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No.14(後編)>>ディライトワークス

No.14(後編)>>ディライトワークス

時間がないと、白く飛ばして誤魔化してしまう

[8月26日の報告]
いったんポスプロをして、エフェクト類を乗せて、ほぼ完成イメージに近づけました。
卵の中はモチーフを限定することを避け、あえて中を見せず、あふれ出る、生まれる瞬間にフォーカスし、光と空気でそこを演出する方向にしました。
明日は以下の作業を予定しています。

・まだ少し、背景の中央下部がぐちゃっとしているので、その部分を整える。
・エフェクトはまだ仮素材のモノがあるので、素材を作成して差し替え。
・教室の中にながれ込んで来る風のようなモノを表現するため、パーティクルエフェクトっぽいモノをもっと足して調整(画面が汚れない程度に)。

また、卵の巨大感を出すために、卵の下部にうっすらとしたモヤや、大気のような表現を入れようかと悩んでいます。
卵のカケアミ表現は、小さくすると汚れっぽくも見みえるので、ここはもう少し綺麗な方がいいかもしれないです。

▲【上】神尾氏と角氏による「ポリッシング その1」(8月26日作成)。「いろんな人に何度も感想をもらいながら描いていました。あまり記憶が残っていない時期ですね。教科書に文字を入れるのを忘れていて、指摘してもらって慌てたりと、細かい作業を見失うことが続いていました」(神尾氏)/【下】神尾氏と角氏が記した進捗報告


・ポスプロの方向性は良いと思います。
・後に座っている女の子の前髪が重過ぎて、引きだと外を向いているような誤解を与えるかも(目を隠すならメガネがいい)。
・遠景が空気遠近を越えて白く光っているし、シルエットがまったく見えない。
・絵の下の左右は周辺減光を入れて落ち着けた方がいいのでは?
・卵は視認できないので、明日ネタと一緒に詰めた方がいいです。

▲神尾氏と角氏の「ポリッシング その1」に対する、直良氏のフィードバック


遠景と左右の調整は悩んでいたところだったので、明日、フィードバックを参考に詰めていこうと思います。
卵も、ちゃんと卵のシルエットを意識した割れ方にするよう気をつけつつ、再調整します。
ネタも、思いついたら入れていこうと思います。

▲直良氏のフィードバックに対する、神尾氏と角氏の返答


C:この時点で、「8月25日(19:00)完成」というデッドラインを突破して、「8月28日(~10:00)直良予備」のゾーンに突入しましたね。

直良:はい。でも「卵の中は明確に描かず、光と空気で演出する」という方針まで絞り込めたので、後はディテールを詰めるだけになりました。「ここまで来たからには、私が引き取るのではなく、2人のがんばりに賭けよう。このままゴールしてもらおう」と決めました。

C:あれだけアイデアを出して、最終的にたどり着いた結論が「光」ですか......。

神尾:「光だけになったの? あれだけ苦労したのに、全ボツなの?」という、多少のショックが当時はありましたね。とはいえ、これだけの経験をした後なので、頭でも心でも納得していました。やっとディテールに入れるようになったので「空の青色は問題ないか? 透明感は出せているか?」といったことを考える段階へと、完全に意識が切り替わっていました。

C:ショックと同時に、ディテールに入れる安堵感もあったのでしょうか。

直良:安堵感と、それからタイムアタックですね(笑)。

神尾:そうです。タイムアタックです(笑)。加えて、何か1個ミスをすると、鋭いフィードバックが返ってくるという緊張感もありました。「ここでオーバーレイを使っても大丈夫かな? 本当に大丈夫かな?」というように、1個1個おびえながらやっていましたね。でも、この段階まで来ると直良が優しくて「慌てるな坊主。ここまでやればいい」という感じで、導いてくれたんですよ(笑)。普通は、こんなに丁寧に教えてくれないと思います。

C:問答無用で引き取った方が、手っ取り早いでしょうからね。

:そう思います。ポリッシングに入ってからは私がポスプロを担当したので、神尾と同じ緊張感を味わいながら、タイムアタックをしていました。ポスプロのさじ加減ひとつで距離感やスケール感が台無しになってしまうことを、身をもって痛感しましたね。

直良:ポスプロは、絵の生殺与奪をにぎっているんです。最後の最後に、絵を生かすも殺すもポスプロ次第。時間がないと、白く飛ばしたり、グラデーションをかけたりして、誤魔化してしまいがちなんです。その結果、遠景が空気遠近を越えて白く光ってしまい、距離感やスケール感を殺していたので「それではいけない」と引き戻しました。

C:ここまで来ても、毅然とした態度で引き戻すのがすごいです。

「噓」に説得力をもたせるため、どんなディテールを付加するか

[8月27日の報告]
9割方完成と考えてます。
残りの時間で、中央下部の遠景の陰影を調整して、もう少しシルエットが見えるようにしたり、卵から出るエフェクトを微調整する予定です。

▲【上】神尾氏と角氏による「ポリッシング その2」(8月27日作成)。「卵を中心に視線誘導できる色味を探していました。描きかけのイメージで、厚塗りのブラシで卵の周辺をザクザク塗ってみたりと、いろいろ試しています。割れた卵の資料を探したのですが、時間がなくて焦りました」(神尾氏)/【下】神尾氏と角氏が記した進捗報告


ザッと書きますね。自分の感想です。

・卵の巨大感がなく、どこらへんに浮いているのかわからない。
・割れたように見えないから、何も伝わってこない。

ここからアドバイスです。

・外の世界のモノに色が少なく、ほとんど目に入らない。グレー過ぎ?
・遠景は、多分やっぱり空気遠近を理解できてないから、最遠景が発光してる(雲より白い建造物なの?)。
・後に座っている女の子の前髪が重いから、やっぱり後頭部に見える。

▲神尾氏と角氏の「ポリッシング その2」に対する、直良氏のフィードバック


遠景部分、そうですね......。さらに調整してみます。
卵も、もっと生まれる、中から出てくるってところを意識して詰めてみます。
もろもろ、さらに詰めてみます。

▲直良氏のフィードバックに対する、神尾氏と角氏の返答


C:神尾さんと角さんの進捗報告と、直良さんのフィードバックにかなりの温度差があって、読んでいるだけで冷や汗が出ますね。お2人は「9割方完成」と報告しているのに、直良さんは「卵の巨大感がない」「何も伝わってこない」などなど、かなり強めに引き戻している。

:これは私の書き方が悪かったです。フォローしようとしたのに、マイナスに働いてしまいました(苦笑)。「残り時間は少ないし、既に最終工程だし、ゴールは近いです」と伝えたかったんですが、自分たちがやるべきことは、まだまだ残っていましたね。

直良:このままだと絵が台無しになるから「何やってるの」という感じで、強めに引き戻しました。ただ、絵である以上、こういうふうに白く飛ばすやり方が「有り」な場合もあるんです。「ついていい噓」もあるので、判断が難しいところではあります。でも今回は2人にポスプロを経験してほしかったし、レンズフレアの効果を入れたりしているので、雑に仕上げてしまうと「だまし絵」くささが際立ってもったいないと思ったんです。

[8月28日の報告]
背景の遠近と、キャラクターを修正しました。卵の巨大感も調整しましたが、いかがでしょう?

▲【上】神尾氏と角氏による「ポリッシング その3」(8月28日作成)/【下】神尾氏と角氏が記した進捗報告


やっぱり気になるのは卵かなー、ほかはグッと良くなったけどね。

▲神尾氏と角氏の「ポリッシング その3」に対する、直良氏のフィードバック


そうですね......卵、難しいです。もう少し巨大感をだしたいです。

▲直良氏のフィードバックに対する、神尾氏と角氏の返答


C:28日になりましたが、依然として卵の距離感とスケール感の試行錯誤が続いていますね。

直良:卵の上部を暗くし過ぎた結果、成層圏を突き抜けて打ち上がっている感じになっています。巨大にはなったんですが、巨大過ぎて、光源がわかりづらくもなっている。なので、また1回引き戻しました。

▲神尾氏と角氏による「ポリッシング その4」(8月28日作成)。「瓦礫だった中央下部の景色を直し、空に浮かんでいる卵の色も直しました。角と2人で休憩室からの景色を確認して、『この空に巨大な卵が浮かんでいたら、どう見えるんだろう』なんて想像しながら、遠近法の勉強をしたりもしました」(神尾氏)


C:実際のところ、「巨大な卵」なんて誰も見たことがありません。それが浮かんだ空の「空気遠近を表現する」というのは、ハードルが高いですね。

神尾:空気遠近は、絵を学んだ人なら誰でも知っている技法です。単純に街並みの空気遠近を表現するだけなら、ここまで苦労はしなかったと思います。ただ、そこに巨大な卵を浮かべた上でリアリティをもたせるのは難しかったです。

  • どこまで白くすればいいか、輪郭を光らせたら巨大感を消してしまわないか、卵のザラザラした質感はどこまで見せればいいか、質感がないと卵だとわからないんじゃないか......などなど、いろんなことを考えました。こちらを立てると、あちらが立たず、バランスをとるのが難しくて、かなりのパターンを試しました。


直良:先ほども言ったように、絵である以上、「ついていい噓」もあるんです。「中から割れて、自発光している巨大な卵」は「噓」の最たるモノですよね。その「噓」に説得力をもたせるために、どんなディテールを付加すればいいか、どんな表現手段を選べばいいか、2人なりの答えを出してほしかったんです。

C:ここまで来て、ようやくディテールにこだわるフェーズになったわけですね。そしてディテールもまた、コンセプトと同様に一筋縄ではいかない......。

直良:そうなんですよね(笑)。

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