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    「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第6回(前編)では、サムライピクチャーズのキャラクターモデリングとリギングの仕事を、アニメ『モンソニ! ダルタニャンのアイドル宣言』(2017)(以下、『モンソニ!』)を事例にあげつつ紹介した。後編では『刻刻』(2018)における事例に加え、2017年4月入社の若手スタッフが学生時代に制作したポートフォリオの一部も紹介する。

    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    ▲左から、柳田 晋氏(CGリードリガー)、望月一輝氏(CGモデラー)、熊谷 直希氏(CGリガー)、林 和正氏(CGディレクター)


    学生時代に考えていたモデリングは、プロのそれとは大きくちがった

    CGWORLD(以下、C):望月さんは入社早々『刻刻』に参加したそうですが、何を担当したか教えていただけますか?

    望月一輝氏(以下、望月):ステージングモデルとモブキャラクターのモデリング、「神ノ離忍(カヌリニ)」のテクスチャ作成のお手伝い、シーンのコンポジットなどを担当しました。学生時代は学校の課題や自分が面白いと思うことを片っ端からやっていて、モデリングからアニメーションまで幅広く興味がありました。だからゼネラリスト志望として入社したという経緯もあり、色々なことをやらせてもらったのです。

    ▲『刻刻』第2弾PV
    © 堀尾省太・講談社/「刻刻」製作委員会


    林 和正氏(以下、林):ステージングモデルは、作画さん向けの原図(レイアウト)出しに使うモデルのことです。本番用モデルほどの精度は必要ないため、新人にお願いすることが多いですね。「神ノ離忍」は『刻刻』に登場する化け物で、監督からは「セル画調ではなく、リアルに表現してほしい」という指示をいただきました。そのため質感はテクスチャで表現しており、物量が多かったので望月にも手伝ってもらいました。

    ▲「神ノ離忍」のデザイン画。【上】は全身、【下】は手足の詳細


    C:「神ノ離忍」の場合も、モンタージュをつくったのでしょうか?

    :「神ノ離忍」の場合はコンセプトアートのような画を描き、監督の了承を得てからZBrushでスカルプトしました。その後、リトポロジーしたものを3ds Maxにインポートして仕上げています。

    ▲「神ノ離忍」の3DCGモデルを表示したZBrushの画面。木や植物をイメージした質感を、ZBrush上で細かくつくり込んでいる


    ▲「神ノ離忍」の3DCGモデルを表示した3ds Maxの画面。大中小の3サイズをつくり、シーンに合わせて使い分けている


    ▲「神ノ離忍」の3DCGモデル。【上】は全身、【下】の4点は各部の詳細。「リアルに表現してほしい」という指示を受けたものの、具体的な質感はサムライピクチャーズに任されたため、原作と設定画を基に質感を提案したという


    ▲「神ノ離忍」のリグを表示した3ds Maxの画面


    ▲柳田氏が制作した「神ノ離忍」のリグの操作説明用ムービー。キャラクターの操作方法を説明したアニメーター向けマニュアルの役割を果たしている。「手のコントローラーはFKとIKが切り替えられるようになっています。足は2本だったものが1本に合体したようなデザインなので、リグも2本足を1本足にまとめた構造にしてあります。作中で、足の接地部分がクロースアップになるカットがあったため、接地のアニメーションを付けやすいリグを組むよう心がけました」(柳田氏)
    © 堀尾省太・講談社/「刻刻」製作委員会


    C:ゼネラリストからモデラーへ、望月さんが志望職種を変えた経緯を教えていただけますか?

    望月:色々な作業を担当する中で、「自分の力を1番発揮できるのはモデリングだ」と思うようになったのです。未発表タイトルにはなりますが、最近はメインキャラクターのモデリングも担当しています。

    :今の望月には、モンタージュ制作からモデリングまで、先ほど(前編参照)『モンソニ!』を使って説明した一連の作業を担当してもらっています。タイミングが合えば新人であっても重要な仕事に挑戦できるよう、マニュアルやワークフローは常に整備してあります。

    C:入社から現在までの約1年間の中で、1番忘れられないことは何ですか?

    望月:自分の場合、この1年間に少し足踏みしてしまう期間がありました。その期間に「学生時代に考えていたモデリングは、プロのそれとは大きくちがった」と気付くことができ、自分が何を見据えればいいのか、今の自分に必要な情報は何かを判断できるようになったのです。そのきっかけがモンタージュ制作でした。アニメ用のデザイン画はシンプルな線で描かれているため、その線から必要な情報を読みとる鋭い観察力が必要になるのです。例えばカーブが1本引かれていたとき、そのカーブは手前から奥にながれているのか、奥から手前にながれているのかを読みとることが求められます。しかも線の描き方はデザイナーによってちがうので、解の導き方もデザイナーごとにちがいます。

    C:デザイン画に込められた情報を読み解く力がなければ、どんなにモデリングをがんばっても、いい結果にならないというわけですね。

    望月:はい。逆にモンタージュを通して情報を的確に読み解き、クライアントの了承も得られれば、迷うことなくモデリングに集中できます。デザイン画に描かれていない情報があるとわかれば、自分でデザインすることもできます。それこそ、モデラーの1番の腕の見せ所だとも思うのです。最近になって「モンタージュはすごくいいやり方だ」とようやく理解できるようになりました。

    :そう言ってもらえると嬉しいですね。

    望月:近頃は、予想することが大事だとも思うようになりました。その線がどんな形を表しているかを予想し、仮説を立て、モンタージュをつくってみる。ひょっとしたら「手癖で描いただけです」という回答が返ってくるかもしれないし、深い意図が込められているかもしれない。ひとつひとつ確認していくことで、観察する力や、形をデザインする力が磨かれていくように思います。

    :加えて、キャラクターが動いたときのことも予想しながらつくることが大切です。動くことを念頭に入れておけば、「こう動かすんだから、メッシュはこうした方がいいんじゃないか」というように、自然とメッシュ構造にも意識を向けられると思います。さらにクライアントや視聴者の反応も事前に予想しておくと、実際の反応を受けとるたびに、モデルの良し悪しを判断する目が磨かれていきます。

    ▲望月氏の学生時代のポートフォリオ。「今の自分の原点になっていると思う作品」を選んでもらった。【左】「学生時代の課題で、短期間に集中して取り組んだため、当時の自分に必要な知識や技術を把握するきっかけになりました。特にライティング、テクスチャリング、カメラワークなど、モデリング以外の工程の重要さを改めて感じました」(望月氏)/【右】「初めてスカルプティングを実践した作品で、最終形をイメージしながら造形できました。コンポジットにも挑戦したので、最後の画づくりまで視野に入れてモデリングするきっかけにもなりました」(望月氏)

    アニメーションを付けるとリグの使い勝手の良し悪しがよくわかる

    C:熊谷さんの場合は、学生時代から一貫してリグに注力してきたのでしょうか?

    熊谷直希氏(以下、熊谷):2年生以降はそうですね。学校の先生から「2年間しかないんだから、好きなことを極めなさい」と教わり、リグに専念しようと思いました。とはいえ学生時代の勉強は基礎の部分がすっぽり抜けていたので、入社後の1年間は『モンソニ!』などのリグを部分的に担当しつつ、地道に基礎を学んできました。最近になって、学生時代に上手くできなかったことが徐々にできるようになり、自分の成長が感じられるようになっています。一方でリグの作業がないときは、アニメーションをはじめ、ほかの作業もやっています。アニメーションを付けるとリグの使い勝手の良し悪しがよくわかるので、これもまたいい勉強だと感じます。

    C:リグ以外の作業に対しても、ポジティブに取り組んでいるのですね。

    :熊谷も望月も、臨機応変にほかの作業を担当してくれます。当社くらいの規模だと、今のような緩い分業体制の方が無駄がないのです。その点を理解し、われわれの要望に応じてくれる点は有り難いですね。

    柳田 晋氏(以下、柳田):とても有り難いです。アニメーターをやれば社内外の方々がつくった色々なリグを操作することになるので、そこから多くのことを発見できると思います。ほかの作業を担うことで、工程全体に対する理解が深まることも期待しています。実際、この1年で熊谷はかなり成長しており、最近の未発表タイトルではリグの実働の多くを担ってくれています。

    熊谷:まだまだ判断に迷うときがあるので、柳田さんから意見をいただくことも多いです。

    C:熊谷さんも、入社から現在までの約1年間の中で、1番忘れられないことを教えていただけますか?

    熊谷:全部が忘れられないです(笑)。あえてひとつ上げるとすれば、入社半年目くらいのときに僕が提案したリグを柳田さんが手直ししてくださり、そのリグが未発表タイトルの制作で採用されたときはすごく嬉しかったです。

    C:入社半年目にして、熊谷さんが提案したリグが初めて採用されたというわけですね。

    :経験年数や職種を問わず、気後れせずに提案してほしいと思っています。柳田と私は長年タッグを組んできたこともあって、頻繁に意見を言い合っています。熊谷と望月も、そういう関係になってくれればと期待しています。

    ▲熊谷氏の学生時代のポートフォリオ。望月氏と同じく「今の自分の原点になっていると思う作品」を選んでもらった。【左】「リグの理解を深めるため、1から組んだカスタムリグです。最難関は目のリグで、試行錯誤を何回も繰り返し、着地点にたどり着くまでに数パターンのリグをつくったものの、その過程でゴールまでの路はひとつではないと学べました」(熊谷氏)/【右】「どの角度から見ても画になるアニメ調の顔をつくりたいという思いから、フェイシャルリグにも挑戦しました。CATをコントローラーにすることで自分らしいリグを組めた反面、スキン用ボーンに伸縮するものを使ったため、CATとの動機が難しかったです。でも、3ds Maxのシステムや操作、モデルのトポロジーに対する理解が深まりました」(熊谷氏)


    C:望月さん、熊谷さんの成長が楽しみですね。では最後に、皆さんの今後の抱負を聞かせていただけますか?

    :引き続き3DCGのキャラクター制作を極めていき、いつかは誰もが知っているような、アイコンになるようなキャラクターをつくりたいです。

    柳田:プロジェクトを円滑に進めるためのシステム構築を極めたいです。そのためにも、今後もメンバー全員の意見を聞き、一緒になって理想を追求していきたいと思っています。

    望月:視聴者の創作意欲を刺激したり、ブームになるようなキャラクターをつくりたいです。

    熊谷:メインキャラクターが3DCGのアニメCG作品を、元請けとしてつくりたいです。

    C:皆さんの抱負が叶うことを願っています。有難うございました。

    本連載のバックナンバー

    No.01>>フロム・ソフトウェア(前編)(後編)
    No.02>>コロプラ(前編)(後編)
    No.03>>カプコン
    No.04>>コナミデジタルエンタテインメント
    No.05>>小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(前編)(後編)
    No.06>>サムライピクチャーズ(前編)