「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第5回(※1)となる今回は、TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』における小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(以下、SMDE)のロボット制作の仕事を、「前編」「後編」の2回に分けて紹介する。
※1 本連載のバックナンバーは下記にて公開しております。
No.01>>フロム・ソフトウェア(前編)、(後編)
No.02>>コロプラ(前編)、(後編)
No.03>>カプコン
No.04>>コナミデジタルエンタテインメント
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』第1話 出発!!シンカリオン E5(イーファイブ)はやぶさ(2018年1月6日放送)。「新幹線変形ロボ シンカリオン」はジェイアール東日本企画・小学館集英社プロダクション・タカラトミーの3社原案にて立ち上げられたキャラクターコンテンツのプロジェクトで、2015年3月より展開している。「シンカリオン」は「正体不明の巨大な敵に立ち向かうため、日本の夢と技術が詰まった新幹線をベースに開発されたロボ」という設定で、JR各社監修のもと、実在する新幹線をベースにデザインされた。タカラトミーからは鉄道玩具のプラレール「新幹線変形ロボ シンカリオン」シリーズが2015年より発売され、TVアニメの放送も2018年1月より開始されている。本記事では、SMDEが2014年から担当してきた「シンカリオン」のデザインの変遷を紐解いていく
TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』
毎週土曜あさ7時∼7時30分
TBS系全国28局ネットで放送中
www.shinkalion.com
© プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS
プラレールと新幹線とでは車両の縦横比が全然ちがう
CGWORLD(以下、C):TVアニメの放送開始は今年の1月ですが、「シンカリオン」プロジェクトは何年も前に始まっていたそうですね。
服部恵大氏(以下、服部):東京おもちゃショー2014で発表した「Project E5」という企画が「シンカリオン」の原形です。ジェイアール東日本企画さんと小学館集英社プロダクションさんから「新幹線をロボにできないか?」という相談を受け、SMDEがデザインを提案しました。新幹線のロボット化をJR東日本さんが初めて正式許諾し、ジェイアール東日本企画さんが東京おもちゃショーに初出展して発表した企画だったので、注目を集めたようです。ただ、その段階では僕は関わっていませんでした。
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服部恵大/Keita Hattori
(CGディレクター)
2000年にSMDEへ入社。TVアニメシリーズ『ゾイド -ZOIDS-』(1999〜2000)のCG制作進行を経て、『デュエル・マスターズ』シリーズやTVアニメシリーズ『テンカイナイト』(2014〜2015)などのCGディレクターを務める。2014年から「シンカリオン」プロジェクトに参加。TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』(2018〜)ではメカニックデザイナーとして「シンカリオン」のデザインとモデリングを担当。
▲【左】後の「シンカリオン E5はやぶさ」のデザイン/【右】後の「シンカリオン E6(イーシックス)こまち」のデザイン
▲【左】「Project E5」のロゴ/【右】先のデザインをもとにモデリングされた「E5系はやぶさ」のロボット。比較的フォトリアルな質感が設定されていることもあり、現在の「シンカリオン」とは大きく印象が異なる。これらは東京おもちゃショー2014にて、ジェイアール東日本企画のブースで発表された
C:これはこれで素敵ですが、今の「シンカリオン」とは完全に別物ですね。
服部:そうですね。「Project E5」の発表段階ではタカラトミーさんは参加しておらず、プラレール化の構想はありませんでしたから、かなり細身で、細かいパーツの多いデザインになっています。ただ、ビジネス展開していく上ではメーカーが必要ですから、タカラトミーさんに参加いただくことになったそうです。タカラトミーさんの鉄道玩具におけるメイン商材はプラレールですから、プラレール化を考慮したリデザインが必要という話になったわけです。そのくらいのタイミングから僕も参加することになりました。「シンカリオン」のデザインには、僕を含め、数多くのデザイナーさんが関わっています。その中にはSMDEのデザイナーもいれば、タカラトミーのデザイナーさんもいらっしゃいます。
C:確かに、先のデザインのままでは、どう逆立ちしてもプラレールにはならないでしょうね。
服部:はい。プラレールの対象年齢は基本的に3歳以上で、子供たちが安心して遊べる強度や安全性が求められます。加えて、お馴染みの青いレールの上を走行できる(※2)ことも絶対条件でした。
※2 現在販売されているプラレール「新幹線変形ロボ シンカリオン」シリーズは、ロボットから新幹線への変形が可能で、新幹線の状態であれば、青いレールの上を手転がしで走行できるようになっている。
C:その一方で、アニメ化したときに見映えのするデザインであることも必須条件ですよね?
服部:おっしゃる通りです。さらに新幹線は実在する交通機関ですから、そのブランドイメージも守る必要がありました。とはいえプラレールと新幹線とでは車両の縦横比が全然ちがうので、どこを落としどころにするか、なかなか結論が出なかったようです。
C:それはそれは......(汗)。大変なプロジェクトですね。
服部:試しに本来の新幹線の縦横比のままロボット化したこともありましたが、さすがにそのままだと成立しませんでした。
C:確かにロボットとして成立しているとは言いづらいですね......。
服部:満場一致で「これはない」ということになりました。その後も様々なデザインがタカラトミーさんとSMDEの双方から出され、最終的にはコンペティションでデザインの方向性を決めることにしたのです。「ターゲットである子供たちに聞くのが一番だろう」ということで、7∼8枚のデザインを子供たちに見てもらったところ、タカラトミーさんから出されたデザインの1つが最も受け入れられました。
▲SMDEのデザイナーによるデザインの数々
▲【左】タカラトミーのデザイナーによるデザインの1つ。コンペティションにて、子供たちの支持を最も集めた/【右】前述のデザインをもとに、SMDEのデザイナーが描いたデザイン。この段階では2DCGで描かれている。「脚部外側の車両先頭パーツを斜めに配置する」というアイデアは、この後のプラレールのデザインにも採用された
服部:コンペティションの結果が出る前から、紆余曲折があったとしてもタカラトミーさんのデザインに落ち着くだろうと予想していました。最終的には「変形機構をもったプラレール」として成立させる必要があったので、プラレール開発のノウハウをもたないSMDEのデザイナーだけでは、できることに限界があったのです。結果として、SMDEのデザインをタカラトミーさんがアレンジし、タカラトミーさんがアレンジしたものをSMDEがさらにブラッシュアップする......ということが2∼3回繰り返されました。
[[SplitPage]]「新幹線から変形できる」という点をしっかり検証
服部:タカラトミーさんのデザインの方向性でいくにしても、プラレールとまったく同じデザインにすると、アニメ化の際に不都合が起こります。そのため、タカラトミーさんのデザインをベースにしつつ、アニメ化を念頭に置いたリデザインとモデリングを行うという作業を僕が担当しました。
C:つまりは、プラレールの「シンカリオン」も、アニメの「シンカリオン」も、誰か1人のデザイナーがデザインしたわけではなく、複数のデザイナーのデザインが集められ、取捨選択やアレンジ、ブラッシュアップを経てつくられているわけですね。
▲【左】タカラトミーによるプラレール「シンカリオン E5はやぶさ」のデザイン/【右】同じく、プラレール「シンカリオン E6こまち」のデザイン
▲服部氏による「シンカリオン E5はやぶさ」のデザインのドラフト。既に最終形のデザインに近い仕上がりとなっている
▲前述のドラフトの補足。新幹線からロボットに変形すると、胴体や四肢の長さが約1/2まで縮むよう、各所に伸縮ギミックが仕込まれていることがわかる。「縮んで横幅が増すことで、剛性感が強調され、極力、肉感的なシルエット、ボリュームが出るようにしています」(服部氏)。「シンカリオン E5はやぶさ」は全長約25メートルの「E5系はやぶさ」2両が変形するという設定だが、伸縮ギミックにより、変形後の全長も約25メートルのままという設定になっている
▲服部氏による「シンカリオン E6こまち」のデザインのドラフト
▲前述のドラフトの補足
C:プラレール用とアニメ用のデザインを比較すると、基本のデザインは同じでも、用途に応じたアレンジが細かく施されていることがわかりますね。
服部:アニメ用のデザインでは「ポーズを取れるか」「アクションができるか」といったことが非常に重要です。一方で、今回はプラレールをつくっているタカラトミーさんの思いと、実際の新幹線を運行するJR各社の思いも汲み取る必要がありました。そのため過去の紆余曲折を俯瞰しつつ、関係者全員が納得しやすい最適解を考えることにしました。
C:服部さんは、デザインの段階から3DCGを使っているのでしょうか?
服部:2Dでデザインする場合もありますが、今回は「新幹線から変形できる」という点をしっかり検証し、説得力のあるプレゼンテーションをすることが必要だと思ったので、最初から3DCGを使ってデザインしました。先ほどお見せしたように、本来の「E5系はやぶさ」の縦横比のままではロボットとして成立しづらいということも、実際に3DCGで画をつくって見せた方が、口頭で説明するよりも何倍も説得力があります。
C:デザインのドラフトは既に最終形に近い仕上がりとなっていますが、最初からこれらを提示なさったのでしょうか?
服部:はい。さらに説得力を加えるため、プレビューレベルではありますが、変形シーンの動画もつくりました。これが通らなかったら、以降の僕の出番はないと思っていましたね。本作の醍醐味は「実在する新幹線が変形し、ロボットになる」という点にあるので、プラレールではなく、本来の新幹線に近いデザインにしています。とはいえ基本的な分割方法や、肩部分の窓の数などはプラレールと同じにして、プラレールのイメージを残すアレンジも施してあります。
前編は以上です。後編では、服部氏のデザインの仕事をさらに詳しく紐解いていきます。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年3月22日を予定しております)