「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第6回となる今回は、アニメ『モンソニ! ダルタニャンのアイドル宣言』(2017)(以下、『モンソニ!』)と『刻刻』(2018)における、サムライピクチャーズのキャラクターモデリングとリギングの仕事を「前編」「後編」の2回に分けて紹介する。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
20数名規模でも、リグのスペシャリストがいる
CGWORLD(以下、C):まずは皆さんの仕事内容を教えていただけますか?
林 和正氏(以下、林):現在はCGディレクターとして全体のディレクションをしつつ、キャラクターモデルのプロトタイプ制作やスタッフのマネジメントも担当しています。絵を描くことが趣味なので、それに近いモデリングには特にやりがいを感じています。『モンソニ!』『刻刻』ではCGスーパーバイザーを務めました。
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林 和正
サムライピクチャーズ
(CGディレクター)
多摩美術大学 デザイン学科を卒業後、白組ヒューマンスタジオで1年間3DCGを学んだ後、2010年にサムライピクチャーズへ入社。『モンソニ!』『刻刻』ではCGスーパーバイザーを務める。
柳田 晋氏(以下、柳田):もともとサムライピクチャーズはゼネラリスト集団だったのですが、TVアニメ『アイカツ!』(2012〜2016)の制作中にリガーを募集していました。そのタイミングで入社して以来、リガーを務めてきました。最近はリグの監修をしつつ、マネジメントもしています。林と組んで同じ案件を担当することが多く、『モンソニ!』『刻刻』ではCGリードリガーを務めました。
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柳田 晋
サムライピクチャーズ
(CGリードリガー)
自動車の修理工場に7年間務めた後、白組ヒューマンスタジオで1年半の間3DCGを学び、2013年にサムライピクチャーズへ入社。『モンソニ!』『刻刻』ではCGリードリガーを務める。
C:サムライピクチャーズのスタッフは20数名と伺っています。その規模でリグのスペシャリストがいらっしゃるのは珍しいですね。
林:そうだと思います。サムライピクチャーズはリグを大事にしているので、その点もこれからお話したいと思います。
C:リガーになる前は車の修理工場に勤めていたそうで、柳田さん自身のキャリアも珍しいですね。
柳田:車の修理工場で7年間働いたのですが「この仕事は自分に向いていないのでは?」と感じ、白組ヒューマンスタジオで1年半の間3DCGを学びました。リガーの仕事は自分に向いていると思ったし、リガーを志望する人は少ないから受け皿が大きいだろうとも思ったので、当初からリガー志望でした。
望月一輝氏(以下、望月):自分は大学でプログラミングを学びましたが、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)や『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- 』(2013)を見てアニメCGに興味をもち、アミューズメントメディア総合学院(2年制)で3DCGを学ぶことにしました。在学中からインターンシップとしてサムライピクチャーズへ入り、そのまま2017年4月に入社して現在にいたります。今はキャラクターのモデリングを中心に担当しており、『刻刻』などの案件に参加しています。
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望月一輝
サムライピクチャーズ
(CGモデラー)
大学ではプログラミングを学んだが、アニメCGに興味をもち、アミューズメントメディア総合学院 ゲームグラフィックデザイナー学科(現在の学科名は、アニメ・ゲーム3DCG学科)で2年間3DCGを学ぶ。在学中からインターンシップとしてサムライピクチャーズに入り、2017年4月に入社。『刻刻』ではCGモデラーを務める。
熊谷直希氏(以下、熊谷):僕も望月と同じく『楽園追放 -Expelled from Paradise-』や『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- 』がきっかけでアニメCGに興味をもったので、東北電子専門学校(2年制)で3DCGを学び、2017年4月にサムライピクチャーズへ入社しました。現在はリグを中心に担当しており、『モンソニ!』などに参加しています。
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熊谷直希
サムライピクチャーズ
(CGリガー)
東北電子専門学校 CGクリエーター科で2年間3DCGを学んだ後、2017年4月にサムライピクチャーズへ入社。『モンソニ!』ではCGリガーを務める。
C:リガーを志す学生は少ないと感じていますが、熊谷さんは学生時代からリガー志望だったのでしょうか?
熊谷:1年生の頃はモデリングだけをやっていましたが、2年生になってからアニメーションに興味をもち、キャラクターを動かすようになりました。でも思い描いたアニメらしい画づくりができず、リグの改良を始めたのです。そうする中で、リグがよくなると画もよくなることに気付き、リガーになりたいと思うようになりました。例えばキャラクターの肘を曲げたとき、3ds MaxのBipedのデフォルト設定のままだと、肘の骨による尖りを表現できなかったのです。そこを何とかしたいという思いで、試行錯誤を始めました。
C:キャラクター関連の大まかなスタッフ構成も教えていただけますか?
林:モデラーは5名程度、リガーは2名、アニメーターは10名程度です。ただしゼネラリストが多いので、モデリングを担当できるアニメーターもいますし、アニメーションを担当できるモデラーもいるといった具合です。例えば柳田はリードリガーですが、たまにモデリングもやります。
C:コンポジットはどなたが担当なさいますか?
柳田:アニメーターが中心になって担当しますが、林や望月、熊谷が担当することもあります。作画さん向けの原図(レイアウト)出しなどの作業も、アニメーターがやりますね。
C:それらを統括するのが林さんの役割という理解でいいでしょうか?
林:そうです。工数管理もやりますし、各案件にどのくらいの力量をかけるかも判断します。今はまだモデリングも担当していますが、徐々に新しいスタッフに任せる割合を増やすようにしています。
モデリング前に最終形に近い画をつくり、クライアントの了承を得る
C:では続いて、サムライピクチャーズにおけるキャラクターメイキングの具体的な仕事内容を教えていただけますか?
林:『モンソニ!』を例にお話したいと思います。サムライピクチャーズは『アイカツ!』のダンスシーンをはじめ、アニメCGのダンス映像を得意としています。『モンソニ!』のキャラクターはダンス案件用モデルの最新型なので、ぜひご覧ください。『モンソニ!』の場合、クライアントであるXFLAG PICTURESさんから、作品の企画書やキャラクターデザインが送られてきました。基本的に本作のキャラクターは作画で表現されていますが、ダンスシーンは3DCGで表現することになりました(※)。
※ ダンスシーンはキャラクターもカメラも大きく動くので、作画で表現するためには高い画力と長い時間を要する。3DCGで表現する方が適しているため、最近のダンスシーンの多くは3DCGでつくられている。
▲『モンソニ!』第1話「Shining Sonic Beam!」
©XFLAG
柳田:『モンソニ!』の原作はゲームアプリの『モンスターストライク』だったため、最初にゲームの画が届き、続いてアニメ用のデザイン画も送られてきました。アニメ関連の画は、アニメ制作を担当したライデンフィルムさんが制作しています。
▲原作であるゲームアプリ『モンスターストライク』の「ダルタニャン」と「紫苑」。【左】は「進化:全力アイドル Two for all」、【右】は「神化:二人のキズナ Two for all」
▲アニメ『モンソニ!』用の「ダルタニャン」の頭部のデザイン画
▲同じくアニメ『モンソニ!』用の「ダルタニャン」と「紫苑」の色彩設定
▲【左】同じくアニメ『モンソニ!』用の「ダルタニャン」の全身のデザイン画/【右】「紫苑」の全身のデザイン画
C:これらを基に、キャラクターのモデリングを行うのでしょうか?
林:はい。ただし、サムライピクチャーズではモデリング作業を始める前に、3DCG用のデザイン画を新たに制作します。われわれはこの画を「モンタージュ」と呼んでおり、リグと並んでかなり大事にしています。モンタージュは『アイカツ!』時代につくり始め、今もそのやり方を踏襲しています。
▲「ダルタニャン」のモンタージュ。手で描かれたアニメ用のデザイン画は左右非対称だが、モンタージュの顔は左右対称(シンメトリー)に描かれている
▲「紫苑」のモンタージュ
C:このモンタージュは2Dの画ですか?
林:そうです。アニメ用のデザイン画をレタッチしてモデラーが制作します。アニメ用のデザイン画は原画や動画を描くためにつくられたものなので、そのまま3DCG化すると立体として成立しなかったり、クライアントの期待する画にならなかったりといったことが往々にして起こります。だから3DCG用のデザイン画を新たにつくるわけです。アニメ制作に複数のキャラクターデザイナーが関わっている場合は画風が微妙にちがったりもするので、並べたときに違和感がないよう、頭部のサイズや目のデザインなどの統一も行います。
C:アニメ用のデザイン画とモンタージュを見比べると、すべてのパーツが微妙にちがいますね。このモンタージュはクライアントに確認してもらうのですか?
林:はい。モデリングを始める前に見ていただき、了承を得るようにしています。3DCGはつくるのに時間がかかるので、できあがってから大がかりな修正を指示されると、対応しきれない場合もあり得ます。そうならないように、事前に最終形に近い画をお見せして、了承を得ることが大切です。『モンソニ!』のような作品の場合、ダンスシーンの前後は作画で表現されるので、3DCGと作画が切り替わったときに違和感が出ないよう、作画のスタッフに確認してもらうことも大切ですね。
C:頭部に加え、身体のモンタージュも描くのでしょうか?
林:描きます。全身のプロポーションに変化を付け、いくつかのバリエーションを提案し、その中から選んでいただくこともあります。3DCGで確認用の画をつくった方が早い場合は、臨機応変に3DCGも組み合わせます。
C:スムーズにモデリングを進めるためには、事前準備がすごく大事というわけですね。モンタージュ制作は3DCGのためのキャラクターデザインとも言える作業で、とても興味深いです。
林:モンタージュに対するクライアントの了承が得られたら、3ds Maxでモデリングしていきます。実際にモデリングをした後で、「もうちょっと太ももを太くしてください」というように、微調整を指示されることもあります。それでも、モンタージュで最初に了承を得ておいた方が、全体の制作時間は短くなるのです。
▲「ダルタニャン」の3DCGモデル。3ds Maxでモデリングし、Pencil+ でセル画調の見た目を表現している。先に紹介したモンタージュの形状や雰囲気が、3DCGで再現されている
▲「紫苑」の3DCGモデル
▲「ダルタニャン」の3DCGモデルを表示した3ds Maxの画面。本モデルは耳が動くのがポイントだ。この衣装は第4話のダンスシーン用のもので、肩が露出しているため、腕を上げても形が破綻しないよう肩部分のメッシュ構造が工夫されている。「どんなメッシュ構造にするのがいいか、モデリング前に柳田とよく話し合いました。また、どの角度から見てもかわいく見えるようなバランスを心がけています。眼球はテクスチャではなくモデルで表現しており、前髪から顔に落ちる影は別途モデルを仕込んで表現しています。シーン作業中のレタッチは手間がかかるので、なるべくラインがチラつかない設定も心がけました」(林氏)
▲「紫苑」の3DCGモデルを表示した3ds Maxの画面。この衣装は第5話のダンスシーン用のものだ。本作では衣装替えがあるため、衣装を着ていない状態の素体からつくり込まれている。また「紫苑」は毛束がかなり多く、ボリュームのあるシルエットをつくりやすいようになっている。「髪は細かく揺らすため、かなり深くまで割いてあります」(林氏)
次ページ:
最初にしっかり確認してもらい、後日のリテイクを減らす
最初にしっかり確認をとれば、シーン制作時のリテイクを減らせる
C:モデリングが完了したら、リグの作業が始まるのでしょうか?
柳田:モデリングの完了前からリガーの仕事は始まります。作品の企画書やキャラクターデザインなどの資料が届いたら、そのキャラクターがシーン内でどのように使われるのかを分析します。どんな動きをさせたいか、どの程度の柔らかさが必要か、揺れ物はどう揺らしたいかなどをアニメーターに確認するため、アンケートをとったりもします。その上で、どんなモデルをつくってほしいかをモデラーに伝えます。例えば、滑らかに曲げたい部分はポリゴンを細かく分割してもらう必要がありますし、露出した肩をぐるぐるまわしたい場合はメッシュ構造を工夫する必要があります。
▲「ダルタニャン」のリグを表示した3ds Maxの画面。表情はモーフで表現され、顔部分にはノーマルコントロールが仕込まれている。ダンスシーンはどの作品でも衣装替えが必要になることが多いため、先々で身体のモデルを差し替えられるように、基本的に顔と身体のリグ構造は分けてつくられる。「基本のシステムはBipedで、上からヘルパーをかませ、ヘルパーにスキニングをしています。こうすれば着せ替えがしやすくなりますし、各部に移動・回転・スケールをかけることもできます。アニメーターがリグを掴みやすいように、Biped、ボーン、ヘルパーのサイズを調整したりもしています」(柳田氏)
▲「紫苑」のリグを表示した3ds Maxの画面。どんなめり込みにも対応できるように、衣装には細かくリグを仕込んでいる。「揺れ物はボーンの関節数を多めにして、柔らかいシルエットになるよう配慮しています。揺れ物の動きはSpringMagicで表現しており、テストをして基準となる数値をあらかじめ決めることで、アニメーターごとに揺れ方のばらつきが出ないようにしています。肘の骨による尖りの設定にはスキンモーフを使い、こちらもアニメーターごとの個人差が出ないようにしています。指の関節も、同様にスキンモーフを仕込んであります」(柳田氏)
C:リグの前工程と後工程の人たちに話を聞いたり相談をしたりして、キャラクターの制作方針を明確にするわけですね。
柳田:そうです。チーム全員の意見をまとめつつ、リギングを進めていきます。リグは単純すぎてもいけませんし、過剰であってもいけません。複雑なリグほど処理負荷が大きくなるので、どんなリグが求められているのか、しっかりとヒアリングすることが大切です。その上で、動かし方や揺れ方を確認するためのチェック用ムービーをつくります。「このくらいの揺れ方で問題ないですか?」と事前にムービーで見せて確認し、合意を得ておけば、そのムービーがシーン制作時の指標にもなります。
▲「ダルタニャン」モデルと「紫苑」モデルのチェック用ムービー。モデルの形状に加え、動かし方や揺れ方も確認する目的でモデラーやリガーが制作する。チェック用にあらかじめ用意されているアニメーションデータを使っており、細かい調整はしていないため、リボンの一部が髪にめり込んでいる。こういっためり込みは、シーン制作時にはアニメーターがていねいに調整する。「チェック用ムービーの段階でアニメーターにリグを操作してもらい、使いづらいところがないか確認するようにもしています」(柳田氏)
©XFLAG
C:このチェック用ムービーはクライアントにも確認していただくのでしょうか?
柳田:はい。実際のシーンをつくる前に、まずはチェック用ムービーをご覧いただき、動き方や揺れ方がクライアントのイメージ通りになっているか確認します。シーン制作に入ると複数話分の作業が同時に進行するため、モデルやリグに対するリテイクが入っても反映させるまでに時間がかかりますし、負荷も大きいです。一方で最初にしっかり確認をとっておけば、シーン制作時のリテイクを減らせます。
C:モンタージュもチェック用ムービーも、転ばぬ先の杖、降らぬ先の傘というわけですね。
柳田:そうです。加えて、キャラクターのモデルとリグが完成したら、どう使えばいいかを説明したアニメーター向けマニュアルもつくるようにしています。安心して使えるキャラクターと、ていねいなアフターサポートの提供が、モデラーとリガーの役割だと思っています。
林:それから、ひとつの案件が終わったら全員にアンケートをとり「次回はどうしてほしいか」を聞くようにもしています。そうやってふり返りの機会を設けることで、つぎの案件がよりよいものになっていきます。
▲『モンソニ!』第4話「芽生えるキズナ」。前述のチェック用ムービー内のコスチュームによるダンスシーンは、本エピソードの8:15あたりから視聴できる
©XFLAG
▲今回の取材にあたり、サムライピクチャーズが新規に制作した画。先に紹介した原作の「神化:二人のキズナ Two for all」を3DCGモデルで再現している
前編は以上です。後編では、『刻刻』におけるキャラクターモデリングとリギングの事例に加え、望月氏と熊谷氏が学生時代に制作したポートフォリオの一部も紹介します。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年4月26日を予定しております)