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No.14(前編)>>ディライトワークス

No.14(前編)>>ディライトワークス

「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。

第14回は、スマホ向けRPG『Fate/Grand Order』の開発・運営などを行うディライトワークスが登場。同社が発表した新規ゲームプロジェクトのコンセプトアートの制作記録を事例に、同社アート部の「ディライトアートワークス」という組織に所属するアーティストたちの仕事を前後編に分けて紹介する(後編は9月6日公開)。前後編を合わせると約25,000文字におよぶ長文記事だが、「コンセプトアートとキャラクターデザインはどうちがうのか?」「ラフの役割とは?」「ディレクションの役割とは?」「適切なスケジュール管理とは?」などのトピックを、実際の制作記録を使って徹底解説していくので、ぜひ最後まで味わっていただきたい。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

「Don't think! Feel.(考えるな!感じろ)」......ではない

▲左から、直良有祐氏(クリエイティブオフィサー/ジェネラルマネージャー/アートディレクター)、神尾晶平氏(アーティスト)、角 崇康氏(マネージャー/アートディレクター)


CGWORLD(以下、C):手始めに、皆様の経歴と、現在の仕事内容を教えていただけますか?

直良有祐氏(以下、直良):2016年に、20年以上勤めたスクウェア・エニックスを退職し、現在は島根県の出雲市を拠点に活動しています。IZM designworksという自分の会社の代表取締役と兼任で、ディライトワークスのクリエイティブオフィサーとしてディライトアートワークスとディライトグラフィックワークス(※)を統括しており、普段の仕事のやりとりはネットなどを経由して行なっています。

※ ディライトワークスのアート・グラフィック部門は、コンセプトアートやデザインワークなどを担当するディライトアートワークス(アート部)と、2Dグラフィックや3Dアセットなどを担当するディライトグラフィックワークス(グラフィック部)に分かれている。同社グラフィック部の仕事については、DELiGHTWORKS Developers Conference(同社が主催するゲーム開発者向けの技術勉強会)の「vol.05 アートから受け取るグラフィックス」(2019年4月開催)のスライドを参照。

神尾晶平氏(以下、神尾):PCゲーム業界で、5年以上、キャラクターのデザインやイラスト制作を行なっていました。2017年に当社へ入り、それ以降、ディライトアートワークスでずっと新規ゲームプロジェクトの開発に携わっています。今もキャラクターを担当することが多いですが、コンセプトアートやイメージボードを任される場合もあります。

角 崇康氏(以下、角):ゲーム業界でのキャリアは10年くらいで、別のゲーム会社を経て、2017年に当社へ入りました。現在はディライトアートワークスで新規ゲームプロジェクトのアートディレクターを務めています。

▲新規ゲームプロジェクトのティザームービー。AnimeJapan 2019のディライトワークスのブースにて、2019年3月23日に初公開された


▲先のムービーに先立ち、2019年3月13日に公開された新規ゲームプロジェクトの開発の方向性を紹介する動画。この動画のコンセプトアートは2017年8月後半に制作されており、同年10月に初公開された。本記事では、このコンセプトアートの制作記録を、直良氏、神尾氏、角氏へのインタビューを交えて紐解いていく


C:ディライトアートワークスのアーティストは、神尾さんのように、コンセプトアートからキャラクターデザインまで幅広く担当する人が多いのでしょうか?

直良:ディライトアートワークスを設立してから日が浅いので、正直、偏りはあります。ただ「描けないモノはないようにしてほしい」とメンバー全員に伝えました。それに、例えば親戚の子とかに「おじさん、絵描きさんなんでしょう? 何々描いて」と言われたときに「いや、苦手なんだよ」って答えるのは格好悪いじゃないですか(笑)。もちろん専門性はあっていいんですけど、「描けない」原因がどこにあるかというと、「苦手」や「下手」ではなく、「経験が浅い」という人が大半だと思うんです。まずは、できるだけいろんなモノを描いてみてほしいです。組織の人数が揃ってきたら、だんだんと専門化して、突出してくれるといいなと思っています。神尾の場合はキャラクターが得意で経験も豊富なので、それを依頼する機会が多くなっていますが、コンセプトアートや、キャラクター以外の絵も描けるようになってほしいという思いがベースにはあります。

C:「ゲーム会社でキャラクターを描きたい」と思っている学生の場合も、キャラクター以外も描けた方が有利ということでしょうか?

直良:そうですね。ちょっと突っ込んだ話をさせてもらうと、われわれの仕事は「ひとつの世界をつくる」ことであって、「キャラクターの見た目」は、その世界を構成する要素の一部分でしかないんです。表面的には花形の仕事に見えるので志望者は多いですけどね。そこだけで勝負できる、よっぽど突出した能力をもっていないと、任せづらいです。例えば新規ゲームプロジェクトの女子高生の場合なら、あの子は普段どんな学校のどんな教室で勉強しているのか、どんな家に住んでいるのか、周りの雰囲気はどんな感じかってことまで把握して描ける人の方が、活躍の場は広いんじゃないかと思います。実際に働いてて、神尾はどう思いますか?

神尾:専門化し過ぎると、「かわいければオーケー」みたいな、どんどん狭い世界に入り込んでしまうんですよね。でも、当社で求められたのは、そういう仕事ではなかったんです。構図ひとつ、配色ひとつとっても、どうしてそうするのか考えなきゃいけない。最初はそこまで考えてなかったので、正直、ビビリが大きかったです(笑)。でも、やっていくうちに「ああ、確かにな」と思えるようになってきました。

直良:絵を提出したタイミングで、「これに何の意味があるのか?」というのを隅々まで問われるんですよ(笑)。

:個人的には「何で祭り(なんでまつり)」って言ってます(笑)。「何でこの構図なの?」「何でこの色なの?」といったことを、全部説明しなければいけない会を定期的にやっています。終わることのない戦いですね。

C:1枚絵の中に描かれたモノの全てが、何らかのメタファーであって然るべきということでしょうか。しかも「感じてください」ではなく、言語化しなきゃいけない。アーティストが1番苦手としそうなことのような気がします。

直良:少人数で完結する仕事だったら、感覚に任せてやってもいいと思います。でもゲーム開発のように、多くの人が協力しないと完成しない仕事の場合、全員が天才肌というわけではないですから、絵描きに限らず、多少の説明ができる力が必要になります。チーム内ではよく「ブルース・リー先生、大否定」って言ってますね(笑)。「Don't think! Feel.(考えるな!感じろ)」(※)じゃないんだと。「見た人に、こういう感情をもってほしい。こういう影響を与えたい。だから、こういう絵なんです」ということが伝われば、絵に込めた機能が連鎖し始めるんです。例えば、キャッチコピーひとつを置くにしても「こういうコンセプトの、こういう絵だったら、こういう文字の置き方がいいですよね?」というように、ほかの人にも思いが連鎖して、より機能的な絵に仕上がっていく。だから、できるだけシンプルな、ワンワードで伝わるようなメッセージにすることも心がけています。

※ ブルース・リー主演のカンフー映画『燃えよドラゴン』(1973)内の名台詞。

C:ディレクターやマネージャーなどのポジションの人ほど、「think!」が求められそうですね。

直良:その点は、角が今すごくがんばっています。アートディレクターの仕事は、ファイナルビジョンを考えて、その機能や役割を人に伝えることなんです。それもあって、角はあんまり絵が描けない。いや、描かないんでしたっけ?

:両方です(笑)。

ドラマが成立してない段階で、キャラクターをデザインしても無意味

C:ここからは、角さんがまとめたコンセプトアートの制作記録をふり返りながら、アーティストの仕事内容を具体的に伺っていきます。画像だけで21枚もあるので、すごく読み応えがありますね。一方で、当時の神尾さんの苦悩が伝わってきて、読んでいるだけで胃が痛くなりました(苦笑)。

神尾:今見ると面白いですが、描いている当時は病んでましたね(笑)。

C:このプロジェクトは、どういう経緯で、いつ頃から始まったんですか?

直良:2017年の6月頃から、私と塩川(塩川洋介氏/クリエイティブオフィサー)とで絵のコンセプトを考え始めました。その後、CEDEC後のタイミングで新規ゲームプロジェクトを開発中であることを公表して、転職を考えている開発者や新卒学生への周知を図ろうという話になりました。加えて、ゲームのユーザーにもアピールできる絵にしたいという思いもありました。その前から、角と神尾は新規ゲームプロジェクトに携わっていたので、この絵の制作も彼らに依頼しようという話になり、私が「大ラフ」を描いた後に引き継ぎました。

・教室の窓
・雲の中にうっすら異質で巨大な物体
・吹き込む風

▲【上】直良氏による「大ラフ」/【下】この段階で決めた方針を記したメモ。「この『大ラフ』は、出雲市の仕事場で、塩川とチャットで相談しながら10分くらいで描きました」(直良氏)


8月15日 制作開始(神尾さんには未告知、直良さんの「大ラフ」は作成済み)
8月21日 ラフFIX
8月25日 FIX

▲コンセプトアート制作開始時に作成されたスケジュール(後述する、実際のスケジュールとは異なる)


C:かなりタイトなスケジュールですね。「神尾さんには未告知」というのもすごい(苦笑)。加えて、全体スケジュールに占めるラフの期間が長過ぎませんか?

神尾:めちゃくちゃビビリました。「新しいコンセプトアートをつくる」という話は以前から聞いていましたが、自分が描くことになるとは予想していませんでした。しかも「今月中に」って言われて。

C:「今月って、もう半分終わってますよね?」という状況での急発進。

神尾:「私が描いていいんですか?」という戸惑いが大きかったですね。前職では小さな会社にいたので、急に仕事がふってくることには慣れていたんです。ただ「この絵がもつ意味を考えると、下手はできない」という緊張感がありました。

直良:アーティストの所属部門をディライトアートワークスとディライトグラフィックワークスに分けた背景には「アートにコストをかける」という意図があったんです。時間をかけて、コストをかけて、脳みそを使って、それから手を動かす。だから、脳みそを使うラフの期間を長くとりました。1枚の絵をどこまで詰められるか、とことん経験してもらおうというねらいがあったんです。加えて、開発中のゲームプロジェクトのアートを外に出すということは、そのアートでもって会社の将来性が値踏みされることにつながるので、コストをかける価値があるとも思っていました。

C:最初に今回のようなコンセプトアートをつくり、その後で、アートの中に描いたキャラクターや、背景や、小物などのデザインを詰めていく......というのが、典型的な仕事のながれなのでしょうか?

直良:そうです。特に、ディライトアートワークスは「ドラマのあるアート」を提案することをゴールに掲げているので、ドラマが成立してない段階で、キャラクターをデザインしても無意味なんです。ドラマが詰め切れていなければ、キャラクターも掘り下げ切れません。今回の場合は、この1枚絵の中のドラマをラフの段階でしっかり詰めてほしいという話をしました。とはいえ、神尾はとりあえず描かないと安心しない性分だから、描いては引き戻し、描いては引き戻しというやりとりを何度も繰り返すことになったんです(笑)。角も神尾も、「コンセプトを理解し、ドラマを表現する」というのは初めての経験だったので、できるようになるまでには、ある程度の時間がかかるだろうと思っていました。

C:直良さんは、「大ラフ」を描いた時点で、どのくらいの精度までファイナルビジョンをイメージしていたのでしょうか?

直良:自分なりのゴールは、全部イメージできていました。ただ、それを2人に代わりに描いてもらうつもりはなくて、実際に新規ゲームプロジェクトに携わっている彼らなりのゴール、チームとしての正解を導き出してほしかったんです。

C:ということは、そのまま直良さんが仕上げたら、ちがう絵になっていたわけですね。

直良:そうです。描く人がちがったら、ゴールもちがいます。そこは、多様性があった方が面白いだろうと思います。正解はひとつではありません。

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