記事の目次

    「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第2回(※)となる今回は、コロプラの『白猫プロジェクト』におけるキャラクター制作の仕事を、「前編」「後編」の2回に分けて紹介する。

    ※ 本連載のバックナンバーは下記にて公開しております。
    No.01(前編)>>フロム・ソフトウェア
    No.01(後編)>>フロム・ソフトウェア
    No.02(前編)>>コロプラ
    No.03>>カプコン

    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    ▲『白猫プロジェクト』ゼロ・クロニクル ~はじまりの罪~ PV。『白猫プロジェクト』はコロプラが2014年に配信を開始したAndroid・iOS用のアクションRPGゲームアプリだ。本記事の前編では、2017年7月末~ 8月にかけて開催されたイベント「白猫シェアハウス Season2」における、キャラクターデザインの仕事を紹介する。さらに後編では、同イベントにおける、キャラクターモデリングの仕事を紹介する
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    イラストのどこを優先するのか、順位付けをする

    CGWORLD(以下、C):キャラクターデザインの仕事に続き、それを3D化するモデリングの仕事についても教えていただけますか?

    T.M:実際にモデリングを始めるのは、イベントがリリースされる約1ヶ月前からです。ただし、それ以前からPMやデザイナーと話をして、意見のすり合わせをしておきます。モデリング用の二面図が手元に来たら、それをもとにモデルをつくります。なお、モデリングの後には、アニメーションとエフェクトの工程が控えています。

    ▲「レイン」のモデリング用二面図。【左】は「私服」、【右】は「バイト服」。3Dモデル用にデフォルメされたキャラクターが描かれている。『白猫プロジェクト』では二面図用のフォーマットが用意されており、その上から服を着せるように描いていく


    ▲【左】「レイン(私服)」とバイクのモデル(ワイヤフレーム)を表示したMayaの画面/【右】同じくモデル(シェーディング)を表示したMayaの画面


    ▲同じく「オスクロル」のモデリング用二面図。【左】は「バイト服」、【右】は「私服」


    ▲【左】「オスクロル(バイト服)」のモデル(ワイヤフレーム)を表示したMayaの画面/【右】同じくモデル(シェーディング)を表示したMayaの画面。眼鏡もしっかり再現されている


    ▲同じく武器のモデリング用デザイン画。【左】は「レイン」の武器、【右】は「オスクロル」の武器


    C:リグは誰が担当するのでしょう?

    T.M:リグの仕様は事前に決められているので、基本的にそれを流用しています。新規のリグが必要なモデルの場合は、モデラーがボーンを入れ、アニメーターがリグを組みます。

    C:二面図を受けとった後で、デザインが変更になることはありますか?

    T.M:たまにありますね。3Dで表現するのは難しいと感じた場合には、デザイナーに相談し、意見をすり合わせます。例えば『白猫シェアハウス Season2』では、Y.Aから「私服のツキミには、常にバッグをもたせたい」とリクエストされましたが、モーションによっては難しい場合があるので、どうすればいいか相談しました。ユーザーさまはイラストからキャラクターのイメージを膨らませると思うので、なるべくその魅力を削らずに、モデルを成立させる方法を考えるようにしています。Y.Aはまめにコミュニケーションをとってくれる人なので、何度もやり取りをしながらつくっていきました。

    C:モデルをつくる上で、難しいと感じることは何ですか?

    T.M:動かしたときに与える印象ですね。例えば、デザイン画の段階ではかっこよく羽が付いていたとしても、ポーズを付けるとシルエットが大きく崩れてしまうといったことはよくあります。そういう場合は、後々まで調整が必要になります。色々な要素が盛り盛りになったデザインの場合は、仕様の制限内にどう落とし込むかで悩みますね。三頭身のデフォルメキャラクターにしたとき、あまりにごてごてと装飾が付いていると見映えがしません。

    ▲【左】ゲーム画面における「レイン(私服)」/【右】同じく「レイン(バイト服)」


    ▲ゲームのバトル画面における「レイン(私服)」。バトル画面では俯瞰視点のカメラで映されるため、この視点からの見映えも考慮してモデリングする必要がある


    ▲【左】ゲーム画面における「オスクロル(バイト服)」/【右】同じく「オスクロル(私服)」


    ▲ゲームのバトル画面における「オスクロル(バイト服)」


    C:Y.Aさんは、デフォルメしたときのデザインを当初から考えているのでしょうか?

    Y.A:ある程度は考えます。例えば、腰回りにモチーフがあれば見栄えがするとか。ただ、あまり神経質に考えているわけではありません。

    C:3Dのデザイナーとやり取りする中で「これをやると嫌がられるんだな」と気付いたことはありますか?

    Y.A:『白猫プロジェクト』のようなデフォルメキャラクターの場合、肩周りに物があると、腕を動かしたときに埋まってしまいます。だから肩周りの空間は空けておくのが望ましいですね。

    T.M:あまりにごてごてしたものを置くと、見た目が崩れてしまうという話はよくしますね。ほかには、明るい配色にした方が暗いダンジョン内でも見分けられるとか、末端の方にアクセント色を配置すれば動かしたときに見映えがするといった話をします。

    N.T:とはいえ、あまりそこに縛られすぎるとデザインの幅が狭くなるので、まずは自由に考えることを推奨しています。その結果、後でT.Mを悩ませることは多々ありますが(苦笑)。

    T.M:最初の段階では、やりたいものを心置きなく表現するのがいいと思います。3Dモデルにする段階で、イラストのどこを優先するのか、決めていけばいいでしょう。例えばマントやスカートの揺らぎが表現されている絵であれば、ユーザーさまにはそれが強く印象付けられていると思うので、きっちり再現した方がいいのです。ただし、そういう表現はポリゴン数を使うので、細かいパーツを配置できなくなったりします。だったらスカートのなびきを減らすのか、パーツを減らしてでもスカートのなびきを優先するのかといった、優先順位を決める必要があるわけです。

    N.T:どこを優先するのかというデザインのプライオリティーの話はよくやりますね。それを伝えれば「じゃあこうしましょう」という提案をモデラーからもらえることもあります。

    T.M:モデリングの場合も、Y.Aのような施策の担当者がいて、基本的にはその人に任せるようにしています。その人がわからないことや提案できないことは、横から私がアドバイスしながら進めています。私自身『白猫プロジェクト』を通して、モバイルゲームならではの3D表現を学んできました。今後は学んだことを若い人たちにも共有し、さらにいいものづくりができる環境を構築したいと思っています。

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    ドラゴンライダー → バイクライダー → 2人乗り

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    ドラゴンライダー → バイクライダー → 2人乗り

    C:ちなみに、できあがったモデルをアニメーターに引き継いだ後、調整を依頼されることはありますか?

    T.M:ありますよ。

    C:やっぱりあるんですか。

    N.T:デザイナーまで戻されることはほぼないですね。

    T.M:大抵の場合は3D側で何とかします。激しいアクションをするキャラクターの場合は、めり込みが発生して見栄えがよくないといった問題が起こりがちです。そういうときは、ちょっとしたウエイトの調整、位置や大きさの変更などで不具合を解消するケースが多いです。例えばスカートの形をちょっと広げて可動域を増やすといったことはよくやります。その場合も「ちょっとシルエットが崩れちゃうけど、可動域を優先しよう」といった優先順位の話をすることになります。

    C:モデラーとアニメーターの間でも、意見のすり合わせが行われているわけですね。

    T.M:『白猫シェアハウス Season2』では、「レイン」のバイクの調整に時間がかかりました。もともと『白猫プロジェクト』には数多くのジョブがあり、ジョブごとに共通のボーン構造やモーションを使っています。その中の1つに「ドラゴンライダー」というドラゴンに乗って戦うジョブがあるのですが、「レインには、ドラゴンではなくバイクに乗って戦わせよう」という話になりました。

    C:ドラゴン用のボーンとモーションでバイクを動かすのは無理がありそうですね。

    T.M:モデラーだけではどうしようもなかったので、アニメーターに依頼して、新しいボーンとリグを組み、調整してもらいました。

    N.T:最初はバイクの前輪が生き物のように動いていたので、調整がすごく大変だったみたいです。ほぼ新規に開発することになったのですが、ユーザーさまには喜んでもらえましたね。

    C:「バイクに乗って戦う」というアイデアを聞いた時点で、T.Mさんは準備を始めていたのでしょうか?

    T.M:時間がかかることは予想できたので、デザイン画の完成を待たずに仮モデルをつくり、検証を始めました。ドラゴンがバイクになったことで、プランナーからは「2人乗りできるスキルを追加しよう」というアイデアも出たりして、大変ではありましたが、いい方向に進展していったと思います。

    ▲【左】「レイン(私服)」とドラゴンのリグを表示したMayaの画面/【右】同じく「レイン(私服)」とバイクのリグを表示したMayaの画面。ドラゴンのリグを流用すると不自然なモーションになるため、バイク専用のリグが新規に開発された


    ▲【左】ゲームのバトル画面における「レイン(私服)」とバイク/【右】バイクに2人乗りできるスキルも追加された


    ▲ゲームのバトル画面における「レイン(私服)」と2人乗りのバイク


    N.T:モバイルゲームはユーザーさまの反応がダイレクトに返ってくるので、施策が成功したときの喜びは大きいですね。新しいキャラクターが魅力的だったときには、すごくユーザーの皆さまが喜んでくれて、SNSやWebサイトに書き込みをしてくれます。グッズを販売したり、期間限定のカフェをやったりした際にも、たくさんの反響をいただきました。最近はキャラクター宛のファンレターをくださる方までいます。そういうユーザーの皆さまの期待に応えるべく、今後も感情を揺さぶる施策を展開していきたいです。