「絵の質は落としてください」という指示を出し、グッと引き戻す
[直良さんからのオーダー]
・女の子は標準的なヒロインを想定
・仕草はよくある授業中のよそ見だが、遠く空を見上げている
・風が手前に吹き込んでいる(兆しや予感などを表す)
・空は夏の終わりかけのような、季節の変わり目を感じるモノ(高さは出したい)
・空に浮かぶモノは、これからネタ出し。日常←→非日常のギャップ重視!
[1点目の絵について]
光で飛んでてわからないですね。すみません。一応、盆栽のような大樹が浮いています。大樹は、育む命の源のイメージで浮かんだモノです。
[2点目の絵について]
石柱のようなモノがあって、奥の空に不明要塞があるイメージです。
▲【上2点】神尾氏による「ラフ」/【下】神尾氏と角氏が記したコメント
C:で、最初の「ラフ」でいきなり完成度が跳ね上がっていますね。
神尾:直良の「大ラフ」を見た瞬間に、私なりの絵が見えて、「ここは透明感を出さなくちゃ」「ここはブルーだ」といったキーワードも浮かんで、描き始めていました。「コンセプトをつくるとき、先にディテールが浮かんで邪魔をする」というのは、ありがちな失敗なんですけど、それをスタートからやっています。面白い始まり方をしてますね。
角:面白い(笑)??
神尾:今ふり返るとですけどね(笑)。「かわいい子を描いてね」「わかりました。できました」というやり方が染み付いていて、考えることなく、手癖で描いていましたね。
着彩の精度などの完成度はいったん横に置いて、まず、奥のモチーフを決めましょうか。
大体のレイアウトは動かす必要がないので、
・日常的に異質なモノが存在するパターン
・この子にしか見えない異質で非日常なモノが存在するパターン
上の2パターンを、線画でもいいので、いくつか出して決めましょう。
アイデアベースなので、絵の質は落としてください。
1. ネタを決める(1番惹きの強いモノを選ぶ)
2. レイアウト確定
3. いったん共有・確認
ココからイラスト作成
4. ポーズや各種デザインを詰める
5. 着彩
6. 共有・確認
7. ポリッシング・フィニッシュ
上のながれをイメージしてください。
既に「ディライトワークスが学園モノ?!」という惹きはあるので、
・何をつくろうとしているんだろう?
・すごいことが始まろうとしているのか?
というのを、手前の学園風景と、奥のモチーフのギャップと共に、押し出すのがポイントです。
今回の絵は、開発者とユーザーの両方に向けたティーザーとして機能するので、食べやすさは必要だけど、ありがちな丸まったネタは必要ないです。
ネタの段階で、今回の取り組みの6割は決まります。
なので悩んだら、開発者目線と、ユーザー目線の両面で考えてみてもいいかもしれません。
▲神尾氏の「ラフ」に対する、直良氏のフィードバック
C:ここから、直良さんの「描いては引き戻し」が始まったわけですね。引き戻すのと合わせて、完成までのながれを提示しているところは、学生が見ても参考になると思います。
直良:依頼した後、2~3日くらい連絡がなくて「多分、進めちゃってるな」という予感がありました。だから、1回目は特にちゃんと返そうと思って、「絵の質は落としてください」という指示を出し、ポリッシングにまで踏み込みかけているところをグッと引き戻しました。いきなりディテールに脳みそを使って、絵を仕上げて、なんとなくふわっと終わりにしてほしくなかったんです。
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制作記録を見返しながらインタビューに答える直良氏 - コンセプトがどれだけ反映されているか、ターゲットが魅力に感じる要素がどのくらい付加されているかに重きを置きたかったので、それを理解してもらうために、手数を重ねてもらおうと思っていました。残り時間が少ないという焦りがあったでしょうが、窓の奥に何が見えるのか、空白になっている部分に向き合って、しっかり悩んでほしかったんです。そこに2人がピンときてくれるまで、結構やりとりを重ねましたね。
神尾:「質を落とす」という言葉の意味が、全然わかってなかったですね。
直良:最初は質を落とした状態で、手数を重ねていろんなネタを出す。ネタやレイアウトが確定したら「イラスト作成」に入る、というように工程を分けてほしかったんです。イラスト作成は、ちょっと言い方が悪いですが「作業」なんですよね。それ以前の工程とは、まったく別モノです。フィードバックでは「ネタの段階で、今回の取り組みの6割は決まります」と書きましたが、実際には、それ以上の割合だと思います。この絵は、女の子を通して、見る人の視線を窓の奥に誘導していますよね。そこに何が見えるのか「答え」を確実に用意しないといけません。それが弱いままだと、全てが台無しになるんです。
C:とはいえ、この時点で残り時間は10日をきっていますから、最短ルートでゴールしたいですよね。
神尾:はい。すごく焦っていましたね。
絵のターゲットのことも、掘り下げて考えてほしい
卵と植物をどこかに入れたいというのがあって描いてみました。
▲【上】神尾氏による「アイデア出し その1」/【下】神尾氏が記したコメント
卵、良いですね。色々象徴してますね。ほかにネタがないか、夕方までもうちょいねばれるかな?
例えばもうちょっとモチーフを絞って、スマホサイズでも一目でわかるくらいのモノ。
ほかのネタについて、さらに具体的にいうと、卵は「生まれる」ことを象徴している点で、学生とユーザー向けに良いモチーフだと思います。
別のアプローチとして、今現在、他社に在籍している開発者に「これは参加しないともったいない!」と思ってもらえるモノ。開発者にとって魅力的な、余白のある感じのモチーフでアプローチするのもいいかと。
▲神尾氏の「アイデア出し その1」に対する、直良氏のフィードバック
C:で、ここから絵の質を落とした上でのアイデア出しが始まりましたね。直良さんの「スマホサイズでも一目でわかるくらいのモノ」というフィードバックは、今の時代ならではですね。
直良:自分でも「時代だな」と思いながら返していました。この段階だと、まだまだ神尾はディテールを描いていますね。0が1になっていない状態で、無理矢理10まで広げる作業を始めています。
神尾:完全にディテールに踏み込んでますね(苦笑)。直良の言っていることが、まだ半分も理解できていない状態です。例えば「命の源」というキーワードを提示されると、「そう見える絵って何だろう? 卵かな。根っこかな?」というように、直結するモチーフを考えてしまうんです。何度も「そうじゃない」と言われたんですが、直結させてしまう癖が残っていますね。
直良:それから、この絵のターゲットのことも掘り下げて考えてほしいという意図があって、「開発者にとって魅力的な、余白のある感じのモチーフとは何か?」という問いかけも返しました。