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    「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第9回(前編)では、プラネッタのカードイラスト制作の仕事を、『ポケモンカードゲーム』を事例にあげつつ紹介した。後編では『ガンダムトライエイジ』の事例を紹介する。

    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    ラフ1日、ブラッシュアップ1日のペースでカードイラストを制作

    CGWORLD(以下、C):五十嵐さんが『ポケモンカードゲーム』を初めて手がけたのは2012年だとおっしゃいましたが、『ガンダムトライエイジ』はいつ頃から手がけているのでしょうか?

    ▲左から、大谷勇太氏(リードアーティスト)、五十嵐 和也氏(チーフアーティスト)


    大谷勇太氏(以下、大谷):当初は代表の箱崎(秀明氏)と僕とで担当していましたが、2013年頃から五十嵐がメインで担当するようになりました。

    五十嵐 和也氏(以下、五十嵐):『ガンダムトライエイジ』以外にも、『ガンダム』関連の仕事は色々と担当してきました。ラフをつくるのに1日、ブラッシュアップして完成させるのに1日くらいのペースでやっています。

    C:これまた驚くほど早いですね。1日の仕事時間はどのくらいですか?

    五十嵐:8∼9時間くらいです。以前はもっと時間がかかっていましたが、1ヶ月に10枚以上描いていた時期もあったので、『ガンダム』を描くノウハウはかなり蓄積できました。

    ▲【左】五十嵐氏が制作した「パーフェクトストライクガンダム」というカードのためのラフ。このモビルスーツは『機動戦士ガンダムSEED』(HDリマスター版)に登場する。エールストライカー(背面)、ソードストライカー(シュベルトゲベール)(右手)、ランチャーストライカー(左手)からなる3種のストライカーパックを同時装備しており、シリーズ屈指の重装備である点が最大の特徴だ/【右】クライアントからの修正指示
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    C:ストライカーパックのフル装備だけあって、すごく情報量が多いですね。

    五十嵐:『ガンダムトライエイジ』に「パーフェクトストライクガンダム」が登場するのは初めてだったので、クライアントからは「ちゃんと武装を見せたい」という要望をいただきました。ポーズに対しても「右手にソード、左手にランチャーを構えさせて、臨戦態勢に見えるようにしてほしい」という具体的な指示があったため、それを念頭に置いてラフを制作しました。武装を見せることを重視したので、ソードの剣先やランチャーの銃口がフレーム内に収まるよう配慮しています。さらにバックパック(エールストライカー)は本来の位置よりも上に置き、より目立つようにしてあります。

    C:『ガンダムトライエイジ』の場合も、3DCGモデルを使って描いているのでしょうか?

    五十嵐:はい。クライアントからご支給いただいた3DCGモデルを加工して使っています。クライアントからはソード、ランチャー、両足などの角度や大きさに対して修正指示があったので、シルエットが際立つよう意識しつつ、各パーツの位置やスケールを調整しました。例えばソードの角度を変えることで、左足のシルエットがちゃんと見えるように修正しています。ランチャーを小さくすることで画面内にしっかり収めてほしいという指示もいただいたので、ランチャーとボディとの隙間が狭くなりすぎないよう気を付けました。ある程度の隙間を残した方が、機体のシルエットが明確になり、ポージングや武装の詳細まで伝わる絵に仕上がります。この絵の場合は後でバーニアを追加しようと思っていたので、隙間からバーニアの光が見えるようにすることでシルエットを強調するねらいもありました。

    • Mayaの画面に表示した「パーフェクトストライクガンダム」の3DCGモデル。真横から見ると絵の印象がまったく異なる。「右足はスケールをかけ、やや大きくしています。腰のパーツの影響で足を普通に曲げただけでは短く見えてしまうため、股関節を外して前方へ移動させたりもしています。同様に腕も短く見えがちなので、肩関節を外して長く見えるように調整しました」(五十嵐氏)。なおこの段階では、本来なら左手後方にあるべきランチャーの後部パーツが背に残っている。後日間違いに気付き、その部分だけレンダリングし直して差し替えたそうだ
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    ▲【左】「パーフェクトストライクガンダム」のレンダリング画像(カラー)/【右】同じくレンダリング画像(アンビエントオクルージョン)。『ガンダム』関連のレンダリングにはKeyShotも使用しており、光沢部分だけを別レンダリングして重ねる際などに重宝しているという
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    • 同じくレンダリング画像(ノーマルマップ)。アンビエントオクルージョンやノーマルマップはライティングを調整するための素材として使用する。「例えば明るい部分だけを調整したい場合には、ノーマルマップのグリーン部分に対してのみ、トーンカーブなどで補正をかけます」(五十嵐氏)
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    ▲以降では「パーフェクトストライクガンダム」が完成するまでの工程を9段階に分けて紹介する。【左】ブラッシュアップ工程《1》レンダリング画像/【右】ブラッシュアップ工程《2》レンダリング画像にKeyShotでレンダリングした光沢素材を重ねた状態
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    ▲【左】ブラッシュアップ工程《3》KeyShotのレンダリング画像を重ねると全体的に明るくなるので、ノーマルマップを使用してライティングを調整/【右】ブラッシュアップ工程《4》 MAX塗り(プラモデル塗装のひとつ。パーツの中心部を濃く、エッジに近づくにつれて薄くすることで面全体に膨らんだような迫力のある効果を出せる処理)を追加
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    ▲【左】ブラッシュアップ工程《5》ダクトの排気口やソードの切っ先などの汚れやすい部分に汚し表現を追加/【右】ブラッシュアップ工程《6》KeyShot素材だけでは不十分な部分に光沢を追加
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    ▲【左】ブラッシュアップ工程《7》「『ガンダム』は顎を引き気味にして睨み付ける感じにするとカッコ良い印象の絵になるのですが、そうすると目のパーツが額のパーツに隠れて見えなくなってしまうことが多いです。そのため、後で目のパーツや目の発光を描き加えます」(五十嵐氏)/【右】顔部分の拡大。左は《6》、右は《7》
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    ▲【左】ブラッシュアップ工程《8》空気遠近法の効果や、バーニア光による照り返しを追加/【右】ブラッシュアップ工程《9》。「肘や膝などの関節部分に発光表現を追加することで各パーツの関係性が明確になり、全体のシルエットを把握しやすくなります」(五十嵐氏)
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    ▲【左】最後に背景とエフェクトを追加して完成となる。エフェクトを描く際にはアニメの劇中における「パーフェクトストライクガンダム」の演出を参考にしたという/【右】前編で紹介した『ポケモンカードゲーム』と同じく、カードとして発売される際には「フレーム」と呼ばれるグラフィックやテキストが加えられる
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    KeyShotを使い始めて以降、光沢表現がレベルアップ

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    KeyShotを使い始めて以降、光沢表現がレベルアップ

    五十嵐:最後に「ユニコーンガンダム(サイコシャード)」の事例をご紹介します。

    C:これまた手間のかかりそうな、情報量の多いモビルスーツですね(汗)。

    ▲【左】「ユニコーンガンダム(サイコシャード)」のためのラフ。このモビルスーツは『機動戦士ガンダムUC(ガンダムユニコーン)』に登場する。本作では、サイコシャードと呼ばれる光の結晶体を全身にまとう劇中シーンを再現している/【右】クライアントからの修正指示。「自分の体内からあふれ出てくる力を押さえ込もうとするシーンなので、腕や脚を内旋気味にしてほしいという要望をいただきました」(五十嵐氏)
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    五十嵐:この機体も『ガンダムトライエイジ』の中では初登場でした。クライアントから「ユニコーンガンダム」の3DCGモデルをご提供いただき、Maya上でつくった結晶体を追加していきました。複数の結晶からなるグループをつくり、それを複製、配置しています。この結晶の配置にも設定があり、完全なシンメトリーではないので、ひとつひとつ確認しながら慎重に配置しました。本作の場合、この配置に一番時間がかかりましたね。

    C:たいへんそうですね......。

    五十嵐:多分、今後も結晶体付きの「ユニコーンガンダム」を描く機会があるだろうと思い、丁寧につくりました。3DCGモデルの場合、一度つくってしまえばポージングやカメラワークを変えて何度でも再利用できます。

    ▲Mayaの画面に表示した「ユニコーンガンダム(サイコシャード)」の3DCGモデル。結晶体は五十嵐氏が制作している
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    ▲同じく「ユニコーンガンダム(サイコシャード)」の3DCGモデル
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    ▲【左】「ユニコーンガンダム(サイコシャード)」のレンダリング画像(カラー)/【右】同じくレンダリング画像(アンビエントオクルージョン)
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    ▲【左】同じくレンダリング画像(ノーマルマップ)。先に紹介した「パーフェクトストライクガンダム」と同様、アンビエントオクルージョンやノーマルマップはライティングを調整するための素材として使用する/【右】KeyShotでレンダリングされた、結晶体の光沢を表現するための画像
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    • 同じくレンダリング画像(マスク)。先のKeyShotでつくった画像と組み合わせることで、結晶体の光沢だけを調整できる
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    ▲【左】Mayaの画面に表示した本作の背景用3DCGモデル/【右】同じくレンダリング画像
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    ▲【左】完成画像。「結晶体の出現により多少は機体が損傷するだろうと思ったので、軽いひび割れを加筆しています」(五十嵐氏)/【右】RGBからCMYKに変換した完成画像。カードは印刷物なのでCMYKに変換して使用する必要がある。しかし変換すると結晶体の鮮やかな色味が失われてしまうため、RGB画像も合わせて納品したという。「本作の場合は変換するとすごく色味が変わるので、両方の画像を納品しました」(五十嵐氏)
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    • フレームを付けた状態の「ユニコーンガンダム(サイコシャード)」
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    C:入社から今日までをふり返ってみて、最も成長したのはどんな点だと思いますか?

    五十嵐:ポージングですね。何枚もカードイラストを描いていると、ポージングのアイデアが枯渇してくるのです。それで壁に直面したとき、色々な人が描いた絵を見まくって「いいな」と思う部分を吸収しました。複数の要素を組み合わせたり、自分なりのアレンジをしたりして、ちょっとずつクライアントに満足いただけるバリエーションを出せるようになりました。

    大谷:もともと五十嵐はポージングが上手かったのですが、その期間を経て、出せるバリエーションが大幅に増えました。自分なりに研究をして、バリエーションを出すコツを習得したのだと思います。加えて光の扱い方が上手くなったとも思いますね。特にKeyShotを使い始めて以降、光沢表現や、コントラストのバランスがレベルアップしました。そして「言われたことを素直に聞く」という点が最大の強みだと思います。とにかく素直さがすごいので、言われたことを着実に吸収し、高い伸び率で成長しています。

    C:五十嵐さんはまだ20代後半ですから、ここからさらに成長しそうですね。今後の仕事に対して、どんなビジョンをお持ちですか?

    五十嵐:これまであまり描いてこなかったもの、人型のキャラクターや背景なども積極的に描いていきたいです。3DCGを使わず、ゼロから2Dで描く機会も増やしたいですね。2Dのレベルが上がれば、3DCGを使う絵のレベルも上がると思います。それから自分より若い人に対して、自分の知識や技術を教えることにも取り組みたいです。自分の事業部には2年前に入社した新卒スタッフがいて、彼もまた、ポージングに悩んでいた時期がありました。そのときに自分なりのポージングのコツを資料にまとめ、彼に渡したところ、自分自身の理解も深まったのです。それまで感覚でやってきたことを言葉にして人に伝えたことで、自分の考えを整理することができました。だから今後は人材育成にも力を入れていきたいです。

    C:お話いただき、有難うございました。ご自身のコツをまとめた資料が溜まったら、ぜひ大谷さんのように書籍化してくだることを期待しています。

    本連載のバックナンバー

    No.01>>フロム・ソフトウェア(前編)(後編)
    No.02>>コロプラ(前編)(後編)
    No.03>>カプコン
    No.04>>コナミデジタルエンタテインメント
    No.05>>小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(前編)(後編)
    No.06>>サムライピクチャーズ(前編)(後編)
    No.07>>OLMデジタル
    No.08>>アカツキ
    No.09>>プラネッタ(前編)