「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。
第11回では、フリューより2018年10月に発売されたPS4ゲーム『CRYSTAR -クライスタ-』を事例に、キャラクターのデザインから、モデリング、ゲームへの実装までの仕事を紹介。前編では、本作のキャラクターデザイン&キャラクターモデリングリードを担当したntny氏(@nD_ntny)と、プロデューサー兼ディレクターの林 風肖氏(フリュー)へのインタビューの模様をお届けする。
※本記事で紹介する画面は開発中のものです。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲『CRYSTAR -クライスタ-』プロモーションムービー。「泣いて戦うアクションRPG」という独創的なゲームジャンルを表明する、2018年10月発売のPS4ゲーム。リウイチ氏(@riuichi35)がキャラクターデザイン、ntny氏がキャラクターデザイン&キャラクターモデリングリード、ジェムドロップが開発を担当している
www.cs.furyu.jp/crystar/
©FURYU Corporation.
3D化されるゲームのキャラクターデザインには、何が必要か?
CGWORLD(以下、C):本作の開発でntnyさんがどんな役割を担ったのか、具体的に教えていただけますか?
ntny氏(以下、ntny):リウイチさんが描いた私服の幡田 零のデザイン画を基に、その3Dモデルを制作しました。このモデルが、以降につくられた人型のキャラクターモデルのリファレンスになっています。ほかに、777と不動寺 小衣のデザインも担当しました。777の異形や、小衣の守護者(※)もデザインしています。
※ 本作のプレイヤーキャラクターには守護者と呼ばれるキャラクターが付随する。
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ntny
Twitter:@nD_ntny
1981生まれのO型らしいO型。FlightUNITにて数々のキャラクターモデリングを担当し、現在はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンに所属するアーティスト。キャラクターのデザインからモデリング、アニメーションまで幅広く手がける。自著に『ローポリ スーパーテクニック』(SBクリエイティブ/2008)がある。
C:本作の仕事を引き受けようと思った理由も教えていただけますか?
ntny:かれこれ10年以上キャラクターモデルをつくっていますが、リウイチさんのような絵は過去に扱ったことがなかったので面白そうだなと。企画の最初の最初から関われたので「キャラクターデザインにも参加したい」という要望にOKをもらえたことも決めてのひとつでした。キャラクターにまつわるフェチの面で林さんと意見が合致したのも大きかったです。ガッチリ握手しました。
▲リウイチ氏によって開発初期に描かれた幡田 零(本作主人公)のデザイン画の一部。ntny氏がモデリングする場合は、キャラクターを正面から見たデザイン画、斜めから見たデザイン画、背面のデザインがわかる簡単な略図に加え、キャラクターの喜怒哀楽の表情や、仕草が伝わる絵をなるべく多く描いてほしいそうだ
C:リウイチさんの画風を3Dで表現するのはかなり難しそうに見えますが、どういう工程を経て3D化していったのでしょう?
ntny:リウイチさんは、3D化されるゲームのキャラクターデザインは初めてだったので、何が必要かのすり合わせから始めました。人によっていくつか傾向があるので一概には言えないですが、「キャラクター」についてちゃんと理解のあるモデラーは、基本的に三面図を必要としません。代わりに完成された1枚絵であったり、表情であったり、普段描いているイラストであったりが、たくさんほしいんですね。背面図はデザインがわかればいいので、それほどしっかり描き込む必要はありません。とはいえ、リウイチさんはめっちゃ描き込まれましたが。
C:林さんからは、何かリクエストはありましたか?
ntny:特になかったので、リウイチさんの絵をそのままつくる形で進めました。自分の場合は、最初に企画を通すための動画用のモデルを1体つくって、それを指針にすることが多いです。今回もいつも通り、企画用の動画をつくって林さんに渡しましたね。Metasequoiaでモデリングして、3ds Maxで骨を入れ、Unityでルックを詰めるというフローでつくっています。シェーダはUnitychanToonShader2.0を使っていますが、何気にトラブルも多いです。本作でも正常に鏡に映らないなどの問題があったので、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの小林信行と一緒に解決していきました。
▲ntny氏によって開発初期に制作された零の私服モデル
▲ntny氏によって開発初期に制作された零のテスト動画
ゲーム内にもっていって実際の形を見て、デフォームをかけ直す
C:ゲームの開発が進んでいく中で、どんな課題がありましたか?
ntny:課題はてんこ盛りだった気がしますが、この記事を読んでいる方々に面白がってもらえる部分で言うと、実は零の私服モデルは2体存在します。そうなった原因はリウイチさんの成長という(笑)。ほかの絵描きさんにも言えることですが、いわゆる新進気鋭の作家をメインに据える場合、往々にしてこのようなことが起こります。最初から最高の1体をつくるより、「どうせ後でつくり直すことになる」くらいの心づもりで始めるといいかもしれません。
C:「成長」というのは、つまり、開発の真っ最中に絵柄が変わるとか、絵が上手くなるということでしょうか?
ntny:そうです。それもあって、自分よりジェムドロップさんのこだわりの方が凄かったですね。ゲームの完成間際に「最新の絵に合わせて、モデルの目を直したい、あれも直したい」みたいな......(笑)。
▲リウイチ氏によって開発後半に描かれた零(私服)の立ち絵
▲前述のリウイチ氏の立ち絵に合わせ、ntny氏が開発後半に調整した零の私服モデル
C:ゲームのキャラクターをモデリングする場合、どんな点に気を付けていますか?
ntny:前提として、原作者の絵を再現するのか、プラスアルファにするのか、ある程度こちらの味を出すのかの3つが指針になります。今作だと「リウイチさんの絵を動かそう」というのが根底にあったので、彼の作風の再現が最初の一歩でしたが、そのままだとゲームのキャラクターとしてはシルエットが大人しくなってしまうので「どうにかならんか」と林さんに変身の提案をしたりしましたね。
C:ということは、当初はバトル用コスチュームをつくる予定はなかったわけですね。
ntny:「ヒロインが変身する」という案は最初の企画書には存在せず、基本的に守護者が戦い、ヒロインは私服のままという設定でした。これだと大きくてシルエットのしっかりした守護者を操作している感が強くなり、私服のヒロインの印象が薄まってしまいます。なんとかヒロインを目立たせる方法はないかということで、変身を提案しました。初期の初期からプロジェクトに絡めたからこそ、できた提案でした。この辺は、プロジェクトのどの段階で、どういう立場で自分が組み込まれるかによって変わってきますから、キャラクター制作の注意点というよりは、仕事をする上での注意点のひとつかもしれません。
▲リウイチ氏によって開発後半に描かれた零(バトル用コスチューム)の立ち絵
C:ほかに、ゲームのキャラクターデザインならではの特徴や約束事があれば、教えていただけますか?
ntny:モデラーはよくTポーズやAスタンスでモデルをつくりますが、その状態では明らかにバランスの悪いシルエットでも、ゲーム内でポーズをとるとイケてるということが本当に多いです。なので、まずは素直につくり、ゲーム内にもっていって実際の形を見て、デフォームをかけ直すといったことまでさせてもらえるような立場をゲットできると、色々幸せになれるかもしれません。
C:お話いただき、ありがとうございました。
つぎのページでは、『CRYSTAR -クライスタ-』の企画・原案、プロデューサー兼ディレクターを務めた林 風肖氏へのインタビューの模様をお届けします。
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デザイン画をそのまま3D化してほしいとは
全く思っていない
デザイン画をそのまま3D化してほしいとは、全く思っていない
C:林さんは、本作の企画・原案、プロデューサー兼ディレクターを務めたとのことですが、具体的にはどんなことをなさったのでしょうか?
林 風肖氏(以下、林):プロデューサー兼ディレクターって、学生の皆さんには想像しにくい肩書きだと思いますが、コンセプトを立て、制作方針を明示し、作品を通してユーザーの皆様に提供する体験を統一させることが主な役割です。キャラクターデザインだけでなく、ゲームに関わる全ての要素のプロデュースとディレクションを担当しますが、コンセプトやユーザーに提供する体験が守られていれば、細かいことは各セクションの専門家の審美眼に委ねるようにしています。その結果、いい化学反応が起こるように導いていくことを自分の仕事のやりがいとして、そこに重きを置いてやっています。
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林 風肖
フリューのゲームクリエイター。『CRYSTAR -クライスタ-』の企画・原案、プロデューサー兼ディレクターを務める。
C:本作のプレイヤーキャラクター4体のうち、幡田 零と恵羽 千はリウイチさん、777と不動寺 小衣はntnyさんがデザインなさっていますね。お二人にキャラクターデザインを依頼した経緯を教えていただけますか?
林:最初に僕がリウイチさんの絵に惚れ込み、キャラクターデザインを依頼しました。リウイチさんには、零と千に加え、幡田 みらい、アナムネシス、メフィス、フェレスなど、人型のキャラクターのほとんどをデザインしていただきました。零と千の守護者をはじめ、人型以外のキャラクターのデザインも一部ご依頼しています。その後、リウイチさんの独特の画風を3Dで表現できるテクニックをもつモデラーさんを探した結果、ntnyさんの名前が浮上し、ご相談するにいたりました。
C:リウイチさん、ntnyさんの参加が決まった後、ジェムドロップさんに開発を依頼したというながれでしょうか?
林:そうです。ntnyさんに依頼した時点では、ジェムドロップさんは合流していませんでした。リウイチさんの絵が3D化できるのか、早めに確認しておきたいという思いがあり、まずはntnyさんに相談しました。
C:そもそも、リウイチさんの絵を3D化しようした時点ですごい挑戦だなと思います。さらに変身後のコスチュームは私服以上に3D化が難しそうなデザインで、よくぞ「ヒロインが変身する」という提案にGOサインを出されたなと驚きました。
林:どうすればゲームのユーザーにヒロインを印象づけられるか、リウイチさんとntnyさんとで1週間くらい議論した結果、変身させるというアイデアに帰結しました。ゲームのコンセプトを左右する部分ではなかったし、おっしゃることはもっともだと思ったのでOKを出しました。
C:とはいえ、モデリングの工数は結構増えますよね......。
林:だから最初は苦い顔をしましたよ(笑)。
C:ntnyさんはインタビューの中で「『キャラクター』についてちゃんと理解のあるモデラーは、基本的に三面図を必要としません」という発言をなさっていて、「え? そうだったの??」と驚きました。
林:僕はntnyさん以外に、そういうモデラーさんに出会ったことはありません(笑)。
C:人によるというわけですね(笑)。
林:ntnyさんは「三面図を細かく描いてもらっても、実は矛盾があったりする場合が多いから、どうせ完璧には再現できない」ともおっしゃっていました。結局調整が必要になるから、正面と斜めのデザイン画さえしっかり描いていただければ、支障はないということでしょう。発注をしている僕としても、リウイチさんのデザイン画をそのまま完璧に3D化してほしいとは全く思っていませんでした。僕が素敵だなと思った要素、みるからにダークな雰囲気、線の情報量の多さ、銀河のような目の輝きといったリウイチさんならではの「ブランド感」が表現されていれば、それ以外の要素は省略されても無問題だと思っていました。
C:そういう「リウイチ・ブランド」の世界に、「ntny・ブランド」のキャラクターを混ぜることで、何が起こることを期待しましたか?
林:ntnyさんには、リウイチさんが描きにくそうなキャラクターを発注しました。褐色の肌をした777や、ナイスバディなお姉さんの小衣は、リウイチさんの引き出しからは出てきにくいキャラクターだと思います。そういうキャラクターを加えることで、作品の懐を広げ、興味をもってくれるユーザーさんを増やしたいというねらいがありました。
C:ちなみに......、ntnyさんは「キャラクターにまつわるフェチの面で林さんと意見が合致した」という気になる発言もなさっていました。どんなフェチなのでしょうか?
林:ご想像にお任せします(笑)。ntnyさんにデザインしていただいた777と小衣から察していただけると嬉しいです。
▲ntny氏によって描かれた777のデザイン画
▲【左】同じく、777のデザイン画。このデザイン画には「白衣の下の方にトゲがありますが、こちらは演出用で、イラストには入れる場合がありますが、3Dモデルやアニメではなくてよいものです。つまりデザイン上はないのが正解で、イラストでのみ使う「盛り」要素なのでオミットOK」という注意書きも添付されている/【左】前述のデザイン画を基に制作された777の3Dモデル
▲777の3Dモデルのターンテーブル
▲ntny氏によって描かれたエピクロス(777が異形化した姿)のデザイン画
▲【上】前述のデザイン画を基に制作されたエピクロスの3Dモデル/【下】同じく、頭部の拡大。デザイン画と3Dモデルを比較すると、デザイン画の印象は残しつつ、凹凸を減らしたり、メカ構造をアレンジすることで、ゲームの3Dキャラクターとして表現可能な折衷案がジェムドロップのアーティストによって提案されていることがわかる
▲エピクロスの3Dモデルのターンテーブル
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自分のエゴを突きつけても
せっかくの感性をつぶしてしまう
自分のエゴを突きつけても、せっかくの感性をつぶしてしまう
C:デザイン画や3Dモデルが上がってきた後で、「ここを直してほしい」といったリテイクを出すことはありましたか?
林:キャラクターデザインに関しては、あまりリテイクを出しませんでした。作品のコンセプトから外れていなければ基本的にはOKとして、アーティストの感性を最大限に活かしたいと思っていました。僕はアートディレクターではないので、自分のエゴを突きつけても、せっかくの感性をつぶしてしまうだけです。企画書に書いたコンセプトが反映されていれば、あとはアーティストたちに委ねることを心がけました。
C:作品のコンセプトは、どうやって共有したのでしょうか?
林:基本的には企画書で伝えました。作品のテーマに加え、キャラクターごとの行動理念やゲーム内での役割、各キャラクターを象徴する宝石や、守護者を象徴する動物を伝え、それを基にデザインしていただきました。例えば主人公の零の場合は、泣いて強くなるキャラクターなので、庇護(ひご)欲を駆り立てられる要素がほしいとお願いしました。ほかに、一見すると弱々しいけど、芯は強いから目はらんらんと輝いている。ゴシックな雰囲気で、象徴する宝石はアクアマリン、動物はユニコーンといったことも伝えました。そうしたら、リウイチさんは白髪が好きだから「白髪ですね」とおっしゃり、僕は「どうぞ」とうなずきました。
C:そこは「リウイチ・ブランド」が入ってきたわけですね。
林:はい。「爪の色は黒くしたいです」「どうぞ」というやり取りもありました。
C:おもいしろい(笑)。そういった林さん、リウイチさん、ntnyさんらの化学反応を経て、ヒロインたちのデザインが決まっていったわけですね。
▲ntny氏によって描かれた不動寺 小衣のデザイン画。画像内の左は私服、中央と右はバトル用のコスチューム
▲【左】同じく、小衣のデザイン画/【左】前述のデザイン画を基に制作された小衣の3Dモデル
▲小衣の3Dモデルのターンテーブル
林:インタビューの最初でも言いましたが、作品を通してユーザーに提供したい体験が担保されており、各キャラクターがその役割を全うできるのであれば、餅は餅屋に、キャラクターデザインはキャラクターデザイナーにお任せして、高いモチベーションでもって、その美意識を活かしていただくことを重視しています。エネミーキャラクターの大半と、零の愛犬のセレマ、DLC(ダウンロードコンテンツ)の水着(零と千)などのデザインはジェムドロップのアーティストの方々に依頼しましたが、本作のコンセプトや世界観とすごく親和性の高いものを提案してくださいました。だから僕は「すごいですね。素敵ですね」って言い続けるだけで仕事が終わりました(笑)。
C:コンセプトに対する理解力のあるデザイナーに依頼できれば、以後の開発はスムースに進むというわけですね。お話いただき、ありがとうございました。
前編は以上です。後編では、本作の開発を担当したジェムドロップへの取材の模様をお届けします。ぜひお付き合いください。
©FURYU Corporation.
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