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No.09(前編)>>プラネッタ

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3DCGの制約に囚われず、躍動感のあるポージングを追求

五十嵐:もう1点、「Sun & Moon--Forbidden Light」という海外版『ポケモンカード』拡張パックのパッケージ用に描いたイラストレーションもご紹介します。ここでは「ルガルガン」というポケモンの「たそがれのすがた」を描きました。このときは「あまり激しすぎないポーズにしてほしい」という要望をクライアントからいただいたので、激しくないポーズを2案、激しいポーズを2案、合計で4案のラフを提出しました。

C:「激しすぎないポーズ」という要望を受けたのに、激しいポーズの案も出したのですか?

五十嵐:はい。このケースに限らず、ちがう印象の別案もなるべく出すよう心がけています。たまに、そういう別案が採用されることもあります。クライアントの話を聞いた感じだと、落ち着いたポーズがいいのか、激しいポーズがいいのか決めかねている様子だったので、あえて両方の案を出してみました。最終的には、激しくないポーズだけど、勇ましさが感じられる表情のラフが採用されました。

  • 採用されたラフ。「激しくないポーズであっても動きは出したかったので、腰を大きくひねり、上半身と下半身の向きを変えました。さらに足首に角度を付けることで、力強くジャンプしている様子を表現しています。これ以前の海外版『ポケモンカード』のパッケージには体をひねってジャンプしているイラストレーションがなかったので、新鮮な印象になるだろうというねらいもありました」(五十嵐氏)
    © 2018 Pokémon. © 1995-2018 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.


▲【左】Mayaの画面に表示した「ルガルガン」の3DCGモデル。「少し眠そうな表情だったので、ラフをつくる際に目や口のカーブを鋭角にレタッチし、勇ましさを強調しています」(五十嵐氏)/【右】同じく3DCGモデルのワイヤフレーム
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▲【左】同じく3DCGモデルのボーン/【右】同じく3DCGモデルのボーンとワイヤフレーム
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▲【左】本作の背景画像。「たそがれのすがた」という設定を踏まえ、夕方をイメージした抽象的なイメージが描かれている。「クライアントから『単純な夕焼け色にするのではなく、カラフルなグラデーションにしてほしい』という要望をいただいたので、このような背景を提案しました」(五十嵐氏)/【右】レタッチ後の「ルガルガン」。表情は特に手が加えられ、体のラインに沿った毛も描き込まれている。「毛の質感表現には犬の毛の写真素材を使いました。黒光りしている尖った部分は岩の質感を意識して、硬そうに見えるハイライトを加えています」(五十嵐氏)
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▲【左】完成画像。「エフェクトに関しては、クライアントから『足元から体を取り巻くように、青い炎のようなエフェクトを加えてほしい』という指示をいただきました。ただし『炎だけでは寂しいだろう』と思ったので、『いわタイプ』という『ルガルガン』のステータスを踏まえ、周囲に岩の破片も加えました」(五十嵐氏)/【右】完成画像を使ったパッケージ。前面の一部が切り抜かれており、中のカードが見えるデザインになっている。「単純な長方形の切り抜きではなく、イラストレーションの一部がはみ出すようなデザインにしたいと聞いていたので、切り抜き方も考慮しながらポージングのアイデアを練りました」(五十嵐氏)
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C:どちらのイラストレーションも、工程が進むごとに驚くほど印象が変わっていますね。3DCGモデルと完成画像を見比べると、完全に別物で、完成画像の方はものすごく絵が引き締まって見えます。1枚のイラストレーションが完成するまでに、どのくらいの時間をかけるのでしょうか?

五十嵐:3案前後のラフをつくるのに1日、ラフから完成画像をつくるのに2日くらいですね。「ダーテングGX」の場合は2.5日、「ルガルガン」の場合は2日でした。

C:ラフをつくる際は、リサーチも込みで1日ですか?

五十嵐:そうです。設定資料はクライアントからいただけるので、ポージングの参考資料などをインターネットで検索し、3DCGモデルを使って2∼4案ほどのラフをつくっていきます。1日かからない場合もありますね。

C:入社直後から『ポケモンカード』を担当なさってきたから慣れているのだとは思いますが、それにしても早いですね。

大谷:早いです(笑)。3DCGを使うとポージングが硬くなってしまう人が多いのですが、五十嵐は3DCGの制約に囚われることなく、躍動感のあるポージングを追求できます。そこが大きな強みだと思います。

五十嵐:ラフをつくる段階で「こうするとカッコ良くなる」というポージングが頭に浮かぶので、そのイメージを目指して3DCGモデルを調整し、レタッチするようにしています。ボーンの可動範囲を無視して関節に角度を付けたり、手足を伸ばしたりする場合もあります。イラストレーションは一方向からしか見ないので、ほかの角度から見た場合に破綻していたとしても問題はありません。

C:五十嵐さんの手の早さは、3DCGモデルを使っていることも影響しているのでしょうか?

五十嵐:もちろんです。ゼロから手で描くよりも、3DCGモデルを使った方が格段に早くつくれます。

大谷:クオリティの安定という点でも、3DCGモデルの活用は有効です。事前にワークフローを統一させておけば、複数のイラストレーターが手がけても、近いテイストに仕上がります。

五十嵐:3DCGモデルでつくったラフは曖昧な部分が少なく最終形を想像しやすいので、クライアントが判断しやすいというメリットもありますね。加えて、修正対応しやすいというメリットもあります。例えばある程度まで仕上げた後で「ポージングを少し直してほしい」という要望をクライアントからいただいた場合でも、3DCGモデルであれば、変更部分だけレンダリングし直して、別レイヤーで重ねることができます。



前編は以上です。後編では、『ガンダムトライエイジ』におけるカードイラスト制作の事例を紹介します。ぜひお付き合いください。
(後編の公開は、2018年6月29日を予定しております)

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