>   >  どこに行けば、キャラクターをつくれますか?:No.06(前編)>>サムライピクチャーズ
No.06(前編)>>サムライピクチャーズ

No.06(前編)>>サムライピクチャーズ

最初にしっかり確認をとれば、シーン制作時のリテイクを減らせる

C:モデリングが完了したら、リグの作業が始まるのでしょうか?

柳田:モデリングの完了前からリガーの仕事は始まります。作品の企画書やキャラクターデザインなどの資料が届いたら、そのキャラクターがシーン内でどのように使われるのかを分析します。どんな動きをさせたいか、どの程度の柔らかさが必要か、揺れ物はどう揺らしたいかなどをアニメーターに確認するため、アンケートをとったりもします。その上で、どんなモデルをつくってほしいかをモデラーに伝えます。例えば、滑らかに曲げたい部分はポリゴンを細かく分割してもらう必要がありますし、露出した肩をぐるぐるまわしたい場合はメッシュ構造を工夫する必要があります。

▲「ダルタニャン」のリグを表示した3ds Maxの画面。表情はモーフで表現され、顔部分にはノーマルコントロールが仕込まれている。ダンスシーンはどの作品でも衣装替えが必要になることが多いため、先々で身体のモデルを差し替えられるように、基本的に顔と身体のリグ構造は分けてつくられる。「基本のシステムはBipedで、上からヘルパーをかませ、ヘルパーにスキニングをしています。こうすれば着せ替えがしやすくなりますし、各部に移動・回転・スケールをかけることもできます。アニメーターがリグを掴みやすいように、Biped、ボーン、ヘルパーのサイズを調整したりもしています」(柳田氏)


▲「紫苑」のリグを表示した3ds Maxの画面。どんなめり込みにも対応できるように、衣装には細かくリグを仕込んでいる。「揺れ物はボーンの関節数を多めにして、柔らかいシルエットになるよう配慮しています。揺れ物の動きはSpringMagicで表現しており、テストをして基準となる数値をあらかじめ決めることで、アニメーターごとに揺れ方のばらつきが出ないようにしています。肘の骨による尖りの設定にはスキンモーフを使い、こちらもアニメーターごとの個人差が出ないようにしています。指の関節も、同様にスキンモーフを仕込んであります」(柳田氏)


C:リグの前工程と後工程の人たちに話を聞いたり相談をしたりして、キャラクターの制作方針を明確にするわけですね。

柳田:そうです。チーム全員の意見をまとめつつ、リギングを進めていきます。リグは単純すぎてもいけませんし、過剰であってもいけません。複雑なリグほど処理負荷が大きくなるので、どんなリグが求められているのか、しっかりとヒアリングすることが大切です。その上で、動かし方や揺れ方を確認するためのチェック用ムービーをつくります。「このくらいの揺れ方で問題ないですか?」と事前にムービーで見せて確認し、合意を得ておけば、そのムービーがシーン制作時の指標にもなります。

▲「ダルタニャン」モデルと「紫苑」モデルのチェック用ムービー。モデルの形状に加え、動かし方や揺れ方も確認する目的でモデラーやリガーが制作する。チェック用にあらかじめ用意されているアニメーションデータを使っており、細かい調整はしていないため、リボンの一部が髪にめり込んでいる。こういっためり込みは、シーン制作時にはアニメーターがていねいに調整する。「チェック用ムービーの段階でアニメーターにリグを操作してもらい、使いづらいところがないか確認するようにもしています」(柳田氏)
©XFLAG


C:このチェック用ムービーはクライアントにも確認していただくのでしょうか?

柳田:はい。実際のシーンをつくる前に、まずはチェック用ムービーをご覧いただき、動き方や揺れ方がクライアントのイメージ通りになっているか確認します。シーン制作に入ると複数話分の作業が同時に進行するため、モデルやリグに対するリテイクが入っても反映させるまでに時間がかかりますし、負荷も大きいです。一方で最初にしっかり確認をとっておけば、シーン制作時のリテイクを減らせます。

C:モンタージュもチェック用ムービーも、転ばぬ先の杖、降らぬ先の傘というわけですね。

柳田:そうです。加えて、キャラクターのモデルとリグが完成したら、どう使えばいいかを説明したアニメーター向けマニュアルもつくるようにしています。安心して使えるキャラクターと、ていねいなアフターサポートの提供が、モデラーとリガーの役割だと思っています。

:それから、ひとつの案件が終わったら全員にアンケートをとり「次回はどうしてほしいか」を聞くようにもしています。そうやってふり返りの機会を設けることで、つぎの案件がよりよいものになっていきます。

▲『モンソニ!』第4話「芽生えるキズナ」。前述のチェック用ムービー内のコスチュームによるダンスシーンは、本エピソードの8:15あたりから視聴できる
©XFLAG


▲今回の取材にあたり、サムライピクチャーズが新規に制作した画。先に紹介した原作の「神化:二人のキズナ Two for all」を3DCGモデルで再現している


前編は以上です。後編では、『刻刻』におけるキャラクターモデリングとリギングの事例に加え、望月氏と熊谷氏が学生時代に制作したポートフォリオの一部も紹介します。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年4月26日を予定しております)

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