>   >  どこに行けば、キャラクターをつくれますか?:No.08>>アカツキ
No.08>>アカツキ

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「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第8回となる今回は、『八月のシンデレラナイン』(以下、『ハチナイ』)などのモバイルゲーム事業を手がけるアカツキにおけるキャラクター制作の仕事を紹介する。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲『八月のシンデレラナイン』アニメーションPV。本作は2017年6月に配信を開始した、iOS/Android対応の青春体験型野球ゲームだ。プレーヤーは高校生監督となって女子野球部をマネジメントし、甲子園出場をめざす?
Copyright © Akatsuki Inc.

管理能力と画力は別物なので、個々人の適性に応じて役割を決める

CGWORLD(以下、C):柴田さんと嶋原さんは、共にモバイルゲームのアートディレクターを務めているそうですね。まずはアカツキにおけるアートディレクターの役割について教えていただけますか?

▲左から、柴田陽一氏(アートクリエイティブディレクター)、嶋原千高氏(アートディレクター)


柴田陽一氏(以下、柴田):アートディレクターの仕事は会社によって様々だと思いますが、当社の場合はゲーム内のあらゆるビジュアルの企画から作画までのディレクションを一括で担当します。人によって企画が得意だったり、作画に強かったりといった個性はあるものの、一通り担当するのがアカツキのスタイルです。作画のルール決め、スケジュール管理、データ整理といった、絵づくりとは直接関係ないタスクも担当します。今は社内に20人くらいのアートディレクターがおり、各々のプロジェクトを進めています。その中には嶋原のような20代前半の若手もいます。

  • 柴田陽一
    アカツキ
    (アートクリエイティブディレクター)

    アートクリエイティブディレクターとして、『八月のシンデレラナイン』をはじめ、主に新規プロジェクトの立ち上げに参画。


C:ある程度の知識や経験を必要とする仕事のように思いますが、嶋原さんはいつからアートディレクターをなさっているのでしょうか?

嶋原千高氏(以下、嶋原):2017年4月にデザイナーとして採用され、新人研修が終了した後、5月頃からプロジェクトのアートディレクターをすることになりました。

  • 嶋原千高
    アカツキ
    (アートディレクター)

    京都精華大学 マンガ学部を卒業し、2017年4月に新卒デザイナーとして入社。新卒デザイナーながらアートディレクターを担当。


C:いきなりの大抜擢ですね。新卒であっても、デザイナー採用であればアートディレクターになるのでしょうか?

柴田:人によります。その人の得意不得意、向き不向きに応じて育成方針や配属先は変わりますね。例えば、UIデザインを担当している人もいますし、アニメーション制作を担当している人もいます。

C:アートディレクターの仕事のながれを解説していただけますか?

柴田:企画の初期段階では、ゲーム内のあらゆるビジュアルの方向性を決めていきます。キャラクターであれば、どんな外見をしており、どんな表情や仕草をするのかといったことから考え始めます。キャラクターの設定や性格の大部分はプランナーやシナリオライターの方々が決めますが、それをビジュアルへ落とし込むまでの道筋はアートディレクターが決定します。背景やUIについても同様です。その過程で自ら絵を描くこともありますし、協力会社や業務委託のイラストレーターさんに描いていただき、それをディレクションすることもあります。キャラクターや背景などのデザインが決まった後は、ゲーム内に出てくるカードイラストなどの作画をディレクションしていきます。

C:企画発足から配信開始までの期間はどのくらいですか?

柴田:プロジェクトによって様々です。僕が立ち上げに関わった『ハチナイ』の場合は、企画発足から2017年6月の配信までに2年半くらいかかりました。『ハチナイ』では「そこにいる」「ふれたくなる」「青春感」といったアートコンセプトを固めるまではプランナーを含めた2∼3名で実施し、キャラクターデザインを描き起こす段階から徐々に人を増やしていきました。今は10人程度のアートディレクターやイラストレーター、背景モデラーが『ハチナイ』の制作に携わっています。アートチームを統括するディレクターが1人、アートのクオリティを判断するディレクターが1人、残りのメンバーでそのサポートをするという構成です。

▲『ハチナイ』のキャラクター。左から宇喜多 茜、朝比奈 いろは、坂上 芽衣、初瀬 麻里安、新田 美奈子。「そこにいる」「ふれたくなる」「青春感」というアートコンセプトを踏まえ、あえてキャラを弱くした、現実感を想起しやすいデザインにしている


▲企画の初期段階で描かれたキャラクターデザインのボツ案


▲有原 翼の彩色バリエーション。【左】は決定稿で、【中】と【右】はボツ案。「ふれたくなる」というアートコンセプトを踏まえ、アニメ的な影やてかりを抑えた、柔らかさを感じる彩色が選ばれた


▲有原 翼の「ちびキャラ」のボツ案。モバイルゲームは画面が小さいため、このような「ちびキャラ」もデザインされる場合が多い


嶋原:アートチームを統括するディレクターは、プロデューサーとの打ち合わせ、ほかセクションとの調整、予算管理なども担うので、守備範囲がとても広いです。自分で絵を描く時間はほとんどないので、絵のクオリティを担保できるアートディレクターが別途必要になるのです。

柴田:『ハチナイ』では管理が得意な人が統括役のディレクターになり、最もイラスト暦の長い人がクオリティを判断するディレクターになっています。管理能力と画力は別物なので、個々人の適性に応じて役割を決めるようにしています。これはほかのプロジェクトにも言えることですが、アカツキではあまり年齢を気にしません。適性があれば若手であろうとプロジェクトを統括しています。

1つのテイストに固執していると、デザイナーとしての需要がなくなる

C:適性があったとしても、入社間もない新卒がアートディレクターを担うのは大変だったと思います。入社から今日までにどんな経験をしてきたか、嶋原さんが歩んだ道のりをお話していただけますか?

嶋原:学生時代は京都精華大学 漫画学部 カートゥーンコース でデッサンやクロッキーなどの基礎を学んだり、風刺画、イラスト、現代アートなどを制作していました。大学の必修科目だけではデジタルに触れる機会がほとんどないので、選択科目を履修したり、独学したりして、Photoshopによるイラスト制作、Mayaによる3DCG制作、After Effectsによるアニメーション制作なども幅広く経験するようにしていました。1つのこと突き詰めたわけではなく、かなり色々なものをつくっていましたね。

C:大学時代の専攻は、全然ゲームと関係なかったわけですね。

嶋原:そうなんです(苦笑)。でも、色々なことに手を出しておいて良かったと思っています。今の仕事では、1つのことをやり続けるのではなく、プロジェクトの進行に応じてやることが変化していきます。それに自分が適応しようとする気持ちをもてるのは、これまで色々なことをやってきたからだと思うのです。キャラクターをつくる場合も同様で、可愛い、ポップ、ダークなど、色々なテイストを吸収し、描いてみることが大事だと思います。流行は日々移り変わっていくので、1つのテイストに固執していると、デザイナーとしての需要がなくなってしまいます。仕事にしろテイストにしろ「幅広く対応できる」というスタンスは、すごく大事だと思います。

▲嶋原氏の学生時代のポートフォリオ。「今の自分の原点になっていると思う作品」を選んでもらった。「これらの現代アートは大学3∼4年生のときに描きました。魂を込めて作品に向き合い続ける中で培われた熱量と集中力は、今の自分のスタンスの原点になっています。妥協することが大嫌いなので、納得がいかない場合はどれだけ時間をかけていても描き直すなど、トライアンドエラーを繰り返していました。今の仕事でつくり直しが発生した場合でも、抵抗なく受け入れていいものをつくるために向き合い続けられるのは、このときの経験のお陰だと感じています」(嶋原氏)


▲嶋原氏の学生時代のポートフォリオに掲載された、デッサン【左】とクロッキー【右】。「デッサンやクロッキーを一番描いたのは、高校3年生と大学1年生のときでした。仕事でも背景を描くときにはパースの知識が必要ですし、キャラクターを描くときには人体の知識が必要です。毎日の仕事の中で、デッサン力の必要性を感じています」(嶋原氏)

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