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No.14(後編)>>ディライトワークス

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一連の動作が「見える」絵の方が、ドラマチックになる

・8月23日 卵以外の線画を進める。カラースクリプトもつくりつつ、背景中心で進めています。キャラクターもベタ塗りで色を置けたらいいなぁ
・8月24日 着彩と微調整
・8月25日 卵に集中しながら、調整。完成予定

▲【上】神尾氏による「線画」/【下】8月23日に神尾氏が更新したスケジュール


C:さて、卵の中が確定しないものの、いよいよ線画に着手しましたね。女の子のポージングが変わっていますが、どういう意図があったのか、教えていただけますか?

神尾:最初のポージングは、ただ単純に「かわいい」だけで、卵を見て驚いているのかどうかすら伝わりませんでした。何気なく外を見たら、思いがけない世界が広がっていることに気付いた瞬間の、女の子の驚きが伝わるポージングにしようと思い、変更しました。

直良「絵の中で、ちゃんと時間がながれていた方がいい」という話をしたように記憶しています。この瞬間の前後も含めた、女の子の一連の動作が「見える」絵の方が、ドラマチックになりますからね。

C:一方で、女の子の前後に座っているクラスメートには何も見えておらず、ポージングにも動きがない。このコントラストは、最初から計算していたのでしょうか?

直良:はい。この女の子にだけ見えていて、彼女にだけ光が当たっている絵にすることで、「すごいモノを見つけた」というメッセージを表現しています。そこは最初からブレていないのですが、窓の奥が決まらず難航しましたね。

チームがあるのに、自分1人で背負い過ぎてつぶれる人もいる

[8月23日の報告]
・背景の線画のアタリ。
・卵の中は、セミの羽化したての色が命の色だと感じたので、色を置きたくなって置いてみました。
・空の色は、雲とのバランスを見て濃くするかどうか決めつつ、下の方にはちがう色を入れて幻想的に。
・エイやゲートのような異物は、足したり減らしたり移動したりが予想されますが、大体これくらいの存在感だろうというひな形で配置しました。

▲【上】神尾氏による「着彩 その1」/【下】神尾氏が記した進捗報告


昨日も念押ししたけどね、卵は手をつけない。考えるとこまでって言ったじゃない。
周りを先にどんどん進めてください。卵はその後でじっくり。よろしくお願いします。

▲神尾氏の「着彩 その1」に対する、直良氏のフィードバック


C:線画の次は着彩ですが、思わず卵に手をつけた神尾さんが、ピシャリと直良さんに叱られてますね......。どちらの気持ちも理解できるので、これまた胃が痛くなります。

直良:このときは、軽くイラっとしました(笑)。卵の中を詰めてしまっているのに加え、卵の下から根っこが生えて広がっていますよね。これを引きで見ると、女の子の頭の上に、何か不思議なモノが乗っているように見えるんです。「さすがにこれはなさ過ぎるだろう」「これを見てどう感じろと?」と思って、脊髄反射しちゃったんです。

神尾:反省点の多い絵ですね。私の心情が出ている。「命」や「育つ」といったテーマから連想して、「根っこ」というアイデアに手応えを感じてしまったんだと思います。当時は五里霧中でしたが、今ふり返って直良さんの話を聞くと、すごく面白いです。「そう見えるよね」と気付かされます。

:この頃になると、私だけでなく、まわりのアーティストたちもアイデアを出すようになっていましたね。

直良:神尾の必死な様子を見かねたんだと思います(笑)。そんなふうに人を頼るって、なかなかできないんです。せっかくチームがあるのに、自分1人で背負い過ぎてつぶれる人というのも、実際にいます。「人に頼りたくない」というプライドもあるでしょうし、1枚の絵を、人の力を借りて完成させるという経験をしたことのある人はそんなにいないと思うんです。最初からキャラクターと背景で分業することが決まっている場合などは別ですけどね。今回のような1枚絵のコンセプトアートを、助け船を出したり、アイデアを出したり、腹を割って相談したりしながら仕上げられる現場になってきたのは、良い傾向だと思います。

できるだけプレーンな色で着彩し、後で調整が効きやすい状態にする

[8月24日の報告]
・今日は主に街並みを描いていました。
・これくらいの塗りで、中央に目がいくと思いますので、街並みはいったん落ち着かせ、キャラクターの塗りに入ろうと思っておりますが、いかがでしょうか。

▲【上】神尾氏による「着彩 その2」/【下】神尾氏が記した進捗報告


・根っこが恣意的なレイアウトなので外す
・室内はもうちょっと明るく、寒色系でさわやかに
・ガラスの描写をもうちょっと追加
・制服の上着も寒色系で

室内が陰鬱に見えるので、さわやかさがでるように心がけてください。
確かに視線誘導はできてきているので、描き込みつつ調整していってください。

▲神尾氏の「着彩 その2」に対する、直良氏のフィードバック


C:で、さらに着彩が進んだものの、教室の色味に対し、直良さんが全面的なリテイクを出していますね。

直良:今回は、できるだけプレーンな色で着彩して、ポリッシングに入ってから、ポスプロ(ポストプロダクション)で光を調整したり、エフェクトを加えたりする絵づくりを経験してほしかったんです。だから「着彩ではいったん足踏みしてください」という話をしました。

:時間がない中で「足踏みしてください」と言われ、当時は「ひどい......」と思いました(笑)。

直良:そうなんですけどね(笑)。でも、後で調整が効きやすい状態にしてほしかったんです。奥の卵がどうなるか決まっていない段階で、手前の色を確定させてしまうと、後の絵づくりは「だまし絵」になってしまいます。それは危険だなと思い、一段階手前に戻ってもらいました。

▲神尾氏による「着彩 その3」。「このあたりで、ペイントツールをSAIからCLIP STUDIO PAINTに移行しています。パース定規が使えること、ブラシの種類が多いことが、移行の理由でした。あまりなじみのないツールだったので、ブラシの作成方法や、使い方などをまわりのアーティストに教えてもらいながら進めました」(神尾氏)


グッと良くなりましたね。壁が空より青いので、カラーピックの精度を上げてみてください。これなら制服はこの色でいけそうですね。

▲神尾氏の「着彩 その3」に対する、直良氏のフィードバック


・8月26日 角の方で、いったんポスプロ。エフェクト処理を乗せて、最終イメージへ近づけて確認する。神尾さんの方で、空と背景の描き込み、全体の調整を進める。卵の部分のアイデア、レイアウトも同時に進める
・8月27日 卵の部分の作成と、全体調整を進める

迷ったとき、ご相談させてください。

▲8月25日に角氏が更新したスケジュール


C:ひとつ前の直良さんのフィードバックには、「制服の上着も寒色系で」とありましたが、それは反映されませんでしたね。

直良:はい。ただ、制服の色を青みがかったピンクにしたことで、机や壁の色とかぶらない配色になったので、これならOKだと思いました。

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