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    「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第5回(※1)となる今回は、TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』における小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(以下、SMDE)のロボット制作の仕事を、「前編」「後編」の2回に分けて紹介する。

    ※1 本連載のバックナンバーは下記にて公開しております。
    No.01>>フロム・ソフトウェア(前編)(後編)
    No.02>>コロプラ(前編)(後編)
    No.03>>カプコン
    No.04>>コナミデジタルエンタテインメント

    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    ▲TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』第2話 対決!!シンカリオンVS巨大怪物体(2018年1月12日放送)

    TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』
    毎週土曜あさ7時∼7時30分
    TBS系全国28局ネットで放送中
    www.shinkalion.com
    © プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS

    動いても、戦ってもカッコ良い構造やバランスを心がける

    CGWORLD(以下、C):「シンカリオン」ではデザインの段階から3DCGを使っているとのことですが、具体的には、どのようなプロセスを経るのでしょうか?

    服部恵大氏(以下、服部):まずは新幹線のポリゴンモデルを制作し、それを分割して細かいパーツに分けます。真面目に考えると手が止まってしまうので、直感でどんどん分割していきます。それから分割したパーツをロボットへと組み直し、どうやったら変形できるか検証します。窓の大きさや数、エンブレムの位置などによって分割や組み方を調整する必要があり、毎回悩みますね。例えば窓を分断するわけにはいかないので、分割時のラインの確度は窓と窓の間隔に左右されます。車両の断面が丸いか四角いかといった微妙なちがいも、3DCGの場合は大きくデザインに影響します。検証が終わったらレンダリングして、2Dでさらにディテールを描き込んでいきます。

    C:デザイン段階では、2Dも併用しながら仕上げていくわけですね。

    服部:そうです。50∼60%くらいまで3DCGでつくり、「いけそうだ」と思ったらイメージ先行で描き込んでいきます。デザインのOKが出たら、3Dモデルを細部までつくり込みます。いざモデリングしてみると上手くいかず、ちょっと時間がかかってしまうこともありますね(苦笑)。1体完成すれば基本的な変形フォーマットは決まるので、2体目以降の制作は徐々に早くなっていきます。とはいえ3両合体、5両合体となれば、新たに考えることが出てくるので時間はかかります。

    C:プラレールの「シンカリオン」も、5両合体するのでしょうか?

    服部:します(※2)。

    ※2 プラレール「新幹線変形ロボ シンカリオン 500こだま」(2016年12月発売)は4両合体の「シンカリオン」で、ほかの「シンカリオン」を組み合わせることで5両合体も可能となっている。

    C:すごい商品展開ですね。

    ▲服部氏による「シンカリオン N(エヌ)700A(エー)のぞみ(2両変形・ノーマルモード)」のデザイン


    ▲同じく「シンカリオン N700Aのぞみ(3両変形・アドバンスドモード)」のデザイン


    ▲同じく「シンカリオン N700Aのぞみ」の補足。頭部の変形過程を提案している


    服部:プラレールの場合は強度や安全性に加え、「立たせる」という必須条件があるので、それはそれで大変なようです。アニメの場合、それらを重要視する必要はありませんが、人間のようなポーズがとれるだけの可動域は確保する必要があります。肘や膝など、主要な関節の位置も、極力人間の構造に近づけるよう意識します。例えば極端に前腕や下腿が長いと、肘や膝を曲げた時におかしなバランスになってしまうのです。視聴者は普段見慣れている人間の構造から外れたものを見ると違和感をもちますし、カッコ良いとは感じてもらえません。人間のように腕が組める、正座ができるといった構造の方が、アニメーターにとっても仕事がしやすいのです。立ちポーズだけでなく、動いても、戦っても破綻しないバランスになるよう心がけています。最近の日本のプラモデルやフィギュアの中には、かなり人間に近いポージングができるものも多数あるので、それらの構造を参考にすることもあります。

    C:デザイナーの方々にインタビューしていると、一定の割合でプラモデル好き、フィギュア好きがいらっしゃいますね。

    服部:僕はガンプラブームの世代なので、子供の頃からプラモデルに親しんでいました。日本のプラモデルやフィギュアは、その長い歴史の中で、形状はもとより、自然な可動のノウハウなども多面的に追及されてきたので、リスペクトもしていますし、おおいに参考にさせていただいています。

    C:プラレール用とアニメ用のデザインを比較すると、アニメ用の方がシルエットにメリハリがありますね。

    服部:「シンカリオン」は直線的な車両から変形するロボットなので、筋肉を模倣したデザインや、有機的なデザインは採用できません。とはいえ、あまりに直線的なシルエットにすると華奢(きゃしゃ)な印象になりますし、アニメーションをつけたときに見映えがしません。なるべく人間の身体のラインを模したシルエットになるよう、パーツを切り分けてボリュームアップを図っています。

    ▲服部氏による「シンカリオン E5(イーファイブ)はやぶさ」のデザイン。2014年以降、このデザインをもとに8本のPVが制作された


    ▲同じく「シンカリオン E6(イーシックス)こまち」のデザイン


    ▲同じく「シンカリオン E7(イーセブン)かがやき」のデザイン


    服部:太ももやふくらはぎのライン、後は脇の部分も気をつけていますね。胴体と腕が棒1本でつながっているようなデザインにすると、アニメーターがどれだけ力強いアクションをつけても、頼りないキャラクターに見えてしまうのです。この辺りの考え方は、ロボットをデザインするときの定石と思っています。

    C:腕を上げてアクションをしたとき、どう見えるかまで想像しながらデザインしているわけですね。

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    三社三様のイメージを理解し、その真ん中を提案する

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    三社三様のイメージを理解し、その真ん中を提案する

    C:服部さんの担当は、モデリングまでですか?

    服部:はい。可動域の確認用として必要最低限のリグは設定しますが、TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』の制作にあたり、ほかのスタッフが組み直しています。アニメーション以降の工程は、完全にほかのスタッフにお任せしています。変形シーンでは各カットの担当アニメーターが小まめにモデルやリグを調整し、パーツ間の隙間を埋めるなどして、画面フレーム内でより見映えのするカットに仕上げています。

    C:1体のロボットをつくるのに、デザインからモデリングまで含めて、どのくらいの期間を要しますか?

    服部:2∼3ヶ月くらいですね。現状で15体ほどありますが、順繰りに新規の作業が発生するため、以降の工程はやりたくてもできないのが実情です。基本的にキービジュアルは任せてもらっているので、そこで欲求不満を晴らしています(笑)。

    ▲服部氏による「シンカリオン E5はやぶさ」の3Dモデル。 TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』で使用されている


    ▲同じく「シンカリオン E6こまち」の3Dモデル


    ▲同じく「シンカリオン E7かがやき」の3Dモデル


    ▲同じく「シンカリオン E5はやぶさ」のキービジュアル用画像


    ▲【左】同じく「シンカリオン E6こまち」のキービジュアル用画像/【右】「シンカリオン E7かがやき」のキービジュアル用画像


    ▲同じく新幹線のキービジュアル


    C:2014年に提示したドラフトから、2018年のTVアニメ放送まで、デザインの方向性が首尾一貫しているのがすごいですね。

    服部:今回の場合、実際の新幹線を運行するJR各社と、プラレールをつくるタカラトミーさんと、アニメをつくるSMDE社内の要望を理解し、それら3社が形づくる三角形の真ん中にあるデザインを提案するよう心がけました。

    C:三社三様のイメージを理解し、その真ん中にある、三社が納得できるイメージを提案するということですか?

    服部:はい。それがデザイナーの仕事の核心だと思っています。もっと有名なデザイナーさんであれば、依頼する側がそのデザイナーの作風を求めていくと思いますが、僕の場合、そういうことはあり得ません。「このデザインで行くぞー!」と自分のデザインを声高に主張したとしても、聞く耳をもってもらえないでしょう。

    C:「僕の考えた最強のロボット」をつくるだけでは仕事にならないというわけですね。

    服部:そうです。クライアントの意向、メーカーの事情、視聴者の気持ちなどに配慮して、折り合いを探っていくことがデザイナーの仕事だと思っています。これまでに色々な経験をして、しょっぱい思いもする中で、そういう結論に達しました。こう言うとドライすぎるかもしれませんが「シンカリオン」に関しては、JR各社やタカラトミーさんのものだと思っており、「僕がつくっている」というような高揚感はほとんどないんですよ(笑)。そうは言っても本作のアニメーションプロデューサーの1人は社内にいるので、SMDEから提案できる要素も多く、のびのびとやらせてもらっています。

    C:色々とお話いただき有難うございました。今後の放送も楽しみにしています。