「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第2回(※1)となる今回は、コロプラの『白猫プロジェクト』におけるキャラクター制作の仕事を、「前編」「後編」の2回に分けて紹介する。
※1 本連載の第1回は「No.01(前編)>>フロム・ソフトウェア 」「No.01(後編)>>フロム・ソフトウェア」と題して、CGWORLD Entry.jp にて公開しました。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲『白猫プロジェクト』私立茶熊学園2017 PV。『白猫プロジェクト』はコロプラが2014年に配信を開始したAndroid・iOS用のアクションRPGゲームアプリだ。本記事の前編では、2017年7月末~ 8月にかけて開催されたイベント「白猫シェアハウス Season2」における、キャラクターデザインの仕事を紹介する。さらに後編では、同イベントにおける、キャラクターモデリングの仕事を紹介する
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コスチュームに加え、職業や暮らしぶりもデザイナーが提案
CGWORLD(以下、C):まずは『白猫プロジェクト』における、キャラクター制作のながれを教えていただけますか?
N.T:最初に、プロジェクトマネジャー(PM)、シナリオライター、一部のデザイナーなどが集まり、数ヶ月後にどんな施策をするか話し合います。例えばシリアスなイベントが続いていたら、「ギャグテイスト、あるいはコメディライクな世界観をつくろうか?」といったアイデアを出します。運用上の課題に対する「こんな施策をすれば効果的では?」という提案から、イベントがつくられる場合もあります。そうやってフランクにアイデアを出し合い、イベントの世界観やコンセプトが決まったら、キャラクター制作へと移行していきます。
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N.T氏(キャラクターデザイナー)
アーケードゲーム、アプリの開発運営を経て2013年にコロプラへ入社。『クイズRPG魔法使いと黒猫のウィズ』や『白猫プロジェクト』にてキャラクターデザインやパッケージデザインを担当。
C:そういう会議は、どのくらいの頻度で開かれるのでしょう?
N.T:2週に1回くらいはやっています。1回の会議では決まらない場合も多いので、何度も話し合うことが大事だと思っています。とはいえイベントのリリース日はしっかり決められているので、デザインにしろ、モデリングにしろ、作業に当てられる時間は限られています。ちゃんと締切に間に合うように、どのくらいの数なら制作できるのか、どんなデザインなら実現できるのかといったことを、デザイナーたちに確認しながら決めていきます。
C:どのくらいのペースでキャラクターをつくるのですか?
T.M:3Dモデルをつくるキャラクターだけで、月平均6〜8体になると思います。
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T.M氏(キャラクターモデラー)
コンシューマゲームの開発に携わり、キャラクターや背景のモデリングを担当。2015年にコロプラへ入社。現在は『白猫プロジェクト』のキャラクターモデリング、ディレクション、スケジュール管理を担当。
C:週1体以上のペースでつくっていることになりますね。
N.T:T.Mと私は前職でコンシューマゲームやアーケードゲームの開発に携わっていましたが、それに比べれば、モバイルゲームの開発ペースはかなり速いと感じます。
T.M:『白猫プロジェクト』の場合は月に2回程度イベントをリリースしており、その度に5体前後のキャラクターが必要になります。イベントごとに担当者が付き、1つのイベントのキャラクターを2~3カ月かけてつくっています。
N.T:例えば2017年の夏にリリースした『白猫シェアハウス Season2』の場合は、3体のキャラクターをY.Aにデザインしてもらいました。それぞれ「私服」「バイト服」の2パターンがあったので、実質6体分のデザインが必要でした。さらに担当デザイナーには、キャラクター単体のデザインに留まらず、そのイベントのビジュアル設計を丸ごと任せるようにしています。
Y.A:『白猫シェアハウス Season2』は、私が初めて担当したイベントでした。
▲『白猫シェアハウス Season2』のゲーム画面
▲【左】「ツキミ」の「私服」/【右】同じく「ツキミ」の「バイト服」。「私服もバイト服も、ツキミのふわふわした可愛らしい女の子の印象を崩さないようにデザインしています。従来のツキミはピンクの衣装が多かったため、私服では青色チェックのワンピースを着せ、さわやかな印象にすることで、歴代のツキミとの変化をつけました。バイト服では武器の哺乳瓶を胸のあたりに添えることで、ただ優しいだけでない、母性が感じられるような立ち絵を目指しました」(Y.A氏)。『白猫シェアハウス Season2』では、キャラクターの暮らしぶりや性格がうかがえる「私服」と、働くときに身に着ける「バイト服」がデザインされた。オンとオフでキャラクターのイメージをがらりと変えている点が本作の見どころの1つだ
C:Y.Aさんは、いつコロプラに入社したのでしょうか?
Y.A:私は2016年4月に入社し、現在2年目です。入社前は東京藝術大学のデザイン科でプロダクトやグラフィックのデザインを学んでいました。ゲームとは全く関係ないことばかりやっていたので、就職活動に使ったポートフォリオにはゲームに関連するような作品はまったく入っていませんでした。キャラクターの描き方は、入社後に仕事を通して色々な方から教えていただきました。
▲Y.A氏が就職活動時のポートフォリオに掲載した作品。デザイン科で制作した帯留めや絵本のデザインが紹介されている。「キャラクターの描き方はまったく勉強しませんでしたが、ユーザーさまがどう思うのかを考えることは大学でも常にやってきました。『これを受け取ったユーザーさまに、こういう気持ちになってほしいから、こうするんだ』と考える姿勢は、今のゲーム制作にも生かされていると思います」(Y.A氏)
▲同じくポートフォリオに掲載した石膏デッサン。石膏像に加え、質感のちがうほかのモチーフも巧みに表現している。これらは大学受験のために描いたものだという
C:どうしてゲーム業界に入ろうと思ったのですか?
Y.A:学生時代はずっと「広告代理店に行きたい」と思っていました。でもあるときから、自分は本当に広告がやりたいのか、わからなくなってしまいました。そんな折、インターンシップ先のデザイン事務所の社長が語った「好きなものをデザインしないと、いいものは届けられない」という言葉がすごく心に響いたのです。「じゃあ、私の好きなものって何だろう?」と考えたとき、私の周りには常にゲームやアニメがあったことを思い出しました。だから「ゲームの会社に行こう」と決めたのです。
C:『白猫シェアハウス Season2』でのY.Aさんの仕事を具体的に教えていただけますか?
Y.A:『白猫プロジェクト』の舞台は、武器と魔法で闘うファンタジー世界です。「そんな本作のキャラクターたちが、もし現代の東京にいたら、どんな感じだろう?」というのが『白猫シェアハウス Season2』のテーマでした。いわゆる「現パロ」をやったわけです。例えば「オスクロル」という元魔王は教師、「レイン」という堕天使は漫画家という設定でデザインしました。
▲【左】従来の「レイン」のコスチューム/【右】新たにデザインされた「レイン」の「私服」
▲【左】同じく「レイン」の「バイト服」。「私服ではレザーを着せてハードな印象にする一方で、バイト服ではニットを羽織らせ、やわらかい印象にしています。衣装の質感を大きく変えることで、かっこいい外見とは対照的に、実は器用で面倒見のいい、彼の繊細な一面にスポットが当たるようにしました」(Y.A氏)。当初は私服もバイト服も、かっちりとした、男性的でかっこいい印象のデザインを考えていたという。しかし「せっかく衣装を替えられるなら、思い切って差別化しよう」という方針になり、バイト服は女性ユーザーを意識した「私にだけ見せてくれる、ちょっと気の緩んだ服」を目指したそうだ/【右】「レイン」のスチル絵。女性ユーザーを意識したレイアウトになっている
C:「レイン」のバイクも含めてデザインしているのでしょうか?
Y.A:はい。社内にバイク好きのデザイナーがおり、意見をもらいながらデザインしました。元々「レイン」は身体の線が細めで黒く締まりつつ、所々に付けている装備は重厚に、特に下半身は重めにデザインされていました。それを踏まえ、重く長く、締まっている感じを出せるクルーザータイプのバイクを選びました。加えて後輪をワイドタイヤにすることで、下半身の重さを表現してみました。バイク自体にも、ホイールやブレーキローターなどに「レイン」らしい意匠を入れてあります。「レイン」自身、荒々しい性格だけど優しい部分もあるので、荒々しい外見や音とは対照的な、ゆったりとした車体特性をもつクルーザータイプのバイクだと相性がいいのではと思い採用しました。
N.T:コスチュームや髪型、小道具はもちろん、職業や暮らしぶりもデザイナーが提案しています。「キャラクターをどう見せるか」については、基本的にデザイナーに任されているわけです。だからかなり掘り下げて考えていきます。例えば「レイン」はいかつい堕天使ですが、手先が器用という設定なので、漫画家をやっていたら意外性があるし、親近感もわきますよね。
C:かなりインドア派の堕天使ですね。
N.T:そう(笑)。Gペンを愛用してて、それが武器にもなるんだろうとか......。そんな風にアイデアを膨らませ、企画を立てていきました。
[[SplitPage]]男性受けする要素と、女性受けする要素はちがう
C:デザイナーに委ねられている裁量がすごく大きいですね。
N.T:そうなんです。詳細まで完全に決まっていることはほとんどありません。デザイナーから発信する機会が非常に多い点は、大きなやりがいになっています。モバイルゲーム開発は決めるペース、つくるペースが速いですから、それだけチャンスの数も多いです。今回の場合だと「テーマは現パロで、メインキャラクターはツキミ、レイン、オスクロルにしましょう」という大枠だけが決まっていたので、そこから先はデザイナーたちで考えていきました。
Y.A:ファッション誌を買ってきて、どんな服が似合うかほかのデザイナーたちと話し合いながら、かなりのパターンをデザインしました。
N.T:「レインの私服はいかつい感じだから、漫画を描いているときは真逆の印象にしたい」「髪を下ろして、やわらかいニットを着せるといい」などなど......。女性デザイナーが集まって、熱心に話し合っていました。私なんかは圧倒されてしまい、「いいんじゃないかな」としか言いませんでした。ただ「オスクロル」に眼鏡をかけさせてほしいというのは、男性デザイナーからのリクエストでした。
C:光景が目に浮かびます(笑)。男性デザイナーと女性デザイナー、両方の意見が混ざり合い、デザインが仕上がっていくわけですね。デザイン画を描くときには、どんな風に作業を進めるのでしょう?
Y.A:雑誌を見たりインターネットで検索したりしながら、色々なパターンの服を組み合わせ、合いそうなものを探っていきます。『白猫シェアハウス Season2』のときは、1ヶ月くらいの間に何十枚ものデザイン画を描きました。特に「レイン」は数が多く、30枚は描きましたね。「オスクロル」も結構描いたように思います。
▲Y.A氏がデザインの初期段階で描いたラフ。「ツキミ」は大きな方向性の変化がない一方で、「レイン」と「オスクロル」のバイト服は決定稿と大きく印象が異なる
▲【左】従来の「オスクロル」のコスチューム/【右】新たにデザインされた「オスクロル」の「バイト服」
▲【左】同じく「オスクロル」の「私服」のボツデザイン/【右】「オスクロル」の「私服」の決定稿。「仕事はオフィスでしっかり働き、オフでは皆から甘えられる優しいお姉さん的なイメージを出すため、「バイト服」は黒い衣装、「私服」は白い衣装にしています。当初の「私服」は上下セパレートで、大人な印象のデザインにしていました。このデザインは女性には好評だったのですが、男性から見ても、もう少しとっつきやすく、やわらかい印象になるよう白いワンピースに変更しました。装飾の少ないシンプルなデザインなので、女性から見ても好印象なラインだと思います」(Y.A氏)
C:デザインをする中で、どんなことを難しいと感じますか?
Y.A:女性のキャラクターをデザインするとき、女性から見たら可愛いけれど、男性から見たらそれほど可愛くないというケースが結構あります。男性受けする要素と、女性受けする要素はちがうので、それをすり合わせ、両方に喜んでもらえるデザインにすることが難しいですね。
C:それほどはっきり男女で意見が分かれるものですか?
Y.A:分かれる場合が多いです。だからN.Tをはじめ、社内の男性デザイナーに意見を聞くようにしています。
N.T:『白猫プロジェクト』は男性のユーザーさまが多いので、男性が見て共感がもてるデザインにすることは非常に大切です。女性デザイナーには理解しきれない部分もあると思うので、そこは男性デザイナーがフォローするようにしています。
C:自分の好みや価値観だけで判断せず、ターゲットが喜んでくれるデザインにする必要があるわけですね。
N.T:Y.Aにはデザイン画に加え、スチル絵や背景画も担当してもらいました。スチル絵では、キャラクターたちが花火を見たり、シェアハウスで共同生活したりする様子を描いています。
Y.A:スチル絵は10枚くらい担当したと思います。ストーリーと密接に絡み合うので、シナリオライターと話しながら「こういうシーンなら、こんな絵にしよう」という具合に方向性を決め、ほかのデザイナーと一緒に仕上げていきました。
C:キャラクターの暮らしぶりまで考えてデザインしているからこそ、スチル絵の具体的な提案もできるわけですね。
▲Y.A氏が担当したスチル絵
▲【左】同じくスチル絵/【右】同じく背景画
C:Y.Aさんの今後の抱負を聞かせていただけますか?
Y.A:先々では、最初に施策の内容を考える段階から関われるようになりたいです。
N.T:Y.Aはデザインに対して真摯な考え方をもっており、わかりやすさや、ユーザーさまがどう思うかという点にすごく思いを馳せて仕事をしてくれます。加えて絶対に手を抜かず、自分が納得するまでやり続ける粘り強さをもっています。欲を言うと、受け取り手のことを考えるだけでなく、そろそろ自分の主観や地も出していいのではと思いますね。「こういう世界観の、こういうルックの、こういうゲームにしてみたい」と意見を上げてくれれば、われわれはそれをキャッチして、一緒に新しいものをつくっていきたいと思っています。
前編は以上です。後編では、キャラクターデザインが完成した後、それを3D化するモデリングの仕事を紹介します。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年2月15日を予定しております)