運営を行う会社です。例えば『ミリシタ』の場合、開発は当社が担当し、配信はバンダイナムコエンターテインメントが行なっています。当社には約1,000人の従業員が所属しており、その多くをデザイナー、エンジニア、企画、サウンドなど、様々な職種のゲーム開発者が占めています。
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吉武 敬一朗
バンダイナムコスタジオ
(アニメーター)
10年ほど前に入社し、『ソウルキャリバー』シリーズ、『鉄拳』シリーズなどの格闘ゲームのアニメーションを中心に手がける。『THE IDOLM@STER』(以下、『アイマス』)シリーズの初参加タイトルは『THE IDOLM@STER 2』(Xbox 360、PS3対応/2011)。『ミリシタ』ではアニメーション全般のディレクションとマネージメントを担当。アニメーション制作も行う。
遠藤暢子氏(以下、遠藤):吉武と私はキャラクターのアニメーション制作を専門とするデザイナー、つまりはアニメーターです。バンダイナムコスタジオのアニメーション部には、契約社員も含めると約50人のアニメーターが所属しています。アニメーション関連職としては、ほかにもモーションキャプチャの専門スタッフや、アニメーション関連の研究開発(R&D)に特化したエンジニアなどがおり、彼らは別部署に所属しています。
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遠藤暢子
バンダイナムコスタジオ
(アニメーター)
1994年に入社し、業務用ゲームのグラフィックス制作に携わる。1995年頃から『ソウルエッジ』シリーズ、『鉄拳』シリーズなどの3D制作に携わり始める。『THE IDOLM@STER』(Xbox 360対応/2007)以降、数多くの『アイマス』シリーズの開発に参加。『ミリシタ』のアニメーターの中では、最も長く『アイマス』シリーズに携わっている。本作では「ライブパート」のアニメーションのチェックと制作を担当。
※「はるみちゃん」(アイマスモーション作成用標準モデル)に遠藤氏の代役をお願いした。
C:リギングは別部署の担当ですか?
吉武:アニメーション部のリギングを得意とするアニメーターが、別部署のエンジニアの協力を得ながら担当しています。遠藤や自分はアニメーション制作の方が得意なので、リギングはほぼノータッチです。
C:続いて『ミリシタ』における吉武さんと遠藤さんの役割も教えていただけますか?
吉武:現在『ミリシタ』に携わっているアニメーターはわれわれを含めて9人で、そのうち7人は社内におり、2人は協力会社にいらっしゃいます。何名かは他プロジェクトの仕事も兼任しています。アニメーション関連のディレクションは自分の担当です。『ミリシタ』のアニメーションは「コミュニケーションパート」と「ライブパート」に分かれていて、自分が全体をチェックしていますが、「ライブパート」は制作経験豊富な遠藤にもチェックを担当してもらっています。
遠藤:「コミュニケーションパート」はアイドル同士の会話や「プロデューサー(※1)」との会話が楽しめるパートで、アイドルの個性を反映させた日常芝居のアニメーションを制作します。「ライブパート」はリズムゲームを楽しめるパートで、アイドルたちのダンスアニメーションを制作します。吉武の説明にあったように、私は主に「ライブパート」を担当しており、ほかのアニメーターの仕事をチェックする一方で、自分でもアニメーションをつくっています。アニメーターは慢性的な人手不足なので、この記事を通してアニメーターの仕事に興味をもってくれる学生さんが増えると嬉しいです。
※1『アイマス』シリーズにおけるプレイヤーの職業、および通称。
吉武:自分もアニメーションをつくりますが、最近はディレクションやチェックの比重が増えています。
C:アニメーション制作のながれも教えていただけますか?
吉武:サービスの開始前後で微妙なちがいはありますが、ここでは基本的なながれをお話します。まず最初に『ミリシタ』の各チームと一緒に打ち合わせを行い、新しく制作する日常芝居やダンスのアニメーションの内容を決めます。設定や資料の多くは企画が用意しますが、アニメーター自身による実演を撮った参考動画などの追加資料をわれわれが用意する場合もあります。口で説明したり文字にするだけでは伝わらない情報も多いので、何らかのビジュアルにして伝えるわけです。アニメーションの内容が決まったら、関連資料を取りまとめ、協力会社のコーディネーターや振付師の方々に共有します。
遠藤:『ミリシタ』ではアニメーション制作にモーションキャプチャを使うため、「コミュニケーションパート」ならアクターのコーディネーター、「ライブパート」ならダンサーのコーディネーターやダンスの振付師の方々にご協力いただきます。お渡しした資料やダンスの楽曲をもとに、コーディネーターさんにアクターさんやダンサーさんを推薦いただく場合もありますし、お馴染みの方をわれわれが指名する場合もあります。例えば「舞浜歩」というアイドルはヒップホップのダンスが得意なので、彼女の持ち歌である「ユニゾン☆ビート」のダンスを収録する際には、同じくヒップホップが得意なダンサーさんを紹介していただきました。
C:芝居やダンスの内容に応じて、最適なアクターさんやダンサーさんをキャスティングしていくわけですね。仕事内容がアニメーション制作だけに留まらない点は、大変そうではあるものの、こだわった仕事ができそうですね。
吉武:実際、こだわっていますよ(笑)。アニメーションデータの制作以外にも、演出の提案、協力会社とのやりとり、アクターやダンサーのディレクション、モーションキャプチャ時の進行管理など、仕事内容は多岐に渡ります。
C:『ミリシタ』の場合52人ものアイドルがいるわけですが、キャスティングやアニメーション制作のときに混乱しないのか、どこまでこだわれるのか、非常に気になります。
遠藤:アイドルだけで52人、さらに事務員の「青羽美咲」と「音無小鳥」を含めると、総勢54人です。
C:............すさまじいボリュームですね。
遠藤:先輩アイドルの13人は家庭用ゲームからの付き合いなので熟知していますし、『アイドルマスター ミリオンライブ!』はサービス開始当初から「プロデューサー」として遊んできたので、ほとんどのアイドルのことは自然と頭に入っていました。『ミリシタ』のサービス開始時点で新規に追加されたアイドルは「桜守歌織」と「白石紬」の2人に留まったので、混乱はありませんでした。
吉武:自分の場合も家庭用ゲームの13人はよく知っていましたが、遠藤ほどには事前知識がなかったので、『ミリシタ』への参加をきっかけに時間をかけて色々調べ、54人の個性を理解していきました。
人間にとってのベストが、アイドルにとってもベストだとは限らない
C:アクターさんやダンサーさんのキャスティング後は、モーションキャプチャの収録に立ち合うのでしょうか?
吉武:別の日に前もってリハーサルをやる場合もあります。特にサービス開始前は手探りしながら決めることが多かったので、リハーサルをやる頻度が高かったです。アクターさんもダンサーさんも、事前に渡した関連資料は読み込んで来てくださいますが、実際に動いていただいたのを見た上で、さらに細かい調整をお願いしていきます。モーションキャプチャに使える時間は限られているので、調整に時間がかかりそうだと思ったら、別の日にリハーサルを行うようにしています。最近はキャラクターに対する全員の理解が深まってきたので、「コミュニケーションパート」ではモーションキャプチャの収録直前にリハーサルをするケースも増えてきました。「ダンスパート」の場合は、モーションキャプチャの約1週間前に必ずリハーサルを行います。
遠藤:「ダンスパート」のリハーサルでは、振付師さんが事前に考えてくれたダンスをダンサーさんに踊っていただき、そのダンスをアイドルが踊った場合の見映えを想像しながら、よりよいものへと仕上げていきます。
C:ダンサーさんにとっての「よいダンス」と、アイドルにとっての「よいダンス」は必ずしもイコールではなさそうですね。
遠藤:そうです。打ち合わせでは「この楽曲はこういう世界観なので、こんな表現をしてください」といった演出面のすり合わせもしますし、モーションキャプチャやゲームならではの調整もやります。例えば現実世界の人間と『ミリシタ』のアイドルとではプロポーションがちがうので、人間にとってベストの動きが、アイドルにとってもベストだとは限りません。頭に手を置く動作の場合、本当に頭と手を触れ合わせる動きをアイドルに適用すると、頭に手がめり込んでしまいます。だから少し手を浮かせた状態に留めてもらうといった工夫が必要です。
▲【左】「コミュニケーションパート」のモーションリスト。モーションキャプチャ時には、収録内容や収録順番を記したモーションリストをアニメーターが制作し、モーションキャプチャの専門スタッフ、アクター、ダンサーなどの関係者に事前共有する。当日の段取りを事前にしっかり設計しておくことで、よりよい動きを効率的に収録できる。「モーションキャプチャスタジオの利用時間はもちろん、アクターさんやダンサーさんの集中力や体力にも限りがあるので、事前の設計がとても重要です」(吉武氏)/【右】シオスタジオ(※2)でのモーションキャプチャ風景。ダンサーはモーションキャプチャスーツの上から円環を装着しており、この円環が手足の動きを適度に制限するため、アニメーション制作時のめり込み修正の手間を軽減できる。「モーションキャプチャの専用スーツは身体にフィットしている一方で、アイドルはボリュームのあるスカートなどを身に付けるケースが多いです。そのちがいをダンサーさんに意識していただくため、『アイマス』シリーズのモーションキャプチャでは家庭用ゲーム時代から円環を使っています」(遠藤氏)
※2 汐留にあるバンダイナムコスタジオが運営するモーションキャプチャシオスタジオ。広さが12×8m、高さが4.5mあり、VICON T160(モーションキャプチャ専用カメラ)を40台設置。広さを必要とするダンスにも、高さを必要とするアクションにも対応可能。最大9人の動きを高精度で収録できる。同スタジオとモーションキャプチャの仕事については「バンダイナムコスタジオ アニメーションの流儀 BNSモーションキャプチャ シオスタジオ探訪」を参照。
C:「ゲームならではの調整」には、どのようなものがありますか?
遠藤:「足を上げすぎると衣装が壊れてしまうので、抑えめにしてください」、「顔を真横に向けてしまうと画面映えしないので、斜めを向く程度に抑えてください」、「前ばかり向いていると面白みがないので、背中も見せてください」など、ゲームとしての見栄えや面白さに関連する調整がメインです。例えば『ミリシタ』で新しく加入した「白石紬」の持ち歌の「瑠璃色金魚と花菖蒲」の場合は、「間奏時にステージに対して背中を向け、身体をゆらす」という振り付けを入れていただきました。当初の振り付けでは前を向いていたのですが、彼女はすごく長くて綺麗な髪型をしたアイドルなので、それが映える振り付けを入れれば彼女がさらに輝くだろうと思ったのです。リハーサル時に振付師さんに相談したら「いけます、いけます」と、その場で振り付けを変更してくださいました。
吉武:『ミリシタ』では、どのアイドルにも現時点で10着以上の衣装が用意されています。衣装のちがいを楽しんでいただくためにも、色々な角度からアイドルの姿を見てもらえる振り付けになるよう意識しています。
C:リハーサルの所要時間はどのくらいですか?
吉武:ダンサーさんが1人で踊る楽曲だと15分くらいで終わる場合もありますが、複数人で踊る楽曲の場合は時間がかかる傾向にあります。『ミリシタ』のダンスのモーションキャプチャは、声優さんによるライブイベントの振り付けやバックダンスをご担当いただいているチームに依頼しているので、アイドルはもちろん声優さんに対する理解も非常に深く、最初からいいものが上がってきます。例えば先ほどお話した「舞浜歩」のダンサーさんは、ライブイベントで戸田めぐみさん(「舞浜歩」の声優)の振り付けも担当しています。それもあって、リハーサルもモーションキャプチャも比較的短時間で終わる傾向にあります。特にライブイベントで初披露された楽曲をゲームに移植するケースは早く終わります。一方で最近はゲーム初披露の複雑な構成のユニットライブ用楽曲も増えており、そういうものはわれわれからの要望も多くなるため時間がかかります。
遠藤:例えば5人で別々のダンスを踊る楽曲の場合は、ダンサーさんも5人手配して、全体のバランスを見ながら前後左右の動きやタイミングを調整し、5人同時にモーションキャプチャをして、5人分のアニメーションデータを調整することになるので、5人で共通のダンスを踊る楽曲よりも時間がかかるわけです。
▲5人で別々のダンスを踊る楽曲のアニメーションを制作中のMayaの画面。バンダイナムコスタジオのエンジニアによるカスタマイズが施されており、各アニメーターの好みに合わせた調整もしてくれるという。なお、アニメーション制作にはミリシタモーション作成用標準モデル(通称あかねちゃん)が用いられる。「Mayaで制作したデータをスムーズにUnityへコンバートするためのツールはエンジニアが用意してくれており、アニメーション制作に集中できる環境になっています」(遠藤氏)
▲MV「Brand New Theater!」。5人で別々のダンスを踊る楽曲のひとつで、5人のアイドルに対して5種類のアニメーションが設定されている。MVでは「白石紬」、「最上静香」、「春日未来」、「伊吹翼」、「桜守歌織」の5人が配置されているが、この立ち位置に52人のアイドルを「プロデューサー」が任意に配置でき、衣装も好きなものを選択できる。なおこの楽曲では、アイドルに応じた51人分の「歌い分け」の音源も用意されている(「双海亜美」と「双海真美」は双子のため、共通音源となっている)。これをソロライブとしてプレイすると、センターのアイドルのソロを楽しめる
C:「コミュニケーションパート」のアクターさんと、「ダンスパート」のダンサーさんは別の方ですか?
吉武:まったく別の方々です。「コミュニケーションパート」のアクターは、『アイマス』シリーズの収録に長年携わってきてくださった方々にご依頼しています。ですからアクターさんたちも踊ろうと思えば踊れるのですが、『ミリシタ』ではライブイベントとの関わりが深い方々にダンスを依頼しています。
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モーションキャプチャを使いつつ全フレームの動きを調整
モーションキャプチャを使いつつ全フレームの動きを調整
C:モーションキャプチャの頻度はどのくらいですか?
吉武:「コミュニケーションパート」は2∼3ヶ月に1回、「ダンスパート」は月1回のペースでやっており、どちらも複数モーションをまとめて収録します。「ダンスパート」の場合はダンスとそれに付随するスペシャルアピール(※3)をセットで収録します。収録作業とその後の処理はモーションキャプチャの専門スタッフがやってくれますが、アクターさんやダンサーさんに対するディレクションと、当日の進行管理、後日のアニメーション制作はわれわれの仕事です。
※3 リズムゲーム中、フルコンボ状態でスペシャル音符をタッチすると再生されるアニメーションのこと。MVには入っておらず、リズムゲームをプレイした場合にのみ見ることができる。
遠藤:モーションキャプチャは収録前のキャリブレーションなどの準備に1時間ほどかかりますが、ダンスの尺は長いものでも3分未満なので、順調にいけば1曲あたり1∼2テイク、10分程度で終わります。
C:吉武さん、遠藤さん以外のアニメーターも、モーションキャプチャに立ち合うのでしょうか?
吉武:アクターさんやダンサーさんに対するディレクションは、主に遠藤と自分が行なっています。ただしモーションキャプチャ当日は、担当アニメーターも同席する場合が多いです。収録にはお手伝いしてくれる人手が必要ですし、後で自分がアニメーション制作をするにあたり「こうやっていただいた方が都合がいい」といった意見は積極的に言ってもらうようにしています。
遠藤:ダンサーさん、アクターさんの動きをデータだけで見るよりも、実際の動きを収録時に見ておいた方が、何を表現するべきなのかをしっかり判断できます。「これはまずいから、収録段階で解決しておこう」といった判断や提案が先行してできるようになることも、アニメーターとしての強みになると思います。特にモーションキャプチャに関わるようになると、アニメーションのテクニックに加え、アクターさんやダンサーさんに伝える力が成功を左右するように思います。
C:先ほど、『ミリシタ』にはアイドルひとりに対し、10着以上の衣装が用意されているとお話していましたが、衣装が変わればめり込み範囲も変わりますよね。それにともなうディレクションやアニメーション制作の苦労はありますか?
遠藤:相当あります(苦笑)。おっしゃる通り、同じアイドルでも衣装が変わればめり込み範囲も変わります。加えて、ひとつのダンスアニメーションを複数のアイドルに適用するケースも多々あるので、髪の短いアイドルなら問題ないけれど、髪の長いアイドルに適用するとめり込んでしまうといったこともよく起こります。それらの起こり得る問題を事前に把握し、モーションキャプチャの段階で解決しておいた方が、後のアニメーション制作が楽にはなります。
吉武:とはいえ「52人全員に適用しても破綻しない動き」を最初から目指してしまうとすごく制限が大きくなるので、ある程度は気にしてもらいつつも、いったんは自由に動いてもらうようにしています。めり込みに関しては衣装をデザインする段階から考えられていて、破綻しやすい衣装はあまりつくらない方針になっています。
遠藤:基本的にはダンスとして良いものを踊っていただき、後でアニメーターががんばってブラッシュアップするというながれになっています。
吉武:その点は「コミュニケーションパート」も同様ですね。芝居としていい動きをしていただき、破綻している部分はアニメーターが後で直します。
▲「スペシャルアピール」のアニメーションを制作中のMayaの画面
▲MV「Melty Fantasia」のアニメーション。左はモーションキャプチャの収録データ(ポスト処理済み)を流し込んだもの。右は前述の収録データを遠藤氏がブラッシュアップしたもの。モーションキャプチャでは指先の動きを収録していないため、当日撮影した参考映像(正面と側面の2方向から撮影)とディレクション時の記憶を基に、遠藤氏が手付けしている。そのほかにも全身の関節の角度や向き、重心の位置、動きのタイミング、頭に対する手のめり込み、床に対する足の接地などが細かく調整されている点に注目してほしい
C:本当にがんばって調整なさっていますね。どのフレームで止めて見ても、右と左とではどこかがちがっていて、なおかつ右の方が画になるポージングになっている点に驚きます。動きのタイミングも、右の方がメリハリがあるので見ていて気持ちがいいですね。アニメーションを制作する中で、モーションキャプチャの収録内容と全然ちがう動きに変えてしまうことはあるのでしょうか?
遠藤:ありますね。手の位置を変える程度の変更であれば、日常的にやっています。「ゲームの中に入れてみたら、思ったより地味だった」、「アイドルに適用してみたら、思ったよりバランスが悪かった」などの理由で変更することが多いです。あまりに大がかりな変更の場合はその部分だけモーションキャプチャをやり直しますが、ちょっとした変更であれば手付けで直します。
吉武:先ほども申し上げたように、現実世界の人間と『ミリシタ』のアイドルとではプロポーションがかなりちがうので、全部のフレームで万遍なくバランス調整をやっています。伸びやかな動き、キレのある動きといったモーションキャプチャのうまみは残しつつ、手を加えていくことが重要です。
遠藤:リハーサル、モーションキャプチャ、アニメーション制作という工程を経ながら、頭の中で思い描いた理想のアニメーションへと段階的に近付けていくことがわれわれの仕事です。それと併行して、めり込みなどの破綻が起きていないかのチェックもしていきます。
吉武:とはいえ『ミリシタ』の場合はアイドルも衣装も数が多いので、全てのチェックをアニメーターだけで行う余裕はありません。破綻が起きやすいアイドルや衣装は絞られているので、最低限のチェックはアニメーター自身で行い、それ以外のチェックはテスターさんにお願いしています。
C:膨大な組み合わせの破綻チェックを、テスターさんたちがしらみつぶしになさっているのでしょうか?
吉武:はい。細かい所まで丁寧に確認してくださっています。
遠藤:「いける」と思ってテスターさんにお渡ししても「この部分で手が刺さっています」といった報告が返ってくることもよくあります。
C:髪や衣装などの揺れ物、リップシンク(楽曲や音声に合わせた口パク)、フェイシャルアニメーション(喜怒哀楽の表情付け)は別の方が担当するのでしょうか?
吉武:そうです。『アイマス』シリーズの場合は、身体と手、揺れ物、リップシンク、フェイシャルアニメーションをそれぞれ別のチームが担当しています。タイトルによっては、1人のアニメーターが全部を担当する場合もあります。
C:もし担当するタイトルが変わったら、吉武さんや遠藤さんも身体と手以外のアニメーションも付けることになるのでしょうか?
吉武:その可能性はあります。ただ、揺れ物は物理シミュレーションで制御する場合が多いので、アニメーターが全部を手付けするケースは少ないです。物理シミュレーションだけでは思うような表現ができない場合には、部分的にアニメーターが手付けして、両者を混ぜて使います。例えば動物の尻尾の動きなどはアニメーターが手直しすることが多いですね。
C:指先のアニメーションは特にアニメーターの技量が問われるように思いますが、いい動きを付けるために気を付けていることはありますか?
遠藤:細かい仕草はリハーサルやモーションキャプチャのときによく見るようにしています。動きが速すぎてよくわからない場合は、ダンスのモーションキャプチャの後で手の動きだけゆっくり再現してもらい、それをビデオで撮影して参考にしたりもします。さらに動きの構造を理解するため、自分の手で再現してみることもあります。アニメーターの仕事はダンサーの動きを完全にコピーすることではないので、動きの意図と構造を理解して、それが伝わるように指の表情やタイミングを調整することを心がけています。
吉武:余談になりますが、日常芝居や格闘ゲームのアニメーションの場合は、アニメーター自らがアクターになってモーションキャプチャをすることもあります。仕様やアニメーションのことを理解しているので、意外といい動きを収録できます。実際、『ミリシタ』の開発初期にはアニメーターのひとりがアクターになり、テスト用のアニメーションを収録しました。
カメラワークも意識して、アイドルが最高に輝く動きを追求
C:「ダンスパート」のカメラワークも別チームの担当ですか?
吉武:はい。映像開発課という演出に特化したプロフェッショナル集団が担当します。ダンスのアニメーションがある程度できたら、そのデータを映像開発課に渡し、カメラワークを付けてもらいます。そのカメラワークを踏まえ、さらにアニメーションをブラッシュアップします。アニメーションとカメラワークは密接に関係しているので、両チームが小まめに相談しながらつくるよう心がけています。
▲前述のMV「Melty Fantasia」の制作途中のアニメーションにカメラワークを付けたもの。このカメラワークを踏まえ、さらにアニメーションがブラッシュアップされる。併行してリップシンク、フェイシャルアニメーションなども制作され、「ダンスパート」が仕上げられていく
▲MV「Melty Fantasia」の完成映像。3体の「ミリシタモーション作成用標準モデル(通称あかねちゃん)」が、本楽曲を歌う3人のアイドル(「白石紬」、「真壁瑞希」、「北沢志保」)に置き換えられている
遠藤:家庭用ゲームの『アイマス』シリーズでは「プロデューサー」が比較的自由にカメラを制御できるので、どのカメラで映してもアイドルがかわいく見えるようチェックしていました。『ミリシタ』の場合は家庭用ゲームよりはカメラの位置や数が制限されていますが、どこから見てもおかしくない動きになるよう心がけています。『ミリシタ』ではスマホを縦画面にしてお気に入りのアイドルひとりにフォーカスする「ソロライブ」という機能があって、この機能を使うと高頻度でアイドルの全身が映されるので、常に気が抜けません(笑)。
吉武:確実にクロースアップで映されることがわかっている「スペシャルアピール」のアニメーションでは、カメラワークを意識した調整をいつも以上に厳密にやります。アイドルが最高に輝く動きにするため「顔がちゃんと映るよう手をずらす」「一番かわいく見える角度になるよう顎を引く」といった調整をやっています。
遠藤:同じ楽曲の「スペシャルアピール」でも、縦画面の場合と横画面の場合ではカメラに映る範囲がちがうので、どちらで見てもバランスよく画面に収まるようチェックすることも大切です。
C:カメラに合わせてアニメーションを調整する場合もあれば、アニメーションに合わせてカメラを調整する場合もあるのでしょうか?
吉武:はい。どちらを調整するのが最適か、最高確認会で相談しながら決めていきます。
C:「最高確認会」とは何ですか?
吉武:『ミリシタ』のライブ表現が「最高」であることを「確認」するための「会」です。
遠藤:より「最高」を目指すことを「確認」するための「会」でもあります。
C:............意気込みが伝わるネーミングですね。
前編は以上です。後編では最高確認会の全容や、13人ライブをはじめとする『ミリシタ』のこだわりをお伝えします。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年7月31日(火)を予定しております)
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