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No.14(後編)>>ディライトワークス

No.14(後編)>>ディライトワークス

「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。

第14回は、スマホ向けRPG『Fate/Grand Order』の開発・運営などを行うディライトワークスが登場。同社が発表した新規ゲームプロジェクトのコンセプトアートの制作記録を事例に、同社アート部の「ディライトアートワークス」という組織に所属するアーティストたちの仕事を前後編に分けて紹介する。9月5日公開の前編(約12,500文字)に続き、後編も約13,000文字におよぶ長文記事だが、「ドラマのあるアート」をつくるための葛藤と試行錯誤を、実際の制作記録を使って徹底解説していくので、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

最悪、最後は自分が引き取れるようにしておく

▲左から、直良有祐氏(クリエイティブオフィサー/ジェネラルマネージャー/アートディレクター)、神尾晶平氏(アーティスト)、角 崇康氏(マネージャー/アートディレクター)


CGWORLD(以下、C):「アイデア出し その4」では土星の輪のようなモノが追加されましたね。

神尾晶平氏(以下、神尾):......何で描いたんだろう? 細かいことは、もう覚えてないですね。まだ葛藤していたんだと思います。

直良有祐氏(以下、直良):葛藤と焦りが見えますね。まだ、コンセプトとディテールの間で行ったり来たりしている(笑)。

卵だけ塗りたくてブラシのお試しもかねて塗ってしまいましたが、本日分の進捗をアップします。

・土星の輪のようなモノはお試しで入れてみました。
・卵の中ありバージョンになっています。
・背景には惑星を2つ置いてみました。
・飛行機は、クジラ型の飛行船っぽいモノと、ドラゴンの2つで、異世界感を出していければと。
・卵の上の方の建物はアタリ線を残し、鉛筆の斜線による影で、落書き風味を出すイメージです。

下に落ちていったアイデア(建物というか瓦礫)には、レゴブロックのような結合部をつけたら、「アイデア」=「おもちゃ」→「楽しい」になるかなぁと思ったのですが、窓枠があるので、映るかどうか確認しながら進めます。

▲【上】神尾氏による「アイデア出し その4」/【下】神尾氏が記した進捗報告


ぱっと見で気になった点をあげます。

・ファンシーになるので、土星の輪は止めた方がいい。
・卵の割れ方、中のモノも含め、元々そういうカタチをした建築物に見えます。あふれ出る、生まれるからは遠いです。
・下の建物が近すぎで、奥行きを殺しています。
・距離感とスケール感がない。

最悪、描ききれてなくてもメッセージとして成立するので、卵の中は何でもいい。
まずはしっかりとレイアウトを固める。巨大な卵に見えないのが致命的ですので、そこをしっかりやってください。

▲神尾氏の「アイデア出し その4」に対する、直良氏のフィードバック


C:ここでの直良さんによる「巨大な卵に見えないのが致命的」という指摘は、読むだけで胃が痛くなります。そして、この指摘が角さんと神尾さんを終盤まで悩ませることになりますね。

角 崇康氏(以下、角):はい。卵の中のアイデア出しもさることながら、レイアウトでも、着彩でも、ポリッシングでも「卵の距離感とスケール感」が大きな課題になりました。どのくらいのサイズの卵が、どのくらい遠くにあるのか、どのくらいの高さに浮かんでいるのか......、それが伝わる絵づくりが本当に難しかったです。

神尾:この頃の記憶はほとんど残ってないです(苦笑)。たぶん「俺、才能ねえ」としか思っていなかったです。

  • 「絵を描く資格がないんじゃないか」と思うくらいまで、自分で自分を追い詰めていた記憶がうっすらあります。でも、もう1人の自分が「いや、やれ、ばか」って言うから「はい」って、踏ん張っていましたね。


:私は結構鮮明に覚えていて、「病んできたな」というのが雰囲気だけで見てとれるくらい、神尾は追い込まれていました。

C:ちなみにこの頃、お2人はほかの仕事も抱えていたのでしょうか?

:私は別の新規タイトルのプロジェクトにも併行して関わっていましたが、神尾には「今はこれだけに集中してください」と伝えていました。

窓枠付近にアーチや建物を配置すれば、ディズニーランドの入り口みたいに、抜けた先が広く見える効果が出るんじゃないかと思って描きました。フェスティバル感で楽しい雰囲気を出そうと思って、風船と紙吹雪を少し。空に浮遊島を置くと、空いた空間を埋めつつ、遠近感を出せて卵に目線が行くのでは、と。

▲【上】神尾氏による「アイデア出し その5」/【下】神尾氏が記した進捗報告。これに対する直良氏のフィードバックは口頭でなされたため、記録は残っていない。窓枠付近のアーチや建物、フェスティバル感、手前の浮遊塔などのアイデアは「ファンシーになる」「距離感とスケール感を出しきれない」などの理由で却下された


目安ではありますが、進行イメージを共有します。

・8月21日(19:00)ラフレイアウト見極め→共有・確認
・8月23日 線画完成
・8月24日 着彩
・8月25日(19:00)完成
・8月28日(〜10:00)直良予備

▲8月21日に直良氏が提示したスケジュール


C:ここで直良さんの提示したスケジュールが、緊張感に満ちていますね。そして、最後の「8月28日(〜10:00)直良予備」というのが意味深です。

直良:2人とも焦りが大きかったと思うので「こういうテンポでどうですか?」と、投げかけてみました。同時に「最悪、最後は自分が引き取れるようにしなきゃならんかな」と思い始めていましたね。「直良予備」というのは、引き取るためのセーフティーゾーンです。

C:やはり、そこまで視野に入っているんですね。客観的に見ると、素晴らしいチームワークだと思います。生半可な覚悟では参加できないとも思いますが。

神尾:覚悟というか、「負けてはならぬ」みたいな意地がありましたね。ここで折れてダメになったら、自分の実力がその程度ということだから、悔しいよなと思っていました。

「一緒につくりましょう」というメッセージが伝わらない

C:で、「アイデア出し その6」では羽根が生えましたね。

▲神尾氏による「アイデア出し その6」


塩川とは、羽根で通すにはもうひと捻り必要かも......と話してます。なのでそこのネタを考えつつ、昨日話したように手前から線画を進めてください。

▲神尾氏の「アイデア出し その6」に対する、直良氏のフィードバック


・8月22日 キャラクターの線画と、シルエットがわかるようにベタ塗り
・8月23日 卵を除く背景の線画(カラースクリプトっぽく色を置いてみる)
・8月24日〜25日 線画が決まったら、着彩開始、卵の部分の最終決め

▲8月22日に神尾氏が提示したスケジュール


直良:羽根は、2人のアイデアですね。「この先は、神尾の相談にのるだけでなく、ゴールまで一緒に並走してほしい」と角に依頼しました。

:神尾が卵の中にこだわっていたので、いったん原点に立ち返り「そもそも、この絵のコンセプトは何だったのか?」を2人で再確認しました。

  • 「『新しいモノが生まれる』『育てよう』というメッセージを伝えることが重要なのであって、『卵の中に何があるか?』はそんなに重要ではないですよね」という話をして、「生まれる」という言葉から「羽根が生える」というビジュアルをイメージしました。


C:そのアイデアに対し、直良さんは「ひと捻り必要かも......」と返していますね。

直良「窓の外がとにかく魅力的!」「未完成感を出す!」というのが、塩川と私の提示した方針でした。そこに羽根を描いてしまうと、余白感が消えて、わかりやすくなりすぎると思ったんです。「新規ゲームプロジェクトが生まれます」というメッセージにしかならず、開発者に向けた「まだ見ぬ作品を、一緒につくりましょう」というメッセージが伝わらないと感じたので、それを伝えるための「ひと捻り」が必要だろうという話をしました。

C:この段階になっても、先行するディテールに対して「メタファーとしての機能を考えましょう」という引き戻しが発生しているところに、揺るぎない信念を感じます。

直良:そこは、多分ギリギリまでやってしまうものだと私は考えます。もちろん、スケジュールを完全に壊してまでやったり、誰かがぶっ倒れるまでやったりする必要はないですが、できる限り突き詰めるべきところだと思います。

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一連の動作が「見える」絵の方が
ドラマチックになる

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