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No.14(前編)>>ディライトワークス

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「どうすれば、ターゲットの興味を引けるのか?」を最優先に考える

開発者→自信がある、もしくはない。くすぶっている。奮起する。奮起したい。発展途上。才能......などをイメージし、落ちていく古いアイデアと、新しいアイデアを入れてみました。
女の子の見ている窓の内側だけ、幻想的な風景にしてはどうでしょうか。左右の窓の風景とは色味がちがったり、窓枠を境に鳥が竜(ガーゴイル?)になっていたり。

▲【上】神尾氏による「アイデア出し その2」/【下】神尾氏が記したコメント


窓枠を境にして、現実世界と異世界を隣り合わせにしたいと聞きましたが、ただ並べるだけだと、人によっては「絵が3枚並んでいるだけ」に見えるかもしれないと思いました。ですので、窓枠を境に、現実世界と異世界とで様相が変わる何かを挟むべきではないでしょうか。

▲神尾氏の「アイデア出し その2」に対する、ほかのアーティストからのアドバイス


C:で、神尾さんがアイデアを練るフェーズがさらに続きますね。この段階では、角さんはどういう立ち位置だったのでしょうか。

:私は相談されたらアイデアを出すくらいで、まだ静観している状態です。

  • 今後のプロジェクトでも同じようなことが繰り返されるだろうと思ったので、ほかのスタッフの参考になればと、一連のながれを記録するよう心がけていました。

  • 制作記録を見返しながらインタビューに答える角氏


C:その記録のおかげで、今回のちょっと変わった取材が実現しています。ほかのアーティストからのアドバイスまで記録してあるのもいいですね。

直良:そのアーティストは、何年も前から私と一緒に仕事をしてきたので、近い考え方をしています。この先の展開を予想して、助け船を出してくれたんだと思います。

▲神尾氏による「アイデア出し その3」


C:で、神尾さんがさらにアイデアを練るものの、奥のモチーフはあまり変化がないですね。

神尾:いやはや、どんどん恥ずかしいモノが出てくる(笑)。この頃は完全に迷子でしたね。どうすればいいのか、わからなくなっていたんです。状況が全然見えていない中で「描けば解決する」と思い込んでいました。でも実際は、そうじゃなかった。

C:求められていたのは「think!」だったと?

神尾:はい。でも、考えるだけで、手を動かさないことがすごく怖かったんです。焦るばかりで、考えがまとまらない。「卵って何の意味があるんだろう? 卵から何が生まれれば『新しいことが始まろうとしている』と感じてもらえるんだろう? ワクワクしてもらえるんだろう?」って、一日中考えていました。

  • そうやって考える中で「この女の子が見ている世界は何なのか」「ターゲットがこの絵を見た瞬間に、どんな情報が伝わらなければいけないのか」が、うっすらと見えてきてはいました。ディテールを描き込むのではなくて、先に考えることがあると、頭ではわかっていたけど、心はわかっていない状態だったんです。でも、角やほかのアーティストに何回も相談して、アドバイスをもらっているうちに、だんだん心の方でも理解できるようになってきました。「滝って何の意味があるんだろう?」「何で飛行機が竜になるんだろう? 何のために描くんだろう?」というように、いろんなことを考えるようになりました。

  • 制作記録を見返しながらインタビューに答える神尾氏


:「何で祭り」の始まりですね。

直良「正しさ」ではなく「魅力」を優先する状態へ、だんだんとシフトしてきましたね。「どう描けば正しいんだろう」ってディテールをどんどん詰めていた状態から、「どうすれば、ターゲットの興味を引けるんだろう? 理解してもらえるんだろう?」と考える状態へ変わってきています。まずは魅力のあるネタやレイアウトを考えて、その後で、描くモノの説得力や理屈を考えればいいんです。

・「卵モチーフはいいね」で一致(生まれる、育てよう、などのメッセージがある)
・窓の内側だけ異世界なのもいい
・卵の中はさらに考える必要があるものの、「アイデア出し その3」をベースに、ひとまず塩川がキャッチコピー(ディライトワークスから開発者へのメッセージ)を考える

という方針でいきましょう。
で、現実←→非日常を表現するにあたり、現実←→ハイファンタジーでいこうか、現実←→ハイ・ローのごった煮でいこうか、どう思います?

▲神尾氏の「アイデア出し その3」に対する、直良氏のフィードバック


ハイファンタジーよりも、もう少し明るい方が、迷っている人もワクワクしてくれて、「自分もチャレンジしてもいいのかな」という希望が湧いてくるのではと思います。なので、最初に出したような、カラフルな絵にしたいと思っております。植物や卵は、質感を重くできたらと思います。

明日は線画を描いて、バランスを改めて調整。窓枠の向こうにある建物も、レイヤーを分けて描いてみたいと思います。

▲直良氏のフィードバックに対する、神尾氏の意見


自分もハイファンタジーじゃない方がいいと思います。
あ、線画といってもクリンナップまでいかない程度でお願いします。卵以外の入れる要素を整理することを最優先に。

▲神尾氏の意見に対する、直良氏のフィードバック


C:このタイミングで、『ロード・オブ・ザ・リング』的なハイファンタジーの世界にするのか、『ハリー・ポッター』的なハイファンタジーとローファンタジーをミックスした世界にするのか、直良さんが確認していますね。合わせて「クリンナップまでいかない程度」と、釘を刺している点もポイントだなと感じます。

直良:この絵を開発者目線で見たときに、どのへんに着地させれば興味をもってもらえるのか、アイデアの精査をしておくタイミングだと思ったんです。「竜と飛行機と、両方あった方が面白いよね」といったことまで考えて、要件を確定させていきました。併行してキャッチコピーも決めて、ゴールに向けて「解像度」をグッと上げていく必要がありました。じゃないと、本当に迷子になるから(笑)。塩川にキャッチコピーを依頼したら、「こうしてみたらどうですか?」という彼らしいアイデアを返してくれました。

むしろ絵が未完成で、余白があること自体がメッセージになるのでは?
「俺でもヤレる !」って隙間。例えば、卵の中を描かないで白く残しておくとか?
チラと識別できるけど、描ききれておらず「どうなっているの??」と気になる。
むしろ、描き足したくなる。見栄え的にいけているかは不明!

▲【上】塩川氏による「イメージ」/【下】塩川氏が記したコメント


重要なのは、以下の2点です。

・窓の外がとにかく魅力的!
・未完成感を出す!

[大方針]
・あくまで「作品」感を重視。初見で「おっ」と思ってもらい、クリック or スクロールしていくと採用情報がある、みたいな立て付け。
・まず作品で惹きつける。ものづくりに惹かれてきてほしいので。

「それは、本当にRPGと呼べるのだろうか?」というキャッチコピーは、どちらかというと、絵ありきで考えたものです。
1.「RPGなの?そうじゃないの?」など、開発者にも、ユーザーにも「なんぞや?」と考えてもらう。
2.「窓の外を見ているキャラクター」=「開発者、あるいはユーザー」であるかのように、感情移入してもらう。
3. キャラクターの視線の先に「1.」で疑問に思った対象(謎)がある。「見たことのない、新しそうな世界観なんだけど、なんぞや?」といった、解き明かしたくなる謎(異物)がある。

・スクラッチで謎が隠されている、ちょい見せ、などで、気になるようにさせる。
・完成している絵にはしない。スキを残し「自分たちで完成させるんだ」感を出す。
・窓の外だけ異世界。異世界へ視線を向け、飛び込んでいく、向かっていくイメージを想起。

4. 結果、何か興味深いことをやろうとしているのでは、と読み手に伝わる。「少なくとも、RPG関連の何かだろう」ということは伝わるので、アクションゲームとかスポーツゲームとか、そのレベルの期待のズレは起きない。

▲塩川氏の「イメージ」と合わせて提示された、直良氏と塩川氏のフィードバック


C:卵の中のディテールが、容赦なく塗りつぶされてますね......。

直良:はい。この段階でターゲットの期待感を盛り上げようとするなら、重要なのは細かいディテールではなくて「未完成であること。余白があること」だろうという方針になりました。

ファイナルビジョンを何通りも出せる人は重宝される

C:神尾さんにアイデア出しを求めつつ、要所、要所でディレクションが入っていく。このながれは家や学校で絵を描いているだけだと体験しにくいので、業界志望者の参考になると思います。加えて、一連のやりとりを見ていると、ラフの役割もよくわかりますね。「ポートフォリオには、完成画だけでなく、ラフも入れてほしい」と語る採用担当者は一定数いて、画力の高い志望者ほどラフの追加提出を求められるケースをよく見ます。今回の「アイデア出し」のような場面での対応力を探っているのだろうと感じました。

直良:会社によって差はあると思いますが、私の経験から言うと、アートの人間は「発明のようなモノ」を求められることが多いんです。完成しきった小説の挿絵を描くタイプの仕事ではなく、0を1にするためのビジュアルアイデアですね。アイデアを出す能力が高い人、クリエイティブの幅が広い人は、ゲーム会社に入った後、プロジェクトの前半から後半まで、長いスパンで活躍できます。さらに言えば、前半工程で見たことのないモノを生み出してくれる人が増えた方が、その会社の開発力や商品力は確実に上がります。

  • ファイナルビジョンがその人の頭の中にあって、それを何通りも出せる人は重宝されます。その力をみる手段として、ラフは有効なんです。ただ、ラフはアイデアを出すときの手段のひとつなので、例えばフォトバッシュだったり、ほかの手段でもいいんです。今回のプロジェクトで私が最初に描いた「大ラフ」も、もうちょっと自分の中で詰めたら、多分、何通りも出てくるんですよ。というか、出せるべきだと思うんです。やっぱり、ファイナルビジョンが大量にある人の方が強いですから。


神尾:直良が言った「会社によって差がある」というのは本当にその通りで、私の前職の会社では、完成間近の絵を提出しないとクライアントに伝わらなかったんです。外注として受けていたこともあって「ちょっとわからないんで、もう少し完成度を上げてください」とリテイクされてしまうのが常でした。だから早々に完成度を上げようとしてしまう。職業病ですね(笑)。

直良:同じ会社にいると、その場で会話しながら詰められるので、すごくラフな絵でもゴールを共有しやすいですね。とはいえ、会社には定期的に新しい人が入ってくるし、それぞれ別の経験をしてきているので、その会社のやり方に慣れてもらうための手探りの期間が必要だと思います。角と神尾の場合は、それがこのプロジェクトでした。

C:で、先のキャッチコピーが提示されたのが8月20日頃、当初予定したスケジュールだと「8月21日 ラフFIX」でしたから、順調に遅れてますね......。

神尾:いやー、焦りましたね(苦笑)。この後も、まだアイデアとディテールの間で行ったり来たりして、「描いちゃダメだ」「いや、描かなきゃ」「あれ? どっちだっけ?」みたいな葛藤がしばらく続きました。


前編は以上です。この先の展開は、9月6日(金)公開の後編でお伝えします。
ぜひお付き合いください。


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