「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第10回では、6月に1周年を迎えたバンダイナムコエンターテインメントより配信中のアイドルライブ&プロデュースゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』(以下、『ミリシタ』)を事例に、開発を担当したバンダイナムコスタジオにおけるキャラクターのアニメーション制作の仕事を(前編)、(後編)の2回に分けて紹介する。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲MV「UNION!!」。『ミリシタ』1周年を記念して2018年7月に配信開始されたアニバーサリーソング。このMVは5人で歌うユニットライブとなっているが、本楽曲は13人ライブにも対応している。13人ライブについては本記事内で後述する
配信元:株式会社バンダイナムコエンターテインメント
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

全チームの協力なくして「最高」は実現しない

CGWORLD(以下、C):「最高確認会」について、詳しく教えていただけますか?

吉武 敬一朗氏(以下、吉武):月2回くらいの頻度で『ミリシタ』のライブ表現に関わる主要メンバーが集まり、映像を見ながら意見を出し合います。例えばカメラワークであれば「このカットのカメラアングルはこうした方がよくなる」「このカメラワークならアニメーションはこうした方が映える」といった意見を出し、何をどのようにブラッシュアップするかを決定します。

遠藤暢子氏(以下、遠藤):最高確認会にはフェイシャルアニメーションの担当者も参加するので、「こんな表情が付くなら、アニメーションもやわらかい感じに変えましょう」といったことも話し合います。『ミリシタ』のライブ表現を最高にするため、全チームが意見を出し合い協力してブラッシュアップをしていきます。

▲前から、吉武 敬一朗氏(アニメーター)、遠藤暢子氏(アニメーター)。指先の動きにまでこだわる『THE IDOLM@STER』(以下、『アイマス』)シリーズ熟練アニメーターならではのポージングを楽しんでいただきたい


C:各チーム間を一方通行でデータが受け渡されるわけではなく、ひとつのデータに対して、各チームが最後まで意見を出し合い、様々なブラッシュアップをしていくということでしょうか?

吉武:そうです。アニメーション、カメラワーク、揺れ物、口パク、表情、さらにステージ演出、サウンド、リズムゲームとしての面白さ、エンジニアによるデータの最適化も含め、全てが密接に影響し合っていますから、全チームの協力なくして「最高」は実現しません。

C:その会議には、吉武さんや遠藤さん以外のアニメーターも参加するのでしょうか?

遠藤:社内のアニメーターは、少なくとも自分が担当しているアニメーションが取り上げられる会にはなるべく参加します。吉武と私は基本的に毎回参加しています。ひとつのダンスが完成するまでに数ヶ月を要するので、何度も会に提出して、何度も意見をもらい、少しずつ完成度を上げていきます。

吉武:「コミュニケーションパート」や格闘ゲームなどと比較すると、ダンスのアニメーション制作はすごく時間がかかります。前者はひとつあたり1日、2日単位の作業量ですが、後者は1楽曲につき数週間を要します。

C:尺以外に、「コミュニケーションパート」と「ダンスパート」では何がちがいますか?

吉武:ダンス以上に、「コミュニケーションパート」では「各アイドルの個性をどう表現するか」が問われます。特に各アイドルの専用アニメーション(※1)をつくる際には「何をやってもらうか」を決めるまでに時間がかかります。自分のようなアニメーターは動きの見映えを重視しますが、シナリオ担当の人は性格を重視します。各々の意見を踏まえ、打ち合わせの席で最適解を見定めていくことが大切です。「コミュニケーションパート」の場合、アイドルが画面の近くにいることもあれば、遠くにいることもあります。遠くにいるときに緻密な芝居をされても何をやっているのか伝わらないので「もっと身体全体を使った動きにしましょう」とか「こういう演技の方がわかりやすいのでは?」といった提案をします。

※1『ミリシタ』の「コミュニケーションパート」のアニメーションは、複数のアイドルに使う汎用アニメーションと、ひとりのアイドルだけに使う専用アニメーションを組み合わせて制作されている。サービス開始時点で数多くのアニメーションが制作されており、現在も新規のアニメーションが継続的に追加されている。

C:「コミュニケーションパート」のアニメーションをつくるときも、どこから見てもおかしくない動きになるよう意識するのでしょうか?

吉武:はい。「コミュニケーションパート」のアニメーションは後になってから当初予定にはなかったカメラワークで映されることもあるので、「ダンスパート」同様、気が抜けません(笑)。ロングショットでもクロースアップショットでも使えるよう、全身のアニメーションを付けています。

▲「ジュリア」の「コミュニケーションパート」の専用アニメーション。右はモーションキャプチャの収録データ(ポスト処理済み)を流し込んだもの。左は前述の収録データをアニメーターがブラッシュアップしたもの。「ジュリア」はパンクロッカー志望だったが、事務所の手ちがいでアイドルとしてデビューすることになり、今はアイドル活動にのめり込んでいるという経歴の持ち主で、ギターを得意としている。ライブイベントでは「ジュリア」の声優の愛美が『アイマス』シリーズのライブ史上初の弾き語りを披露したことで話題となった。このように『ミリシタ』の演出では、52人のアイドルそれぞれに対し、何をやってもらえば個性を表現できるかが徹底的に考え抜かれている


▲ゲーム画面に組み込まれた前述のアニメーション。「担当アニメーターが『いい動きを付けてくれたな』と思っていたら、担当企画がそのデータをゲームに組み込み、『夕焼けをバックにギターを弾くジュリア』の画をバーンと見せてくれました。そうしたらほかのスタッフのテンションも上がり、『ジュリア』のギター専用BGMをサウンドが用意してくれたのに加え、ギターを弾いているときだけ専用BGMに切り替わる仕組みをエンジニアが用意してくれました。データの締切まで時間がない中、すごいスピードで各チームが動いてくれた結果、『ジュリア』が最高に輝く演出に仕上がったのです」(吉武氏)


C:『ミリシタ』のライブイベントには、吉武さんや遠藤さんも足を運ぶのでしょうか?

吉武:はい。ほかのアニメーターも含め「ライブイベントの空気を吸って、それをちゃんとゲームに反映させる」ということは当たり前のようにやっています。自分の場合は、ほかのアイドルのライブに行ったり、TV番組を見たりといったこともやっています。

C:そうやって引き出しにストックされたものが、演出やアニメーションを考えるときのアイデアの源泉になっていそうですね。

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最高を追求した「UNION!!」の13人ライブ

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最高を追求した「UNION!!」の13人ライブ

C:『ミリシタ』のアニメーション制作は、家庭用ゲームの『アイマス』シリーズに近い分業体制やワークフローがとられているようですが、家庭用ゲームとスマホゲームとで、ちがっている点はありますか?

遠藤:リリース済みデータの改修がやりやすい点は、スマホゲームならではのメリットですね。家庭用ゲームでも最近はアップデートファイルをダウンロードしていただくことができますが、それ以上の頻度でデータを差し替えられます。一方で、端末のスペックは家庭用ゲームに及ばないので、アニメーションやカメラワークにはより多くの制限があります。

吉武:家庭用ゲームに比べて画面サイズが小さいので、ディレクション時には、そのサイズでも見映えのするアニメーションになるよう意識しています。

遠藤:とはいえ、昔に比べればずいぶん差がなくなったと思います。『ミリシタ』では2018年4月から最大13人のアイドルがリアルタイムに踊れる機能が追加され、格段にリッチなステージも楽しめるようになりました。『アイドルマスター ミリオンライブ!』シリーズでデビューした39人のアイドルは、「Princess」「Fairy」「Angel」からなる3属性に分かれているので「各属性のアイドル13人が一緒にステージで踊ったらすごいよね」という話は以前からしていました。そうしたら、ある日エンジニアが13人ライブを実装したスマートフォンの画面をすっと差し出して「出せるかも......」と言いだしたのです。聞けば最適化による最適化を重ね、アニメーションを独自形式にすることで、13人が踊れるようにしたそうで、本当にびっくりしました。

吉武:『ミリシタ』では当初Unity準拠のアニメーションデータを使っていたのですが、独自形式のデータに差し替えることで13人ライブが可能になりました。このデータ形式は拡張性があるので、今後も新しい機能を追加していけそうだと感じています。

▲MV「FairyTaleじゃいられない」の13人ライブのアニメーションを制作中の画面


▲MV「FairyTaleじゃいられない」の13人ライブ。「Fairy」に属する13人のアイドルがリアルタイムに踊っているため、「プロデューサー」はアイドルの配置や衣装を任意に変更できる。使われているアニメーションデータはひとつだが、13人に対して単純に同じタイミングで適用しているわけではなく、若干のずれを加えることで機械的に見えない自然なステージを演出している


遠藤:「UNION!!」という『ミリシタ』1周年を記念したアニバーサリーソングでは、さらに最高の13人ライブを追求しているので、ぜひ楽しんでいただきたいです。

吉武:従来のライブでは属性ではなく立ち位置によってダンスの振り付けが決まっていたのですが、「UNION!!」では「プロデューサー」が52人のアイドルをどこに配置しても、各属性の見せ場では、その属性のアイドルが属性限定の振り付けをして、カメラもその属性のアイドルを優先して映すという表現を提案しました。

遠藤:例えばAメロ前半の「Princess」の見せ場では、「Princess」のアイドルだけが一歩前に出て「Princess」限定の振り付けをしながら歌います。このときカメラも「Princess」のアイドルたちを優先して映すわけです。

C:「Fairy」と「Angel」のアイドルだけを配置したら、どうなるのでしょうか?

吉武:そのときは全員が共通の振り付けをしながら歌います。

C:............ものすごく複雑そうなシステムですね。

遠藤:組み合わせは無限大なので、最初は「やめてくれ」と言われました(笑)。そう言いながら、どのチームもすごい熱量で協力してくれて、最終的には13人ライブまで実装できました。

▲MV「UNION!!」の13人ライブ。この立ち位置に52人のアイドルを「プロデューサー」が任意に配置でき、衣装も好きなものを選択できるのに加え、「歌い分け」や「スペシャルアピール」の音源はアイドルごとに用意されている。Aメロ前半は「Princess」(ピンクの衣装)、Aメロ後半は「Angel」(イエローの衣装)、Bメロ前半は「Fairy」(ブルーの衣装)に属するアイドルの見せ場となっており、当該属性のアイドルだけが一歩前に出て属性限定の振り付けをしながら歌う。このときスポットライトは当該属性アイドルだけを照らし、カメラは当該属性アイドルの誰かを優先して映す仕組みになっている


C:スマホゲームとは思えないアイドルたちが最高に輝く演出ですね。配置や衣装を変えて何度でも楽しめる点はリアルタイムならでは、ゲームならではの面白さですし、全国の「プロデューサー」の期待を心得た演出だとも感じます。

遠藤:チーム一丸となって考え抜いた演出ですからね(笑)。アニメーションはゲームの仕様や面白さと非常に近い関係にあるので、アニメーターが企画に提案できることは数多くあります。今回吉武がしたような提案ができることも、ゲームのアニメーターの仕事の醍醐味のひとつだと思います。

吉武:アニメーションのみならず、仕様や演出に関する提案も受け入れられる土壌があり、各チームが協力して実現を目指してくれる点はすごく恵まれていますし、『ミリシタ』の強みだとも思います。

遠藤:バンダイナムコスタジオが家庭用ゲーム開発を通して積み上げてきた技術力が、昨今のスマートフォンの性能向上のおかげでようやくスマホゲームでも発揮できるようになってきました。今後の『ミリシタ』の進化にもご期待ください。

「何がやりたいか」が一目で伝わるデモリールは評価しやすい

C:「コミュニケーションパート」のような日常芝居と「ダンスパート」のような踊りとで、アニメーターごとに向き・不向きはありますか?

吉武:あると思います。実際、遠藤はダンス特化型です。

遠藤:『THE IDOLM@STER 2』(Xbox 360、PS3対応/2011)では日常芝居も担当しましたが、長らくダンスを中心に担当してきました。それ以前には格闘ゲームの打撃や投げ技のアニメーションもつくっていましたが、そのときにも、勝ちポーズや負けポーズなど、より演出力を必要とするアニメーションの方が向いていると感じました。ダンスアニメーションは演出の塊のような仕事なので、私に向いていると思います。

C:新人の場合、自分の向き・不向きがわからない場合も多いと思います。バンダイナムコスタジオに入社した新人アニメーターは、どのようにして自分の適性を知っていくのでしょうか?

吉武:入社から約半年間は新人研修を受けていただきます。はじめに他部署やグループ会社の新人と一緒に共通研修を受講し、ビジネスマナーや会社のシステムについて学んでいただきます。その後は年度によるのですが、新人だけのチームでゲームをつくってみたり、アニメーション制作の基礎を学んだりしていただきます。その間、プロジェクトリーダークラスのアニメーターが指導役として新人アニメーターの研修を担当し、本人の希望や適性を把握します。秋頃からプロジェクトに配属され、どんどんアニメーションをつくっていくことになりますが、若い人にはできるだけ多くのプロジェクトで経験を積んでいただこうと考えています。

C:多くのプロジェクトで経験を積むことで、表現力の幅を広げたり、予想外の適性を発見したりすることをねらっているのでしょうか?

吉武:そうです。新人にはアクション系のタイトルが適していると思いますが、『アイマス』シリーズだったり、RPG系のタイトルだったり、色々なプロジェクトで経験を積んでもらった方が、表現力の幅が広がると思います。実際にデータをつくってみることで「アクションがうまい」「演技がうまい」といった本人が予想していなかった適性が見つかる場合もあります。

C:学生のうちからできるアニメーションのトレーニング方法があれば、教えていただけますか?

吉武:それに関しては、最近入った新人に事前にリサーチしておきました。

遠藤:われわれは既に入社前のことを忘れていますからね(笑)。加えて時代もちがうので、われわれの経験談は参考にならないと思います。

吉武:第1に、映画、アニメ、ゲームなど、色々な作品を見て、「カッコ良い」「かわいい」といった表現の引き出しは増やすこと。第2に、まずは模倣から始めること。既存のアニメーションを目コピして、どんどん自分でもつくってみること。第3に、模倣をやりつつ、徐々にオリジナルの表現にも挑戦していくことだそうです。オリジナルの表現に挑戦するときには、いきなり全部を自分で考えるのではなく、例えば格闘ゲームの技をひとつ目コピでつくったら、その基になった実際の格闘技の試合や映像を見てリアルな動きをしっかり勉強した上で、自分なりの表現に挑戦するといいと語っていました。

遠藤:確かに既存のアニメーションを目コピすることは、デフォルメされたイラストを模写することに等しいので、リアルを知る機会や観察する機会を逸してしまいますね。イラストにおけるデッサンのように、リアルを観察する経験も大切だと思います。

C:実際『ミリシタ』では、アクターさん、ダンサーさんの動きをご覧になった上でアニメーションを制作しているわけですから、説得力がありますね。

吉武:ほかの人に作品を見せて批評してもらうこと、可能であれば他の人がつくったものに対して批評すること、これらを相互に繰り返し行える環境をつくれると成長が早いとも言っていました。ぼんやりと「何かがおかしい」というのは比較的簡単なのですが、よく観察した上で、何がおかしいかをしっかり言葉にすることはプロでも難しいのです。学生さんの段階からそれを意識して練習しておけば、就職後に自分がディレクションされる立場になったとき、相手の意向をより汲み取りやすくなっていると思います。アクターさんやダンサーさんにお願いをするときの助けにもなるでしょう。

C:最後に「こんなデモリールは評価しやすい」「これだと評価しづらい」といった傾向があれば、教えていただけますか?

吉武:「何がやりたいか」「何が得意か」が一目で伝わる構成になっている方が判断しやすいですね。ひとくちにデザイナーと言っても、最近はその中での専門化が進んでいます。「あれもできます」「これもできます」という感じで、そこそこのレベルの作品を並べるよりは、何らかの領域に特化して腕を磨き、それを中心に据えたポートフォリオやデモリールをつくっていただくのがいいと思います。全部が全部、高いレベルでできていれば嬉しいですが、それはとても難しいことなので、ひとつの領域に特化してレベルを上げるのがいいと思います。アニメーターのデモリールについて具体的に言いますと、基礎的なアニメーションの勉強ができていることを見せていただけるといいですね。

C:基礎的なアニメーションというのは、人間の「歩き」「走り」「ジャンプ」「パンチ」「キック」などのことですか?

吉武:そうです。文字通り「地に足の着いた」「現実にあり得る」アニメーションを見せていただきたいです。アクロバティックな動き、ファンタジックな動きだけのデモリールだと、基礎が習得できている人なのかどうか判断しづらいです。

C:よく耳にする「2Dデザイナーやモデラーのポートフォリオの最後に、デッサンも入れてほしい」という意見に通じるものがありそうですね。尺はどの程度必要ですか?

吉武:1分もあれば十分です。尺を確保しようするあまり質の低いアニメーションも入れるくらいなら、自信のないものは潔く入れない方が絶対にいいです。

C:お話いただき、ありがとうございました。アニメーターの仕事の魅力と奥深さがすごく伝わってくるお話でした。今後の『ミリシタ』の進化に期待しています。

本連載のバックナンバー

No.01>>フロム・ソフトウェア(前編)(後編)
No.02>>コロプラ(前編)(後編)
No.03>>カプコン
No.04>>コナミデジタルエンタテインメント
No.05>>小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(前編)(後編)
No.06>>サムライピクチャーズ(前編)(後編)
No.07>>OLMデジタル
No.08>>アカツキ
No.09>>プラネッタ(前編)(後編)
No.10>>バンダイナムコスタジオ(前編)