10を100にしようとすると、言葉だけでは伝えきれない部分がある
卵のエッジを光らせ過ぎちゃったけど、例えばこんな感じ。
今の絵を自分がパッといじるなら......くらいに受け止めてください。
未完成の部分は全然消化できてないしね。
ちなみにアチコチいじってるんで、比べてみてください。
▲【上】直良氏による「修正」(8月28日作成)/【下】直良氏が記したコメント
卵自体は、やはり元のままの卵がいい感じですかね。
上記の感じで一度つくってみます。
ありがとうございます!
▲直良氏のコメントに対する、神尾氏と角氏の返答
C:そして、いよいよ直良さんが動きました。絵から音が聞こえてきそうなインパクトがありますね。「ドラマのあるアート」とはこういうことなのかと、目指すゴールが明確に伝わる「修正」です。
神尾:すごいショックで、「格好良い......」と思いました。角と私がものすごく悩んでいたときに「ちょっとやってみた」くらいの感じで、パッとこの絵が出てきたんです。
C:そのシチュエーションも含めて、ドラマがありますね(笑)。
直良:手を入れられたこと自体は、ショックではなかったですか?
神尾:手を入れられることへの抵抗はなく、素直に「有り難い」と感じました。直良には、ずっと前からこの絵が「見えて」いたのかと、びっくりしました。
直良:コメントにも書いていますが、これは「自分がパッといじるなら」という一例です。ここまで来ると、言葉ではなく絵でキャッチボールしないと伝えきれないので、描いてみました。ちがいを1個1個見比べながら、どうして私がこういう手の入れ方をしたのか考えてほしいという思いもあって「アチコチいじってるんで、比べてみてください」ともコメントしています。
C:つまり、ようやく、言葉ではなく絵で対話するフェーズになったということですか?
直良:そうですね。そこにはたどり着いてくれました。コンセプトをビジュアルにする、つまり0を1にできれば、1を10にすることもできるだろうと思っていたんです。さらに、それを100にしようとすると、言葉だけでは伝えきれない部分が確実にあるはずです。例えば、魅力や、見た瞬間にハッとする感じ、腹に落ちる感じなどですね。正直、この段階まで来てくれるとは思っていなかったので、嬉しい誤算でした。2人を見くびっていましたね。ごめんなさい(笑)。
▲神尾氏と角氏による「完成画 パターンA」(8月28日作成)。「巨大な物体が空に浮かんでいる絵を探して、参考にしています。単純なはずの卵の陰影に何時間もてこずり、軽くパニック状態になりながらも完成しました」(神尾氏)
▲神尾氏と角氏による「完成画 パターンB」(8月28日作成)
C:さて、最後の2枚です。パターンBで、また羽根が生えていますね......。
角:羽根は私が描きました。コンセプトを表現するにあたり「卵の中は明確に描かず、光と空気で演出する」という方針にしたことは、辛口に評価すると、多分80点くらいなんです。100点までいけなかった。
- だから、ビジュアルアイデアについて、もう少しあがいてみたくて羽根を描きました。
-
直良:今回は80点かもしれないけど、時間がないし、「光」を採用して進めた方がいいと頭では理解した。でも、最後の最後に、悔しくなって描いてみたといったところでしょう。
角:そうです。何かしらできるんじゃないかと思ったんですが、描いてみて「やっぱり要らないな」と思いました(笑)。
「これは自分がつくった」と言えるタイトルを、1人1本はもつ
C:2019年3月13日に公開された動画では、「完成画 パターンA」が動いていましたね。
角:第4制作部から「この絵を動かしたい」という相談があり、ディライトグラフィックワークスの主導で制作しました。
▲2019年3月13日に公開された、新規ゲームプロジェクトの開発の方向性を紹介する動画。本記事で取り上げたコンセプトアートを基に制作された
直良:この動画の主な目的はテックデモとそのアピールだったので、ディライトグラフィックワークスに任せました。また羽根が生えでもしたら、「ちょっと待て!!」という話になりますけどね(笑)。
角:あれだけやって、羽根が生えたら相当なショックですね(笑)。
直良:2Dの絵を3DCGにして、違和感なく動かしてみせる。しかもそれを社外の人に発表するという経験は、ディライトグラフィックワークスにとって必要なことだったと思います。2年前の角や神尾と同様、いい経験になったでしょう。
C:現在も角さんと神尾さんは、新規ゲームプロジェクトに携わっているのでしょうか?
角:鋭意開発中です。今年の3月にAnimeJapan 2019で発表した新規ゲームプロジェクトのコンセプトアートも2人で担当しましたが、以前のような五里霧中のつらさはなかったです。これをつくるときには「とりあえず絵を描いてみる」という始まり方にはならず、「コンセプトは何だ?」という会話から始めて、レイアウト・ポージング・線画・着彩・ポスプロなどの全工程で「何で祭り」を繰り返しました。
▲先の動画に続けて、2019年3月23日に公開された新規ゲームプロジェクトのティザームービー。1:22あたりで表示される女子高生のコンセプトアートは、角氏と神尾氏が手がけている
神尾:このコンセプトアートに限らず、新規ゲームプロジェクトでは同じプロセスを経てビジュアルアイデアを練るようにしています。キャラクター1人をつくるにしても、徹底的に考えて、表情や仕草のひとつひとつをつくり込み、プレイヤーに共感していただけるキャラクターにしています。
直良:今回お話したように、われわれは「ドラマのあるアート」をつくることに、すごく手間暇をかけています。表面的なデザインやビジュアルに留まるのではなく、コンセプトを徹底的に考え、確信を得た上で手を動かしたり、ディレクションをしたりする力が確実に養われていると思います。新規ゲームプロジェクトも、きっと魅力的なものに仕上がると期待しています。
- ディライトアートワークスには現在10人のアーティストが所属しており、15人くらいまで集めたいと思っています。それ以上増やして、絵を生産する工場みたいにするのは嫌だし、お互いの顔を見ながら仕事をするなら、そのくらいの人数が限界だと思います。その上で、各々に「これが自分の代表作だ」と言えるタイトルをもってもらうことを目指しています。
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ただし「そのタイトルのキャラクターデザインをする」といった必須条件があるわけではなく、角と神尾のように、アートディレクターとメインのキャラクターデザイナーという役割分担をして、タイトルを盛り上げていく形でも構いません。自信をもって「このゲームの世界観は自分がつくった」「このゲームのキャラクターは自分が生み出した」と言えるようなタイトルを、少なくとも1人1本はもってもらうことを目標に、組織を強化していきたいです。
C:アート制作の舞台裏を、ここまで詳細に開示していただける機会はそうそうありません。アーティストの仕事の苦楽が鮮明に伝わってくる取材でした。お話いただき、ありがとうございました。
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