「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第9回となる今回は、『ポケモンカードゲーム』、『ガンダムトライエイジ』などのイラストレーション制作を手がけるプラネッタにおけるキャラクター制作の仕事を紹介する。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

ほとんどのカードイラスト制作で3DCGを活用

CGWORLD(以下、C):プラネッタは『ポケモンカードゲーム』、『ガンダムトライエイジ』をはじめ、数々のカードや玩具パッケージのイラストレーションを手がけていますね。そのノウハウを紹介したCEDEC2017のセッションはとても面白かったですし、2Dイラストなのにすごく3DCGを駆使していることに驚きました。

大谷勇太氏(以下、大谷):学生時代からイラストレーターを目指していましたが、ゼロから描くと形が取れず、絵をまとめる力もなかったので、まずは3DCGデザイナーとしてゲーム会社に入社しました。そんな経緯があるため、今でもイラストレーション制作に3DCGを活用しています。五十嵐も最初は3DCGデザイナーとしてプラネッタに入社しており、メインの仕事がイラストレーションになった今も3DCGを柔軟に使いこなしています。

  • 大谷勇太
    プラネッタ
    (リードアーティスト)

    ゲーム会社3社での勤務を経て、2012年にプラネッタへ入社。アーティストとしてのキャリアは約15年になる。現在はカードや玩具パッケージのイラストレーション、ゲームや映像のコンセプトアートなどの制作に加え、ゲームの背景アートのリードも担当。社内のアートディレクションも受けもつ。


  • 書籍『戦闘シーンイラストの描き方』
    (秀和システム)

    2018年5月発売の大谷氏の著書。3DCGとフォトバッシュを駆使して、迫力あるロボットやメカの戦闘シーンイラストをスピーディに描くためのノウハウがまとめられている。詳細はこちら


C:五十嵐さんは大谷さんの下でイラストレーション制作を担当なさっているのでしょうか?

五十嵐 和也氏(以下、五十嵐):そうです。自分の場合は福島県にある国際アート&デザイン大学校で3DCG制作を学び、2011年に新卒としてプラネッタへ入社しました。当社ではイラストレーション事業に加え、ゲーム用の3DCGモデルをつくるゲームグラフィック事業も手がけています。入社直後はそちらの事業に配属され、背景モデリングを担当していました。

  • 五十嵐 和也
    プラネッタ
    (チーフアーティスト)

    国際アート&デザイン大学校で3DCG制作を学んだ後、2011年にプラネッタへ入社。現在はカードや玩具パッケージのイラストレーション制作を担当。


大谷:あるとき、受注したイラストレーション制作の人手が足りず、ゲームグラフィック事業のスタッフにも手伝ってもらったことがありました。そうしたら五十嵐の仕事が思いの外よくできていたので「イラストレーションの方が向いていそうだから、そちらの力を伸ばしていこう」という方針になったのです。イラストレーション事業には2年前に新卒がもう1人加わり、今は3人で仕事を分担しています。五十嵐にはその新卒のディレクションも任せています。

C:五十嵐さんに対するディレクションは大谷さんが行うのでしょうか?

大谷:僕が担当している仕事を五十嵐に引き継ぐときには、最初のディレクションだけ行います。それ以外になると、ディレクションを必要とするケースはほとんどありません。もう7年目ですから、安心して任せています。

C:3人ともイラスト制作に3DCGを使うのでしょうか?

五十嵐:ほとんどのケースで使っていますね。自分が担当した『ポケモンカードゲーム』と『ガンダムトライエイジ』の事例を使い、具体的な工程をご紹介します。『ポケモンカードゲーム』の初仕事は2012年発売の拡張パック「ライデンナックル」で、それ以降、様々なポケモンを描かせていただきました。


C:ラフ内の「ダーテングGX」は3DCGですか?

五十嵐:はい。クライアントからご支給いただいた3DCGモデルにポーズを付け、カメラを設定しています。「ポケモンGX」は「フレームから飛び出してくるような躍動感のあるポージング」を指示されることが多いので、左腕の葉をカードのフレームの上に重ね、右腕の葉はフレームの下に置くことで、カードから飛び出してくるような感じを演出しました。さらに左脚のスケールを右脚よりも大きくすることで、絵の奥行きを強調してあります。

▲【左】Mayaの画面に表示した「ダーテングGX」の3DCGモデル。この画面のキャプチャ画像をPhotoshopで開き、写真素材を組み合わせ、レタッチすることでラフや完成画像を制作している。「ちゃんとレンダリングするという選択肢もありますが、本作の場合はスピードを優先したかったので、キャプチャ画像を基にしています」(五十嵐氏)/【右】同じく3DCGモデルのワイヤフレーム
© 2018 Pokémon. © 1995-2018 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.


▲【左】同じく3DCGモデルのボーン/【右】同じく3DCGモデルのボーンとワイヤフレーム
© 2018 Pokémon. © 1995-2018 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.


C:カード1枚につき、何種類くらいのラフをつくるのでしょうか?

五十嵐:「ダーテングGX」の場合は2案で、採用されたラフとは別に、より激しい動きのあるラフも提案しました。今回は落ち着いたポーズが採用されたので、ライティングやエフェクトでカッコ良く見えるよう工夫しています。このポケモンは「あくタイプ」「くさタイプ」という2種類のステータスをもっているため、やや凶悪な印象になるよう、ライティングを逆光にして顔の辺りを暗くしています。ただし見てくださる人の視線は顔へ誘導したかったので、目はしっかり光らせました。さらに「くさ」を連想させるモチーフを散りばめ、絵のメインカラーを緑にしました。

C:このラフをつくる前に、手描きのスケッチなどを描くことはありますか?

五十嵐:描かないですね。このラフが最初のアウトプットです。

▲【左】本作の背景画像。複数の写真素材を組み合わせ、レタッチを加えることで制作されている/【右】レタッチ後の「ダーテングGX」。白色の毛の質感表現にも写真素材が用いられている。3DCGモデルの段階では上部にあった黒目の位置を下部へと変更し、眉間の陰影を濃くすることで、表情の威圧感が増している。また黄色の眼球周辺には照り返しによる緑色も加えられており、効果的にメインカラーを配置することで画の統一感も増している
© 2018 Pokémon. © 1995-2018 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.


▲【左】完成画像。ポケモンらしいデフォルメされたフォルムと、リアルな質感やライティングのコントラストが印象的だ。風の軌跡と舞い散る草が加わることで、絵の躍動感が増している。ラフの段階では風の軌跡は白色だったが、鮮やかな青色に変更され、自作ブラシを使ったパーティクルも追加されている/【右】不採用となった五十嵐氏による塗りの別案。「白色の毛の輪郭部分に細かな毛を描き足してみたのですが、クライアントから『ひとつの塊として見せたいので、こういう細かい毛の表現は入れないでほしい』というフィードバックをいただき、このアイデアはボツになりました」(五十嵐氏)
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  • カードとして発売される際には「フレーム」と呼ばれるグラフィックやテキストが加えられる。イラストレーションの一部をフレームの上に配置することで、フレームから飛び出してくるような躍動感を表現している
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3DCGの制約に囚われず、躍動感のあるポージングを追求

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3DCGの制約に囚われず、躍動感のあるポージングを追求

五十嵐:もう1点、「Sun & Moon--Forbidden Light」という海外版『ポケモンカード』拡張パックのパッケージ用に描いたイラストレーションもご紹介します。ここでは「ルガルガン」というポケモンの「たそがれのすがた」を描きました。このときは「あまり激しすぎないポーズにしてほしい」という要望をクライアントからいただいたので、激しくないポーズを2案、激しいポーズを2案、合計で4案のラフを提出しました。

C:「激しすぎないポーズ」という要望を受けたのに、激しいポーズの案も出したのですか?

五十嵐:はい。このケースに限らず、ちがう印象の別案もなるべく出すよう心がけています。たまに、そういう別案が採用されることもあります。クライアントの話を聞いた感じだと、落ち着いたポーズがいいのか、激しいポーズがいいのか決めかねている様子だったので、あえて両方の案を出してみました。最終的には、激しくないポーズだけど、勇ましさが感じられる表情のラフが採用されました。

  • 採用されたラフ。「激しくないポーズであっても動きは出したかったので、腰を大きくひねり、上半身と下半身の向きを変えました。さらに足首に角度を付けることで、力強くジャンプしている様子を表現しています。これ以前の海外版『ポケモンカード』のパッケージには体をひねってジャンプしているイラストレーションがなかったので、新鮮な印象になるだろうというねらいもありました」(五十嵐氏)
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▲【左】Mayaの画面に表示した「ルガルガン」の3DCGモデル。「少し眠そうな表情だったので、ラフをつくる際に目や口のカーブを鋭角にレタッチし、勇ましさを強調しています」(五十嵐氏)/【右】同じく3DCGモデルのワイヤフレーム
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▲【左】同じく3DCGモデルのボーン/【右】同じく3DCGモデルのボーンとワイヤフレーム
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▲【左】本作の背景画像。「たそがれのすがた」という設定を踏まえ、夕方をイメージした抽象的なイメージが描かれている。「クライアントから『単純な夕焼け色にするのではなく、カラフルなグラデーションにしてほしい』という要望をいただいたので、このような背景を提案しました」(五十嵐氏)/【右】レタッチ後の「ルガルガン」。表情は特に手が加えられ、体のラインに沿った毛も描き込まれている。「毛の質感表現には犬の毛の写真素材を使いました。黒光りしている尖った部分は岩の質感を意識して、硬そうに見えるハイライトを加えています」(五十嵐氏)
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▲【左】完成画像。「エフェクトに関しては、クライアントから『足元から体を取り巻くように、青い炎のようなエフェクトを加えてほしい』という指示をいただきました。ただし『炎だけでは寂しいだろう』と思ったので、『いわタイプ』という『ルガルガン』のステータスを踏まえ、周囲に岩の破片も加えました」(五十嵐氏)/【右】完成画像を使ったパッケージ。前面の一部が切り抜かれており、中のカードが見えるデザインになっている。「単純な長方形の切り抜きではなく、イラストレーションの一部がはみ出すようなデザインにしたいと聞いていたので、切り抜き方も考慮しながらポージングのアイデアを練りました」(五十嵐氏)
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C:どちらのイラストレーションも、工程が進むごとに驚くほど印象が変わっていますね。3DCGモデルと完成画像を見比べると、完全に別物で、完成画像の方はものすごく絵が引き締まって見えます。1枚のイラストレーションが完成するまでに、どのくらいの時間をかけるのでしょうか?

五十嵐:3案前後のラフをつくるのに1日、ラフから完成画像をつくるのに2日くらいですね。「ダーテングGX」の場合は2.5日、「ルガルガン」の場合は2日でした。

C:ラフをつくる際は、リサーチも込みで1日ですか?

五十嵐:そうです。設定資料はクライアントからいただけるので、ポージングの参考資料などをインターネットで検索し、3DCGモデルを使って2∼4案ほどのラフをつくっていきます。1日かからない場合もありますね。

C:入社直後から『ポケモンカード』を担当なさってきたから慣れているのだとは思いますが、それにしても早いですね。

大谷:早いです(笑)。3DCGを使うとポージングが硬くなってしまう人が多いのですが、五十嵐は3DCGの制約に囚われることなく、躍動感のあるポージングを追求できます。そこが大きな強みだと思います。

五十嵐:ラフをつくる段階で「こうするとカッコ良くなる」というポージングが頭に浮かぶので、そのイメージを目指して3DCGモデルを調整し、レタッチするようにしています。ボーンの可動範囲を無視して関節に角度を付けたり、手足を伸ばしたりする場合もあります。イラストレーションは一方向からしか見ないので、ほかの角度から見た場合に破綻していたとしても問題はありません。

C:五十嵐さんの手の早さは、3DCGモデルを使っていることも影響しているのでしょうか?

五十嵐:もちろんです。ゼロから手で描くよりも、3DCGモデルを使った方が格段に早くつくれます。

大谷:クオリティの安定という点でも、3DCGモデルの活用は有効です。事前にワークフローを統一させておけば、複数のイラストレーターが手がけても、近いテイストに仕上がります。

五十嵐:3DCGモデルでつくったラフは曖昧な部分が少なく最終形を想像しやすいので、クライアントが判断しやすいというメリットもありますね。加えて、修正対応しやすいというメリットもあります。例えばある程度まで仕上げた後で「ポージングを少し直してほしい」という要望をクライアントからいただいた場合でも、3DCGモデルであれば、変更部分だけレンダリングし直して、別レイヤーで重ねることができます。



前編は以上です。後編では、『ガンダムトライエイジ』におけるカードイラスト制作の事例を紹介します。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年6月29日を予定しております)

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